第86話 大狩猟大会決勝
『ニャニャニャ~! ついにやってきたニャ! 大狩猟大会二日目、決勝戦の開幕ニャ!』
ゴーシュとルインが前哨戦を繰り広げた翌日。
晴れ渡る空の下、大狩猟大会の会場は昨日以上の熱気に満ちていた。
実況席のテトラがはしゃぐようにマイクを取り、尻尾をぶんぶんと振っている。
また、大会の配信には開始前の段階から10万を超える同接が集まるという状況である。
その盛況ぶりに主催者であるメイシャ・アルダンはいつも以上に興奮していた。
老執事を従え、大層ご満悦な様子である。
「素晴らしいですわ~! これだけの人が集まってくださるなんて感謝、感激、感無量。大会の主催者としてこれほど嬉しいことはありませんわ!」
「これもお嬢様が真摯に取り組まれた結果かと。大会の企画、運営の計画や各方面との調整など、それは大変だったでしょう。寝る間も惜しんで……それでもゴーシュ殿が出ている配信は全て視聴されていましたかな。とにかく、この大会の成功はお嬢様の努力の賜物です」
「いやですわセバスったら! そんなに褒められると舞い上がってしまいますわよ!」
「あいたたた。お嬢様、照れ隠しに叩くのはお止めください」
「はぁ~。ゴーシュのおじ様にもご挨拶できましたし、素晴らしい役得でしたわ。ぜひこの大会が終わったら念願のお茶会招待を……。っと、あまり浮かれてばかりはいられませんわね」
ゴーシュのことを思い出して頬が緩むメイシャだったが、開始の時間が迫っていることに気づくと、キリッと真剣な表情を浮かべる。
「演奏団の皆さま~! 決勝戦開幕のファンファーレをお願いしますわ~! ついでに花火もドーンですわ!」
メイシャの指示が出されると、空には花火が打ち上がり、華やかな演奏が響き渡った。
粋な演出により観客たちも盛り上がり、熱を帯びていく。
一方その頃、会場の一角に設けられたVIP席に一人の女性が招かれていた。
「メルビス様、こちらです」
「ええ。ありがとう」
歌姫メルビスが係員に案内され、用意された席へと向かう。
すると、その隣の席からひょこっと顔を出してくる人物が一人。
「よおメルビス。こっちじゃこっち」
「エルミナ様?」
そこにいたのは、大賢者エルミナだった。
エルミナはニヤリと笑みを浮かべ、メルビスを手招きしている。
手にはぶどう酒の入ったグラスを持っており、既に楽しんでいる模様だ。
「お主も一杯どうじゃ? なかなかにイケるぞ」
「いえ、私はこれが終わった後リハーサルがありますので」
「精霊祭の最終日に大トリで歌うんじゃったか。つれないのぅ」
残念そうな顔を浮かべ、エルミナは手にしたグラスを呷る。
魔女の格好をした賢者がそうしていると、何やら怪しい秘薬を飲んでいるみたいだとメルビスは思いつつ、エルミナの隣の席に腰を下ろした。
「珍しいですね。エルミナ様がこういうイベントに来られるとは」
「ちょいと関わりある奴らが参加してての。それにお主も気にかけているゴーシュという男。あやつも出てて面白そうじゃったから観に来た。あと昔に手を焼かせてくれた教え子も出とるか。んむ、こうして考えると接点ある連中が多いのぅ」
「へぇ、意外ですね。エルミナ様は割と孤高の人だと思っていましたから」
「……儂は別にぼっちじゃないぞ」
嘆息し、ぷくっと頬を膨らませるエルミナ。
その子供っぽい姿を見て、メルビスは苦笑する。
相変わらず見た目と年齢がかけ離れているなとメルビスは思ったが、口にすると面倒そうなので止めておくことにした。
「そういえばお主の妹。なかなかに面白い子だったぞ」
「ミズリーと会ったんですか?」
「んむ、この前ちょっとの。お主とはだいぶタイプが違うようじゃが」
「そうですね。ミズリーはまだ子供なところがありますから」
「それでも人気出とるんじゃから立派も立派よ」
「ふふ。あの子のまっすぐさは姉の私ですら眩しいくらいですよ」
メルビスは笑みをこぼしながら、会場に設置された巨大画面に目を移した。
決勝は各チーム別々のポイントからスタートする形式で、分割された画面にはそれぞれのチームメンバーが映っている。
そこにはミズリーの姿も見え、決勝の開始に向けて気合いが入っている様子だった。
(こうしていると、ミズリーが幼い時のお遊戯会を思い出すな。あの時は両親が来れないからってミズリーが大泣きしていたっけ。それで代わりに私が参観に行ったら喜んでいて。ふふ、懐かしい)
画面に映るミズリーを見ながら、微笑を浮かべるメルビス。
