第91話 新武器開発フラグ
「え? 閉会式に出ないのか?」
幻獣グリフォンとの激闘を終えた後で。
ゴーシュたちは、ルインから意外な言葉を聞かされていた。
「ああ。元々俺らは目的を果たしてたし、2日目に出ようとしたのもゴーシュさんと競争してみたかっただけだしな」
「予想してたのとはちょっと違ったけれどね。でも、みんなで戦えて楽しかったわ」
ルインとシェリーは笑みを浮かべつつ満足いったという様子だ。
あれだけの戦いの後にもかかわらず、二人に疲れは見えない。
それどころか、清々しい笑みを浮かべていて、本当にゴーシュたちとの共闘を楽しんでいたようにも感じられた。
「でも良いのか? ポイントは同数だったんだろう? 優勝チームには賞品だって出るのに」
「同数ってことはないっしょ。最後のグリフォンとの戦闘、誰がどう見たってゴーシュさんたちの活躍の方が上だったって。MVPはそこの天才魔女さんかな」
「ふふん♪ それは当然ね。……まあ、みんなの力があってのことだったけど」
「銃使いの兄ちゃんよ、それは違うぜ。MVPはオレ様だ。オレ様の溜めてた魔力を使ってあの魔法が撃てたんだからな」
「アンタは黙ってなさいっての」
パルクゥがギギの口をぎゅむっと摘んで強制的に黙らせる。
どうやらルインとシェリーは大狩猟大会の成績には興味がないらしく、優勝はゴーシュたちに譲るという考えのようだった。
「それに、賞品のシチイロカネ。あれはゴーシュさんにとっても必要だろ」
「そうね。早いところ剣を直した方が良いでしょうしね」
ルインたちの言葉に、ミズリーたちはゴーシュの大剣に目を向ける。
一見何の変哲もないようだったが、ゴーシュには心当たりがあるようだった。
「剣って、ゴーシュさんの剣がどうかしたんですか?」
「ああ、実は……」
言って、ゴーシュは大剣を皆に見せる。
それを見てミズリーも剣の異変に気がついた。
「これは……」
「グリフォンの爪を受けた時にヒビが入っていたんだ。最初の攻撃を防いだ時だな」
「え、そうだったんですか!?」
「ししょー、そういえば最後のこーげきの時に剣使ってなかった」
「確かに素手で殴ってたわ。ゴーシュさんのことだし大剣でバッサリいくと思ってたけど、そういうことだったのね」
「ゴーシュさんの剣に傷を付けるなんて……。やっぱりただの魔物じゃなかったんですね」
ゴーシュの大剣にははっきりとした亀裂があり、刀身は傷ついた状態にあった。
グリフォンの硬質な爪と打ち合った結果でもあるが、今回だけではなく、これまでの強敵との戦いが影響しているのだろう。
いずれにせよ、ゴーシュの大剣は寿命を迎えていた。
「ハハハ、そんなに気落ちする必要はないぜ。シチイロカネは強力な武具を作れる鉱石らしいからな。『シチイロカネで大剣オジサンの新しい大剣作ってみた!』なんて配信やれば盛り上がるんじゃねえかな」
「おお、それ良いですね。ルインさんの案、使わせてもらっても?」
「もちろん」
「ふふふ……。シチイロカネでゴーシュさんの新武器制作配信に、パルクゥさんの調合薬配信。それを使った配信もイケますね。これは面白い配信がたくさんできそうです。あ、でもゴーシュさんの剣はまず鍛冶師さんを探さないと。それから他には――」
すぐに配信のことが浮かぶ辺り、さすがは《黄金の太陽》の企画担当といったところか。
色々と配信の企画が思い浮かび、ミズリーはウキウキの様子である。
「それじゃ、俺らはそろそろ行きますか」
「あ、ちょっと待って兄さん」
「ん?」
その場を去ろうとしたルインにシェリーが待ったをかけた。
シェリーはゴーシュの方へと近づくと何かをひそひそと話し始める。
そして少しすると、またルインの方へと戻ってきた。
「もういいん?」
「ええ。行きましょ」
