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異世界転生で理想の生活を  作者: かおりん@
6章

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帰還

◆帰還


 王都に来てから、ずいぶんと忙しい日々が続いた。


 魔道具研究院。


 トウガラシ号の走行試験。


 王宮で国王陛下との話し合い。


 そして、トウガラシ号の一般公開。


 毎日のように誰かに囲まれていた気がする。


 最初は七日間の滞在予定だった。


 その七日目が、今日だ。


 国王陛下との約束では、七日を過ぎればアルスターへ帰っていいことになっている。


 もちろん、王都にもう少し滞在しても構わないと言われている。


 だけど。


「そろそろ帰るか」


 朝食の席でそういうと、三人の反応はそれぞれ違った。


「はいなのです」


 エミリアは即答だった。


「イソ様が帰るなら、わたしも帰るのです」


「ボクはもう少し王都を見たい!」


 ラージャは元気よく手を上げた。


「えー?」


「だって、せっかく王都まで来たんだよ?」


「まあ、それはそうだな」


「でしょ?」


 そしてリルル。


「ボクも、もう少し見て回りたいかな」


「リルルも?」


「うん。王都なんて久しぶりだからね」


 リルルは楽しそうに笑った。


「イソ君、今日は観光しようよ」


「観光か……」


 そういえば、王都に来てから観光らしいことを何もしていない。


 研究院に行って。


 試験場に行って。


 王宮に行って。


 ギルドに行って。


 宿泊施設とそれぞれの場所を往復していただけだ。


「……それも悪くないな」


「やった!」


 ラージャが両手を上げる。


「今日は王都観光!」


「わたしも賛成なのです」


 エミリアが頷く。


「イソ様と一緒なら、どこでもいいのです」


「エミリアは本当にオレ中心だな」


「当然なのです」


 迷いがない。


「ボクも楽しみだな」


 リルルも笑う。


「じゃあ、今日は一日観光にしよう」


「やったー!」


 こうして、王都最後の日は観光になった。


 ◇◇◇


「まず、どこへ行く?」


 宿泊している王家の客邸を出て、王都の大通りに立つ。


 王都は朝から人が多い。


 馬車。


 商人。


 冒険者。


 貴族の従者。


 一般の人々。


 いろいろな人が行き交っている。


 アルスターもそこそこ大きな街だが、王都はその比ではない。


「市場!」


 ラージャが即答した。


「食べ物!」


「朝食は食べただろ」


「食べ歩きは別だよ!」


「別なのか?」


「別!」


 ラージャは胸を張った。


「ボク、おいしいものをいっぱい食べたい!」


「じゃあ市場に行こうか」


「やった!」


 リルルも賛成する。


「王都の市場はおもしろいよ。地方では見ないものも結構あるから」


「それは楽しみだな」


 エミリアがオレの隣を歩く。


「イソ様」


「ん?」


「食べたいものがあったら、わたしが買うのです」


「いや、自分で買えるから」


「でも、イソ様のお世話をするのはわたしの役目です」


「そんな役目はないぞ」


「わたしが決めたのです」


「……そうですか」


 まあ、いつものことだ。


 市場に着くと、ラージャが目を輝かせた。


「すごーい!」


 そこには色とりどりの野菜。


 肉。


 魚。


 果物。


 香辛料。


 見たことのない食材まで並んでいる。


「王都って、こんなにいろんなものが集まるんだね!」


「王国中から商人が来るからね」


 リルルが説明する。


「海沿いの街から魚が来たり、南のほうから果物が来たり、山岳地帯から薬草が来たりするんだよ」


「へえ」


 オレも興味深く店を眺める。


 アルスターでは見たことのないものもある。


「これ、何?」


 ラージャが赤い果物を指差した。


「それはトマトだよ」


「食べられる?」


「もちろん」


 店の人に聞いて、ひとつ買う。


 ラージャが丸ごとかじる。


「ん!」


「どう?」


「おいしい!」


 果汁が口元につく。


「ラージャ、口」


「ん?」


 オレが指摘すると、ラージャが慌てて拭う。


「ありがとう!」


「どういたしまして」


 その様子をエミリアが見ている。


 笑顔だ。


「……エミリア?」


「なんでもないのです」


「そう?」


「はいなのです」


 何か考えている気がする。


 まあ、いいか。


「イソ君、これ!」


