第97話 変わった世界と大切なもの
「本当にありがとうございました、ボルガさん。まさかあそこまでの武器を作っていただけるなんて」
「なに、儂の方からぬしの武器を打たせてくれと頼んだのだからな。勝手を聞いてもらってこちらこそ感謝だ」
ボルガに新武器を制作してもらった日の夜。
ミズリーたち女性陣は疲労もあり早めに休んでいたが、ゴーシュとボルガの二人は食堂に残って酒を呑み交わしていた。
本来一番疲れているのはボルガのはずなのだが、むしろメンバーの中で一番元気である。
その証拠に、ボルガの横にはどデカい酒樽が置かれており、中身はもう3分の1ほどしか残っていなかった。
「それに、ギルドにも入ってくれて嬉しいです」
「ハッハッハ。それこそ礼を言うのは儂の方であろう。儂のような爺を入れてくれるとはな。歓迎会まで開いてくれて感激したぞ」
「それは良かったです。リスナーの人たちにも伝えたら喜んでいましたし」
「前にも言ったが、儂のことはこのギルドのものづくり担当とでも思ってくれればよい。儂の方も基本的には工房にこもることになるだろうし、ギルドの留守も任されよう」
「ありがとうございます。すごく心強いです」
話しつつもボルガは豪快に酒器を呷る。
中々の酒豪ぶりを見せつけるボルガとは対照的に、ゴーシュの方はちびりと酒を飲んでいた。
「時にゴーシュよ。ぬしはエルミナとは何回か会ったのか?」
「大賢者様ですか? いえ、直接お会いしたのは精霊祭の初日くらいですが。それが何か?」
「いやなに、あやつにしては珍しく興味を持っていたのでな」
「興味? 俺にですか?」
「ああ。大狩猟大会の後で少し話してな。武術の腕もそうだが、配信という文化に関しての考え方、向き合い方に一目置いていたようだった」
「そ、そうですか。それは恐れ多いというか……」
エルミナはかつて仲間を亡くし、その仲間からこの世界を楽しいことで満ちた世界にしてほしいと託されたという。
その結果生み出されたのが、この世界の常識を変え、ゴーシュの人生にも大きな変化を与えた配信文化だった。
ゴーシュはエルミナとの別れ際に聞いたその話を思い出しながら、ボルガの様子を見やる。
ボルガもエルミナの過去はある程度知っているのだろう。
哀愁を漂わせながら酒に口を付けているのが、ゴーシュにとっては印象的だった。
「ぬしのように……いや、ぬしだけではないな。このギルドの者は皆、純粋でまっすぐだ。そのような連中が配信の世界で注目を浴びているというのはエルミナも喜ばしいだろう」
「……」
おそらくボルガもまた、古代の魔物に脅かされ殺伐とした世界を経験してきたのだ。
その目は遠い昔を見ているようで、今の平穏を喜んでいるようにも見えた。
「ところでゴーシュよ。ぬしはまた何で配信を行おうと思ったのだ?」
「それは――」
ゴーシュは自分が配信者として活動するようになった経緯をボルガに話していく。
両親の死もあり、ただ漫然とした日々を送るようになっていた頃、希望を与えてくれたのが配信者だったこと。
それがミズリーの姉、歌姫メルビスであり、配信という文化に可能性を感じたこと。
自分もいつしか希望を与える配信者になりたいと思ったこと。
そして、前のギルドで裏切られた自分に、ミズリーという存在が手を差し伸べてくれたこと――。
ゴーシュは一つ一つを噛みしめるように語り、ボルガは静かに耳を傾けていた。
「人と人との縁、か」
ゴーシュの話を聞き終えたボルガはぽつりと呟く。
「人は生きていく上で他者との関わりを完全に断つことなどできん。それがたとえ良縁であろうと悪縁であろうと、人との繋がりによって人生は色づいていく。ぬしもまた、その両方を経験してきたのだろうな、ゴーシュよ」
「……はい」
「今のこの世界には、より多くの人と関わる配信という文化が根づいておる。人の荒んだ部分が表面化することもあるだろう。見たくないものを目にすることもあろう。それでも、人々の繋がりは明らかに昔よりも広がった」
「そうですね。間違いなく、配信という文化がなければ繋がることのなかった人たちとも繋がれている。それはきっと、とても大切で、貴重な縁なんだと思います。当たり前のようになっていて、忘れがちなことでもありますが」
「うむ」
ボルガは酒をぐいっと呷る。
その様子を見ながら、ゴーシュはじっとボルガから目を離さずにいた。
「フフ。そんな繋がりの多い世界で、誰かに影響を与える立場の人間に必要なのは、やはりぬしらのようなひたむきさ、純粋さなのかもしれんな。だからこそ、そのことをエルミナも評価し、この儂もまた、惹かれたのだろう」
「あ、ありがとうございます」
「やはりぬしらのギルドに入れてもらおうと決めたのは間違いではないな」
ボルガは独りごちて、晴れやかな笑みを浮かべる。
そして、ゴーシュの方に自分の酒器を近づけてきた。
「爺臭い話をしてしまったが、改めてよろしく頼むぞ、ゴーシュよ」
「はい。俺たちの方こそ、よろしくお願いします。ボルガさん」
ゴーシュとボルガの酒器が卓の上でぶつかり、ごつんと良い音を立てる。
そうして、また新たにできた縁が深まり、夜は更けていった。





