第92話 真の鍛冶師との出会い
「それでは、大狩猟大会優勝を祝しまして――乾杯ですっ!」
「「「かんぱーい!」」」
夜になって。
大狩猟大会を終えたゴーシュたちはギルドに帰還し、祝賀会を開いていた。
テーブルの上にはミズリーが腕によりをかけた料理が並び、その上で皆が杯をぶつけ合う。
「ああー、疲れだぁー」
大きな溜息を漏らしたのはパルクゥだ。
パルクゥはジュースを勢いよく飲み干すと、テーブルの上にぐでっと突っ伏す。
グリフォンとの戦闘の影響で皆が疲弊していたのだが、とりわけ極大魔法を放ったパルクゥは特に疲労が大きかったようだ。
「はは。でも大活躍だったな。パルクゥがグリフォンを撃ち落としてくれなかったら勝てなかったよ。もちろんギギも、お疲れ様」
「フッ。まあオレ様が影のMVPってやつだな」
「調子に乗るな……って言いたいところだけど、実際アンタが溜めてた魔力がないとあの極大魔法は撃てなかったからね。今日のところはお礼を言っておくわ」
「おお、パルクゥから素直に感謝されるとは。みんな申し訳ねえ。明日からの精霊祭はどうやら雨が降るみてえだ」
「調子に乗るなっ」
「ぐげっ」
つばの部分をぎゅっとつねられ、ギギがうめき声を漏らす。
もはや定番となっていたが、微笑ましいやり取りだった
「あはは。それにしても、みんなで優勝できて良かったです。こうしてシチイロカネもゲットできましたし」
ミズリーの言葉に皆が卓上のシチイロカネに視線を注ぐ。
シチイロカネは淡く輝き、ゴーシュたちの優勝を祝うように虹色の光をたたえていた。
「これをパルクゥがちょーごーすれば面白いことができるんだよね? わくわく」
「でも、取り急ぎなのはゴーシュさんの剣ね。私は余りを使わせてもらえばいいとして、武器が無いのは不便でしょうし」
「そっか。ししょーの剣、使えなくなっちゃったから新しいの作らないと。それもすっごくわくわく」
「ルインさんとシェリーさんが言うには強力な武器を作るための素材になるってことでしたからね。取り扱える鍛冶師さんを探さないといけないですけど」
ゴーシュはみんなに気を遣わせて申し訳なさそうにしていたが、それも人の良さだろうか。
そもそもこれまで大剣を振るうゴーシュに何度助けられたか分からないと、ミズリーやロコに半ば呆れられる始末だった。
――と、その時だった。
「ボェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
玄関の方から響き渡った絶叫に、ゴーシュたちは身をすくませる。
どうやら防犯用に設置していたマンドラゴラが作動したようで、一同は心臓が止まる思いだった。
「うぇええええ。ま、マズいです。帰ってきてマンドラゴラを眠らせるのを忘れていました」
「ふ、不意打ちでこの音は卑怯だわ」
「耳が……もげる……」
「と、とにかくすぐ止めないと」
いち早く動き出したゴーシュが、建物の中からマンドラゴラの葉っぱの付け根に繋がっている紐を引っ張る。
こうすることで中からでもマンドラゴラを止められるという仕組みだ。
どうにかマンドラゴラの絶叫を止めることに成功し、ゴーシュたちはホッと胸を撫で下ろす。
「だ、誰か来たのかな?」
未だビリビリと感じる耳を抑えつつ、ゴーシュは入口の扉を開けた。
すると――。
「う……ううん……。綺麗な川が……見える……。花畑も……」
そこにはドワーフ族の男――ボルガが倒れており、ゴーシュは慌てて駆け寄ることになった。
***
「ワッハッハ! 危うくダイコンで天国行きになるところだった!」
ゴーシュたちに介抱されたボルガが目を覚ました後のこと。
ボルガはマンドラゴラの一件を豪快に笑い飛ばしていたが、ゴーシュは思い切り申し訳なさそうに謝っていた。
