帰還
◆帰還
王都に来てから、ずいぶんと忙しい日々が続いた。
魔道具研究院。
トウガラシ号の走行試験。
王宮で国王陛下との話し合い。
そして、トウガラシ号の一般公開。
毎日のように誰かに囲まれていた気がする。
最初は七日間の滞在予定だった。
その七日目が、今日だ。
国王陛下との約束では、七日を過ぎればアルスターへ帰っていいことになっている。
もちろん、王都にもう少し滞在しても構わないと言われている。
だけど。
「そろそろ帰るか」
朝食の席でそういうと、三人の反応はそれぞれ違った。
「はいなのです」
エミリアは即答だった。
「イソ様が帰るなら、わたしも帰るのです」
「ボクはもう少し王都を見たい!」
ラージャは元気よく手を上げた。
「えー?」
「だって、せっかく王都まで来たんだよ?」
「まあ、それはそうだな」
「でしょ?」
そしてリルル。
「ボクも、もう少し見て回りたいかな」
「リルルも?」
「うん。王都なんて久しぶりだからね」
リルルは楽しそうに笑った。
「イソ君、今日は観光しようよ」
「観光か……」
そういえば、王都に来てから観光らしいことを何もしていない。
研究院に行って。
試験場に行って。
王宮に行って。
ギルドに行って。
宿泊施設とそれぞれの場所を往復していただけだ。
「……それも悪くないな」
「やった!」
ラージャが両手を上げる。
「今日は王都観光!」
「わたしも賛成なのです」
エミリアが頷く。
「イソ様と一緒なら、どこでもいいのです」
「エミリアは本当にオレ中心だな」
「当然なのです」
迷いがない。
「ボクも楽しみだな」
リルルも笑う。
「じゃあ、今日は一日観光にしよう」
「やったー!」
こうして、王都最後の日は観光になった。
◇◇◇
「まず、どこへ行く?」
宿泊している王家の客邸を出て、王都の大通りに立つ。
王都は朝から人が多い。
馬車。
商人。
冒険者。
貴族の従者。
一般の人々。
いろいろな人が行き交っている。
アルスターもそこそこ大きな街だが、王都はその比ではない。
「市場!」
ラージャが即答した。
「食べ物!」
「朝食は食べただろ」
「食べ歩きは別だよ!」
「別なのか?」
「別!」
ラージャは胸を張った。
「ボク、おいしいものをいっぱい食べたい!」
「じゃあ市場に行こうか」
「やった!」
リルルも賛成する。
「王都の市場はおもしろいよ。地方では見ないものも結構あるから」
「それは楽しみだな」
エミリアがオレの隣を歩く。
「イソ様」
「ん?」
「食べたいものがあったら、わたしが買うのです」
「いや、自分で買えるから」
「でも、イソ様のお世話をするのはわたしの役目です」
「そんな役目はないぞ」
「わたしが決めたのです」
「……そうですか」
まあ、いつものことだ。
市場に着くと、ラージャが目を輝かせた。
「すごーい!」
そこには色とりどりの野菜。
肉。
魚。
果物。
香辛料。
見たことのない食材まで並んでいる。
「王都って、こんなにいろんなものが集まるんだね!」
「王国中から商人が来るからね」
リルルが説明する。
「海沿いの街から魚が来たり、南のほうから果物が来たり、山岳地帯から薬草が来たりするんだよ」
「へえ」
オレも興味深く店を眺める。
アルスターでは見たことのないものもある。
「これ、何?」
ラージャが赤い果物を指差した。
「それはトマトだよ」
「食べられる?」
「もちろん」
店の人に聞いて、ひとつ買う。
ラージャが丸ごとかじる。
「ん!」
「どう?」
「おいしい!」
果汁が口元につく。
「ラージャ、口」
「ん?」
オレが指摘すると、ラージャが慌てて拭う。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
その様子をエミリアが見ている。
笑顔だ。
「……エミリア?」
「なんでもないのです」
「そう?」
「はいなのです」
何か考えている気がする。
まあ、いいか。
「イソ君、これ!」
今度はリルルが香辛料の店から何か持ってきた。
「これ、辛いよ」
「へえ」
「南方で使われる香辛料だね」