 今度はリルルが香辛料の店から何か持ってきた。


「これ、辛いよ」


「へえ」


「南方で使われる香辛料だね」


 オレは匂いを嗅ぐ。


 確かに辛そうだ。


「トウガラシに似てる?」


「ちょっと違うかな」


「じゃあ、買ってみようよ」


「何に使う?」


「料理!」


 ラージャが即答する。


「辛い料理、食べたい!」


「最近、辛いものばっかりだな」


 王都に来てから、国王陛下にも辛い料理を食べてみたいと言われた。


 なんだか妙な流れだ。


「じゃあ、買ってみるか」


「うん!」


 香辛料を買う。


 ついでにいくつか珍しいものも購入した。


 オレの収納があるので、荷物が増えても問題ない。


「便利だねえ」


 リルルが感心する。リルルはオレの収納をアイテムボックスだと思っているが。


「本当に」


「イソ君のアイテムボックス、便利すぎない?」


「まあな」


「旅行に向いてるね」


「そうかも」


 そう言われると、確かにそうだ。


 普通なら大量の荷物を持って移動する必要がある。


 オレなら収納に入れてしまえばいい。


 そのうち、旅行用の荷物なんてほとんどいらなくなるんじゃないだろうか。


 ◇◇◇


 市場を出る。


 次に向かったのは王都の中心部だった。


「ここが中央広場」


 リルルが説明する。


「大きいな」


 広場の中央には大きな噴水。


 その周囲にはベンチ。


 花壇。


 露店。


 大道芸をしている人までいる。


「わあ……」


 ラージャが目を輝かせる。


「人がいっぱい!」


「王都だからね」


 リルルが笑う。


「ここは昔から変わらないなあ」


「リルル、昔から王都を知ってるんだよな?」


「うん」


「どのくらい前から?」


「秘密」


「なんで?」


「女の子に年齢を聞くのは失礼だよ」


「いや、年齢を聞いたわけじゃないんだけど」


「似たようなものじゃない?」


 リルルが笑う。


 まあ、いいか。


 広場では大道芸人が火を使った芸を披露していた。


 火の玉を投げ。


 空中で回し。


 最後には三つ同時に操ってみせる。


「すごい!」


 ラージャが拍手する。


「魔法?」


「たぶん、魔法と手品を組み合わせてるんじゃないかな」


 リルルが答える。


「ボクもやってみたい!」


「危ないからやめとけ」


「えー」


「火事になるぞ」


「それは嫌だなあ」


 ラージャが笑う。


 エミリアも拍手している。


「楽しそうなのです」


「エミリアも?」


「はいなのです」


「こういうの好きなんだ」


「イソ様が楽しそうなので」


「……」


 やっぱりそこか。


 エミリアの世界は、本当にオレ中心だ。


「イソ様」


「ん?」


「もう少し近くにいてもいいですか?」


「今も十分近いと思うけど」


「もっと近くがいいのです」


「……まあ、いいけど」


 エミリアが嬉しそうに腕を絡めてくる。


「ありがとうございますなのです」


 ラージャがそれを見て笑う。


「エミリアって本当にイソ君が好きだよね!」


「はいなのです」


 即答だった。


「大好きなのです」


「うわ、即答だ」


「当たり前なのです」


「そっかぁ」


 ラージャは楽しそうだ。


 リルルも笑っている。


「エミリアはわかりやすいね」


「隠す必要がないのです」


「まあ、それはそうか」


 オレとしては少し恥ずかしい。


 ◇◇◇


 昼食は、王都で評判だという店に入ることになった。


 店の前には人が並んでいる。


「人気店なの?」


「そうみたい」


 リルルが答える。


「昔からある店なんだよ」


「昔ってどのくらい?」


「だから、それは秘密」


「はいはい」


 店に入る。


 注文した料理は、アルスターでは見たことのない料理だった。


 肉を香辛料で焼いたもの。


 野菜を煮込んだもの。


 薄いパン。


 それから辛いスープ。


「辛い!」


 ラージャが目を丸くする。


「でも、おいしい!」


「大丈夫か?」


「大丈夫!」


 ラージャは汗をかきながら食べている。


「無理するなよ」


「無理してないよ!」


 エミリアも一口食べる。


「……辛いのです」


「エミリアも?」


「はいなのです」


 それでも食べている。


「無理しなくていいぞ」


「イソ様が食べているので、わたしも食べるのです」


「そこは無理しなくていいんだけど」


「大丈夫なのです」


 エミリアがもう一口食べる。


 目が少し潤んでいる。


「絶対大丈夫じゃないだろ」