「何と言うか、その……。本当にすみません」
「よいよい。ある意味貴重な経験ができたわい」
愉快そうに笑いながら白ひげをさするボルガに、ゴーシュはどう返していいか分からず困惑する。
「何というか、お茶目なおじいさんねぇ。悪い人じゃないみたいだけど」
「む。ぬしはパルクゥか? 今日の活躍、エルミナが喜んでおったぞ」
「え? エルミナお婆ちゃんのことを知ってるの?」
「知っとるも何も、旧知の仲だわい。儂もそれなりに歳を食っとるからの。ちなみに今日の大狩猟大会にも来て観戦しとったぞ」
「そうなんだ。というか、それなら声をかけてくれればよかったのに。お婆ちゃんってば」
「まあ彼奴は人混みがそんなに好きではないからな」
どうやらボルガはエルミナとそれなりに長い付き合いらしい。
ルインやシェリーといい、ここ最近のゴーシュたちはエルミナと間接的にも縁があるようだ。
「あの、ところで貴方のお名前を伺っても?」
「おっと、これは失礼した。儂はボルガと申す。見ての通り老いぼれのドワーフ族でな。本当はもっと前にぬし等を訪ねようと思っておった」
「俺たちを?」
「うむ。特にゴーシュ、ぬしに会いたくての」
ボルガが言った言葉にゴーシュは戸惑いの表情を浮かべる。
今日ここを訪れてきたのもそうだが、どういった理由なのかが気になった。
が、その答えを尋ねるより先に、ミズリーとロコが何かに気付いたようだ。
「あれ? ボルガさんってどこかで聞いたことのあるような……」
「私も聞いたことある。確か、けっこー最近」
二人はむむむと頭を捻っていたが、すぐに思い当たったミズリーがポンッと手を叩いた。
「あ、思い出しました。選考会の時にパルクゥさんと一緒に遅れてた人です」
「そっか。確かあの時パルクゥと一緒にいなかった人がそんな名前だった」
「ぬぅ、あの時は申し訳なかった。魔物に絡まれることが多くての。着いた時には終わっちまってたのだ」
言って、ボルガは頭を下げた。
パルクゥは自分と同じ人がいるなんてと漏らしていたが、ギギにすかさず「お前のは単なる寝坊だろ」とツッコまれていた。
「ええと、つまりボルガさんは俺たちのギルドに加入希望だったわけですよね? さっきも俺に用があるような言い方でしたが、一体どういう理由なんでしょう?」
「なに、それは決まっておろう。コレを見てみよ」
ボルガが自分の持ってきていた麻布の袋からあるものを取り出す。
それは鈍く光る金属製の鎚で、かなり使い古されているものだった。
「もしかしてボルガさんは……」
「ハッハッハ。儂らドワーフ族はそういう者が多いがな。察しの通り、鍛冶師をやっておる」
「良かったじゃないですかゴーシュさん! 実は今、私たちも新しく剣を作ってくれる人を探そうと思っていたんです」
「大会を見ていた者からそれとなく聞いておる。どうやら使っていた剣が寿命を迎えたらしいの」
「はい」
「ならば話は早い。ゴーシュよ、ぬしさえ良ければだが、新しい剣を儂に打たせてはもらえぬか?」
ボルガはゴーシュをまっすぐに見つめる。
その目つきは真剣で鋭く、職人としての誇りが、矜持が、こもっているように感じられた。
「儂らドワーフは永くを生きる種族だ。だからこそ、より高みを目指し、完璧な一刀を求める者は多い。無論、皆そんなものは幻想にすぎないと分かっておる。自分で定義しない限り完璧などというものはあり得んからな」
「……」
「だがな、それでも追い求めてみたいのだ。そこには儂らドワーフ族の渇望と矜持がある。だから、敢えて言わせてくれ」
ボルガは言葉を切る。
そして、鎚を握る手に力を込めると、再びゴーシュに向けて意志のこもった目を向けた。
「どうか、ぬしの新たな剣を打たせてほしい。儂が、最強の剣を作ってみせる――」





