精神錯乱
未来がドアノブに手を掛けると、ラボメン14人は真夜中の何処かのグランドにいた。
一同「!?」
全員は警戒していた分、急に周りの環境が変わった事に心臓の鼓動が早くなる。
どんな存在が自分達を処理しに来るのか。
また、自分達は今は安全なのか。
一同「………………」
ソ「…あのさ、真面目な話、こんな刺激は求めてないんだけど」
多「ホラゲ(※ホラーゲーム)の中じゃ、これが日常だ」
いつもの2人のやりとりにその場の空気が軽くなる。
白「ねぇ、ここって学校だよね?僕はてっきり、電脳世界みたいなのを想像してたんだけど、何で現実?」
お「ウイルスにはウイルスの活動出来る場所があり、人間は人間の活動できる場所があるだろ。ウイルスを処理するのはウイルスに近い存在であり、処理する側もそこで活動できなきゃいけない。つまり、全てのステージは私達の知っている場所が舞台となり、敵は私達に近い存在だ」
“バリーン!!”
その時、目の前にある三階階建ての校舎から何かがガラスを割って出てきた。
数は2体、外見は人型…こちらに歩み寄って来る、不気味な動きで。
恩「うあああ!?な、何だよあれ!?」
み「お兄…怖い」
う「皆がいるから大丈夫だよ…しかし、あれって…」
黒「おぎゃるさんの話からして、僕達を駆除するのはだいたい予想してたけど、まさか『ゾンビ』と酷似してるとはね~」
ソ「まだあいつらとの距離は50…この石で何とかなるかな?」
多「出たよ~、この脳筋ならではの言動~」
葵は『妖刀村正』を構える。が、リュカがそれを制する。
何故ならソルが石を投げる直前だったから。
ソ「毎回毎回うるせぇなぁ…伊達に『運動の天才』とは、名乗ってねぇんだよ!!!」
ソルの投げた石は“ひゅっ”と乾いた音をその場に残し、一体のゾンビの頭に直撃する。
石が直撃した瞬間、距離が離れてるのにも関わらず全員に鈍い音…骨が折れる音が聞こえてきた。
しかし、もう一体は平然と近寄ってきていた。
ソ「…1体殺られたのにあいつ、全く動じてねぇ。どうやら、感情を持ち合わせてないようだな」
リュ「交渉の余地無し、か。面倒な相手…」
多「じゃあ…交渉失敗、交渉対象を殲滅対象に移行、射撃準備……ファイヤ」
多々羅は『フェンリルの怒牙』の引き金を引く。
すると、弾は僅かな音を残しゾンビの眉間に着弾。
ゾンビは地面に倒れると、頭が弾け飛ぶ。
多「…炸裂するまでにおよそ2秒…思ったより音が出なかったけど、サプレッサーが付くとこんな静かなのか~…」
紅「えーと『天才ゲーマー』でしたっけ?心強いですね」
ソ「(……俺は?)」
次の瞬間、校舎の三階から光が点滅した。
多「あれは…ライトの光か?」
お「AIの話から、他のラボメン達が先に校舎を探索してのは間違いないようだな」
龍「しかし、管理者だったか?そいつは何処にいるんだ?」
お「そんなの私が知る筈が無い。前に言ったろ、私達が本体だって。だから、私達のイメージ、感情などによって無限の可能性があるんだ。しかも、42人の全てのそれが繋がってるから、無限×42の可能性…予想なんて宛にならん」
ラボメンは校舎の窓を見てみると、何体も不気味に動く影が見えた。そして、恩タクが怯えだす。
恩「ま、待って、あの校舎の中に行くの?あのさ…あの中にはもう他のラボメンが来てるだよ?ここなら広いし…あの変なのが来ても対処出来る。他の皆が僕らを見つけてくれれば合流出来る、一石二鳥じゃん。ここで待ってようよ」
未「恩タクさん、此処で待ってるイコール俺達は何もしないって事だよね?校舎の中見てみなよ。あんだけゾンビいたら、外の様子を見るのも死に繋がりかねないし、仮に見つけて貰えても、此所まで来て貰うのも命掛け。他人任せ過ぎると思わない?」