「大丈夫なのです」


「水飲め」


「……ありがとうございますなのです」


 水を渡す。


 エミリアが飲む。


「ふう……」


「無理するなよ」


「イソ様が心配してくれたので、辛さなんて平気なのです」


「いや、そこまでじゃないだろ」


「わたしにとっては大事なことなのです」


 エミリアは嬉しそうだった。


 ラージャが笑う。


「エミリアって本当におもしろいね!」


「そうなのですか?」


「うん!」


 エミリアは首を傾げる。


 自覚はないらしい。


 食事を終えると、王都の観光名所をいくつか回った。


 大きな時計塔。


 王都の歴史を展示している建物。


 噴水広場。


 商業区。


 冒険者街。


 武器屋。


 魔道具店。


 どこへ行っても人が多い。


 そして、どこへ行ってもトウガラシ号の話題が出る。


「あいつが例の……」


「ああ、王様が乗ったやつだろ?」


「本物?」


「本物だよ」


「乗ってみたいな」


 そんな声が聞こえてくる。


「イソ君、すごいね」


 リルルが言う。


「何が?」


「もう王都で有名人だよ」


「それ、あまり嬉しくない」


「どうして?」


「目立つの苦手だから」


「でも、悪いことばかりじゃないと思うよ」


「そうかな」


「うん」


 リルルが笑う。


「イソ君のことを知ってる人が増えれば、変な貴族に絡まれにくくなるかもしれないし」


「なるほど」


「それに」


 リルルが少しだけ真面目な顔になる。


「ボクが辺境伯として見ていることも忘れないでね」


「わかってる」


「ならいいよ」


 リルルはまた笑った。


 若い女の子らしい笑顔だった。


 ◇◇◇


 夕方。


 王都の外壁近くにある高台へ向かった。


 そこからは王都全体が見える。


「すごい……」


 ラージャが呟く。


 夕日に照らされた王都。


 無数の建物。


 大通りを走る馬車。


 遠くに見える王宮。


 城壁の向こうには広大な平原が続いている。


「綺麗だね」


 リルルが言う。


「うん」


 ラージャも頷く。


 エミリアは景色よりオレを見ている。


「エミリア、景色見ないの?」


「見ていますなのです」


「どこを?」


「イソ様を」


「景色じゃないだろ」


「わたしにとっては同じくらい大切なのです」


「……そうですか」


「はいなのです」


 まあ、エミリアらしい。


 しばらく四人で景色を見る。


 オレは王都を見下ろしながら考える。


 ここに来てから、本当にいろいろなことがあった。


 トウガラシ号を見せて。


 国王陛下に乗ってもらって。


 研究者たちに囲まれて。


 王都中の人たちに知られるようになった。


 最初はただの趣味だった。


 移動が楽になる。


 馬車より便利。


 それくらいの気持ちだった。


 だけど。


 もしかすると。


 これから先、もっと大きなことになるのかもしれない。


「イソ君」


「ん?」


「そろそろ帰るんだよね」


「うん」


「寂しくない?」


「まあ、少しは」


「ボクはまた来たいな」


「王都に?」


「うん!」


 ラージャが笑う。


「今度はもっとゆっくり見たい!」


「そうだな」


「お土産もいっぱい買いたい!」


「アイテムボックスがあるから、いくらでも買えるぞ」


「ほんと!?」


「本当」


「じゃあ次はいっぱい買おう!」


 ラージャが楽しそうに笑う。


 リルルも頷く。


「ボクもまた来たいな」


「リルルは王都に用事もあるだろ」


「それもあるけど、普通に遊びに来たいよ」


「そうか」


 エミリアがオレの腕に抱きつく。


「わたしはどこでもいいのです」


「王都は?」


「イソ様と一緒なら、王都でもアルスターでもいいのです」


「そうか」


「ただ……」


 エミリアが小さく笑う。


「アルスターに帰れば、またいつもの生活に戻れるのです」


「そうだな」


「わたしは、それが一番嬉しいのです」


 その言葉には、少しだけ実感がこもっていた。


 ◇◇◇


 翌朝。


 王都を出発することになった。


 荷物をまとめる。


 といっても、オレは収納に入れるだけだ。


 エミリアたちの荷物も収納できる。


「忘れ物は?」


 オレが聞く。


「ないよ!」


 ラージャが元気に答える。


「ボクも大丈夫」


 リルルも頷く。


「エミリアは?」


「大丈夫なのです」


「本当に?」


「イソ様がいるので、何も問題ないのです」


「それは答えになってない」


