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コミック③巻発売中!【最強は田舎農家のおっさんでした】配信文化の根付いた世界で田舎農家のおっさんが伝説の竜を駆除した結果、実力が世界にバレました。  作者: 天池のぞむ
第6章 新たな始まり

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第85話 白熱の前哨戦


「何はともあれ、1日目お疲れ様でした! 明日の決勝に向けて決起集会といきましょう!」

「おー」


 夜になって。

 ゴーシュたちは昨日に続いて精霊祭の出店を巡ることにした。


 王都の街中は楽しげな喧騒に満ちていて、往来も大勢の人通りで賑わっている。

 夜という雰囲気もあってか、昨日以上に幻想的で非日常的な光景だった。


「そういえば今日も浴衣なのね。まあ、これはこれで良いんだけど」

「なんだよパルクゥ。せっかくミズリーちゃんが選んでくれたのに不服だってのか? ああん?」

「何で使い魔に敵視されてんのか分かんないんだけど。いや、別に浴衣が嫌ってわけじゃなくて、アンタを頭に被ってると似合わないんだってば」

「そんなことはねえだろ。オレ様のイカす風貌はどんな服だろうがマッチして――」

「うん、やっぱり似合わない。ということで、これはナシね」

「あ、おい。帽子なのに被らねえとはどういうことだ。オレ様の定位置がぁ」


 浴衣に魔女帽子は似合わないという理由で、ギギはパルクゥの手の中に収まる。


 そうしてゴーシュたちは、昨日よりも賑やかな一行となり出店を巡っていく。


 ミズリーは明日の決勝に向けた決起集会と銘打っていたが、要は夜店巡りをするための口実である。


 時には出店に売っている珍しいものを見つけ、時には食べ歩きをしながら。

 ゴーシュたちは和気あいあいとした雰囲気を楽しんでいく。


 そうして半刻ほどが経ったところで、一行は小休止を取ることにした。


 屋外に設けられていたベンチに腰掛けると、ゴーシュたちの元へ気持ちの良い夜風が吹いてくる。

 露店で販売されている食べ物の匂いも乗っかっていて、まさに祭りの空気感だった。


「それにしても、明日が決勝かぁ。賞品のシチイロカネ、欲しいわねぇ」

「お空を飛んだり音のブレス吐いたりできるふしぎいし。ちょーほしい」

「そのためには銃使いと斧使いの二人組……ルインとシェリーって言ったっけ? あれに勝たないといけないわけだけど」

「能力も魔法の銃を使うこと以外未知数ですしね。かなり強敵みたいですが」

「むむむ、強敵っぽい」

「変わった雰囲気の二人だったな。できれば、少し話をしてみたかったんだが」

「そういえば会場からすぐにいなくなっちゃってましたね。また明日機会があれば、でしょうか。……おや?」


 ベンチに腰掛けたまま談笑していたところ、何かに気づいたミズリーが声を漏らす。


 ミズリーの視線の先には妙な人だかりができており、そこにいたのは赤髪のイケメン男――ルインだった。


(いるー!?)


