第五十四話
皇族と貴族が住んでいる居住区に建つ白い壁と瓦が隙間なく敷かれた屋根が目印の城。
椅子に座らさせた少女と机に手を置いて立っている男が無数にある中の一つの部屋で向かい合っている。
身長は低く筋肉質で厳つい顔をもつ帝国軍総隊長は口を紡ぎ眉を下げている少女を睨んでいた。
緑色の瞳、赤茶のボブヘア、動きやすい服装は少し破けていて白い肌が露出している。
右手の中指に填めている赤い石が自ら輝く指輪に視線を向けた。
「なるほど、シンシアお嬢様は騎士団に命令されて町へ行ったのか、恩恵の指輪を奪うために」
視線に気付いた少女は左手で指輪を覆い隠す。
少女の仕草に気付いた総隊長は指輪から目を逸らして、部屋の扉に目を向ける。
「何度と恩恵の指輪は見てきたがここまで不気味に動いているのは初めてだ。まぁシンシアお嬢様の物ではないと分かればそれでいい。時間を取らせて申し訳ない、どうぞ」
総隊長は扉を開けると誘導するように手の平を内側から外へ動かした。
立ち上がった少女はそのまま扉から城の通路に出ると、誰もいないことに首を傾げる。
「いない……」
通路に出た総隊長はイリスを見下ろしながら先を歩く。
「ドラゴン信者と帝国兵は昔から険悪で、もし信者と会おうとするなら間違いなく帝国兵達の反感を買うだろう。それ相応の罰を与えている」
「ちょっとそんなことしたら」
青ざめるイリスは反対方向に走っていき、追いかける様子もなく総隊長は悪く思うな、と付け足した。
「シンシアお嬢様は戻られたか?」
振り返った総隊長はローブで全身を覆い隠している感情も覗けない帝国兵に訊ねる。
「戻られました、それとアンも到着しました」
淡々とした口調でさらに後ろにいる同じくローブで全身を隠す小柄な少女を紹介。
フードの奥から冷徹な赤い瞳孔が視界に映り、総隊長は口を紡いで頷いた。
「アンはアン」
相変わらずの自己紹介に帝国兵は息を強く吐く。
「彼女は両親を目の前で惨殺されてから、言葉がうまく喋れません。そこは申し訳ございませんが……」
「口調などどうでもいい、求めるのは帝国への忠義と与えられた任務を遂行することだ。シンシアお嬢様に会いに行くぞ」
総隊長は部下の言葉を遮って二人より先頭に立つと足早に歩き出す。
「あの盗賊も無事着きました。特に問題点はありません」
「そうか、アヤノの情報によると盗賊も昔にフェンリルの血を飲んだらしいな。もし本当なら警戒を怠るな、少しでも怪しければ拷問部屋に入れろ」
アンが何かを言おうと口を開けたが、総隊長の部下に手で塞がれてしまう。
黙って首を横に振る仲間にアンは目を細めて頷くと、二人は総隊長の後ろを絶対の距離を保ちながらついていく。




