第五十五話
「前線部隊へ合流、第五小隊は山から狼を殲滅、第六、第七小隊は平地から魔獣の森へ、急げ!」
駆け足で土煙を上げた帝国兵士達は馬車を定位置に止めて槍と剣を手に帝都から出ていく。
最後に馬車から降りたのは盗賊を生業としている青年アクセルと帝都で巫女をしていたシンシア。
「困りましたわ、シルバードラゴンの反応がまたなくなりましたの。ドラゴン信者が邪魔をしているのか、近くにリザードドラゴンがいるのか、どちらか二択ですわ」
「じゃあ後者だ。リザードドラゴンを探してぶん殴ってやる」
高い背をさらに両腕と一緒に伸ばし、やる気も十分と意気込みを語るがそんな態度にシンシアは呆れている。
「また同じ目に遭ってわたくしにすがりますの、目に見えてますわ」
「じゃあどうするんだ?」
「まぁ、手っ取り早く基礎を学べば勝ち目はあるかもしれませんわね。今は内戦で人手が足りませんが、帝国軍の指揮を執っている帝国軍総隊長ならいると思いますわ」
伸びをやめてアクセルは蒼い目を細めた。
「偉いさんは高みの見物か、気に入らねぇなぁ」
「指揮を執る人間が先に死んでしまうと帝国は一気に崩れてフェンリルに丸呑みされてしまいますわよ。それに、本人は指揮より前線で戦いたいはずですもの」
静かな帝都の景色を遠くに眺めているシンシアは、こちらへ近づいてくる人に気付く。
「彼に勝てたら少しは戦えるのでは?」
絶対の距離を保ちながら歩く二人の部下を従えた厳つい顔に逞しい体の男は軽装鎧を身に着けている。
アクセルは見下すように睨み付けて帝国兵士の男と背後にいるローブで身を隠す怪しい部下を視界に映す。
「おかえりなさいませ、シンシアお嬢様。それとそこの盗賊、俺の権限でいつでも牢に入れることを覚えておけ」
「あぁ? どこの兵士か知らねぇ野郎がなんだ、しかも後ろにいるのはアンじゃねぇか、なんでここにいるんだ?」
「口の悪い奴、シンシアお嬢様の前で」
人相の悪いアクセルと厳つい顔をした総隊長の睨み合いに呆れているシンシア。
「もういいですわ、フェンリルとの戦いは始まっているのですから、帝国軍総隊長」
シンシアの注意に一歩下がったのは総隊長だった。
「う、失礼しました。それで俺に勝つというのは?」
「聞こえていたのなら話が早いですわ。アクセルさんに戦いの基礎を叩き込んで、さらに戦ってほしいですの」
「こいつとですか? 今がどういう状況か、それは無理な話です」
首を振る総隊長にシンシアは余裕の笑みを浮かべて目を細める。
「大丈夫ですの、他の兵士と比べれば進歩は速いですわ」
シンシアお嬢様が言うのならと、総隊長は渋々部下を連れて城内の敷地にある訓練場へと二人を案内。
騎士団や帝国軍兵士が使用している土で固められた訓練場にアクセルと総隊長が距離を置いて向かい合っている。
上半身の脂肪が少ない体を見せつけ、お互いの手には剣。
「盗賊のくせに重い体をしている、本当に盗賊なのか?」
「うるせぇ低身長、さっさと教えろ。こっちは時間がないんだよ」
「なんだこの男は!? シンシアお嬢様ぁ」
総隊長は眉を下げてシンシアに訴えるが、首を横に振っている。
「それも込みでお願い致しますわ」
シンシアはそう呟いて、横にいるフードで体を覆い隠すアンとその仲間をそっと横目で覗いた。
お互い目を合わせることはせず、シンシアは何も声をかけず前を向く。
「はぁ、体は大丈夫として問題は戦う基礎ということか。短剣の扱いは長けているだろうが戦場で生き残るのなら短剣だけでは不可能だ。長剣、大剣、太刀、弓、槍、斧と平等に扱えれば生き残る確率は上がる、まずは」
総隊長は剣の切っ先を淀んだ灰色の空に向けて慣れた手つきで斜めに空気を切り下ろす。
「剣の振り方から」
初歩的な練習にアクセルは口角を下げてしまう。
「振るぐらいできるって」
目を細めた総隊長は同じように口角を下にして鼻息を出す。
「シンシアお嬢様から基礎を叩き込むよう言われている、黙って従え。それともここで俺が狩ってやろうか? 飼い主に見放された獣め」
切っ先がアクセルの首を狙っていることに気付き、アクセルは自身の首に手を当てて緑色に光る石を埋め込んだ首輪を思い出した。
「こっちの事情は知ってるみたいだな」
「まぁ、アヤノからの情報だよ。よく見るとその首輪アヤノやバスと同じ代物か」
「今、アヤノって言ったな? どこにいる!?」
聞き慣れた名前を逃さなかったアクセルは総隊長に詰め寄ろうとしたが、総隊長は両手で剣を構えて戦闘態勢に入られ、アクセルは動きを止める。
「教えてほしいならさっさと基礎を覚えることだな、そして俺に訓練で勝てたら教えてやる」
厳つい顔に得意げな表情を浮かべた総隊長は構えをやめて、目の前で剣を斜めと縦と交互に音を立てながら振り、空気を切り裂く。
「この低身長が……時間がないってのに」
渋々、アクセルは真似事で剣を縦に振っていく。




