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鬼さんコチラ、桃なる方へ!  作者: 四辻十壱
第二章 天狗と少女

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第34話 破廉恥だわ!!!

 ──元いた世界が、変わっていく。


 道路や建物が消えていって、

 綺麗に植えられていた花もなくなって、

 変わりに浮かび上がってきたのは木々が鬱蒼と茂る森の中。


 女の子は顔を動かさずに目だけで辺りを確認して、ヒトの姿を解いたあたしを睨みつけた。


「ご丁寧にどうも。でもここまでしてもらう必要はないわ、すぐに終わらせるもの!」

「ねーねーあたしら初対面でしょ? おチビちゃんのこと怒らせることした記憶ないんだけど~」

「黙りなさいこの鬼!」


 女の子はそう言うと手に持っていたお札を持って何かぶつぶつ言うと、それをあたしに向かって投げてきた。


「縫い留めよ!」


 あたしが瞬時にその場から離れると、女の子が投げたお札が大きな針と糸みたいに形を変えて後ろにあった木にぐるぐると巻き付いた。どうやらあたしをあの木に縛り付けたかったみたい。


「急に攻撃してきたけどさぁー……おチビちゃん何者なの?」

「私は土御門つちみかどの血を引く陰陽師! 極悪な鬼はすべて倒すと決めてるのよ!」


 女の子ははっきりとした声で話しながらもあたしに的確に攻撃をしてきた。拘束の為の攻撃に、矢を放ってくる攻撃、それにあたしの動きを邪魔させる為の式神による攻撃。……この式神、犬の形してる。かわい~。


「って……陰陽師~? ああ! なんか昔っからあたしたちに突っかかってくるやつかぁ。でも土御門なんていたかなぁ」

「うぅうるさい!! これでも由緒正しき家系なのよ!」

「そうなん? 由緒正しいってのがあたしにはよくわかんないけどー……なんかごめんね?」

「謝らないでちょうだい!!!」


 女の子は怒ったのかさっきよりもでかい矢をあたしに向かって放ってきた。逃げるのはちょっと難しいかなと思って、迫ってきた矢の先っぽを手で掴んでそのまま女の子の方へとぶん投げ返した。

 矢は女の子に当たる寸前で星が弾けたみたいに消えていった。


「ねーさっきそらのこと話してたけどぉー……友達?」


 あたしが天のことを聞くと、女の子はなんかつまらなさそうな顔した。もしかして地雷踏んだ?


「……天狗は友達なんかじゃないわ。ただの取引相手よ!」

「取引相手~?」


 式神の犬がオオカミみたいに形を変えて群れを成してあたしに襲い掛かってくる。それを金棒一振りで全て蹴散らした。当たった感触は軽い。紙だし。


「ああ~、そういえば天狗会ってのに陰陽師を呼んでなんかしてるんだっけ? 天が言ってた気するけど、あたしあんまし真面目に聞いてないからさぁ」

「知らなくて結構! 貴女にはどうでもいい話よ」


 陰陽師の女の子は何かぶつぶつと唱えて空中に文字を書くみたいに指先を動かすと、


 ──ズシン……!!!!!!


 急に体が重たくなった。

 というか、ここら一帯が上から何か重たいものでもぶつけられてるみたいに重圧を感じる。あたしが身動き取れないと思ったのか、女の子はお札を手にしてまた束縛の攻撃をぶつけようとした。




「でもこれじゃ動き止めらんないよ」




 足に力を入れて、上に向かって高く高くジャンプする。圧力がかかってる場所から飛び出しちゃえばこっちのもの。高い位置から、女の子目掛けて、


「いよっ──……とぉ!」


金棒をぶん投げた。




「きゃああああああっ!!」




 悲鳴が聞こえたと同時に女の子の攻撃が全部止まった。

 あたしは地面に着地すると、地に突き刺さった金棒の方へと歩いて行く。


 ──女の子はその向こうで、ガタガタと震えながら座り込んでた。




「だいじょぶ?」

「あ、ああ、あ……」


 涙目になってる女の子。見た目ちっちゃいし、かなり子どもだよね?


