第84話 大狩猟大会1日目を終えて
「ふざけるなっ! 予選落ちだと!? 貴様ら一体何をしている!」
大狩猟大会の1日目が終了し、開始地点の配信会場の外れである男が絶叫していた。
ゴーシュやルインたちに撃退させられたギルド《黒曜の翼》のオーナー、ジルコーニである。
開会式の後でゴーシュに啖呵を切っていたにもかかわらず、《黒曜の翼》は早々に脱落させられたという有様。
ジルコーニの怒りの矛先は出場させたチームメンバーへと向いていた。
「貴様らが志願するから出場枠を割いてやったのに、期待外れも良いところだ!」
「し、しかしオーナー……」
「言い訳なぞ言わせんぞ! 我がギルドに泥を塗りおって!」
泥を塗るも何も、元々泥舟のような状態だったと思うのだが、と。
第三者がいたならジルコーニの物言いは突っ込まれそうなものだったが、今は眼鏡男を始め参加したメンバーがうなだれるのみだった。
「くそ、くそ、くそおっ!」
思い通りに事が進まず地団駄を踏むジルコーニ。
思い知らされた、という状況ではあったが、まさしく自業自得だろう。
そんな様子を尻目に、ゴーシュたちもまた配信会場へと戻ってきていた。
「荒れてますね。いい気味ですけど」
「まあ、あんな連中のことより、こっちの方が驚きね。完全に1位だと思ってたのに」
パルクゥが言って、配信会場の中央に浮かんでいる画面に目をやる。
そこに表示された1日目終了時点での結果は、ルインとシェリーのチームが1位という内容。
ゴーシュたちはそれに続く形となっていた。
「びっくりぎょーてん。魔物たくさんぶっ倒したから1位だと思ってた」
「驚いたな。それだけルインとシェリーの追い上げが凄かったということなんだろうが」
「正直、私も予想外でした。途中で少し時間を喰ってしまったとはいえ、その前後は順調だったのに」
ミズリーの言う通りだった。
《黒曜の翼》の連中に妨害を受けたために多少のロスはあったが、それでもゴーシュたちが倒した魔物の総数は相当に多かったはずなのだ。
ルインとシェリーはそれを上回るだけの戦闘能力を持っているということなのか。
それとも何か特別な立ち回りをしたということなのか。
様々な疑問と興味が頭を巡るゴーシュたちだったが、パルクゥの頭の上でギギがもぞもぞと動き出す。
「ま、予選は通過できたんだから良かったじゃねえか。本番は2日目なんだろ?」
「そりゃそうだけど……」
「だったらそこで巻き返せばいいさ。オレ様はそれよりも今日の夜店巡りの方が気になるぜ」
「はぁ……。アンタは相変わらずお気楽というかマイペースというか」
「ふふ。でも、ギギさんの言う通りかもですね。明日頑張ればいいんですから」
「そうだな。優勝賞品は確かに魅力的だけど、気負い過ぎも良くないしな」
「切り替えていこー」
ギギの言葉で和んだゴーシュたちの間には自然と笑みが溢れる。
すると、その輪に向かって声を掛けてくる人物がいた。
「ロコじゃないかニャ! おーいニャ!」
「あ、テトラだ」
実況役を務めていた獣人少女、テトラである。
実況の時のテンションが残っているのか、テトラは猫のような細い尻尾を振りながら駆けてくる。
「ニャハハ、久しぶりだニャ! ロコってば昔よりも大きく……はそんなになってないかニャ。とにかく、会えて嬉しいニャー!」
「テトラ、相変わらずテンション高い」
「んふ、こうじゃなくちゃ配信者はやっていけねえニャ。いやー、《黄金の太陽》さんはすんごい活躍ぶりだったニャ。おかげで中継会場も盛り上がるし、ありがたかったニャ」
「確か、ロコちゃんとお知り合いなんでしたっけ? テトラさんのニュース配信、よく見てます」
「お? ミズリーちゃんに見ていただいているとは感激ニャ~! これからもよろしくニャ! というか、今度取材させてニャ! 個人的には喋る帽子さんも気になってるから、そっちも別枠でインタビューさせてもらえると」
「ほう? オレ様の良さが分かるたあ、嬢ちゃん見る目あるじゃねえか。何でも答えちゃうぜ」
「アンタがインタビューとか不安しかないんだけど……」
「まあまあ、パルクゥさん。せっかくですから。あ、私たちも良いですかね、ゴーシュさん」
「ああ、もちろんオーケーだ。よろしく頼むよ」
「よっしゃ、独占取材権ゲットだニャ!」
尻尾をぶんぶんと振りながら、満面の笑みも加え、テトラは全身で喜びを表現する。
言葉遣いは砕けた感じだったが、獣人族らしい愛くるしさと相まって一つの個性となっていた。
「そーいえば、テトラは実況やってたからいろんなチーム見てたんだよね。1位を取ったルインとシェリーってどんな感じだった?」
「あー、あれはぶったまげたニャ。たぶん会場のみんなも《黄金の太陽》のぶっちぎりだと思ってたんだけど、後半一気にポイントを稼いでたんだニャ。突如現れたイケメン銃使いと、美少女大斧使いってみんなびっくらこいてたニャ」
「へー。どんな戦い方してたとか見た?」
「銃使いはばきゅーん、斧使いはどっかーん、って感じだったニャ」
「おおー」
「いや、感覚的すぎるでしょ……」
二人のやり取りを聞いていたパルクゥが思わず溜息をつく。
それを受けて、テトラは後頭を掻きながらやや照れくさそうに説明を続けた。
「いやー、実は速すぎてあんましよく見えなかったんだニャ。でも、たぶんあれは何かしらの魔法を使ってるニャ」
「へぇ、魔法ねぇ」
「特に銃使いの方は使ってるのが実際の弾丸じゃないらしくて、光線みたいなのを出してたニャ。たぶんあれは、『魔導銃』ってブツだニャ」
「魔導銃?」
「んニャ。私もいつか取り上げたいと思ってたんだけど、実際に見るのは初めてだニャ。というのも都市伝説系の配信で噂レベルで語られるくらいの代物なんだニャ。なんでも、魔法を込めて撃ち出す銃だとか」
「そんなものがあるのね。私が使う魔法とは随分違う種別みたいだけど」
テトラの話を聞いて、ゴーシュは顎に手を当てて考え込む。
配信文化が広がるこの世界においてですら、一般的には認知されていない武器の使用。
また、実況役だったテトラが目で追えないほどの速さで動いていたという。
それらの情報はより一層、ルインとシェリーの得体知れなさを増幅させるものだった。
(そういえばルインとシェリーはもう帰ったのかな。話を聞いてみたいと思っていたんだが……)
ゴーシュは辺りを見渡したが、ルインとシェリーの二人は見つからない。
おそらく既に会場を後にしたのだろうと、ゴーシュは少し残念に思っていた。
「ゴーシュのおじ様~! お疲れ様ですわ~!」
と、ゴーシュの思考は颯爽と現れた公爵令嬢、メイシャ・アルダンによって中断させられる。
それから、主催者の務めから解放されたメイシャがテンションの高さはそのままに挨拶し、談笑へと移行して――。
まだ興奮覚めやらぬという会場の熱気を感じつつ、ゴーシュはいなくなったルインとシェリーの二人に思いを馳せていた。