恩「で、でも、まずは自分達の安全確保を優先するべきだと思うんだよ。この、世界に安全な場所は無いかもしれない…でも、あの校舎内よりはマシだろ!」
未「この世界は死に繋がるんだよ?それに安全な場所にいるだけじゃ─」
恩「死に繋がるっていっても、精神が無くなるだけだろ!僕があんな意味の分からないのと戦える筈がないだろ!!」
未「……戦える戦えないっていうのはしらないけどさぁ…精神が無くなるのって、死んでる事と何が違うの?」
恩「うっせぇよ!そもそも僕はこんな世界に来たくて来たんじゃない、お前らのせいだろ!機器の安全管理がなってない状態で人を被験体にしやがって!お前らがブホッ!?」
恩タクは地面に倒れ込んだ。
何故自分が地面に倒れているのか理解出来なかった。
そして、自分の立っていた位置を見て理解する。
自分が龍に“殴られた”と。
龍「お前、自分が言った事がどういう意味か分かっているのか…もし、理解して言ってるとしたら相当なクズ野郎だぞ、お前」
恩「あぁあぁああ(痛い痛い痛い痛い痛い痛いくそ痛え!?)」
リュ「んん!仲間内で争うのはそこら辺で切り上げて貰いたい。そして恩タクさん、確かに恐怖するのは仕様がない。しかし、チームワークを乱したら元も子もない。今は取り敢えず冷静になって下さい」
恩タクは殴られた頬を手で抑えながら俯く。
そんな恩タクを心配し、葵が駆け寄る。
葵「大丈夫ですよ、皆で助け合いながら一歩一歩現実に近づいていきましょ。協力しあえば皆、助かり─きゃっ!?」
突然、恩タクは葵が持っていた『妖刀村正』を引ったくり、鞘を取る。
そして、龍に刃を向けて走り出す。
恩「綺麗事ばかりうぜぇんだよ!!」
明らかに恩タクはパニックに陥っていた。
故に何を仕出かしても可笑しくない状態なのだ。
しかし、龍に『妖刀村正』が刺さりそうになる瞬間、白無が刀の嶺(※刃の背の部分)を踵落としして刀が空中で回転する。
そして、刃が恩タクに向いた瞬間を狙い、白無が刀の柄の頭(※握る先端)を蹴り飛ばす。
刃は真っ直ぐに恩タクに飛んでいき─止まる。
リュカが柄を掴み取っていたのだ。
リュ「ねぇ…さっき仲間割れは止めようって言ったよね…貴方達は無視するの?私、とっても悲しいな~」
リュカは刀を掴み取った状態で満面の笑顔で皆に語り掛けていた。しかし、本人が気付いてるか定かではないが、リュカの周りには危ないオーラを感じさせる何かがあった。
白「い、いや、その…龍君が危ないと思ってね…」
リュ「もう~、そこは良いのよ~。私が気にしてるのは“仲間割れ”…何で恩タク君に刃を飛ばしたの?」
白「え!?えーと………申し訳ございませんでした」
白無はリュカに気圧され、苦笑いを浮かべた後、即座に土下座する。
そんな白無を見て、リュカは刀を葵に渡し白無を立ち上がらせる。
リュ「分かってくれるなら土下座や敬語なんて使わなくていいのよ、ほら立って」
未(理解しない奴は土下座とかさせるのか?)
白無が謝罪したのを見て、一番の原因となっている恩タクにラボメン全員の視線は移る。
恩「な、なんだよ!ぼ、僕は別に…僕を殴った龍に謝らさせようとしただけで…本気で殺る筈ないだろ!」
龍「俺がお前に謝る理由がわからねぇな」
恩「お前ーーー!!」
恩タクが叫ぶと同時におぎゃるが前に出てくる。
そして─
お「ごめんなさい」
一同「!?」
おぎゃるは少し涙ぐんでいた。
お「確かに私がもっと安全性を考えておけば皆がこんな場所に閉じ込められずに済んだ。私があのインターフェイスを作ったから皆は悪くない。だから、これ以上は悪くない人同士で争わないで。お願いします…ひっく」
ニ「おぎゃるちゃん、それは─」
恩「そーだよ!全部お前のせいだよ!学生の分際で大人を─」
“ピュンッ!”
