試乗
◆試乗
王宮での話し合いから一夜明けた。
今日は国王陛下がトウガラシ号に乗る日だ。
昨日の話では、王都の外にある王家所有の演習場を使うことになっている。
王宮の近くで試乗するわけにはいかないらしい。
そりゃそうだ。
いくら王都の中でも安全な場所があるとはいえ、万が一ということもある。
オレとしても、そのほうがありがたい。
朝食を終えると、エミリア、ラージャ、リルルと一緒にガレージへ向かった。
「でも、陛下が運転するんだよね?」
ラージャが首を傾げる。
「そういう予定」
トウガラシ号は昨日の試験走行でかなり走った。
念のため、出発前に一通り確認しておく。
車体に問題はない。
魔術回路にも異常はない。
タイヤも大丈夫。
まあ、タイヤについてはこの世界では珍しいものだから、王都の人たちにはかなり注目されているけど。
改めて考えると、馬車の車輪とは全然違う。
ゴムという素材そのものが珍しいからな。
デデンさんの発明だけど。
パテントは取ったって話だから、王都でゴムタイヤが流行るのも時間の問題かもしれないけどな。
「イソ様」
「ん?」
「こちらは大丈夫なのです」
エミリアが確認を終えて報告してくる。
「ありがとう」
「はいなのです」
嬉しそうだ。
こういうところだけ見ると、本当に普通の女の子なんだけどな。
「ボクも確認したよ!」
ラージャが反対側から顔を出す。
「こっちも大丈夫!」
「ありがと」
「えへへ」
ラージャは満面の笑みだ。
こういうところは本当に明るい。
「それじゃ、行こうか」
「うん!」
「はいなのです」
「楽しみだね」
そんな感じで、オレたちは王家の用意した馬車と一緒に演習場へ向かった。
◇◇◇
演習場は王都の南側。
昨日の走行試験をした場所よりもさらに広い。
周囲には高い柵が設けられている。
魔法による防護設備まであるらしい。
軍が訓練に使う場所だそうだ。
「随分と本格的だな」
「陛下が乗られるのですから」
セドリックさんが当然のように答える。
「事故が起きたら大変ですからね」
「それはそうだけど」
王様って大変だな。
自分で乗りたいと言っただけで、ここまで大掛かりになる。
オレがトウガラシ号を所定の位置に停めていると、周囲がざわつき始めた。
護衛の騎士。
魔道具研究院の研究者。
王都ギルド本部の職員。
それから、昨日はいなかった軍関係者もいる。
かなりの人数だ。
「イソ君」
リルルが小声で言う。
「これ、ちょっとした国家行事みたいになってない?」
「オレもそう思う」
「大丈夫?」
「たぶん」
「たぶんなんだ」
リルルが笑う。
「まあ、ボクも楽しんでるけどね」
その横でラージャも周囲を見回していた。
「すごい人だね!」
「ラージャ、あまり遠くへ行くなよ」
「はーい!」
「エミリアも」
「もちろん、なのです」
エミリアがオレの隣にぴったりと寄る。
近い。
ものすごく近い。
「……エミリア?」
「護衛なのです」
「護衛なら、もう少し離れてもいいと思うけど」
「わたしの護衛対象はイソ様なのです」
「そうですか」
「はいなのです」
これは離れる気がないな。
まあいいか。
「陛下がお見えになります!」
声が響いた。
全員が一斉に姿勢を正す。
オレも慌てて立つ。
王族用の馬車が入ってきた。
護衛の騎士に囲まれている。
そして馬車から国王陛下が降りてきた。
「待たせたな」
「いえ」
陛下はすぐにトウガラシ号を見る。
「今日も素晴らしいな」
「ありがとうございます」
「これに乗れると思うと、昨日から楽しみで仕方がなかった」
国王陛下が少年みたいな顔をしている。
ちょっと意外だ。
「では、さっそく説明します」
「頼む」
オレは運転席を指差す。
「ここが運転席です」
「なるほど」
「このあたりで方向を変えます」
ハンドルを説明する。
「そして、この部分が速度を調整するところです」
「分かった」
「ブレーキはこれです」
「分かった」
「最初はゆっくりでお願いします」
「もちろんだ」
陛下は真剣な顔で説明を聞いている。
周囲の研究者たちもメモを取っている。
「それと、昨日も話した通り、トウガラシ号は基本的に誰でも運転できます」
「魔力が必要なのだったな」
「はい」
「魔力が少ない者はどうなる?」
