SCENE1:自由を欲して
『オハヨウ! オハヨウ!』
「ん……げっ!? もうこんな時間かよ!?」
僕はアンナに起こされることがあった。
「遅いよ。何時だと思っているの」
「ごめん! 急いで向かうから!」
「信号はまもりなさいよ?」
アンナは誕生日に母から贈って貰えたプレゼントだったな。
僕がテレビに映るカナリアに惚れこんでいるのを見て入手したらしい。
そう、インコじゃなくてカナリアだったんけどね……
でも、面倒をみはじめると不思議と愛着って湧くもので。
僕は物心ついた時から勉強に明け暮れていた。そうさせられていたって言ったほうがいいか。母は評判のいい人気な歯医者だ。僕はその母と今はどこかの学校の校長をしている父の息子として生まれた。僕が幼い時に両親は離婚して。僕はそれから母とともに高層マンションの高い階の家で毎日を過ごしている。
でも僕の日常はどんなに空高い場所で過ごしていようが、快適なんかでない。
学校は土日でも平気で開校する私立の進学校。その学校が終わっても週4日は塾に通う。さらに週4で家庭教師までつけられる。
「あーこれはここのXの値に注目して。ここにこの数字を入れると成り立つ」
「はい……」
「わかる?」
「何となく」
「う~ん、ピシッと分かればテストでも迷わずに数秒でクリアできるのだが……」
「あの……何となくでも分かればいいのでは?」
「そんなことを言っているヤツほど、テストの点数は悪くなる。じゃあこの問題をやってみようか」
栗本さんという年配の家庭教師から深夜もこんな感じで特訓を受けている。
僕らの学校に通う中学生や高校生はきっとみんなこんな感じなのだろうな。
みんな、疲れ切ったような顔をしている。話題のテレビドラマやテレビアニメを観ている奴なんてきっといなかった。僕が日常で1番話しているのはこの栗本先生に他ならないと思うくらい。インコのアンナもカウントしていいって言うならば、そりゃあきっとアンナになるのだろうけど。
それと強いて言うなら塾で休憩時間に話すシロウとアキコか。
彼らは公立高校で部活をしながらの塾通いを続けている男子と女子。
「こないだのスタンプ・スタンプみた!? 中峰くんがねー!!」
「アキコ、ナオキはテレビを観る暇もないだろうから、しんどくなるような話はしてやるなよ」
「いや、いいよ。僕はこういうところでしかそういう事を知れないから」
「ナオキ……」
「ほら、だから私は話してあげるのよ!」
「はは、ナオキよう、しんどくなったら無理せず言えよ?」
「大丈夫。逆に僕はアンナのことぐらいしか話せないしさ」
「アンナってインコの?」
「うん」
「私、見に行きたいなー! 部活で忙しくってみにいけないけど」
「俺も見にいきたいなぁ。俺も部活でクタクタだから難しいけど」
アキコは吹奏楽部でシロウは野球部だったかな? 何だかシロウの顏がいつもやつれていたように思う。多分、シロウも僕と同じでテレビを観たくても観る事なんてできない系の男子だった事だろう。
こいつらがいつから付きあいだしたのか僕は知らない。でも、実は僕よりもだいぶ学年が上であったことを後々に知ったのだけど、大学を卒業して間もなく入籍をしたって話だからな。どうなのだろう。
みんな、どこか狭い世界を生きているようにしか見えなかった。
「自由が欲しい」
「ジウガホシイ」
「エサが美味しい?」
「エサガオイシイ!」
「そうか。良かった」
「ヨカッタ! ヨカッタ!」
鳥籠のなかで生きているコイツもまたそうなのかな……
エサをあげながら僕はいろんなことを思っていた。僕に与えられた自由な時間って本当に限られる。もうチョットしたら栗本先生もやってくる。
「また会えるかなぁ……」
僕はベッドに横たわって彼女を思い浮かべる。
名も知らない赤毛のフォークシンガー。
僕にとって世界イチのアーティストに他ならない彼女が歌う姿を――