多々羅が引き金を引く。
恩タクはまたゾンビが出たのかと思い多々羅が銃を向けてる場所を慌てて確認する。
しかし、多々羅が銃口を向けているのは自分だった。
そして、自分の体を見ると、左胸の端っこの服が切れていた。
多「あっれー?撃つ時以外は引き金に手を掛けちゃ駄目だけど、汗で手が滑っちゃったー、ごめんねー…心臓から18センチも離れてて良かったねー」
恩「お、お前!今ぼ、僕に向かって撃ったな!?代々なんで…そうか、分かったぞ、お前おぎゃるが好きなんだろ?」
多「…………」
恩「“好きな女を傷つけさせっない”てか?罪を犯した事実は変わんねぇだよ!それに仲間内で争うとか、お前…バカだろ!」
恩タクは「口論では何も言い返せない奴」とでもいうように、睨み付けていた。
そこに、ソル・ガレンと龍が恩タクのそれぞれ左右の肩に手を置き─
ソ「デブ…」
龍「お前…」
恩「へ?」
ソ・龍「「いっぺん死んでろ」」
恩「ドベぼッ!?」
2人はお互いに恩タクの腹目掛けて拳で殴り飛ばす。
恩タクは2メートルくらい吹っ飛び、地面に吐瀉物を撒き散らした。
黒「龍さんなら未だしも、ソルさんがやったら死んじゃうんじゃない?」
ソ「大丈夫、かなり力は抜いた」 龍←本気
恩タクは気を失いそうになりながらも、『仲間割れ』をした2人を粛清してもらおうとリュカに手を伸ばす。
しかし、リュカはニッコリと一緒におぎゃるを慰めていて全く気付いて貰えなかった(もしくは、わざと気付かなかった)。
恩タクはラボメンに怒りを覚えながら、気絶した。
リュ「~だから気にしなくていいんだよ」
ニ「そうそう、おぎゃるちゃんはいつも堂々と、鼻高々に笑ってる方が似合ってるよ」
お「あ、ありがとう…ぐす」
黒「リュカさーん、恩タクは少し疲れたから眠るってさー」
リュ「そう…じゃあ、恩タクが起きるまで…」
リュカは話を中断し、地面に耳を近づける。
一瞬、地面から変な音が聞こえたから…
紅「どうしたの?」
リュ「少し、静かに…」
“じゅるじゅるじゅる”
地面から聞こえる音…それは何かベタついたものが引き摺られているような音。
そして、はっきり聞こえた。
「ヴァァァ」
ゾンビの声が。
リュ「皆!その場から離れろ!!」
リュカの叫び声に全員が少し驚き、即座に皆が立っていた中心部から走り出す。
しかし、驚いた事により反応は遅れる。
リュカが叫んだ後、すぐに地面から手が飛び出してきた。
飛び出してきたゾンビは全部で4体。
そして、足を掴まれたのは、みけと黒、紅の3人。
み「お兄!助けてー!」
黒「デッドエンド…なんて…Helpーーー!!!」
紅「やだ!ちょ、離して!」
お互いが助けを呼び合う中、ゾンビは地面の中にそれぞれを引き摺り込もうとしていた。
う「みけー!」
うけはみけが引き摺り込まれないように、必死に体を掴んだ。
そして、瞬時に自分のポケットの中の物を取り出そうと探る。
しかし、何も入ってなかった。
う(しまった!道具は現実に─)
片手でみけを掴んでる状態で、ゾンビは更に力を入れてきた事により、うけは体勢を崩してしまう。
しかし、次の瞬間、ゾンビの腕に何かが撃ち込まれ、瞬間にゾンビの腕が千切れ飛ぶ。
うけはみけを抱き上げ、その場からに避難した。
うけが「黒と紅は大丈夫なのか」と思い見回すと、多々羅の射撃で紅も助け出されていた。
黒の方はソルがゾンビの頭をボール代わりに蹴っ飛ばしたらしく、ソルとその近くにいた黒に返り血がべったりと付着していた。
もう一体のゾンビは葵が既に切り刻んでいた。
黒「うへ…濡れた感触、血の匂い、リアル過ぎー、グロ臭」
み「うああああ!怖かったよー!」
紅「2度と体験したくないわ」
それぞれの当然の反応に精神的にはまだ大丈夫な事が分かり、一同はほっとする。
しかし、リュカは警戒心を解いてなかった。
“何かベタついたものが引き摺られているような音”の正体がゾンビでないような気がしたから。
そして、それは確信に変わる。
ゾンビ達の出てきた中心部の地面が直径1メートルあたり盛り上がり始めたのだ
リュ「まだっ!?まずい!あそこにまだ恩タクが!」
しかし、全員は出てきた相手が今までとは明らかに違う存在だと確信していたため、近づく事が出来なかった。
そして、それは姿を表す。
一言で言えばその姿は人間を食らい続けた化物。
歯は人間のもので、目がなく、体からは人間の手がいくつも飛び出していた。
大きさはまだ地面に体が入っているため分からない。
今までと違い過ぎるものを前に、ラボメンは警戒心を強める。
こっちに来たらすぐに避けられるように。
しかし、化物は動かない。化物の頭には小さな穴が2つあり、“フゴー、フゴー”と鼻息のようなものをしてるだけだった。
その場はまるで時間が止まったかのような感じすらする。
しかし、最初に動いた者がいた。
それは気絶していた恩タク。目が覚めたらしく、起き上がろうとしていた。
恩「ん…んん?何この匂…」
が、恩タクが動いたと同時に化物が物凄い速さで恩タクを一口で飲み込み、穴の中に戻っていってしまった。
そして、地面から学校に向かう音だけを残し、その場は静かになる。