第90話 極大魔法、発動
「それじゃ頼んだわよ、みんな」
「ああ。――作戦開始だ」
グリフォンの旋風撃を凌いだ後のこと。
パルクゥはある作戦を皆に伝えていた。
パルクゥから作戦を聞いたゴーシュたちは、各々の役割を果たすために岩場の影から姿を現す。
『ニャニャ!? 大剣オジサンたちが岩場から出てきたニャ! これはなんか策があると見たニャ!』
【いけー! グリフォンをぶっ倒せ!】
【でも、姿見せたらまたあの羽で狙われるんじゃ……】
【どうする気だ?】
【かなり高く飛んでるからな。もう少し降りてくれば色々できそうだが】
【ロコちゃんが大剣オジサンをぶん投げるとか?】
【↑危ないだろw】
【人間砲弾!?】
【そもそもあんな距離まで届くはずが……いや、ロコちゃんならワンチャンあるか?】
【案外アリな作戦だと思われてて草】
『さっき入った情報によると、この場所はとある魔法使いのおかげで結界に守られることになったから、ひとまず安心らしいニャ。とはいえ、あのでっけえ鳥が王都の街の方とかに行ったらヤベェこと間違いなし! だから大狩猟大会のトップチーム2組には何としてもぶっ倒してほしいところニャ! みんなで応援するニャ!』
何とかしてほしいと、観客席からは懇願にも似た声援が送られる。
そんな期待が寄せられる中、動き出すゴーシュたち。
「いくぞ――」
第一の作戦として実行されたのはゴーシュによる遠距離攻撃だった。
ゴーシュは片足を大きく振り上げると共に、グリフォンに背が向くほど体をねじる。
そこからゴーシュは、反動を利用してこぶし大の岩石を投げつけた。
「四神圓源流――《飛砕牙》!」
ゴーシュの放ったそれは、単なる投石ではなかった。
まるで竜巻にも似た、体の捻転と急速な解放。
そしてそこから繰り出される、自身の体を発射装置とした物体の射出。
あらゆる武術を網羅した四神圓源流の中でも、シンプルにして高い破壊力を誇る投擲技だった。
「わぷっ」
投げつけた時の余波で辺りに土埃が舞うほどで、近くにいたロコやシェリーは突風に晒される。
ゴーシュの放った岩石はグングン伸びていき、直撃すればグリフォンにも致命傷を与えられると確信できるほどの威力となっていた。
――ガルァッ!
しかし、グリフォンもまともには喰らわない。
先程パルクゥの火炎魔法を対処した時と同じく、ゴーシュが投げつけた岩石を旋風撃で相殺したのだ。
が――。
「狙い通り♪」
――ッ!?
ゴーシュたちの攻撃はそこで終わりではなかった。
初撃の裏に隠された刃。
それは、ルインによる追撃だった。
ゴーシュが投じた岩石がブラインドとなり、ルインの魔導銃から放たれた氷塊がグリフォンに迫る。
――グギャァアアア!!!
