第93話 新武器開発スタート
「え? シチイロカネ以外にも必要な素材があるんですか?」
ボルガがゴーシュたちのギルドを訪れた翌日。
軽い朝食を取った後、一同はボルガから武器制作についての説明を受けていた。
昨日の申し出をありがたく受けることに決めたゴーシュだったが、ボルガ曰く、シチイロカネの剣を打つためにはどうしても確保したい素材があるらしい。
「うむ。具体的には『ゴウタンセキ』というものが欲しい。石炭の一種でな、そりゃもう、めちゃくちゃに熱くなる」
「そうか。鉱石を加工するには燃料が必要と言いますからね。でも、普通の石炭や木炭じゃ駄目なんでしょうか?」
「シチイロカネの融点は非常に高くてな。普通の燃料が出す火力では溶かすことができんのだ」
「私の炎魔法とかじゃダメかしら? けっこう火力出ると思うわよ」
「それもアリではあるが、できれば温度は安定させたい。故にゴウタンセキを使っての加工が最適なのだ」
ボルガが言って、ゴーシュたちは納得がいく。
つまりはゴウタンセキという石炭を採ってくることでゴーシュの新武器開発に取り掛かれると、そういうことだ。
「ねえ、ボルガのおっちゃん。ごーたんせきっていうのはどこにある?」
「私も聞いたことないわね。石炭に関しては専門外ってのもあるけど、市場とかでも見たことないわ。もしかして結構希少性の高い素材なのかしら?」
「ああ。通常の武具を造るのであればゴウタンセキなど必要ないからな。普通に流通している品ではないが、採掘できる場所なら知っておる」
ボルガはそう言って、地図を取り出しテーブルの上に広げる。
地図には印が付けてあり、ここ王都グラハムからそう遠くない場所を示していた。
「この印の場所、私たちが昨日グリフォンと戦った場所の近くですね」
「ここには大昔に廃坑となった洞穴がある。一般的に使用頻度の高い鉱石が採れんために放棄されたのだが、ゴウタンセキが採れる場所なのだ」
「なーんだ。場所が分かってるなら楽勝じゃない。さっさと行って採ってきましょ」
「ところがどっこい、今は魔物の巣と化しておる」
「……なんかそんな気がしたわ」
ゴウタンセキを入手するには魔物の巣窟に乗り込む必要があるとのことで、パルクゥが肩を落とす。
希少な品がタダでは手に入らないというのは、ある意味お約束かもしれない。
「でも、行くしかないな。武器はないけど、俺も体術で戦えば――」
「いや。ゴーシュよ、ぬしはここに残れ」
「え?」
「ドワーフ族秘伝の方法があってな。真の武具を作るには、使い手と素材の波長を合わせることが重要になるのだ。そして作り手である儂は、その波長を見極めて打つというわけだ」
「なるほど。そのために俺は何をすれば……」
「なに、難しいことはない。接触――つまりシチイロカネに触れていればよい。あとは儂が色々とやるだけだ」
「わ、分かりました。でもそうなるとゴウタンセキをどうするか、ですね」
ゴーシュが戸惑う一方で、それならばとミズリーたちは頷き合う。
ミズリーたちの出す答えは決まっていた。
「なら、私たちの出番ですね。ゴーシュさんの新しい武器が作れるなら、少しくらい危険な場所でもへっちゃらですよ」
「そうね。ゴーシュさんがいなくても、採ってくるわ」
「ま、オレ様はこの前魔力使ったから出番ねえと思うがな。パルクゥのおもりなら任せろい」
「ししょーの剣づくりのお手伝い。どんとこい」
「みんな……」
ミズリーたちの心意気はゴーシュの胸を熱くさせる。
ゴーシュからすると自分がいない状況で皆を魔物の巣に向かわせるのは心配もあったが、それ以上に皆の気持ちが嬉しかった。
「よし、ならば決まりだな。ゴウタンセキが採れたらもってくるがよい。儂は早速準備に取り掛かる」
そうして、ゴーシュとボルガはギルドに残り、ミズリーたちはボルガが指定した廃坑へと向かうことが決定する。
***
「せっかくだから、配信をしないと損ですからね。それじゃ、始めましょう!」
地図に記された廃坑の付近に到着し、ミズリーが配信をスタートさせる。
昨日の大狩猟大会終了時点でミズリーが抜け目なくゴーシュの新武器制作を匂わせていたため、すぐに多くのリスナーが集まってきた。
「皆さんこんにちは! ギルド《黄金の太陽》です。今日はゴーシュさんの新武器制作に必要な素材をゲットしていこうと思います!」
【キター!】
【ゴーシュさんの新武器、オラ、ワクワクしてきたぞ!】
【ミズリーさんたち、昨日はありがとうございましたわ! おかげで大会も大盛り上がりでしたわ!】
【グリフォン討伐すごかったぞー】
【おや? ゴーシュ殿がいないでござるな?】
【ほんとだ】
【鍛冶師は見つかったんかな?】
【必要な素材って言ってたけど、シチイロカネだけじゃ足りない感じ?】
リスナーたちから寄せられた質問に、ミズリーが事の経緯を説明していく。
その配信の様子を、ギルドに残ったゴーシュも視聴していた。
そわそわと落ち着きのない感じのゴーシュに、ボルガが声をかける。
「フフ、女子たちの様子が気になるのも分かるがな。儂らもやれることをやっておくとしよう」
「はい。お願いします、ボルガさん」
ゴーシュとボルガが今いるのは、ギルドの一角にある工房だ。
以前、パルクゥを迎えた後のルームツアー配信で紹介していた場所である。
「それにしても、炉があるとは好都合であった。これなら武器を作るには十分だな」
「良かったです。もしボルガさんがギルドに入ってくれたら、色々作るのも捗るかと」
「そうさな。儂もそうしたいと思っておるが、まず今はこれに集中せねばな。ゴーシュよ、シチイロカネに触れてみよ」
言って、ボルガはゴーシュの前にシチイロカネを置く。
そしてゴーシュがシチイロカネにそっと触れると、ボルガは何事かを呟き始めた。
すると、シチイロカネが放つ淡い輝きが強くなり、工房内には虹色の光が広がっていく。
これがボルガの言っていた波長を合わせるという工程なのかと、ゴーシュはシチイロカネが放つ光に目を細めた。
同時に、配信画面から流れてくるミズリーたちの声を聞きながら、ゴーシュは皆の無事を祈る。
「それでは、始めるとしよう。ゴーシュ、ぬしのための新武器開発を、な」





