第88話 学校祭
いつもと違って学校祭一色に染まったうちの高校。
校門のところの飾り付けはド派手! って感じじゃーないんだけど、立て看板とかもあって「学校祭やってまぁ~す」みたいな。飾り付けまくって雨降った時片付けんの最悪すぎんじゃん? ていう理由だと思うんだけど超シンプル。
でもでも校内はめっちゃ気合入ってるから!
一般公開の今日は玄関とか風船めっちゃ貼りまくってて、キラキラするテープとかも天井から垂れ下げたりして。足元には道しるべになるポップとか貼ってて、んで緑とピンクの桜イメージな張り紙を目印に歩いて行ったら、なんとうちのクラスに着くってわけ!
「よー、大丈夫そうか?」
お昼時、教室の入り口に立った人を見てあたしは目を輝かせた。
「センセ! やぁっと来てくれた~!!」
教室に入ってくるお客さんの邪魔にならないように端っこに寄ったセンセーは「しーっ!」と口元に人差し指を立てた。
「今日は一般の人もいるんだからやたらとでかい声出すのやめろ」
「だってだって自分のクラスなのに全然見に来ないセンセーが悪いんじゃん。ほらほら、見てよ~あたし浴衣も似合うでしょ?」
「あーはいはいはいはい馬子にも衣裳」
「もー照れちゃって。センセーなんか食べてかないの?」
「俺はお前らがちゃんとやってるか見に来ただけ。このあとはライブ出る沢木たちが調子乗って馬鹿やらんか見張り」
「見張りとかいんのー?」
「あいつらは去年前科あり」
「センセーも大変だね~」
センセーは他の子たちに声かけて困ってることないか聞いたあと「じゃあな」って教室を出てった。つまんなくって教室の外まで顔出したら、まだすぐそこにいたセンセーがあたしを振り返った。
「ちゃんと似合ってるよ」
「!」
ちょっぴり、
ほんのちょっぴりセンセーが笑ったから、あたし、びっくりして返事ができなかった。
センセーはすぐスリッパの音を立てて人混みの中に消えてっちゃった。
「えー……やっぱ肌露出しない系の服の方がグッとくるってこと?」
そう呟いたあとで、浴衣で夏祭りとかセンセーと行けば良かったってめちゃくちゃ後悔した。水着で海行ったのも良かったけどさぁ~。
「……あ、いらっしゃいませ~」
うちのお店に入りたそうなお客さんが見えてあたしは声をかけた。で、すぐ気づいた。
「あれー? 写真屋さんの人?」
訊いたらその人も「あ」って顔をして、軽くお辞儀をしてくれた。確か名前は……二条基弥ってゆったっけ。で、そのすぐ後ろからひょっこりと顔を覗かせたのはちっちゃい小学生くらいの男の子。
「あんたは名前聞いてないや」
「口無真白!」
「へー可愛い名前じゃん。今日は顔あんだね」
「遊びに来たかったから!」
のっぺらぼうの真白くんはにっこりと笑うと二条さんの服の裾をぐいぐい引っ張った。
「ねーモトヤ! 僕ここがいい! お団子食べる!」
「お団子かぁ~。じゃあ、入ろうか」
「うん!」
真白くんと二条さんを席に案内しながら「二名様ごあんな~い」と声を上げる。一番奥の空いてる席に二人を座らせた。
「メニューはこちらで~す。で、なんでうちの学校祭来たの?」
薄いクリアケースに入ってるメニューを真白くんがテーブルから持ち上げて見始めると、二条さんはあたしの方を見上げた。
「この子がどうしてもここに来たいって言っていて……もしかして、あなたがいたからですかね」
「えーあたし?」
「違うよ!」
あたしと二条さんは真白くんを見た。けど、真白くんはまだメニューをじっと見てて、それから「みたらし団子と桃大福! あとりんごジュース!」って指を差した。そのあと急にメニューを向けて見せられた二条さんが慌てて「えーと、みたらし団子と緑茶でお願いします」って言った。
「みたらし団子二つと桃大福と、りんごジュースと緑茶ですね~。で、違うって何」
エプロンのポケットに入れてた注文メモに今言われたものを全部書いて、真白くんを見た。真白くんはあたしをじっと見てて、それから小さな人差し指をこっちに向けた。
「目」
「目?」
「鬼のおねーちゃん、モトヤが貸してる目、嫌いって言ったでしょ!」
真白くんの瞳が、淀んだように黒くなった。ただそれは一瞬ですぐに普通の人間の瞳へと戻る。この目も安定しないのかな。
「あーあの目ね」
「なんでそんなこと言うんだろーって思ってたけど、僕あの目見つけたよ! この学校にいるでしょ?」
