第100話 地下遺構の先へ
「ん。ししょーたち、奥の方へ進んだみたい」
ゴーシュたちが王都の地下へ潜ってから少しして。
ミズリーたち尾行組もまた、地下の遺構へ足を踏み入れていた。
ゴーシュたちに気づかれないよう見えない位置まで距離を取っていて、今はロコがすんすんと匂いを嗅ぎながら二人の動きを探っている。
「王都の地下、ですか。こんな場所があったんですね」
「でも何でこんな場所に行くの? 明らかにデートする雰囲気の場所じゃないんだけど」
「魔物の匂いもする。これが今風のでーと?」
「あの嬢ちゃん、オレ様が思った以上に変わってんなぁ。人目につかない場所って意味ではアリなのかもしれねーが」
予想外の場所にミズリーたちは辺りをきょろきょろと見回す。
ミズリーやロコは初めて見る場所に興味ありげだったが、パルクゥはこういう場所が苦手なために戦々恐々とした様子だった。
「あ、パルクゥ。足元に虫が」
「ひぅっ!? どこどこどこ!?」
「だいじょぶ。もうやっつけられてる。たぶんししょーたちがやったのかな?」
虫嫌いなパルクゥは思いっきりビビり、ロコにしがみついている。
やはりパルクゥにとっては過酷な環境のようだ。
「パルクゥさん、どうします? もし厳しそうだったら外で待ってても」
「い、いい、行くわよ。ここで戻ったら私だけ仲間はずれみたいじゃない」
「強がるのはいいけどよ。頼むから地下で爆発魔法とか打つなよ? 天井が崩れて埋まっちまうぞ」
「まあまあ。虫系の魔物が出たら私たちで対処しますから」
「そだね。それよりも今は先へ進もう。この場所けっこー入り組んでるし、あんまり離れると匂いで追えなくなる」
怯えきっているパルクゥは後方から付いて行くことにして、ミズリーたちは先へと進むことを決める。
道中、ミズリーは今度の配信のネタになりそうな場所だな、などと考えていたが、それと同時に何故ゴーシュとシェリーがこのような場所に入っていったのかも気になっていた。
(はっ! もしかして、人目につかない場所じゃないとできないことを……。いえいえ、それ以外にも何か理由があるかもしれないですし……。でも、今度私も二人になれる場所にゴーシュさんを誘ったりしたら……。って、だからそういうのじゃなくて!)
ミズリーの頭の中には何やら飛躍した妄想がぐるぐると渦巻いているようだ。
時には心配そうな表情になったり、時には照れて赤面したりと、ころころと表情を変えるミズリーに、ロコやパルクゥは怪訝な表情を浮かべるのだった。
***
一方、その頃のゴーシュたちはというと。
「やっ」
「せいっ」
出現した魔物を倒しながら奥を目指していた。
事前の情報通り、地下遺構には様々な魔物が生息していたが、今のところゴーシュたちの脅威になるような魔物はいない。
そこにいた魔物が弱いというわけではなく、ゴーシュたちの強さ故と言っていいだろう。
「フフ、さすがねゴーシュさん。やっぱり誘って良かったわ」
「どういたしまして。このくらいの魔物なら何とかなりそうだな」
「鍛冶師さんに作ってもらった新しい剣も凄い威力ね。鬼に金棒ってところかしら?」
「ハハ……。でも、本当にボルガさんやみんなに感謝してるよ。これだけ良い武器を作ってくれたからには、俺も頑張らないとな」
ゴーシュは新しくなった大剣、剛牙をぎゅっと握りしめる。
ここまで堅い甲殻を持った魔物もすんなりと撃破するなど、ゴーシュ自身も新武器には確かな手応えを感じていた。
今は配信を行っていないが、この様子をもしリスナーが見ていたなら大いに湧き立っていたことだろう。
「しかし、どうして王都の地下にこんなものがあるんだろう。古代の水路にしては道幅も広いし」
ゴーシュはそう言ってここまで来た道を振り返る。
所々崩落していたが、道中にはいくつも開けた空間があり、単なる地下水路というわけでもないようだ。
人の手で造られた場所であることは間違いないが、ここは一体何のための場所なのだろうかとゴーシュは気になっていた。
「何でも、ここは大昔の避難壕だったらしいわよ」
「避難壕?」
「そう――。昔は強力な魔物がたくさんいたという話、ゴーシュさんも知っているわよね?」
「あ、ああ……」
シェリーの言葉で、ゴーシュは以前モスリフの近郊で交戦した強敵、黒竜ニーズヘッグのことを思い出す。
昔は今みたいに平和な世の中ではなく、あの黒竜レベルの魔物が跋扈していたという。
故に人々は魔物に脅かされる日々を送っていたのだが、大賢者エルミナが作り出した黒封石によって古代の魔物たちは封印され、平和な世界が訪れることになった、と。
その認識と照らし合わせると、シェリーが先程言った避難壕という言葉にも合点がいった。
「そうか。この場所は、古代の強力な魔物たちから避難するために造られた場所なんだな」
「そうらしいわ。確かにこれだけの広さがあれば大勢の人たちの避難所としては十分よね。光の精霊もたくさんいるし、魔物がいなくなればデートスポットにもなりそうだわ」
「……」
今まさにデートスポットにしているのがシェリーなのだが、と。
ゴーシュはツッコむべきか迷ったが、またからかわれそうなので止めておいた。
(しかし、大昔の避難壕か……。もしかしてシェリーが回収を頼まれたものって……)
顎に手を当ててゴーシュはシェリーをじっと見つめる。
今の話でシェリーのデート以外の目的に察しがつきそうだったが、その思考は遮られることとなった。
「シェリー、後ろに跳ぶんだ!」
「っ――」
ゴーシュの声に反応し、シェリーは素早く後方に回避する。
そのすぐ後、ゴーシュたちがいた場所に何かが降ってきた。
それは馬車ほどもある巨大な、赤い蜘蛛型の魔物だった。