何を話していたのかミズリーたちは気になったが、ルインは何となく察したようだ。
何やら微妙な笑みを浮かべていたが、ルインはゴーシュたちの方へと向き直って別れを告げた。
「そんじゃゴーシュさんたち、優勝おめでとさんな。精霊祭の期間中は王都にいる予定だから。どっかで見かけたら声かけてくれよ」
「またね、ゴーシュさん。ミズリーたちも。次の配信も楽しみにしているわ」
あっさりとした感じで挨拶を交わし、ルインとシェリーはその場を立ち去る。
そんな二人の背中を見ながら、ゴーシュたちは手を振って別れを惜しんでいた。
「ふぅ。色々と謎めいた二人だったわね。グリフォンとの戦いでは助かっちゃったけど」
「あっ、しまった。二人をギルドに誘ってみれば良かったです。二人ともすごく配信映えしそうな感じだったのに」
「まあ、また会う機会もあるでしょ。精霊祭の期間中は王都にいるみたいだし、目立つ二人だしね。きっとすぐ見つかるわよ」
頭を抱えて後悔するミズリーをパルクゥがなだめる。
一方で、ゴーシュはどこか落ち着きがない様子だった。
「? ししょーどうしたの? どっか具合わるい?」
「い、いや、そういうわけじゃないんだが……」
「どうしました、ゴーシュさん? そういえばさっきシェリーさんが去り際に何か話しかけてましたね。何を話してたんです?」
「実は……連絡先を聞かれてな」
「え゛――」
ゴーシュの言葉にミズリーは思わず素っ頓狂な声を漏らす。
どうやらゴーシュたちと謎めいた兄妹の関わりは、まだこれからも続くようだった。
***
「はぁ……。何とかなったかの」
「お疲れ様でした、エルミナ様」
しばらく経って
閉会式も終わり、ゴーシュたちの優勝インタビューや、メイシャから優勝賞品であるシチイロカネの授与などが行われた後のことだ。
VIP席ではエルミナがぼやいているところだった。
結界で会場を守護していたエルミナは、メルビスの隣でぐでっとしながらお疲れの様子である。
「あの結界は疲れるからあんまりやりたくなかったのに。あの空気が読めん魔物のせいじゃ」
「ふふ。何だかんだ言っても人助けしようとするあたりエルミナ様ですね。大賢者らしいところが見せられて良かったじゃないですか」
「……見ていたのはお主だけじゃろうが」
メルビスの冗談めかした言葉にエルミナはジトッとした目を向ける。
そんなエルミナの抗議に怯む様子もなく、メルビスは澄まし顔だった。
「しかし、ゴーシュの剣はやはり傷が入っていたか」
「インタビューでも言っていましたね。シチイロカネがあれば新しい剣を作れるかもと」
「とはいえ、あれを扱える鍛冶師はそう多くないじゃろう。儂にも心当たりがあるといえばあるが――」
そんな話をしていると、VIP席を訪れる者がいた。
「やれやれ。また遅刻しちまったわい」
立っていたのは小柄な――ドワーフ族の老人。
いつぞやの、ゴーシュたちの選考会に遅刻して間に合わなかった人物でもあった。
「久しいな、エルミナよ」
ドワーフの男が白ひげの奥に笑みを覗かせる。
その言葉から、どうやらエルミナとは既知の関係らしいとメルビスは悟った。
「誰かと思えばボルガではないか。珍しいの、こんな所に来るとは」
「なに、面白そうな催し物が開かれているようだったからな。まあ、ちっとばかし遅れちまったが」
「ちっとばかしも何も、もう終わっとるがな」
「また魔物に絡まれたのよ。いい迷惑だわい」
「しかし、噂をすれば何とやら、じゃの」
ボルガと呼んだ男と言葉を交わしつつ、エルミナはどこか楽しげな様子だ。
そのやり取りを見て、メルビスはこっそりとエルミナに耳打ちする。
「あの、エルミナ様。こちらの方は?」
「ああ」
メルビスの問いにエルミナは口角を上げ、ニヤリと笑った。
「ボルガというドワーフでな。儂が知る限りでも、一番の武具職人じゃよ――」