響き渡るグリフォンの咆哮。
それはルインの氷塊が命中したことによる絶叫かと思われたが、そうではなかった。
「チッ。そんな方法で迎撃するかよ」
突き刺さるはずだった氷塊は粉々に粉砕され、当のグリフォンは無傷だった。
【なんだ!?】
【氷の弾が割れちまったぞ!】
【まさか、咆哮による音波で氷塊を砕いたでござるか!?】
【カンペキだと思ったのに!】
【吠えただけでそんなんなるか、普通】
【なっとるやろがい!】
【どんだけ強敵やねんコイツ】
【なんつーか、戦闘センスあるな】
「くぅー、やっぱ距離があったから弾の威力も減衰してたか。ゴーシュさんとハイタッチするイメージまでできてたのになぁ~!」
「正直俺も決まったと思ったな。……でも、これも作戦の内だ」
「そうだな」
グリフォンに凌がれたにもかかわらず、ゴーシュとルインの二人に気落ちした様子はなかった。
それどころか、ルインはニヤリと笑い、自分たちとは離れた所にいる少女へと視線を向ける。
「やれやれ。結局、あの天才魔女さんに見せ場を譲っちまったか」
ルインの目に映ったのは、パルクゥが杖を構えながら集中している様子。
そして、パルクゥの周囲に広がる圧倒的なまでの魔力の奔流だった。
「ヒャァーハッハッハァッ! いいねいいね! オレ様の出番だぁ! 滾ってきたぜぇ!」
「はぁ……。あんたってばホント、これをやる時ハイになるわよね。さっきまで嫌がってたくせに」
「やるからには全力全開に決まってんだろ! それともご主人様はビビってんのか? せっかくオレ様が溜めてきた魔力をブッ放っせんだぞ? 嬉しいだろ? 嬉しいよなぁ! ヒャーハッハッハ!」
「……ヤバいわ。ウザすぎる」
深く、泥のような溜息をつくパルクゥ。
一方でギギは突き抜けたテンションになっており、物語に出てくる悪役のような言葉遣いになっていた。
【な、なんだアレ……】
【パルクゥが銀色に燃えてるみたいだ!】
【何かを溜めてる?】
【攻撃に参加してないと思ってたけど、何をするつもりなんだ?】
【後衛からの溜め技でござるか。しかし一体何を……】
【なんか、画面が揺れてるんですけど!】
【パルクゥいったれ!】
【残念系天才魔女、やる時はやるってことを見せてやれ!】
【パルクゥはポンコツなのがいい。でも、カッコ良いところも見てみたい!】
【けど、どんな魔法を使うつもりなんだ?】
【さっきの火炎魔法も凄かったけど防がれたしな】
【でも今回はさっきの比じゃないぞ! なんかこう……とにかくすごい!】
リスナーたちもにわかにざわつき始め、パルクゥが纏う奔流はますます膨大なものになっていく。
スカートをはためかせながら鋭い眼光で対象を見据えるその姿は普段とは明らかに異なり、凛然とした雰囲気を纏っているようにも感じられた。
そんなパルクゥの様子を見ながら、護衛役を務めていたミズリーが呆然と声を漏らす。
「ぱ、パルクゥさん。ゴーシュさんたちに時間を稼いでくれって言ってましたけど、これって一体……。それにギギさんが何やらおかしなことになっているんですが」
「魔女の使い魔って色んな役割を持っているものなんだけど、ギギの場合はシンプルでね。簡単に言うと、魔力の貯蔵庫なのよ」
「魔力の貯蔵庫?」
「私がエルミナ様から教わった魔法は、発動するのに相当量の魔力が必要なの。普通の魔法ならその時周囲に存在している微精霊の力で撃てるんだけど、この魔法はそうもいかないのよ。そこで、コイツの出番ってわけ」
「つまりギギさんは普段から魔力を蓄える係で、パルクゥさんは今、そのギギさんが溜めてきた魔力を使おうとしている、と?」
「そゆこと」
パルクゥが微かに笑みを覗かせて、ミズリーは固唾を呑む。
これだけ大量の魔力を消費して放つ魔法とは、一体どんなものなのか。
ミズリーはそんな風に考えながら、期待と緊張が入り混じった表情で成り行きを見守る。
「ギギ、そろそろどう?」
「んー、もうちょい待てよ。……んー……んー……よっしゃキタ! 準備完了だぜ!」
「オッケー。それじゃ、いくわよ」
パルクゥが杖を縦に構えると、それまで揺らめいていた魔力の奔流がピタッと止まる。
その代わりに、パルクゥの杖が輝きだし、何かが集束されるような甲高い音が響き始めた。
「魔女、パルクゥ・アライアの名の元に告げる。大地の精霊よ、汝の定める理が真ならば、汝に仇なす愚者に必定の裁定を下せ。其れ即ち万物万象に課せられた隷属の掟。いかなる者とて天に立つ資格はなく、地に伏す責を果たすのみ」
パルクゥが詠唱に入ると、杖に集まった光は一層強くなる。
隣に控えたミズリーも、観客もリスナーも、パルクゥが成そうとする事象に目を見開いていた。
――グゴァアアア!
