第32話 告白
あけましておめでとうございます。
なろうで鬼桃(タイトル略称)を追ってくださっている方々いるようでしたらありがとうございます。
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それでは本編どうぞ↓
「センセー最近天のこと見た?」
──ある日の放課後、HRを終えてすぐに俺が教室を出て行こうとしたところ鬼村に呼び止められた。特別心配そうな声音でもなかった為、俺もあまり深刻に思わずに答える。
「狗谷木? 授業なら毎回出てるぞ」
「いつ見たの?」
「今日の三時間目」
「ふーん」
「どうかしたのか」
「最近ちょっとうるさくないなぁって思っただけ」
そこでようやく鬼村の表情が変わり、唇が少し尖った。そうか、遊び相手がいなくて不満なんだな。考えてもみれば人間ばかりのこの学校で、狗谷木は唯一妖怪の友達だろう。しかも転校してすぐは鬼村のところへひっきりなしに遊びに来ていたし、急に来なくなればつまらなく思うのも無理はない。
「思いの外、狗谷木も学校生活が楽しくなってきたんじゃないか? 水泳部も楽しいって言ってただろ」
「んー」
「お前も部活に顔出してみたらどうだ? 少しは楽しいかもしれないぞ」
「別にいい~。あたし先生とバイトで忙しいし」
「バイトはわかるが俺で忙しいってどういうことだよ」
俺はそこで会話を切って職員室へ向かおうとした。鬼村も俺の横について歩き出そうとしたが──後ろから呼び止められる。
「あの、鬼村さんちょっといい?」
鬼村が振り返るのと同時に、俺もつい振り返ってしまった。そこにいたのは別のクラスの男子生徒だ。バドミントン部なんだろう、でかい鞄を背負ってそこに立っている。
「何?」
「少し話があって」
「話?」
鬼村は首を傾げている。が、俺はなんとなく話の内容を察してしまって居心地が悪くなった。
「話ならここで聞くけど」
「え、ええ……あー……」
違う、違うぞ鬼村。
その男子生徒が言いたいことは多分ここで言えないはずだ。
俺は少しばかり気を遣い、何も言わずにそっとその場を離れた。
なるべくさっさと距離を取ろう、と早足で歩く。その度に来客用スリッパの擦る音が廊下に響いた。未だに借りているこのスリッパ、今朝玄関で山上さんに「そちら、買い取りますか?」と聞かれたがあれは冗談だったのか本気だったのか。
気まずくなり、脳裏に浮かんだ山上さんを頭を振って消す。
にしてもやっぱさっきのあれ、絶対告白だよな。若いっていいよなぁ。青臭くてちょっと恥ずかしさも感じるけど間違いなく青春の一ページってとこだろ。経験の一つとして好きな奴がいるなら告白ってのはしといた方がいいよ。多分。
でもなぁ、相手が鬼村だからなぁ。
鬼が相手じゃあなぁ~。
──職員室へ入り机の上を整頓するとしばし事務作業をする。来月は体育祭があり、その準備を手伝わなくてはいけない。ほとんどは運動部の顧問の先生方と体育委員会の生徒たちがやってくれるのだが、タイムテーブルを作るといったことは何の部活の顧問もしていない俺がやらねばならない。暇人だと思われてるのだ。いや、確かに比べてしまえば暇人と言われても仕方がないのだけれど……。
ノートパソコンに向かうも、じーっと画面を見つめたまま手は動かない。
今何してたっけ。
えーっと、だな。
「………」
何で頭がこんなに働かないんだ。
放課後で職員室に人が多くいるせいか?
人の会話の声がうるさく感じるのか?
そんなことは、ないはずなんだけど。
「………」
──止まったままの手に、俺は諦めることを選んだ。
「……一旦休憩しよ」
煙草を手に取り、俺は職員室を後にした。
***
「あの、鬼村さんちょっといい?」
──センセーと話をしてたら、急に知らない男子に呼び止められた。
名前も顔も知らない男子に、なんであたしの名前を知られてんだろって思ったけど……まあ目立つことしてないって断言もできないから。あたしってば結構有名人?
で、今は使ってない教室にそいつと一緒にいる。
「……話って何?」
あたしが聞いてみると、その男子はなんか言いにくそうに目を逸らした。
いや、
あんたが話あるって言ったんじゃん?