「でも、本当なのです」


 まあいいか。


 トウガラシ号を確認する。


 問題なし。


 王都に来たときと同じように、自力でアルスターまで帰る。


 セドリックさんが見送りに来てくれた。


「滞在中はいかがでしたか?」


「楽しかったです」


「それは何よりです」


「色々とありがとうございました」


「こちらこそ。王都としても、大変貴重な経験になりました」


 セドリックさんが頭を下げる。


「陛下からも伝言を預かっています」


「なんです?」


「また来てほしい、とのことです」


「わかりました」


「それと」


 セドリックさんが少し笑う。


「辛い料理も気に入られたようです」


「本当ですか?」


「はい。次にアルスターへ来る機会があれば、辛い料理を期待すると」


「……国王陛下、本当に辛いもの好きになったのかな」


 リルルが笑う。


「ラージャの料理が原因じゃない?」


「そうかも」


 ラージャが手を振る。


「セドリックさん、またねー!」


「はい。皆様もお気をつけて」


 エミリアも頭を下げる。


「ありがとうございましたなのです」


「こちらこそ」


 そして。


 オレたちは王都を出た。


 ◇◇◇


 王都の門を抜ける。


 トウガラシ号が街道を進む。


 アルスターへ向かう道だ。


「なんか久しぶりな感じがするね」


 ラージャが言う。


「五日くらいしか離れてないぞ」


「でも、いろいろあったから」


「それはそうだな」


 王都まで来るときは、道が悪くて苦労した。


 今回は帰り道だ。


 一度通った道なので、少しだけ走りやすい。


 それでも速度は控えめ。


 無理をする必要はない。


 エミリアが隣から外を眺める。


「イソ様」


「ん?」


「アルスターに着いたら、何をするのです?」


「まずは休む」


「はいなのです」


「それからギルドに顔を出す」


「わかったのです」


「あと、王都で買ったものを整理する」


「それも手伝うのです」


「ありがとう」


「当然なのです」


 ラージャが後ろから声を上げる。


「ボクは市場で買ったものを食べたい!」


「保存食だから、すぐ食べるものじゃないぞ」


「えー!」


「少しは我慢しろ」


「はーい」


 リルルが笑う。


「アルスターに戻ったら、みんなに王都の話を聞かせてあげようよ」


「そうだな」


「きっと驚くよ」


「とくに国王陛下がトウガラシ号に乗ったところとか」


「それは驚くだろうな」


 そうして話しながら進む。


 昼過ぎ。


 途中の小さな町で休憩した。


 ここでもトウガラシ号は注目された。


「王都から来たのか?」


「そうです」


「もしかして、あの馬なしの乗り物か?」


「たぶん、それです」


「王都で話題になってるって聞いたぞ!」


「……もうここまで噂が来てるのか」


 王都からアルスターまで、それなりの距離がある。


 それでも商人たちが情報を運んでいるらしい。


「すごいね」


 ラージャが笑う。


「イソ君、また有名になったよ!」


「だから嬉しくないんだって」


「でも、すごいことだよ」


「まあな」


 少しだけ笑う。


 以前なら、こんなことになるなんて考えもしなかった。


 ◇◇◇


 夕方。


 アルスターの街が見えてきた。


「あ!」


 ラージャが声を上げる。


「アルスターだ!」


「見えてきたな」


 リルルも前方を見る。


「やっぱり、こっちのほうが落ち着くね」


「わかる」


 オレも同じだった。


 王都はすごい街だ。


 人も多い。


 店も多い。


 珍しいものもたくさんある。


 でも。


 アルスターのほうが落ち着く。


 見慣れた城壁。


 見慣れた門。


 見慣れた街並み。


 そして。


 帰る場所があるという感覚。


「イソ様」


 エミリアが小さく言う。


「ただいま、なのです」


「まだ着いてないぞ」


「もう気持ち的には帰ってきているのです」


「そういうことか」


「はいなのです」


 エミリアが嬉しそうに笑う。


 門を通る。


 衛兵がトウガラシ号を見て目を丸くする。


「おお!」


「戻ってきたのか!」


「王都まで行ってきたって本当か?」


「はい」


「無事で何よりだ!」


 顔見知りの衛兵が手を振ってくれる。


「ただいま」


 オレも手を上げる。


 アルスターの街に入る。


 見慣れた景色。


 見慣れた道。


 見慣れた建物。


 王都から戻ってきただけなのに。


 妙に懐かしい。


「帰ってきたね」