「あちゃー泣かせちゃった? 子ども泣かせるのは趣味じゃないな~。もしかして漏らしちゃったり?」

「そ、そ、そんなわけないでしょ!!!」


 言い返す元気は残ってたみたい。よかった~。

 とりあえず動かなくなったし、あたしは女の子の前にしゃがんだ。


「ねーねー、おチビちゃんは名前なんていうんだっけ?」

「つっ……土御門……ナツメ」

「ナツメちゃんかぁ。あたしナツメちゃんのことぜーんぜん知らないし、殺す気とかなさすぎなんだけど、戦うの諦めてくれる?」

「そ、そっちに戦う気がなくたって私にはあるのよ!」

「えーなんでー?」


 あたしはこの子に恨まれるようなことがあったか考えた。考えたけど、全然わかんない。だって土御門とかあたし初めて聞いたし。聞いたことあっても忘れてるし。この子の両親のかたき~とかそーゆーわけでもないと思う。あたし人間殺す趣味ないんだ。


 困ったあたしが見つめてると、ナツメちゃんは鼻を啜って自分を抱きかかえるみたいに小さく丸まって座った。


「……お、鬼は、極悪なのよ。鬼と出会ったら逃げるか、全てを失う覚悟を持って戦えと幼い頃から言われていたわ」

「え? まー極悪っぽい鬼もいるけどー……」

「鬼は全て悪しき存在よ。私はそう信じてる」


 ナツメちゃんはもう一度鼻を啜った。あたしはポッケの中に入れてた今日街中で押し付けられたポケットティッシュを出して、あげた。ナツメちゃんはこくんと小さく頷いて受け取ったかと思うと、鼻をかみ始めた。数回鼻をかんだら、落ち着いたみたい。また話し始めた。


「……半年前、私はそれを身をもって実感したの。あれは私の推してるVテューバーが自分の銅像を建てることになった時の話よ」

「ねぇそれ気になるとこありまくりだからつっこんでもいい?」


 ナツメちゃんはすっごく嫌そうな顔をしてこっちを見た。多分つっこんじゃダメってことだと思う。


「私の推し……杏狐あんこ様は彗星のごとく現れた見た目も声も話も歌も全て完璧なカリスマ性を持った方だった。チャンネル登録者数がうなぎのぼりに上がっていくのを二年前の私は圧倒されるままに見ていたわ。そして登録者数三百万人を突破した時──杏狐様は銅像を建てると決めたの!」

「なんで銅像?」

「後世に素晴らしさを伝える為よ!」

「全然わかんない」

「クラウドファンディングで銅像のお金を集めることになって、たくさんの資金が集まって、時間をかけて準備してきて、設置場所も杏狐様が買った山の中腹に置かれることになって、晴れて杏狐様の銅像が飾られ、それがライブ映像で配信されて私を含めたファンのみんなが喜んでいた時……それは起こったのよ」


 ナツメちゃんがギリギリと歯を食いしばった。


「……鬼のせいで! 突然山崩れが起きて銅像ごと全てを掻っ攫って行ったの!!!」

「その杏狐様が山買った話詳しく聞いてもいい?」

「映像を見ていたその時は突然の地鳴りに何がなんだかわからなかったわ。けれど、後日原因調査の為に山の管理者たちに同行した陰陽師がそこで鬼の妖力の残痕を感知したのよ! あの山崩れは、鬼によるものだった! どうして、どうして何の罪もない杏狐様が──!」

「へぇー……」


 ナツメちゃんの言ってることはちょっとわけわかんなかったけど、ふと思い出す。

 山崩れ、

 鬼の妖力の残痕……。


 ……あれ、これもしかしてあたしがお父さんと喧嘩した時のじゃ?


 今から三十年くらい前の話だけど、あたしらの喧嘩のせいで山を崩しちゃったことは覚えてる。すっごい音立ててたから忘れもしない。でもそんな前の話なのに、三十年経ってこっちに影響出ちゃったのかー……


「……なんかごめんね」

「何よ、私だってきっと貴女がやったんじゃないことくらいわかってるわ! 鬼だからっていう個人的な理由で攻撃してさぞ呆れているんでしょう! あやかしにそんなこと思われるなんて……」

「いや、んーっと……まあ鬼の誰かがナツメちゃんの大事な物壊しちゃったわけだしー、一応あたしからも謝っておくから~」


 あたしがやりました、って言ったら多分もっと怒るんだろうなぁ。だから黙っておく。


「……川下高校へ桃間さんに会おうと思って来てみたら急に鬼が現れたから……私、つい我を失って攻撃してしまったのよ。悪いとは思ってるわ。でも、貴女どうして人間のフリをしているの。何を考えてるのよ」

