ゲオルク・ロイスナーの企み②
先日、マリアから受けた調査報告を思い出す。
『レイラ男爵令嬢が?』
『はい。これは特に隠されたことではないようですが、レイラ様はアードラー男爵家へ二年ほど前に養子として迎えられたそうです』
『そうなのね。その前は?』
『平民として母親と暮らしていたようですが、母親が病死してから孤児院にいたようです』
『なぜアードラー家へ?』
『アードラー家には長年子どもがおらず、ご夫婦は養子になる子どもを探していたそうです』
『……平民でしかも跡取りには認められていない女児。子どもと言っても当時十四歳くらいよね。なぜレイラ嬢が選ばれたのかしら。彼女の母親はアードラー家と関わりが?』
『いえ……アードラー家とはありませんが……実はレイラ様が養子になった辺りから、アードラー家の財政が上向きになっているのです』
マリアの説明では、レイラが養子になったころ、アードラー家はどこかから多額の資金を受け取っていたらしい。元を辿ったが、幾重にも経由されており、貴族ということしかわからなかった。ところが先日レイラを監視していたヘーリング家の部下が、レイラとある貴族の密会を目撃したとのことだった。
『ゲオルク・ロイスナーですって?』
思わぬ人物に声を上げてしまった。
『あの、ゲオルク・ロイスナーよね? 宰相の』
『はい。身を隠すために商人を装っていたようですが、間違いないとのことです。下町の下宿屋でレイラ様が先に入った部屋にロイスナー宰相も入っていったとか』
『……どういう関係かしら?』
言いながら、あの四十歳近い、優男の顔を思い浮かべる。もう花の盛りは過ぎているが、独身を通し、未だに色々な令嬢と浮名を流している。でもさすがに十六歳の娘が夢中になるには年が離れすぎている気もするが。
『わかりません。そのときは、どうやら言い争いをしていたようですが……。少ししてすぐにレイラ様が部屋を出られたそうですし、会話も聞き取ることができず、男女の仲なのか別の関係なのかは判断がつかなかったようです』
『そう……。まあ、でも相手がロイスナー宰相だってわかっただけでも大進展よ』
ゲオルクのことだから、レイラとの関係を知られまいと徹底的に警戒していただろう。宿屋も彼の息がかかっているに違いない。
しかし、ヘーリング家の諜報力はその上をいく。あらゆる場所にヘーリング家の諜報員が建国当時から散らばっており、王都や城下町に関してはほぼ網羅されている。にわかに対策したところで意味がないのだ。
アードラー家へ資金を流していたのは、ゲオルクで間違いないだろう。ただ、理由がわからない。
マクミラン家の事業援助に関しても。例えばレイラを使ってゲオルクがターニャたちの婚約破棄を狙ったとして、彼になんの利点があるのだろうか。
「ロイスナー侯爵家といえば、婚約解消後にピエル伯爵に聞いたのですが、コーエン様と私の婚約もロイスナー宰相が薦めてきたとか」
ターニャのその言葉に、アイリーシャは確信を持った。
マクミラン家にはゲオルクにとって魅力的ななにかがある。
(もう少し調べる必要がありそうね)
もしそれが悪事に繋がるものでなければ別にいい。けれど、あのずる賢いゲオルクが厚意だけで他者に手を貸すなんてあり得ない。
マクミラン家と先に業務提携したことにより、結果的にヘーリング家がロイスナー侯爵家の邪魔をした形になった。
(ゲオルクに恨まれてるわね、きっと)
ヘーリング家とロイスナー家は犬猿の仲なので、交流は全くない。しかし、なぜか昔からゲオルクはアイリーシャには構ってくるので気味が悪い。レイラのこともあるので、もしかしたら本当に若い令嬢を愛でる趣味があるとか……。
ぞわっと背筋に虫唾が走る。
「大丈夫ですか? アイリーシャ様」
「え?」
「その……苦虫を噛み潰したようなお顔をなさっていたので」
ターニャが心配そうにこちらを見ている。
「なんでもないわ。ちょっと嫌な想像をしてしまっただけよ」
誤魔化すように紅茶を一口飲む。
今ゲオルクとは顔を合わせたら、いつものよそ行き笑顔を作れる自信がない。
(王宮でゲオルクと会いませんように)
王子妃教育で王宮へ通うアイリーシャは、そう強く願うしかなかった。