オレは匂いを嗅ぐ。
確かに辛そうだ。
「トウガラシに似てる?」
「ちょっと違うかな」
「じゃあ、買ってみようよ」
「何に使う?」
「料理!」
ラージャが即答する。
「辛い料理、食べたい!」
「最近、辛いものばっかりだな」
王都に来てから、国王陛下にも辛い料理を食べてみたいと言われた。
なんだか妙な流れだ。
「じゃあ、買ってみるか」
「うん!」
香辛料を買う。
ついでにいくつか珍しいものも購入した。
オレの収納があるので、荷物が増えても問題ない。
「便利だねえ」
リルルが感心する。リルルはオレの収納をアイテムボックスだと思っているが。
「本当に」
「イソ君のアイテムボックス、便利すぎない?」
「まあな」
「旅行に向いてるね」
「そうかも」
そう言われると、確かにそうだ。
普通なら大量の荷物を持って移動する必要がある。
オレなら収納に入れてしまえばいい。
そのうち、旅行用の荷物なんてほとんどいらなくなるんじゃないだろうか。
◇◇◇
市場を出る。
次に向かったのは王都の中心部だった。
「ここが中央広場」
リルルが説明する。
「大きいな」
広場の中央には大きな噴水。
その周囲にはベンチ。
花壇。
露店。
大道芸をしている人までいる。
「わあ……」
ラージャが目を輝かせる。
「人がいっぱい!」
「王都だからね」
リルルが笑う。
「ここは昔から変わらないなあ」
「リルル、昔から王都を知ってるんだよな?」
「うん」
「どのくらい前から?」
「秘密」
「なんで?」
「女の子に年齢を聞くのは失礼だよ」
「いや、年齢を聞いたわけじゃないんだけど」
「似たようなものじゃない?」
リルルが笑う。
まあ、いいか。
広場では大道芸人が火を使った芸を披露していた。
火の玉を投げ。
空中で回し。
最後には三つ同時に操ってみせる。
「すごい!」
ラージャが拍手する。
「魔法?」
「たぶん、魔法と手品を組み合わせてるんじゃないかな」
リルルが答える。
「ボクもやってみたい!」
「危ないからやめとけ」
「えー」
「火事になるぞ」
「それは嫌だなあ」
ラージャが笑う。
エミリアも拍手している。
「楽しそうなのです」
「エミリアも?」
「はいなのです」
「こういうの好きなんだ」
「イソ様が楽しそうなので」
「……」
やっぱりそこか。
エミリアの世界は、本当にオレ中心だ。
「イソ様」
「ん?」
「もう少し近くにいてもいいですか?」
「今も十分近いと思うけど」
「もっと近くがいいのです」
「……まあ、いいけど」
エミリアが嬉しそうに腕を絡めてくる。
「ありがとうございますなのです」
ラージャがそれを見て笑う。
「エミリアって本当にイソ君が好きだよね!」
「はいなのです」
即答だった。
「大好きなのです」
「うわ、即答だ」
「当たり前なのです」
「そっかぁ」
ラージャは楽しそうだ。
リルルも笑っている。
「エミリアはわかりやすいね」
「隠す必要がないのです」
「まあ、それはそうか」
オレとしては少し恥ずかしい。
◇◇◇
昼食は、王都で評判だという店に入ることになった。
店の前には人が並んでいる。
「人気店なの?」
「そうみたい」
リルルが答える。
「昔からある店なんだよ」
「昔ってどのくらい?」
「だから、それは秘密」
「はいはい」
店に入る。
注文した料理は、アルスターでは見たことのない料理だった。
肉を香辛料で焼いたもの。
野菜を煮込んだもの。
薄いパン。
それから辛いスープ。
「辛い!」
ラージャが目を丸くする。
「でも、おいしい!」
「大丈夫か?」
「大丈夫!」
ラージャは汗をかきながら食べている。
「無理するなよ」
「無理してないよ!」
エミリアも一口食べる。
「……辛いのです」
「エミリアも?」
「はいなのです」
それでも食べている。
「無理しなくていいぞ」
「イソ様が食べているので、わたしも食べるのです」
「そこは無理しなくていいんだけど」
「大丈夫なのです」
エミリアがもう一口食べる。
目が少し潤んでいる。
「絶対大丈夫じゃないだろ」
「大丈夫なのです」
「水飲め」
「……ありがとうございますなのです」