「……え、えっと鬼村さんは俺のこと知っ」
「知らない」
「あ、そーだよね……二組の青木っていいます。あの俺、鬼村さんが転校してきた時からずっと気になってて! もしよければ、付き合ってほしいなって……」
「あたし、センセーのことが好きだよ」
「え」
間髪入れずに、あたしは言った。
だってほんとのことだし、隠してるわけでもない。
「あたし、桃間一樹センセーが好き」
「あ……う、ん。まあそれは、噂になってたから知ってるけど」
青木って男子は困ったような笑い方をして、それから姿勢を正した。
「知ってる、けどさ。俺、もっと鬼村さんのこと知りたいし、あの先生よりもっと大事にする自信あるから! 少しでもチャンス欲しいなって……友達からでもいいからさ!」
──友達から。
……友達から??
「あー、そういう段階踏むパターンもあるかぁ」
「?」
「ありがと青木くん! あたしもセンセーに友達から始めよって言ってみる!」
「え、ええ??」
「最近ちょっとぐいぐい行き過ぎてた気もするんだよね~。でもそれだとすぐ怒るし。早くこっち向いてほしいんだけどー……でもちょうどいい距離感? ってのも大事だよね! あーなんか今すぐセンセーに会いたくなっちゃった。……話って終わり?」
「あ……うん……」
青木くんはなんか笑ってたけど、若干口元が引きつってた。なんで?
「じゃ、あの……やっぱ俺帰るね。今日の話はなかったことに──」
「あ! 待って青木くん!」
「えっ?」
あたしが青木くんの手首を掴むと、ちょっと驚いた顔してた。
そのまま手を引いて、窓辺に連れてく。
「な、なに鬼村さん……!?」
青木くんをそのままに、あたしは窓を開けた。
その瞬間、窓の外を旋回して飛んでいた烏が一羽
開いた窓からこちら側へ入ってきた。
「え!? か、カラスが中に……!?」
悲鳴のような声を上げた青木くん目掛けて烏が飛んでくる。
青木くんが「うわあ!」と声を上げたのと同時に烏は肩に止まった。
──烏の口が開き、
──青木くんの口も開く。
『……ちょうどよいところに人間がいたな、美鬼。この者は知り合いか?』
よく知ってる声。
天の親代わりって感じの大天狗のおじさんだ。
烏を使ってこっちと連絡が取りたかったみたい。
烏は自分じゃ喋れないからこうやって人間を使うしかないんだけど……ちょうどよく青木くんがいてよかった。
「今ちょっと喋ってただけの男子だよ。天に用事? 今部活中だと思うよ? 呼ぶ?」
『いや、用はお前にだ。あやつが急にこちらへ連絡を寄こさなくなった』
「そうなの? 授業には出てるって聞いたけど」
『ふむ……』
烏が一度、二度、首を傾げた。多分この烏の動きであって声の主であるおじさんが首を傾げてるわけじゃないと思う。けど可愛くてちょっと笑った。
『この辺りで妖の気は感じるか』
「えー、山神様がいるから感じないわけじゃないけど、他にはあんまり」
『……あやつのそばに怪しい者がいないか調べることにしよう。山猫を使う。しばらくすれば使者がお前の元へ行くだろう、何か気になることがあればそやつを通して情報を伝えよ』
「えーあたし忙しいよ? このあとセンセーのとこ行くし、明日もセンセーと一緒にいたいし」
『………』
「まあ仕方ないな~めんどくさくなかったらちょっと探ってみるよー」
『頼んだぞ』
そう言うと烏は青木くんの肩から飛び上がって窓の外へと出て行った。お使いも大変だなぁ。でもああやって動いてくれる子がいるのって羨ましい。あたしは全部一人で解決しなきゃだし。
「……う、あれ……?」
ふと目を覚ましたみたいに青木くんが瞬きをした。
「青木くんだいじょーぶー? なんか急に眩暈起こしてたみたいだけど」
「え、眩暈……? あ……だ、大丈夫」
「もし具合悪かったら言ってね、保健室まで連れてくくらいはできるから」
「え!? えーっと……あ、いや、部活もあるから、大丈夫」
青木くんの顔がどことなく赤くなっていく。
でも元気ならいいや。
烏に生気少し吸い取られてるはずだけど。
「そっか、それじゃまたね~♪」
あたしは青木くんに手を振って廊下に出た。
やっぱさっきみたいな告白って、人間にとっちゃ大事なのかな?
