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第五十六話

「ドラゴン信者は今どうしていますの?」

「シンシアお嬢様」

 騎士や兵士が普段は使う訓練場でひたすら剣を振り回すアクセルを遠目で眺めつつ、シンシアは横にいる帝国軍総隊長の厳つい男に問う。

 総隊長は眉を下げて目を逸らしている。

「仲は悪いままですのね。少し前にわたくしを探して町にまで押しかけてきましたの、それ以来姿を見せていませんわ」

 左手の中指に填めた赤い指輪に触れながらシンシアは呟く。

「実は帝都でも静かでして、情報によると騎士団が邪教と深く関わっているようなのです」

「それはゴルバードが騎士団長の時からそうでしたわ。バスが何かをしていますのね……今は内戦の最前線にいますの?」

「はい、騎士団は小隊と一緒に魔獣の森へと向かっています」

 シンシアは青いつり目を細め、総隊長と絶対の距離を保つフード付きのローブで身を隠している二人を視界に映す。

「アーリィを見殺しにしてまでアンを連れてきたのには理由がありますのね」

「何の話でしょうか。シンシアお嬢様、少し前に赤い指輪を持っているお嬢さんと無礼な帝国兵がいまして、何やらお嬢様を知っているようでしたが、ご存じですか?」

 シンシアは目を大きく開けた。

「どこに!」

「え、ああ、まだ城内にいると思います。もしかすると拷問部屋に」

 耳鳴りになるほどの爆発音と一緒に城の壁が砕け散り、訓練場へと大小異なる破片が降りかかる。

 素振りをしているアクセルはまだ気付いていない。

「なんですの!?」

 アクセルの安否など興味なく、シンシアは城に空いた穴へ視線を向けた。

「あそこは拷問部屋がある場所です。まさか、あの兵士が」

『アァ、疼ク』

 砂煙に視界を遮られていると、赤い光を纏う大きな体の輪郭が浮かび上がる。

 低く唸る声が響く。

 シンシアはすぐ何者かに気付き、険しい表情に変えると左手を握りしめて砂煙が舞う中へ。

 燃え盛る赤と橙の炎が左手を包み込み、次に手を広げるとさらに炎は大きく燃えて弾ける音を立てる。

 高く振り翳した炎を揺れる景色に浮かぶ巨体の影に向けて投げつけた。

 火の玉となって一直線に飛ぶと塞がれていた視界の先がはっきりと映り、逃げるように砂煙が消えていく。

 触れれば一瞬で焼き焦げる火の玉は呆気なく、巨体な男によって弾かれる。

 シンシアが左手をもう一度握ると火は空気中で消滅。

 爬虫類に似た赤い瞳孔をもつ大きな男がシンシアを見下ろす。

「イリスさんはどこにいますの!」

 無精髭を生やした大きな男は上半身の肌を露出させていて、体は擦り傷ばかりできている。

「さぁなぁ、イリスは観光でもしているだろう……それよりあの獣はいいのか? 仲間二匹に連れられてどこかに行ったぞ」

 壁の破片によって訓練場の土は抉れ、足場の悪い状態となっており人の姿は全くない。

「生きているのなら何でもいいですわ。それより、イリスさんに過剰な恩恵を与えアヤノ隊長を殺させようとするなんて一体何を考えていますの?」

「何とは何か、血の誓約を交わしたあの男の娘も同じように誓約者、復讐はまだ完了していない」

 シンシアは目を細めてしまう。

「まるでアヤノ隊長がお父様にとっての仇みたいな言い方ですけれど、それはおかしくありません?」

 リザードドラゴンは鼻で笑って何も答えなかった。

「シンシアお嬢様」

 落ち着いた声に呼ばれたシンシアは後ろへ振り向くと、険しい表情を浮かべている総隊長の顔が映る。

「何かありましたの?」

「アーリィから報告がありまして、前線にいる騎士団がフェンリル側に寝返ったとのこと。裏切る予想はしていたが、まさか騎士団全員が獣だったとは……小隊が全滅、残った兵は退却か。早すぎる、やはり獣相手に戦いは無謀だったか。しかしこちらはまだ戦力が十分にある、魔術を扱える者を送ろう。俺もそろそろ出発する」

 ローブで身を隠す男に伝え、総隊長はアンを連れて訓練場から離れようとする。

「帝国軍総隊長、アクセルさんの件ですけれど」

「申し訳ありません、必ず戻ってきますのでそれまでお待ちください。あの盗賊にもそうお伝えお願いします」

 急ぎ足で去っていく総隊長は謝罪をしながら手を振り、訓練場に残されたシンシアとリザードドラゴンはお互いに向き合う。

「ちなみに、シルバードラゴンと会話ができないのはアナタが原因ですのね?」

「いや、今の我にそんな力はない。できたとしてもドラゴン信者か、フェンリルだろう。しかし、今の内戦でわざわざ妨害する理由はない……フェンリルが帝都にいるのに気付かないか、巫女よ」

 シンシアは数秒ほど思考を巡り、何かに気付いたのか目を大きく開けた。

「だとしたら、イリスさんは本当に」

 にやついているリザードドラゴンに腹を立てるが、シンシアは落ち着こうと唇を噛んで目を細める。

 左手の中指に填めた赤い指輪に触れると、

「どうやってフェンリルに」

 一つの疑問を思い浮かべた。

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