 人だかりの中心にいたルインは、樽を挟んで大男と腕を組み合っている。

 どうやら腕相撲の勝負をしているらしい。


 ルインは長身ではあるが、別に筋肉質というわけでもなく、どちらかというと細身である。

 傍から見れば大男の方が勝つだろうと思えたが、結果は違っていた。


「ファイッ!」

「ていっ」

「ぬぉお!?」


 さして力を入れた様子もなかったルインが大男の腕を倒しきると、周囲からワッと歓声が上がる。


「おぉおおおお! すっげーぜ兄ちゃん!」

「これで10戦負け無しだ!」

「ステキ~!」

「まさか腕相撲チャンピオンのズーリまで破るとは!」


 勝者となったルインに称賛を送る観客たち。

 一方でルインは涼しげな笑みを浮かべていた。


「ハハハ、やられたぜ。まさかそんな体型でこんな怪力とはな」

「まともにやったらアンタみたいな大男には勝てねえだろうけどな。ま、ちょっとした裏技ってヤツさ。……ん? おお、ゴーシュさんじゃん! おーい!」


 そこでルインもゴーシュたちに気づいたようで、ブンブンと手を振っている。


 それから手招きをされたので、ゴーシュたちはルインの元へと向かうことにした。


「はっはっは、嬉しいぜゴーシュさん。こんな所で会えるなんてな」

「俺もびっくりしたよ。大狩猟大会の後で探したんだが、いなくなってたから」

「ああ、それね。ちょいと急ぎで今日の出来事を報告しなくちゃいけなくてな」

「報告?」

「んー、まあ気にしなくていいぜ。別に怪しいもんじゃないからさ。と、それよりもゴーシュさん、どうだい?」


 ルインはニヤリと笑みを浮かべ、樽の方を指差す。

 勝負しないか、ということらしい。


(さっき大男相手に完勝していたな。そんなに力があるようには見えないけど。それに、大狩猟大会で別れ際に言っていた『裏技』を使っているという言葉。やればその秘密が分かるか?)


 単純な興味と好奇心もあり、ゴーシュはルインの申し出を受けることにした。


 大樽を挟んで向き合うゴーシュとルイン。


 その二人を見守るようにしてミズリーたちも近くにいたが、そこに声を掛けてくる人物がいた。


「ご機嫌よう。気持ちのいい夜ね」


 ルインの妹であり、巨大な戦斧使いの美少女、シェリーである。


「あ、こんばんは。シェリーさんもいらしたんですね」

「ええ。最初は夜店を巡っていたのだけど、兄さんの好奇心が働いちゃってね。待たされて退屈してたから貴方たちが来て良かったわ」

「ハハ……。それは災難でしたね」


 シェリーは微笑を浮かべ、耳にかかった桃色の髪を掻き上げる。

 さすがに今は斧を背負っていなかったが、やっぱり絵になる子だなぁと思いながらミズリーはシェリーの仕草を眺めていた。


「ね。ただ見ているだけじゃつまらないし、賭けをしましょうか」

「え?」

「あの勝負。私の兄さんとゴーシュさん、どっちが勝つか。当然そっちはゴーシュさんに賭けるでしょうけど。外した方は相手の言う事を何でも聞くっていうので」

「何でもって……」

「そうねぇ、何が良いかしら。『水着姿でセクシーな踊りを披露してみた』なんて配信をやってもらうとか?」

「水着で踊る配信……」

「想像しちゃった?」

「し、してませんよ! あと、やりません!」

「あらそう? すっごく人気出ると思うんだけど」

「そんなことは……。というか何でシェリーさんが勝つ前提なんですか!」

「アハハ、やっぱりミズリーってば面白いわね」


 ミズリーが赤面する一方で、シェリーは小悪魔のような笑みを覗かせる。


 小柄で年齢も下に見えるのだが、シェリーがミズリーをあしらっているという構図だった。


「はぁ……。この子、完全にミズリーより上手(うわて)ね。思いっきりからかわれてるじゃない」

「シェリー、おもしろい」

「ありがと。私も配信でパルクゥとロコちゃんには楽しませてもらっているわ。もちろん、そっちの喋る帽子さんもね」

「フッフッフ。嬢ちゃん、見る目あるじゃねえか。またファンを獲得しちまったか。まったく、オレ様ってば罪作り――あだだだだ。おまっ、パルクゥ、潰すなって」

「アンタは調子乗るんじゃないの」

「フフ。――と、そろそろ始まるわね。さっきのは冗談として、負けた方は勝った方に綿あめでも奢るってことで」

「そ、それくらいなら良いですけど……」


 気を取り直し、ミズリーは勝負の方に目を向ける。


 視線の先ではゴーシュとルインの二人が大樽の上で腕を組み、地面についた足に力を込めているところだった。


 ゴーシュは一つ息を吐き出し、精神を集中させる。


 腕相撲は握っただけで相手の実力が概ね分かるというが、まさに今、ゴーシュも同じ感覚を抱いていた。


(……強いな。体格は細身なのに、大岩のような安定感がある。それに、気のせいか? ルインの体の周りが淡く光っているような……)