あたしも前に「好き」って言おうとしてみたけど……あの時は天に邪魔されたし。
でもお母さんにはただ好きって言うだけじゃだめっぽいこと言われたしな~。
何が正解? どうしたらセンセーはこっち向いてくれる?
どうしたらあたしを好きになって
あたし無しで生きられなくなる?
ちゃんとセンセーもそうなってほしいなぁ。
あたしは一樹無しじゃあたしでいられなかったから。
もっと近づいてもっとくっつきたい。
怒った顔じゃなくって、もっと違う顔も見たい。
それで──
「……って、あれ。子作りの方が大事なはずなのにあたし何考えてんだろ」
***
「セーンセ」
俺が駐車場近くの校舎裏で煙草を吸っていると、壁の陰から鬼村が顔を覗かせた。
「……んだよ」
ちょうど吸い終わりだった煙草を地面に押し付けて火消しし、携帯灰皿に放り込む。座り込んでいた俺の横に鬼村もしゃがんだ。
「ね、センセ」
「ん」
「あたし告白されちゃった」
「へー」
「でもあたしセンセー好きだからってソッコーで拒否っちゃった」
あははは、と鬼村が笑う。
俺はその顔を見て、妙に頭のもやが晴れていくような気がした。
「ね、それでさ」
「おう」
「あたしたち、友達から始めない?」
「……は?」
晴れかけていたもやが……またかかり始めた。
いや、意味が分からない。
何だ友達って。
こいつが言うことは意味わからん。
「さっき告白された時に~、言われたの~。友達からでもいいからってー」
「………」
「だから、センセーとも友達から始めて、仲良くなって、そしたらあたしのこと好きになってくれるかもじゃん??」
「大体、友達って具体的になんだよ」
「え~、フツーに喋ったりさぁ~」
「なんだフツーにって。喋ってんだろ」
「もっとこう、普段の話とか~」
普段の話?
いつも何話してたっけ。
妖怪や向こう側についての話とか、桃間の家の話とか、あとはこいつが見たテレビの話とか、学校の友達の話とか、最近買った服の話とか、コンビニで売ってたスイーツの話とか──
「いや、すでにしてんじゃねーの?」
「えーそう?」
「大体、友達とか言うの無理があんだろ」
よっこいせ、と立ち上がる。しばらく座っていたせいで腰が痛い。体を伸ばしてボキボキと肩や腰の関節を鳴らした。
未だ横に座っている鬼村を見下ろしてみる。膝を抱えて小さくなっている鬼村が、少し上目遣いでこっちを見ていた。
「今更お前をフツーの友達として見れねぇだろ」
俺の言葉が届いて数秒後。
鬼村の目が、見開かれ次第に大きくなっていく。
「それって……あたしのこと好きってこと!?」
「うわ!!」
急に立ち上がった鬼村が、体を近づけてきた為俺は仰け反った。困惑する頭で自分が言った言葉を再度考え直す。なんだ、フツーの友達として見れないって。まるで告白してるみたいな言い方だ。俺は馬鹿か。
「……お、お前は生徒で! 俺が教師だから! そういう意味で言ったんだっての!!」
「んもーセンセーってば恥ずかしがり屋~」
「違う! そうじゃない!」
急に俺に抱き着こうとした鬼村の肩と顔面を押さえ、どうにか必死の抵抗をする。
「学校の! 敷地内で! やめろ!!」
「じゃあ帰ったらオッケーってこと?」
「それもやめろ!!」
「えーなんならいいの~。ケチ」
「ケチじゃない!!」
慌てて走って距離を取る。
俺が離れると鬼村はつまらなさそうに唇を突き出した。
「やっぱセンセーは友達からじゃなくて、もっとグイグイいかないとだめかぁ。そうだ、アロマキャンドルとか買ってみちゃう? 良い雰囲気にするのは大事ってこないだ学んだもんね。これでセンセーもなし崩し的に……」
「なし崩しとかないからな!!」
そう吐き捨てて俺は鬼村の横を通り過ぎ校舎へと戻っていく。職員玄関でまた山上さんに睨まれつつ、俺は職員室へと戻った。
──どうやら気分転換が効いたのか、今度は集中して仕事ができそうだ。