水を渡す。
エミリアが飲む。
「ふう……」
「無理するなよ」
「イソ様が心配してくれたので、辛さなんて平気なのです」
「いや、そこまでじゃないだろ」
「わたしにとっては大事なことなのです」
エミリアは嬉しそうだった。
ラージャが笑う。
「エミリアって本当におもしろいね!」
「そうなのですか?」
「うん!」
エミリアは首を傾げる。
自覚はないらしい。
食事を終えると、王都の観光名所をいくつか回った。
大きな時計塔。
王都の歴史を展示している建物。
噴水広場。
商業区。
冒険者街。
武器屋。
魔道具店。
どこへ行っても人が多い。
そして、どこへ行ってもトウガラシ号の話題が出る。
「あいつが例の……」
「ああ、王様が乗ったやつだろ?」
「本物?」
「本物だよ」
「乗ってみたいな」
そんな声が聞こえてくる。
「イソ君、すごいね」
リルルが言う。
「何が?」
「もう王都で有名人だよ」
「それ、あまり嬉しくない」
「どうして?」
「目立つの苦手だから」
「でも、悪いことばかりじゃないと思うよ」
「そうかな」
「うん」
リルルが笑う。
「イソ君のことを知ってる人が増えれば、変な貴族に絡まれにくくなるかもしれないし」
「なるほど」
「それに」
リルルが少しだけ真面目な顔になる。
「ボクが辺境伯として見ていることも忘れないでね」
「わかってる」
「ならいいよ」
リルルはまた笑った。
若い女の子らしい笑顔だった。
◇◇◇
夕方。
王都の外壁近くにある高台へ向かった。
そこからは王都全体が見える。
「すごい……」
ラージャが呟く。
夕日に照らされた王都。
無数の建物。
大通りを走る馬車。
遠くに見える王宮。
城壁の向こうには広大な平原が続いている。
「綺麗だね」
リルルが言う。
「うん」
ラージャも頷く。
エミリアは景色よりオレを見ている。
「エミリア、景色見ないの?」
「見ていますなのです」
「どこを?」
「イソ様を」
「景色じゃないだろ」
「わたしにとっては同じくらい大切なのです」
「……そうですか」
「はいなのです」
まあ、エミリアらしい。
しばらく四人で景色を見る。
オレは王都を見下ろしながら考える。
ここに来てから、本当にいろいろなことがあった。
トウガラシ号を見せて。
国王陛下に乗ってもらって。
研究者たちに囲まれて。
王都中の人たちに知られるようになった。
最初はただの趣味だった。
移動が楽になる。
馬車より便利。
それくらいの気持ちだった。
だけど。
もしかすると。
これから先、もっと大きなことになるのかもしれない。
「イソ君」
「ん?」
「そろそろ帰るんだよね」
「うん」
「寂しくない?」
「まあ、少しは」
「ボクはまた来たいな」
「王都に?」
「うん!」
ラージャが笑う。
「今度はもっとゆっくり見たい!」
「そうだな」
「お土産もいっぱい買いたい!」
「アイテムボックスがあるから、いくらでも買えるぞ」
「ほんと!?」
「本当」
「じゃあ次はいっぱい買おう!」
ラージャが楽しそうに笑う。
リルルも頷く。
「ボクもまた来たいな」
「リルルは王都に用事もあるだろ」
「それもあるけど、普通に遊びに来たいよ」
「そうか」
エミリアがオレの腕に抱きつく。
「わたしはどこでもいいのです」
「王都は?」
「イソ様と一緒なら、王都でもアルスターでもいいのです」
「そうか」
「ただ……」
エミリアが小さく笑う。
「アルスターに帰れば、またいつもの生活に戻れるのです」
「そうだな」
「わたしは、それが一番嬉しいのです」
その言葉には、少しだけ実感がこもっていた。
◇◇◇
翌朝。
王都を出発することになった。
荷物をまとめる。
といっても、オレは収納に入れるだけだ。
エミリアたちの荷物も収納できる。
「忘れ物は?」
オレが聞く。
「ないよ!」
ラージャが元気に答える。
「ボクも大丈夫」
リルルも頷く。
「エミリアは?」
「大丈夫なのです」
「本当に?」
「イソ様がいるので、何も問題ないのです」
「それは答えになってない」
「でも、本当なのです」
まあいいか。
トウガラシ号を確認する。
問題なし。