「えっ?」
驚いた声を上げたのは二条さんだった。貸した相手が、いや、妖怪があたし以外にもこの学校にいるなんて思ってなかったみたい。
「さっき見つけたよ。モトヤが貸した目、あった! 僕モトヤの写真もお客さんも全部覚えてるから、間違いないよ。あれはモトヤが顔貸屋のお店を始めてすぐに貸した目」
「始めてすぐって、いつの話ー?」
「えーと……この子以外にちゃんとお金をもらって貸すようになったのは……去年の二月頃でしょうか」
──去年の二月。
「………」
「おねーちゃん、お団子まだ?」
「あ。ごめんごめーん、ちゃちゃっと準備してくるから待っててね~」
あたしはボールペンをポケットにしまって、注文メモを手に持ったままくるりと振り返った。準備する場所を仕切ってあるパーテーションの向こうに体を滑り込ませると、他の子にお団子と桃大福を頼んで、あたしは飲み物をコップに注いだ。
「あれー? 美鬼ちゃんもしかしていない感じ~!?」
聴こえてきた声にちょっと眉をぎゅっと寄せたけど、あたしはすぐに顔を出した。入り口に立ってたのは、自分のクラスの段ボール看板を首からぶら下げた天。
「あ! いるじゃん美鬼ちゃん! 浴衣見ーせーて♪」
「いいけどちょっと頼みごとあるから待っててくんない?」
あたしがそう言うと天は少しだけ不思議そうな顔をしてから、「美鬼ちゃんの頼みならなんでも♪」って口角を上げた。
***
二条さんと真白くんに食べ物と飲み物を提供してお別れを言ったあと、あたしは休憩に入った。で、そのまま看板もって校内宣伝をする天の隣を歩いてる。
「天は休憩いつ?」
「オレー、一番最後なんだよねー。だからまだー」
「あーそ」
「美鬼ちゃん美鬼ちゃん、浴衣可愛いね♪ あとで写真撮ってい?」
「一枚千円」
「えーじゃあ何枚撮っちゃおっかな~」
へらへらとだらしなく笑ってる天だけど、通りがかったお客さんの女の子たちからはちらちら見られてなんならキャーキャー言われてる。でかいし目立つからかな。
「それで、頼み事なんだけどさぁ。少し気にしといてほしい奴がいるんだ」
「気にしとく? ってどんくらい~?」
「ずっと」
「ずっと?」
天は首を傾げてたけど、あたしは「あんたが適任」って言って肩を竦めた。
「顔貸屋で顔作った奴がいてさ、多分去年の頭くらいに」
「うん。そいつが何?」
「何、ってわけじゃないんだけどー……気になってて」
「美鬼ちゃんに害がある奴ってこと? それならオレがぼこぼこにしちゃうけど!」
「……んー、簡単にできんならそれでいいけどさぁ。そもそも正体もわかってないし」
「何の妖怪かってこと? ん? そいつどこにいんの?」
「ここ」
あたしが床を指差した。天も床を見つめて、それからあたしを見る。
「……えー、っと。山神以外に妖怪がいるってこと?」
「多分」
「えーでも全然気配しないけど?」
「そうなんだよねー。だからこいつを疑ってんの。さっき顔貸屋と一緒にいるのっぺらぼうに見せたらそうだって言うから」
肩から掛けたポーチの中からスマホを取り出して、今までに撮った写真の中から一つ開いて見せる。何人か写ってる中の、後ろを通り過ぎようとしてる人物。それを拡大して天に見せた。
「…………ガチで?」
「だからあんたに頼んでんのー。あたしは隙を見てセンセーに伝えようと思うからさ。ってー言っても学校祭忙しいし、話せるタイミングってー……明日とか?」
「えーオレ学校祭で美鬼ちゃんともっと遊びたかったのに~」
「今遊んでんじゃん。ほらちゃんと看板持って。あ、あたしあそこのクレープ食べたい」
「オレも食べたい~」
「あんたは今仕事中」
あたしはクレープを売ってる三年二組に近づいていくと、イチゴとチョコのクレープを頼んだ。出来合いのものだから頼んだらすぐ出てくる。保冷箱に入れられてたそれをお金と交換で受け取って、袋から出して食べる。
「おいし!」
一口で三分の一くらい減っちゃったクレープを見てたら、天があたしにスマホのカメラを向けてた。
「えーん美鬼ちゃん可愛い~」
「その写真ってさーどーすんの?」
「大天狗たちに送ってる~」
「なんで?」
「え! 美鬼ちゃんの可愛さを布教する為……?」
あーむ、っとクレープにまた噛り付いて、口の端についたチョコをぺろりと舐めた。学校祭、センセーと回れたらよかったのに!




