救出劇③
「さてと」
男が再び胸ポケットから薬瓶を取り出した。
「楽しませてもらおうか」
その場が異様な空気に湧いた。男たちが色めき立つ。
そんな中、アイリーシャは冷静に状況を分析する。
なんとか救助が来るまで時間を稼がなければいけない。この狭い空間で大人数の男に対してどれだけやれるか。
(大丈夫)
『お嬢はもう十分強いですよ』
(ジークがそう言ってくれたもの)
髭男の腕が伸びてきた。後ろ手にそっと足首の縄をほどく。男の手がアイリーシャに触れる直前。
「なっ」
その男の腕を勢いよく振り払い、渾身の力を込めて男を蹴りつけた。不意を突かれた男が後方へ吹き飛ぶ。
「おいっ、大丈夫かっ」
一瞬たじろいた男たちに、次々と襲いかかった。
「おわぁ」
「なんだっ」
軽い動きで、しゅっと足を跳ね上げる。回し蹴りが一人の男の頭部に直撃した。それと同時に手にしていたナイフを別の男の太ももに突き立てる。
「ぐわぁぁ!」
刺された男は足を抱えて床を転がり回る。
「てめぇ!」
別の男が拳を振りかぶり、アイリーシャへと飛びかかってきた。それをひょいっとかわすと、首の後ろに狙いを定めて手刀で叩く。男の体から力が抜け、どさっとその場に崩れた。
(今度はこちらからよっ)
アイリーシャは力がありそうな小太りの男に向かって、走り出す。
「なんだぁ? うぐっ!」
拳に渾身の力を込め、腹部へと一発入れた。男は息を詰まらせて体勢を崩した。もう一発背中に叩きこむ。男はうずくまったまま、動かなくなった。
(これで四人)
素早く周りを見回した。最初に蹴り倒した髭面の男が起き上がる。目にはアイリーシャへの怒りと殺意が滲んでいた。
「女を押さえろ」
残りの男たちが一斉にアイリーシャへと襲いかかる。
(くっ……!)
さすがに男六人を一人で相手にするのはきつい。なんとか攻撃をかわしてはいるが、狭い部屋なのもあり反撃の余裕がない。それに。
(ドレスが邪魔だわ)
動く度にデイドレスの裾がもたついて足に絡みつく。蹴りの勢いも殺してしまう。
攻撃をかわして後ろに下がるが、ドレスの裾を踏んでしまい、バランスが崩れた。
(しまっ……)
「おらぁ!」
その隙を見逃さず、もやし男がアイリーシャのドレスを掴んだ。力任せに引っ張られる。
「……っ!」
木箱に手をつき、バランスを保った。ぐっと両足を踏ん張って抵抗すると、ビリビリという音とともに、ドレスが裂けた。アイリーシャの左脚が露わになる。
ひゅうっ、と男たちの下品な口笛が鳴った。
(このっ)
体勢を立て直して反撃しようと体をひねったが、その前に髭面の男に腕を掴まれ、木箱の上に力ずくで押し倒された。
両手を男の左手一本で頭上にまとめあげられる。なんとか抵抗しようと手足を動かそうとするがびくともしない。
男を鋭く睨みつける。
「随分威勢のいい姉ちゃんだな。強気な女は嫌いじゃねえ」
男の気持ち悪い笑みに、ぞわっと鳥肌が立った。周りの男たちも品の欠片もない表情でアイリーシャをなめ回すように眺めていた。
髭面の男がナイフを取り出した。刃をアイリーシャの胸元にすっと当ててくる。
「っ……」
ピリッとした痛みが走る。アイリーシャの鎖骨間から血がじんわりと滲み出てきた。
「おっと、切れちまった」
わざとらしい声を上げて、男が笑う。
「そうだそうだ、忘れてた。薬飲ませるんだったな」
男がナイフを木箱の上に置いて、胸ポケットから再び薬瓶を出した。片手で器用に薬瓶の蓋を開ける。
「おい。誰か女の口を開けさせろ」
「俺やるぜぇ」
もやし男が興奮気味に名乗り出た。へへへと声を漏らしながら、アイリーシャへと手を伸ばしてくる。
(嫌っ)
顔を激しく振って、その手から逃れようとするが、体は完全に押さえ込まれていてびくともしない。
汚らしい手が目前に迫ってくる。
「……やめて」
(嫌だっ。助けてっ。誰かっ)
「ジーク‼」
があんっ、となにかが破壊される音が響いた。
「ぐあっ」
入口付近に立っていた男が飛んできた扉に直撃され、吹き飛ばされる。
男たちが一斉に振り返った。
風通しのよくなった入口に、影が一つ現れた。その姿にアイリーシャの視界が歪んで滲む。
「……ジーク……」
組み敷かれたアイリーシャに視線を留めた瞬間、ジークハルトが目を見開いた。
「っ……」
一瞬で空気が変わったことを、その場にいる誰もが自覚した。
ピリッとした言いようもない緊張感と恐怖。逃げ出したくなる衝動。
その全ての感覚が、一人の男から放たれている圧倒的な力によるものだと本能で悟る。
「な、なんだ、てめぇ‼」
もやし男が震える声で虚勢を張った。が、ジークハルトはそれには答えず、ゆっくりと腰に添えた剣を取った。
「……お前たちは生きている価値もない」
「はぁ? なんだ―――」
ひゅん、と音がして、もやし男が最後まで言葉を終えることなく、その場に崩れ落ちた。
「なっ⁇」
男たちが状況を理解できずに、床で突っ伏しているもやし男を凝視する。
それからはあっという間だった。
ものの数分で髭面の男を除く全ての男たちが部屋中に倒れていた。