王都に来たときと同じように、自力でアルスターまで帰る。
セドリックさんが見送りに来てくれた。
「滞在中はいかがでしたか?」
「楽しかったです」
「それは何よりです」
「色々とありがとうございました」
「こちらこそ。王都としても、大変貴重な経験になりました」
セドリックさんが頭を下げる。
「陛下からも伝言を預かっています」
「なんです?」
「また来てほしい、とのことです」
「わかりました」
「それと」
セドリックさんが少し笑う。
「辛い料理も気に入られたようです」
「本当ですか?」
「はい。次にアルスターへ来る機会があれば、辛い料理を期待すると」
「……国王陛下、本当に辛いもの好きになったのかな」
リルルが笑う。
「ラージャの料理が原因じゃない?」
「そうかも」
ラージャが手を振る。
「セドリックさん、またねー!」
「はい。皆様もお気をつけて」
エミリアも頭を下げる。
「ありがとうございましたなのです」
「こちらこそ」
そして。
オレたちは王都を出た。
◇◇◇
王都の門を抜ける。
トウガラシ号が街道を進む。
アルスターへ向かう道だ。
「なんか久しぶりな感じがするね」
ラージャが言う。
「五日くらいしか離れてないぞ」
「でも、いろいろあったから」
「それはそうだな」
王都まで来るときは、道が悪くて苦労した。
今回は帰り道だ。
一度通った道なので、少しだけ走りやすい。
それでも速度は控えめ。
無理をする必要はない。
エミリアが隣から外を眺める。
「イソ様」
「ん?」
「アルスターに着いたら、何をするのです?」
「まずは休む」
「はいなのです」
「それからギルドに顔を出す」
「わかったのです」
「あと、王都で買ったものを整理する」
「それも手伝うのです」
「ありがとう」
「当然なのです」
ラージャが後ろから声を上げる。
「ボクは市場で買ったものを食べたい!」
「保存食だから、すぐ食べるものじゃないぞ」
「えー!」
「少しは我慢しろ」
「はーい」
リルルが笑う。
「アルスターに戻ったら、みんなに王都の話を聞かせてあげようよ」
「そうだな」
「きっと驚くよ」
「とくに国王陛下がトウガラシ号に乗ったところとか」
「それは驚くだろうな」
そうして話しながら進む。
昼過ぎ。
途中の小さな町で休憩した。
ここでもトウガラシ号は注目された。
「王都から来たのか?」
「そうです」
「もしかして、あの馬なしの乗り物か?」
「たぶん、それです」
「王都で話題になってるって聞いたぞ!」
「……もうここまで噂が来てるのか」
王都からアルスターまで、それなりの距離がある。
それでも商人たちが情報を運んでいるらしい。
「すごいね」
ラージャが笑う。
「イソ君、また有名になったよ!」
「だから嬉しくないんだって」
「でも、すごいことだよ」
「まあな」
少しだけ笑う。
以前なら、こんなことになるなんて考えもしなかった。
◇◇◇
夕方。
アルスターの街が見えてきた。
「あ!」
ラージャが声を上げる。
「アルスターだ!」
「見えてきたな」
リルルも前方を見る。
「やっぱり、こっちのほうが落ち着くね」
「わかる」
オレも同じだった。
王都はすごい街だ。
人も多い。
店も多い。
珍しいものもたくさんある。
でも。
アルスターのほうが落ち着く。
見慣れた城壁。
見慣れた門。
見慣れた街並み。
そして。
帰る場所があるという感覚。
「イソ様」
エミリアが小さく言う。
「ただいま、なのです」
「まだ着いてないぞ」
「もう気持ち的には帰ってきているのです」
「そういうことか」
「はいなのです」
エミリアが嬉しそうに笑う。
門を通る。
衛兵がトウガラシ号を見て目を丸くする。
「おお!」
「戻ってきたのか!」
「王都まで行ってきたって本当か?」
「はい」
「無事で何よりだ!」
顔見知りの衛兵が手を振ってくれる。
「ただいま」
オレも手を上げる。
アルスターの街に入る。
見慣れた景色。
見慣れた道。
見慣れた建物。
王都から戻ってきただけなのに。
妙に懐かしい。
「帰ってきたね」
リルルが笑う。
「うん!」
ラージャも嬉しそうだ。