「あー、あたしその高校の生徒なんだよね~」

「……何の冗談を言ってるのかしら」


 ナツメちゃんはぽかんとした顔であたしを見てた。その顔があんまり可愛いからあたしはつい笑っちゃった。


「あはは、全然冗談じゃないし。あたし、女子高生してんの。桃間センセーはあたしの担任で未来の旦那様~ってとこ?」

「未来の、旦那様……?」


 ナツメちゃんはよくわかってない顔をしていたけど、急に目を見開くと大声を出した。


「鬼が、人間に嫁ぐですって……!? 何を言ってるの!? それに桃間さんは桃太郎の家系じゃない! 貴女の敵よ!?」

「えー別にあたしの敵じゃないよ。あたし桃太郎と関係ないし、センセーだって別に桃太郎じゃないし」

「そんなこと言ったって……!」

「あたし、センセーとの子どもが欲しいんだぁ。鬼は今数えるくらいしかいないけど、センセーがいればきっとたーくさん鬼が増えると思うんだよね♪」







 って、あたしが言ったところでナツメちゃんは固まっちゃった。

 あれれ、

 どしたんだろ。





 もう元の場所に戻ってもいいかって思って《《世界をひっくり返す》》。

 じわじわと上から溶けるように、木でいっぱいだった風景は消えて学校前の道に戻った。



「……ナツメちゃーん?」


 元の場所に戻ってきたあたしは、歩道に座り込んでいるナツメちゃんの顔の前で手を振った。



「こっ……こども、ですって……」



 そう言ってわなわなと震えてる。

 もしかして、鬼と人間の子どもなんてーって怒っちゃった? あたしまた言葉ミスっちゃった感じ? どーしよ。



「あー、ナツメちゃん。もしかして怒っ──」



「破廉恥よ!!!!!!!!!!」



「は?」




 ナツメちゃんは顔を真っ赤にして立ち上がった。

 あたしは驚いちゃってしゃがんだまま動けずにナツメちゃんを見上げてる。


「そんな、こっここここどもが欲しいなんて、しかも、たた、たくさん……!?」

「えー? うん、鬼って今少ないからさぁ」

「そっそっそんなこと、そんなのって、だって、子どもは男女が、だっ、男女がアレをして……!!」

「あー……」



 そっか、ナツメちゃんにはこの話題早かったか~。

 ちょっと申し訳なく思って、あたしは立ち上がるとナツメちゃんの頭をぽんぽんと撫でてあげた。


「別に破廉恥とか言うのじゃないしぃ、さっき言ったのは気にしないで?」

「気にするわよ!!」

「えー、お年頃の女の子ってやつかぁ~」


 どうしたもんかなーと思ってると校門からちょうどセンセーが出てきた。センセーはあたしとナツメちゃんに気が付くと目を丸くして首を傾げてる。


「おい、お前ら何やって……」


 そう言いかけたセンセーに気づいたナツメちゃんは、センセーの顔を見て、あたしの顔を見て、さらに顔を赤くすると



「あっ、貴女方……破廉恥だわ~~!!!!」




 大声で叫びながら走って行っちゃった。

 なんだろー、これあたしが悪いのかな。


「鬼村、何やってたんだ」


 近づいてきたセンセーが困惑した顔でこっちを見る。あたしはなんて説明しようかと腕を組んで考えた。


「うーん、人間の女の子って成長早いよね~」

「は?」

「今の時代だとやっぱ性の情報も入ってきやすいの? あれー、でもやっぱずっと昔の方がちっちゃい子もそういうことちゃんと知って……」

「何言ってんだ?」


 あたしの話はセンセーに何一つ伝わってなくて、あたしは肩を竦めた。説明すんのめんどいし、もういーや。


「センセー、あたしあのおチビちゃんに嫌われたかも~」

「……まあ確かに、ギャルは怖いだろ。見た目が」

「はー?? 意味わかんないんだけど」

「というか、今の土御門さんだろ。近くの小学校の……で、陰陽師の。お前に何の用だったんだよ」

「あたしに用はなかったっぽいけどね~。なんかセンセーに用あったっぽい」

「俺に用?」


 センセーはそう言うと、少しして嫌そうな顔をした。


「……あれか、そこで戦った痕跡の調査とか言ってたやつか。前は誤魔化したからな……」

「センセーあの子と話しなきゃいけない感じ?」

「まあ、ずっと逃げてもいられないだろうからな。ただ処分とか言ってたのが引っかかってどうしたもんだか」

「処分~?? センセーのこと殺そうとしてるとかそーゆーこと?」

「さあな」


 センセーはおっきなため息をついて肩を落としてた。

 処分、処分ねぇ~……。あの子あたしより全然強くないし、あたしが横にいたら牽制にもなるしー、次会う時はあたしいれば解決じゃない? センセーが困ってるんだったらあたしが助けてあげないとね。ほら、未来のお嫁さんだし?


「あ! センセー帰りにスーパー寄ってこ♡ 今日の夕飯何食べたい?」

「なんでお前が作る前提なんだよ」

「センセーと一緒に夕飯食べたいの~新婚さんみたいじゃん?」

「おままごとに付き合うつもりねーよ」

「とか言ってどうせ帰ったらコンビニご飯のくせに~。あたしが作った方栄養取れんじゃん?」

「………」


 センセーの口が閉じて、何も言わなくなった。図星ってことだよね。じゃー今夜はあたしがご飯作ってオッケーってことだ♪


 あたしは鼻歌を歌いながらセンセーと一緒に駅の方へと向かった──。

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