発せられた膨大な魔力にグリフォンも気づいたようだ。
グリフォンは大きく翼を羽ばたかせ、パルクゥに対して旋風撃を繰り出す。
「させません!」
しかし、放たれた瞬速の羽がパルクゥに届くことはなかった。
ミズリーがパルクゥの近くに控えていたのはこの時のため。
ミズリーはレイピアを駆使し、迫りくるグリフォンの羽、その全弾を撃ち落としてみせた。
「ありがと、ミズリー」
「お安い御用です。やっちゃってください、パルクゥさん」
そうして、パルクゥが大魔法を放つに相応しい舞台が整う。
パルクゥは杖の先端をゆっくりとグリフォンに向け、静かに呟いた。
「ブチかますわよ。あの子に私の活躍がちゃんと届くように、思いっきりね」
(あの子……?)
パルクゥが呟いた言葉がミズリーは気になったが、その疑問をかき消すかのようにパルクゥの杖から発せられる閃光が強くなる。
そして――。
「極大魔法――《グラビティフォール》」
パルクゥがその魔法名を口にすると、グリフォンが黒い球体状の檻に閉じ込められる。
加えて、グリフォンは何かに押し潰されるような格好となり、遥か上空から急降下してきた。
今パルクゥが使用したのは、対象を極めて強い重力波で圧する効果を持つ魔法だ。
この魔法にかかれば、たとえグリフォンほどの巨体を持つ者でも自由は保てない。
大賢者エルミナから教わりし、秘術とも言うべき高等魔法だった。
グリフォンが墜下する様子を配信画面で見ていたエルミナも、かつての教え子が披露した魔法にニヤリと笑みを覗かせる。
「今よ――!」
極大魔法を受けたその身に受けた時点で、グリフォンの命運は尽きていた。
ルインとシェリーが追撃を仕掛けてきていたが、グリフォンは重力波の影響で体を動かすことができない。
「よっと!」
「やぁっ!」
ルインの魔導弾はグリフォンの片翼を凍結させ、シェリーの振るった戦斧がもう片方の翼を切断した。
「仕上げは任せたわよ、ゴーシュさん」
もはや地に堕ちるのみとなり、グリフォンは最悪の敵を視界に入れる。
即ち、対象を討とうと待ち構えるゴーシュの姿である。
「《竜鎚》――!」
無防備となったグリフォンに向けて、ゴーシュは決定打を叩き込んだ。
――ガァアアアアア!
グリフォンは胴体を激しく殴打され、地響きを立てながら地面に倒れ込む。
そうして、ゴーシュたちは共闘により突如現れた闖入者を討ち倒すことに成功した。
『やっっったニャ~! どデカい鳥のバケモンをぶっ倒したニャ~! とんでもねえ戦いを目の当たりにしたニャ!』
【おおおおお!】
【やったぁああああ!】
【すごいものを見たでござる!】
【大勝利じゃああああ!】
【パルクゥかっこ良いやん!】
【俺たちは今、世紀の一戦を目撃した】
【ゴーシュさんたちありがとー!】
【銃使いの兄ちゃんと斧使いの妹ちゃんもすごかったぞ!】
【私、皆さんのファンになりました!】
【今日から詠唱ごっこ流行りそうw】
【朗報:残念系美少女魔法使い、ちゃんとカッコ良かった】
【大団円じゃああああ!】
リスナーも会場にいた観客たちも、歓喜の渦に包まれたのは言うまでもない。
そしてしばらく熱狂的な歓声と感謝がゴーシュたちに送られていたが、ふと、あることを思い出したリスナーがコメントを打ち込んでいた。
【おや? でも、大狩猟大会はどうなるのでござろうか?】