「やっぱりアルスターがいい!」
「ラージャは王都でも楽しそうだったけどな」
「王都も楽しいよ!」
「じゃあ、どっちが好きなんだ?」
「どっちも!」
即答だった。
「そっか」
「うん!」
そしてエミリア。
「わたしはアルスターが好きなのです」
「なんで?」
「イソ様がいるからなのです」
「王都にもオレはいたけど」
「それでも、アルスターのほうが落ち着くのです」
「そうなのか?」
「はいなのです」
エミリアが微笑む。
「イソ様が帰る場所なら、わたしにとっても帰る場所なのです」
「……そうか」
少し照れくさい。
だけど。
悪くない。
◇◇◇
ギルドに顔を出す。
扉を開けた瞬間。
「おかえりなさい!」
アマネさんの声が響いた。
「ただいま」
「ずいぶん遅かったじゃない」
「予定通りだよ」
「王都はどうでした?」
「いろいろあった」
「いろいろ?」
「陛下がトウガラシ号に乗った」
「……」
アマネさんが固まる。
「本当に?」
「本当」
「国王陛下が?」
「うん」
「これに?」
「うん」
「……」
アマネさんがトウガラシ号を見る。
「なんか、もう私の知ってるトウガラシ号じゃない気がする」
「オレもそう思う」
ラージャが笑う。
「王都で大人気だったんだよ!」
「そうなの?」
「うん!」
「イソ君、何か余計なことしてない?」
「してない」
「本当に?」
「本当」
アマネさんがため息をつく。
「まあ、無事に帰ってきたならいいわ」
「ありがとう」
「それより」
アマネさんがニヤッと笑う。
「王都のお土産は?」
「ある」
「さすが」
リルルが笑う。
「王都観光もしてきたんだよ」
「へえ」
「市場に行ったり、広場を見たり、いろいろ」
「楽しそうね」
「楽しかった!」
ラージャが答える。
「辛い料理も食べたよ!」
「へえ」
「エミリアは涙目だった!」
「ラージャ」
エミリアが笑顔で振り向く。
「それは秘密なのです」
「えー!」
「イソ様にも秘密にしてほしいのです」
「いや、オレは知ってるだろ」
「そうでしたなのです」
ギルド内に笑い声が広がる。
そのとき。
奥から別の職員がやってきた。
「イソさん」
「はい?」
「王都から帰ってきたばかりで申し訳ないんですが」
「何か?」
「報告書が届いてます」
「……」
「トウガラシ号について、王都からいくつか問い合わせが」
「帰ってきたばっかりなのに?」
「はい」
「……」
オレは空を見上げた。
やっと帰ってきたと思ったのに。
まだ終わってないらしい。
「イソ様」
エミリアが優しく声をかける。
「大丈夫なのです」
「何が?」
「わたしが一緒にいるのです」
「……ありがとう」
「書類仕事なら、わたしも手伝うのです」
「助かる」
「もちろん、なのです」
ラージャが元気に手を上げる。
「ボクも手伝う!」
「ラージャは?」
「お茶を入れる!」
「それは手伝いなのか?」
「大事だよ!」
リルルも笑う。
「じゃあ、ボクは王都で買ったものを整理しようかな」
「頼む」
こうして。
王都観光の一日は終わった。
そして、いつものアルスターでの生活が戻ってくる。
王都は遠い。
でも、もう一度行くことになるかもしれない。
トウガラシ号がある限り。
それに。
国王陛下からも、また来てほしいと言われている。
たぶん、これからもいろいろあるだろう。
面倒なことも。
楽しいことも。
予想もしない出来事も。
だけど。
今は、とりあえず。
帰ってこられたことを喜ぼう。
オレはアルスターの街並みを眺める。
見慣れた景色。
見慣れた人たち。
そして、隣にはエミリア、ラージャ、アマネさんがいる。
「……ただいま」
小さく呟く。
「おかえりなさいなのです」
エミリアが答える。
「おかえり!」
ラージャも笑う。
「おかえり、イソ君」
アマネさんも微笑む。
王都での一週間は終わった。
でも。
オレたちの物語は、まだまだ終わらない。
累計ページビューが1万を超えました。
ありがとうございます。
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