 リルルが笑う。


「うん!」


 ラージャも嬉しそうだ。


「やっぱりアルスターがいい!」


「ラージャは王都でも楽しそうだったけどな」


「王都も楽しいよ!」


「じゃあ、どっちが好きなんだ?」


「どっちも!」


 即答だった。


「そっか」


「うん!」


 そしてエミリア。


「わたしはアルスターが好きなのです」


「なんで?」


「イソ様がいるからなのです」


「王都にもオレはいたけど」


「それでも、アルスターのほうが落ち着くのです」


「そうなのか?」


「はいなのです」


 エミリアが微笑む。


「イソ様が帰る場所なら、わたしにとっても帰る場所なのです」


「……そうか」


 少し照れくさい。


 だけど。


 悪くない。


 ◇◇◇


 ギルドに顔を出す。


 扉を開けた瞬間。


「おかえりなさい!」


 アマネさんの声が響いた。


「ただいま」


「ずいぶん遅かったじゃない」


「予定通りだよ」


「王都はどうでした?」


「いろいろあった」


「いろいろ?」


「陛下がトウガラシ号に乗った」


「……」


 アマネさんが固まる。


「本当に?」


「本当」


「国王陛下が?」


「うん」


「これに?」


「うん」


「……」


 アマネさんがトウガラシ号を見る。


「なんか、もう私の知ってるトウガラシ号じゃない気がする」


「オレもそう思う」


 ラージャが笑う。


「王都で大人気だったんだよ!」


「そうなの?」


「うん!」


「イソ君、何か余計なことしてない?」


「してない」


「本当に?」


「本当」


 アマネさんがため息をつく。


「まあ、無事に帰ってきたならいいわ」


「ありがとう」


「それより」


 アマネさんがニヤッと笑う。


「王都のお土産は?」


「ある」


「さすが」


 リルルが笑う。


「王都観光もしてきたんだよ」


「へえ」


「市場に行ったり、広場を見たり、いろいろ」


「楽しそうね」


「楽しかった!」


 ラージャが答える。


「辛い料理も食べたよ!」


「へえ」


「エミリアは涙目だった!」


「ラージャ」


 エミリアが笑顔で振り向く。


「それは秘密なのです」


「えー!」


「イソ様にも秘密にしてほしいのです」


「いや、オレは知ってるだろ」


「そうでしたなのです」


 ギルド内に笑い声が広がる。


 そのとき。


 奥から別の職員がやってきた。


「イソさん」


「はい?」


「王都から帰ってきたばかりで申し訳ないんですが」


「何か?」


「報告書が届いてます」


「……」


「トウガラシ号について、王都からいくつか問い合わせが」


「帰ってきたばっかりなのに?」


「はい」


「……」


 オレは空を見上げた。


 やっと帰ってきたと思ったのに。


 まだ終わってないらしい。


「イソ様」


 エミリアが優しく声をかける。


「大丈夫なのです」


「何が?」


「わたしが一緒にいるのです」


「……ありがとう」


「書類仕事なら、わたしも手伝うのです」


「助かる」


「もちろん、なのです」


 ラージャが元気に手を上げる。


「ボクも手伝う!」


「ラージャは?」


「お茶を入れる!」


「それは手伝いなのか?」


「大事だよ!」


 リルルも笑う。


「じゃあ、ボクは王都で買ったものを整理しようかな」


「頼む」


 こうして。


 王都観光の一日は終わった。


 そして、いつものアルスターでの生活が戻ってくる。


 王都は遠い。


 でも、もう一度行くことになるかもしれない。


 トウガラシ号がある限り。


 それに。


 国王陛下からも、また来てほしいと言われている。


 たぶん、これからもいろいろあるだろう。


 面倒なことも。


 楽しいことも。


 予想もしない出来事も。


 だけど。


 今は、とりあえず。


 帰ってこられたことを喜ぼう。


 オレはアルスターの街並みを眺める。


 見慣れた景色。


 見慣れた人たち。


 そして、隣にはエミリア、ラージャ、アマネさんがいる。


「……ただいま」


 小さく呟く。


「おかえりなさいなのです」


 エミリアが答える。


「おかえり!」


 ラージャも笑う。


「おかえり、イソ君」


 アマネさんも微笑む。


 王都での一週間は終わった。


 でも。


 オレたちの物語は、まだまだ終わらない。


累計ページビューが1万を超えました。

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