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鬼さんコチラ、桃なる方へ!  作者: 四辻十壱
幕間②

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40/100

第40話 まろんと悪者!

 ──草の匂い


 ──土の匂い


 ──お外の匂い!


 今日は『にちようび』!

 ご主人はおうちで寝てて、家から出たくないって言うからまろんは一人でお散歩してるの!


「なんでかフツーに犬だと思われるから多分大丈夫だろうけど、危なくなったらすぐ帰ってくるんだぞ」


 ってご主人は言ってた!

 よくわかんないけど怖くなったらおうちに帰ることにする!


 こないだは公園でいっぱい滑り台して遊んで楽しかったからー、今日は違うとこに行ってみようと思う!


 いっぱいいっぱい歩いて、たまに走って風になる遊びをしてたら、川についたの!


『……あれ?』


 川の近くの、あの、草になってるとこ! 何て言うんだっけー……そこに人間が落ちてたから不思議に思って近づいてみたんだ。そうしたらね、おっきなため息ついてるあいつがいた!


『あ! 悪者の天狗だ!!』

「!? オレ悪者じゃねぇよ!?」


 悪者は天狗じゃなくて人間の姿してたけど、まろんにはわかるんだ。でもそいつはこないだとは違って全然戦う様子がなかったから、そーっと近づいてみた。


『……悪者、どうしたの? 今日は戦わないの?』

「だからなワンコロ、オレは悪者じゃないし戦わないの。ってもしかしてお前、桃間先生のとこの犬か?」

『そうだよ!』


 わん! ってひと吠えして見せたら、悪者はなんか困ったような顔してた。


「オレ、お前にも怖い思いさせたんだなぁ……ごめんなぁ……」

『悪者、泣いてるの?』

「悪者って呼ぶのやめて、そらって名前があるから」

『ソラ! ソラは泣いてる? 鼻水出る?』

「泣いてねーし鼻水もまだ出てねーよ」


 ソラは鼻をすすった。嘘つきだ! 鼻水出てる!


「はあ……」

『なんか悲しいことあったの? ソラ、大丈夫?』

「オレがさ……オレがもっと強くなりたいとか思っちゃったから……美鬼ちゃんにも、桃間先生にも嫌な思いさせちまったんだ」

『ご主人? ご主人は今日おうちで寝てるよ! 痛い思いしてとっても疲れちゃったんだって!』

「そうだなぁ、それ全部俺のせいなの」

『ソラはなんで強くなりたかったの? 弱いの?』

「弱いわけじゃないよ、でも美鬼ちゃんよりは弱い、かな~」

『みきちゃんって? あ、あの鬼のおねーちゃんだ!』

「そうだよ、美鬼ちゃんはすっごく強いんだ」


 そう言って、ソラは目に涙を浮かべながらお空を見た。だからまろんもお空を見た。あの雲、骨の形してる! おいしそう!


「オレが天狗として生まれた時から、美鬼ちゃんはいっつもそばにいてくれた。オレの方が生まれるのは遅かったけど、それでも美鬼ちゃんもあの頃はまだ今より小さくて、一緒に大きくなったんだよ」

『ふーん?』

「ずっとずっと一緒にいたから、オレ、これからもずーっと美鬼ちゃんと一緒にいられると思ってたんだ。五十年後も、百年後も、その先もずっと! でもあの桃間って野郎が出てきて、美鬼ちゃんを取ってったんだよ」

『ご主人は人間だからー……百年後にはいないと思う!』

「そういう話じゃないんだよ~、美鬼ちゃんの心の中にはきっと百年経っても二百年経ってもあいつが住み続けるんだよ~」

『人間って鬼の心の中におうちつくれるの!? まろん、知らなかった!』

「おいワンコロ~そういう話じゃない~~」


 ソラはまろんのお顔をムニムニ触ると、ほっぺをぐにーんて引っ張った。どうしてそんなことするのかわかんないけど、まろんの体はモクモクで痛くないし、触らせてあげた! まろん、えらい!