その表情は柔らかく、昔を懐かしんでいるようだった。
(頑張りなさい、ミズリー)
多くの人間が見守る中、決勝戦は開始の時間を迎える。
メイシャの宣言と共に開始の合図であるドラが打たれ、その音は青い空によく響いた。
***
「それじゃ行こう。ルインとシェリーのチームに追いつくためにも、なるべくポイントを稼がないとな」
開始の宣言がされた直後、ゴーシュたちは早速魔物を狩るべく行動を始める。
ゴーシュたちのスタート位置は岩場地帯で、大小様々な岩がむき出しになっていた。
それなりに死角も多そうなので注意しながら進もうと、ゴーシュは皆に声をかけながら進んでいく。
「予選の時点で《紅の隼》……ルインさんとシェリーさんのチームの討伐ポイントが316ポイント。私たちが302ポイントでしたか」
「フフン。それくらいの差なら、あっという間に逆転しちゃうわよ。この天才魔女、パルクゥの力を見ていなさい!」
「確かレアな魔物を倒すと『ぼーなすぽいんと』がもらえるんだっけ? それ見つけたいね」
「そうですねロコちゃん。でも、1日目の時点で見つけたチームはいませんでしたし、そうそう出会えるとは――――あいたっ」
ポコン、と。
岩場の影から出てきた何かがミズリーの頭にぶつかる。
それは白い綿毛のようなものに覆われた球体型の魔物で、くりんとした可愛らしい瞳が特徴的だった。
魔物は一瞬ゴーシュたちに目を向けた後、恥ずかしそうにぴょんぴょんと跳ねながら去ろうとする。
その特徴は「ポポン」という最弱種の魔物と同一のものだった。
どこにでもいる、駆け出しの冒険者でも苦にしない魔物。
にもかかわらずゴーシュたちが一瞬呆気に取られたのは、その魔物が通常のポポンとは異なっていたからである。
つまり、そのポポンはキラキラと金色に光っていたのだ。
それを確認したゴーシュたちは全員が同じ直感を抱き、顔を見合わせる。
「「「いたー!」」」
これがレア魔物だ。
ゴーシュたちはそう決めつけ、逃げようとする金色のポポンを追いかける。
「さすがミズリー。豪運はっき」
「ああ。でも、普通のポポンより明らかにすばしっこいな。ミズリーとロコはそこの岩を回って先回りを。パルクゥは魔法で逃さないようにルートを絞ってくれ」
「はいっ」
「がってんしょーち」
「任せなさい!」
逃げ回る金色のポポンを追跡し、やがて取り囲むことに成功するゴーシュたち。
「よしっ。このまま倒すぞ!」
包囲網を崩さず、ゴーシュたちはそのまま金色のポポンに攻撃を仕掛けようとする。
が――。
「残念、いただき♪」
ゴーシュたちから離れた場所にある岩壁。その高い位置から青白い光が放たれる。
光線は一瞬にして金色のポポンを撃ち抜き、ゴーシュたちよりも先に討伐することに成功した。
「あっ」
「危ない危ない。逆転されるところだったぜ。けど、ポイントは俺たちがゲットだな」
ゴーシュが光の放たれた岩壁に目を向ける。
そこにいたのは予想通りの二人組で、ルインが魔導銃を回転させながらホルスターに収めるところだった。
『ニャンとー! 《紅の隼》チーム、いきなりに50ポイント獲得! 一気にリードを広げたニャ! 開始早々アツすぎニャ!』
テトラが実況し、会場の観客たちからは歓声が上がる。
視聴していたリスナーたちも熱狂し、爆速でコメントが流れていた。
「くぅー! あとちょっとだったのに!」
「やられました……。まさかあんな高い位置から狙ってくるなんて」
「今のがばきゅーん。ちょーくやしい」
落胆の色を見せるゴーシュたちに向けて、ルインは挑発するように口の端を上げる。
「ひとまず先制だな。できればこのまま突っ走らせてもらいたいところだけど?」
「……そうはいかない。必ず追い上げてみせるさ」
「ハハ、そうこなくっちゃな。とりま、逃げ切り狙うとすっか」
「フフ。期待しているわ、ゴーシュさんたち」
短く言葉を交わした後、次なる獲物を見つけるべく移動するルインとシェリー。
遠ざかっていく二人の姿を見ながら、ゴーシュはどこか胸が高鳴るのを感じていた。
それは、ライバルが現れたことによる高揚感だったのだろう。
とはいえ、現状は次の行動に移行しなくてはならない。
ゴーシュは切り替えるべく、振り返って皆に声をかけた。
「行こう、みんな。絶対あの二人に追いつくぞ!」
ゴーシュの言葉にミズリーたちは頷きつつ奮起する。
そして、大狩猟大会の決勝は波乱を予感させる幕開けとなるのだった。





