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遭遇 その一①

(うわ……。なんてタイミングの悪い)


 午後の授業が終わったあと、アイリーシャは教授に呼び出されて残っていた。教授との話が思いのほか長くなってしまったので、寄宿舎への近道にもなる庭園の奥道を早足で進んでいたのだが。

 庭園の一角にひっそりとあるガゼボに、見覚えのある顔を見つけてしまった。


 カイルと見知らぬ令嬢。寄り添い合うように座り、令嬢が菓子をカイルの口に運んでいるところだった。


 ジークハルトには教授との面会がいつ終わるのかわからなかったので、先に帰っていいと伝えてあった。他に人影もなく、ここにはアイリーシャとその二人だけしかいない。


 カイルが美味そうに菓子を頬張ったあと、二人は見つめ合い、そのまま顔が近づいて口づけを交わした。

 口づけに夢中で二人はアイリーシャには気づいていないようだった。


(彼女が、レイラ・アードラー男爵令嬢ね)


 木陰からそっと相手の女性を盗み見る。


 小柄で華奢な体型。ピンクブロンドの髪に色白の肌。可愛らしい令嬢だ。アイリーシャと接点がほとんどないとはいえ、今まで気づかなかったことが不思議なくらい、人目を引く存在感がある。


(噂は本当だったってことね)


 あのカイルの様子だと、そうとうレイラに熱を上げているようだ。


(ま、いいか)


 面倒に巻き込まれるのは嫌なので、その場を離れようと再び歩き出すが。


「アイリーシャか?」


 後ろから声をかけられ、思わず足を止めてしまった。こうなると無視もできない。


 アイリーシャは作り笑いを浮かべ、ゆっくりと振り返った。

 カイルとレイラがアイリーシャを驚いた様子で見ていた。


「まあ、ごきげんようカイル様」


 軽くお辞儀をして挨拶をする。すると、カイルが不愉快そうに眉をひそめた。


「こんなところでなにをしている。まさか覗いていたのか」

「いいえ。たまたま通りかかっただけですわ」


(浮気現場を見られたことにはなんの弁明もないのね)


 これだけ悪びれもなく堂々とされると、むしろすがすがしい。


「ここは、学園内の通り道ですもの。誰でも使用することが認められていますわ。もちろんそのガゼボも」


(だから、イチャつくなら目につかないところでやりなさいよ)


 カイルの不貞行為がこれ以上広まり続けると、王族に対する不信感に繋がりかねない。嫌味を込めて釘を刺す。王族として自覚の欠いた行動は控えてほしいものだ。


「なにを偉そうに! 相変わらずかわいげのない女だ!」


 カイルが声を荒げて、アイリーシャを睨みつけてきた。いつにも増して攻撃的なカイルの態度を少し意外に思った。こんなに感情的に噛みつく人だっただろうか。


「あの! アイリーシャ様。お会いするのは初めてですよね! 前からお話してみたかったんです」


 それまでカイルの横でじっとアイリーシャを見つめていたレイラが、笑顔で前に出てきた。


「カイルに紹介してほしいってお願いしてたんですけど、カイルが嫌がってしてくれなくて」


 ね、とレイラがカイルに同意を求めると、カイルは不機嫌だった顔を瞬時に緩めてレイラに笑いかけた。


「ああ。アイリーシャがなにをするか、わからんからな」


(随分な言われようね)


 それにしても。


 アイリーシャはさりげなくレイラに目を向けた。


(家格が下位だとはいえ、曲がりなりにも貴族令嬢なのに)


「まあ、カイルったら。そんな言い方はアイリーシャ様が可哀想よ」


 と全く可哀想などと思っていなさそうな、意地の悪い笑みを浮かべてレイラがアイリーシャを見た。

 なんとも礼を欠いた令嬢だろう。


「では、私は失礼しますわ」


 相手にするのも馬鹿馬鹿しくなり、お辞儀をしてその場を去ろうと踵(きびす)を返した。


「待て! レイラがお前に話かけているのに無礼だぞ!」


 カイルの怒鳴り声が投げかけられる。


(うるさいわね)


 はあ、と大きなため息をついてから、二人へと向き直した。


「お言葉ですが、カイル様。無礼なのはどちらでしょう。まず格下の者が格上の者に許可を取らずに話しかけるのはマナー違反です。その上、初対面で公爵令嬢である私の名前を敬称もつけずに呼ぶことも失礼ですわ。いくら学園内が身分関係なく交流が持てる場であったとしても、貴族教育を受けている令嬢がする行為ではありません。私は失礼な方とはお話したいと思いませんわ」

「酷いわ、アイリーシャ様。そんな意地悪なことを言うなんて……」


 レイラがわっと両手を顔に当てて、泣き出した。

 それを見たカイルの顔が赤味を増して、険しくなる。


「アイリーシャ! お前っ!」


 カイルがガゼボから飛び出してきた。怒りに満ちた表情で真っ直ぐにアイリーシャに向かってくる。カイルの右腕が勢いよく伸びてきて、アイリーシャを乱暴に捕まえようとした。それに抵抗しようとアイリーシャが身構えたとき。


「……そこまでです、殿下」


カイルの腕は、アイリーシャに届くあと数センチのところで止められた。


「ジーク」


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