「美鬼ちゃんと同じ高校に入ったはいいけど、どうしたらこっち振り向いてもらえんのかわかんなくて……とにかくいっぱい行動したんだよ」

『こうどう~?』

「まずはいっぱい話しかけに行って、そんでいっぱい好きって伝えて、それから夜は部屋に遊びに行ったりして、面白そうなゲーム借りた時は一緒にやろって言ったんだけどなんでかめっちゃ怒られて……美鬼ちゃんゲーム嫌いなんかな」

『ゲームってなに~?』

「とにかくいろいろやったけど、美鬼ちゃん全然オレのこと見てくんなくてさぁー……はあ……」


 ソラはまろんのお顔から手を離すと、耳たぶを触ってた。


「部活の帰り道に、どうすりゃいいのかなって考えながら歩ってたらさー……変な男に会って。妙な気配してたから戦おうかとも思ったんだけど、『戦えるような力は持ち合わせてない』って言ってて……それでオレにピアスを見せてきたんだ」

『ピアスってなに~?』

「こーゆー耳に付けるやつ」


 ソラはそう言ってもう片っぽのお耳をまろんに見せてくれた。なんか付いてる!


「そんでそのピアスを見てたらさー……なんか、力が湧いてくるっていうか……いや、ピアスに引っ張られてる、って感じだったのかな。よくわかんねーけど、これ使えばオレ強くなれる! って思ったんだよ」

『ソラは強くなったの?』

「ああなったよ。でも……あの力じゃ、()()()強くなったとは言えなかったかもな」

『?』


 ソラはおっきなため息を吐いて、体をぎゅってちっちゃくして、お顔見えなくなっちゃった。落ち込んでるのかもしれない。こういう時はー……


『ソラ、ほら!』

「?」


 まろんの自慢の尻尾をぶんぶんってソラに見せてあげた。そしたらソラも気に入ってくれたのかまろんの尻尾を触った!


「なんだよーワンコロ~」

『ワンコロじゃないよ! まろんだよ!』

「似たようなもんじゃねーかよぉ」


 まろんがゴロンって草むらに寝転んだら、ソラがわしわしってまろんのお腹を撫でた! まろんそれすっごく好き! もっと撫でて!


「はあー……お前に話聞いてもらったら、なんかちょっとだけ元気出てきたわ」

『ソラ元気出た!? また悪者になる!?』

「ならないならない」

『じゃあ!』


 ゴロロン! って起き上がって、ソラを見た。



『まろんとソラ、もうお友達!?』



 ソラのおめめはまん丸になって

 それから細くなって

 大きな手がまたまろんの頭をわしわしって撫でた。



「……ああ、友達になろうぜ。ワンコロ」

『まろんだよ!』

「よーし、んじゃお前を連れて先生の家にでも行くかぁー!」

『ご主人は寝てるよ!』

「起こしたらさすがに怒るかな?」

『ご主人、まろんに怒ったことないよ!』

「オレには超怒りそ~」



 ソラ、元気になったらお顔がすっごく楽しそうになった!

 楽しい顔を見てると、まろんも楽しくなる!

 まろんのことをお腹の横で抱っこして、ソラはご主人の家に向かったよ!


 でもおうちに着いたらご主人はソラに玄関開けてくれなかったよ。


「お前のせいで疲れてんだよ馬鹿野郎」──だって!


 まろんが玄関を通り抜けて「ただいまー!」って言ったらご主人の声が聞こえた。




「──散歩は楽しかったか? 狗谷木とどこで会ったんだ?」

「いぬ? やぎ? 犬もヤギも会ってないよ!」

「あー……うん」


 ご主人はお喋り疲れちゃったのか、いつものタバコに火をつけた。まろんはそこに飛び込んで、またひと眠りすることにしたの。


 ご主人の周りを漂うのは気持ちがいい。


 すももも、あんずも、いっしょにいるよ。


 まろんたちはみーんなご主人が大好きで、


 ご主人が吸い込む息に混ざって、


 ご主人の体に入り込む。


 ご主人はこの体でどんなこと考えてるのかな。


 ご主人は一体何が欲しいのかな。


 桃太郎みたく


 きっと何かをすっごく欲しがってるはずなんだ。


 だからまろん達が召喚()ばれたんでしょ?


 ああだめだ。


 まろんは難しいことなんにもわからないから、


 とろろん、とろろんってお部屋に溶けて。




 ばいばいまたね、




 ぷかぷかひっくり返りそうなセカイ。

第二章お読みいただきありがとうございました。

この後は2/1までお休みをいただき、2/2(月)から第三章開始の予定です。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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