報奨と定時
上司は資料を読み終え、言った。
「……すごいじゃないか」
「……?」
「夏村、これでいけ。採用されると思うぞ。明後日までにプレゼンで喋ることを考えるように」
私は先程までの上司からは想像もつかない反応に驚いていた。
「高野課長は何が良いと思われたのですか?」
そう聞くと、上司は笑って言った。
「宣伝ツイートの内容が面白いだけだが、それがいい。面白さは宣伝のミソだからな」
私はプレゼンの原稿を考え始めた。言葉遣いを丁寧にし、聞き手に伝わるよう心がけた。
プレゼン原稿ができたときには、18時――終業時刻になっていた。周りの社員はずっと机にへばりついている。上司の机に向かうと、上司も机にへばりついてパソコンを操作していた。
「すみません高野課長」
上司の名を呼ぶと、上司は顔を上げた。
「プレゼン原稿ができました」
「早いな」
「ありがとうございます」
上司はプレゼン原稿に目を通し、にこやかな顔で言った。
「これも面白いな。夏村君、成長したね」
私は上司の顔を見る。29歳の上司は、私と3つ違うだけとは思えないほど疲れのたまった顔をしている。笑顔の奥の目は疲れきっている。
「高野課長、終業時刻後にありがとうございます」
「何言ってるんだ、いつものことじゃないか。そうだ、夏村くん。ノルマは全部終わったのかね?」
「はい」
「……確認も済んでるな。じゃあ今日は定時帰りか、お疲れさま。トラックにはねられたんだろ、しっかり体を休めてくれよ」
上司はそう言って私に帰るよう促した。
「ありがとうございました」
隣の席の崎山さんに資料を返し、私は荷物をまとめる。
「もう帰るの?」
「はい、早く終わりましたので」
午後6時の駅で、私は電車に乗ってボロボロのアパートへと帰宅した。
翌朝6時に起きると、1件の新着メッセージが届いていた。午前0時、同僚の崎山さんからである。
「夏村さん、明日の昼に話せますか?仕事の話ではありません」
私は「はい」と返信し、カバンを手に取って部屋を出た。朝の空にあくびをして、私は駅で電車に乗った。