 ゴーシュの目にしたそれは間違いではない。

 ルインの体は白い気流のようなものを纏っていたのである。


「君のそれは……」

「これも裏技の一つさ。ゴーシュさんと普通にやったんじゃ勝ち目ないからな。簡単に言うと、魔法で肉体を強化してるんだよ」

「肉体を強化……。そんなこともできるんだな」

「ま、この魔法についてはシェリーの方が得意なんだけどな。ズルだっていうのならやめるけど」

「いや、魔法も立派な実力の一つだろう。それに、その力を使った君に興味がある」

「ハハ、そう言ってくれると助かるぜ」


 ゴーシュとルインは互いに頷き合い、開始の宣言を待つ。


 二人の間には剣豪同士の決戦のような緊張感が満ちており、周囲も自然と固唾を呑んで見守っていた。


 そして――。


「ファイッ!」


 審判役の男が開始を宣言し、二人は渾身の力を込める。


 二人が組んだ腕は開始位置からほとんど動かなかったが、凄まじい攻防であることは誰もが分かった。


 みしりと音を立て、周辺の空気を力で押し固めたかのような力の拮抗。


 そのせめぎ合いは見ている者が自然と拳を握ってしまうほどで、まさに白熱の名勝負だった。


(なんて力だっ……! 少しでも気を抜けば体ごと持っていかれそうだ)

(ハハッ、マジかよ……! こっちは魔法でブーストしてんのに、それを腕力だけで押し返してくんのか)


 ゴーシュ、ルインとも、相手の脅威を肌で感じ取り、汗を(にじ)ませる。


 どちらが勝つのか。


 観客たちはその結果の訪れを待ったが、決着は予想外の形だった。


「「――っ」」


 バギャッと音を立て、勝負の土台となっていた大樽が耐えきれずに砕け散ったのだ。


 分厚い木片が辺りに散らばり、それまでの膠着が一気に解き放たれたかのようだった。


「残念。引き分けね」


 シェリーが言って、見守っていたミズリーたちも塊となった息を吐き出す。

 それほどに緊張感のある一戦だった。


「ハハ……」

「ふっふっふ……」


 緊張感から解放されたゴーシュとルインは、互いに微笑を浮かべ、戦いの余韻に浸っている。


 その様子を見た観客たちは我に返ったかのように沸き立ち、二人に歓声を浴びせた。


「す、凄い戦いでした……」

「ふぅ。まさかアレを使った兄さんに対抗できるなんてね。フフフ、やっぱりゴーシュさんは興味深いわ」

「シェリーさん?」

「せっかくだからご馳走してもらいたかったけど。仕方ないから兄さんにおねだりするわ」


 シェリーはひらひらと手を振りながら、ミズリーたちの元を去っていく。


「兄さん、お腹が空いたわ。そろそろ行きましょ」

「おう、そうだな。力を使ったら俺も腹減っちまった。あっちの店で肉の太巻きってのが――」

「ダメ。待たせた罰として私の希望からよ。まずは綿あめというのを食べてみたいわ。その後はクレープね」

「相変わらず容赦ねえこって……。ま、可愛いマイシスターの頼みじゃしょうがねえか」


 有無を言わせないシェリーに肩を落としながら、ルインは溜息をつく。


 ゴーシュがそんな二人の様子に苦笑していると、シェリーがくるりと振り返った。

 それに従い、ルインもまたゴーシュに向き直る。


「じゃあね、ゴーシュさん。明日の決勝でまた会いましょ」

「今日の勝負は明日に持ち越しってことで。楽しみにしてんぜ」

「……ああ。俺たちもだ」


 ゴーシュの返事を受けると、ルインは満足げな笑みを浮かべ、シェリーと共に去っていく。


「負けられませんね」

「そうだな。明日に向けて、より気合いが入ったよ」


 ゴーシュは高揚感を覚えながら、ルインとシェリーの背中を見送る。


 そうして、大狩猟大会決勝の前哨戦とも言える夜は過ぎていった。



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元社畜の転生おっさん、異世界でラスボスを撃破したので念願の異世界観光へ出かけます ~自由気ままなスローライフのはずが、世界を救ってくれた勇者だと正体バレして英雄扱いされてる模様~





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