第98話 デートのお誘い
「えっ?」
新武器完成から一夜が明けて。
ロコと一緒に日課である朝の運動を行っていたゴーシュだったが、ある人物からの連絡に思わず声を上げた。
「どした、ししょー?」
「い、いや……」
「……?」
ゴーシュの手元には半透明のウィンドウが浮いており、ロコがうーんと背伸びをして覗き込む。
そこに表示されていたのは『デートをしましょう』という内容。
送り主は、先日の大狩猟大会でゴーシュたちと共闘した兄妹の、妹の方――シェリー・クライドだった。
***
「ワッハッハ! ゴーシュ、ぬしもスミに置けんのう!」
ギルドの面々が集まり、遅めの朝食を摂りながらのこと。
ロコがシェリーから来た連絡の内容をバラし、ゴーシュがデートに誘われたという事実はギルドメンバー全員の知るところとなっていた。
「いや、俺も何でこんな連絡が来たのかさっぱりなんですが」
「ちっちっち。ゴーシュの旦那は分かってねえなぁ。あの嬢ちゃん、思いっきりゴーシュの旦那に興味ありげな感じだったじゃねえか。たぶんもーっとお近づきになりたいのさ」
「そ、そうだったか? だとしても、何でいきなりこんな……」
「あの嬢ちゃん、中々グイグイいくタイプらしいなぁ」
ギギは面白いおもちゃを見つけたかのように活き活きとして、ゴーシュをからかう。
「ギギ、アンタ絶対楽しんでるでしょ」
「あん? そりゃそうだろ。朝からこんな楽しい話題をぶっ込んでくれたんだからよ」
「まったく」
完全に面白がっている使い魔に嘆息しつつ、パルクゥはテーブルの上に置かれた紅茶を口に運ぶ。
ギギをたしなめてはいたが、パルクゥも興味が隠せないようで、カップを口に運ぶ所作がどこかぎこちなかった。
と――。
そのままカップに口を付けたパルクゥだったのだが、眉間にシワを寄せて変な声を漏らす。
「うきゅっ……な、ナニコレ。ミズリーが淹れてくれた紅茶、なんかしょっぱいんだけど」
「え? そんなハズは…………ああっ! すみませんパルクゥさん! 砂糖と塩を間違えてました!」
どうやらミズリーの平常心はもっと彼方に吹き飛んでいたようだ。
慌ててパルクゥの紅茶を取り替えようとして、近くにあった観葉植物の鉢を蹴飛ばしていた。
「ミズリー、気持ちは分かるけど落ち着きなさいよね」
「や、やだなぁ、パルクゥさん。私は至って普通ですよ」
「全然そうは見えないけどね」
「で? ゴーシュの旦那は行くのか? 行くだろ? 行くよなぁ?」
「ハッハッハ。乙女の申し出だ。断るのも無粋というものだぞ、ゴーシュよ」
「いやまあ、確かに今日は予定ありませんが……」
「ならば行ってくるがよいさ。皆で精霊祭を回るのは明日の最終日でよいだろう」
「気をつけろよぅ、ゴーシュの旦那。あの嬢ちゃんはけっこう小悪魔っぽい性格してたからな。油断してると一気に持っていかれるかもだぜ?」
「持っていかれるって何を……」
「ミズリー! 今度はお鍋が吹きこぼれてるわよ!」
「あわわわわっ! マズいです!」
各々がやり取りを繰り広げ、一部の者は慌てに慌てていて。
いつも以上に賑やかな朝の風景を見ながら、ロコが一言呟く。
「しっちゃかめっちゃか」
結局、面白がっているギギやボルガに押され、ゴーシュはシェリーとの待ち合わせ場所に向かうことになるのだった。
***
「あれ? ルインも来ていたのか」
「よぅ。こないだぶりだな」
「ご機嫌よう、ゴーシュさん。お誘いに応じてくれて感謝するわ」
ゴーシュがシェリーに指定された王都の広場に向かうと、そこにはルインの姿もあった。
広場は精霊祭の最終日前ということもあり人がごった返している。
そんな中で、ルインとシェリーの美男美少女兄妹はかなり目立つ存在だった。
「フフ。兄さんてばゴーシュさんに挨拶がしたいと言って聞かなくて」
「ま、せっかくだしな」
ルインが来ていたことで、ゴーシュは少しホッとする。
デートというのはシェリーの戯れ的な言い方で、ルインも含め何か話があるのだろう。
ゴーシュはそのように考えたが、一方でルインはどこか複雑そうな顔をしていた。
苦い顔というべきか、少し不機嫌そうというべきか。
とにかく、以前のように飄々とした余裕が今日はあまり感じられなかった。
「ゴーシュさん、悪いが妹のことを頼んだぜ」
「え?」
「アンタは紳士っぽいし変なことはねえと思う。そこは安心してるんだが、シェリーの奴は兄貴の俺にも何考えてるか分からんところがあるからな。そこはゴーシュさんを信頼するしかねえ」
「ええと、ちょっと意味が分からないんだが……」
「そんじゃ、俺はあっちの方だから。よろしく」
ルインはひらひらと手を振りながら、広場の外れへと去っていってしまう。
残されたゴーシュは困惑することとなり、その背中を呆然と見送るしかなかった。
「さて、兄さんもいなくなったことだし、私たちは私たちで行きましょうか」
「ちょっ――」
呆気に取られていたゴーシュの腕を取り、ルインとは反対方面に向かおうとするシェリー。
まさか本当にデートをする気なのかと、ますます困惑するゴーシュだったが、シェリーはそんなことはお構いなしだ。
微笑を浮かべているのは普段通りだったが、その表情は心なしか楽しそうだった。
一方、広場の外れにて。
出店の影に隠れるようにして、ゴーシュとシェリーを遠目から伺う者たちがいた。
「ど、どうしましょう、パルクゥさん。なんか人気のない裏路地に入っていっちゃいましたよ」
「しっ。あんまり大きな声出すと気づかれるわよ。こっちはロコの嗅覚があれば追跡できるんだから、あまり近づきすぎず後を追いましょ」
「探偵ごっこみたいでわくわく」
「くっくっく。これはやっぱり面白い展開になりそうだなぁ」
ゴーシュたちを遠巻きに観察しながら、ひそひそ会話を交わす女性陣一行と、喋る帽子。
その様子はとても怪しげだった。