「動きます。ただし、かなり遅いです」
「どのくらいだ?」
「普通の人なら、歩くより少し速いくらいでしょうか」
「なるほど」
「魔力と知力が高いほど、性能を引き出せます。レベル二十くらいの魔術師なら、馬車くらいの速度は出せると思います」
「そして、君ならそれ以上か」
「そうですね」
「面白い」
陛下が笑った。
「つまり、車そのものだけではなく、運転する者によって性能が変わるのだな」
「はい」
オレは頷いた。
陛下が運転席に座る。
その瞬間だった。
周囲が静まり返った。
王様が馬車ではなく、見たこともない乗り物に乗っている。
そりゃ緊張するよな。
「まずは魔力を流してください」
「こうか?」
「はい」
トウガラシ号が小さく振動する。
周囲から小さなどよめきが起きた。
「これが魔法陣か」
「そうです」
グラハムさんが目を輝かせる。
「構造をもう一度……」
「秘密です」
「……はい」
昨日も同じやり取りをした。
グラハムさん、本当に研究者だな。
「では、ゆっくり動かしてください」
「分かった」
陛下が操作する。
トウガラシ号が動き始めた。
ゆっくり。
ゆっくりと。
歩くより少し速いくらいだ。
「おお!」
陛下が声を上げる。
いや、そりゃ動くでしょう。
でも、本人はかなり嬉しそうだ。
そのまま少し進む。
速度はまだ遅い。
「魔力をもう少し流してみてください」
「こうか?」
「はい」
少し速度が上がる。
風が入ってくる。
陛下の顔がさらに明るくなる。
「これは面白い!」
王様、完全に楽しんでるな。
「陛下、曲がれます」
「分かった」
ハンドルを操作する。
トウガラシ号がゆっくりと曲がる。
「おお……!」
「戻してください」
「こうか」
今度は反対へ。
「これは馬車とは全然違うな」
「そうですね」
「馬車より小回りが利く」
「そこは便利だと思います」
何周か走る。
最初はゆっくりだったが、徐々に魔力の流し方にも慣れてきたらしい。
速度が上がる。とはえ、国王は魔術師ではない。
ひとが走る程度の速さで頭打ちだ。
まだまだ安全な範囲だ。
それでも周囲から歓声が上がる。
「速い!」
「陛下、かなりお上手ですね」
ラージャが嬉しそうに言う。
「ほんとだ!」
「陛下、楽しそう」
リルルも笑っている。
「でも、イソ君が運転するともっと速いんだよね?」
「そうだな」
「じゃあ、今度はイソ君が運転して!」
「予定にはないけど」
「えー」
ラージャが不満そうな声を出す。
その横でエミリアが微笑む。
「イソ様が運転されるなら、わたしも乗るのです」
「なんでエミリアが乗ること前提なんだ?」
「当然なのです」
「当然?」
「イソ様の隣は、わたしがいる場所なのです」
「……そうですか」
しばらく走ったところで、陛下が戻ってきた。
「いや、楽しかった」
完全に満足している顔だった。
「ありがとうございます」
「しかし、これは想像以上だ」
陛下はトウガラシ号を眺める。
「これが王都中を走るようになれば、街の風景も変わるだろうな」
「そうですね」
「問題も増えるだろう」
「はい」
「速度の違う車両が混在する」
「はい」
「事故も起きる」
「たぶん」
「道路をどうするか」
「それも必要ですね」
「駐車場所も必要だ」
「そうですね」
「運転できる者をどう管理するか」
「免許みたいなものも必要かもしれません」
「免許?」
「運転していい人を決める仕組みです」
「なるほど」
陛下が考え込む。
「面白いな」
「面白い?」
「新しいものが生まれるということは、新しい仕事も生まれるということだ」
陛下は研究者たちを見る。
「製造する者」
商人を見る。
「販売する者」
軍人を見る。
「整備する者」
そして街の管理をする者。
「道路を作る者」
陛下は一度トウガラシ号を見る。
「これは単なる乗り物ではないのだな」
そう言われると、少しだけ考えてしまう。
オレとしては、ただ便利な乗り物を作っただけなんだけど。
「まあ……便利になればいいですね」
オレがそう答えると、陛下は笑った。
「そのくらいでいい」
「え?」
「君が国家の未来を背負う必要はない」
「……」
「君は君の好きなものを作ればいい」
なんだか妙に心に残る言葉だった。
◇◇◇
試乗が終わった後、研究者たちから追加の質問が始まった。
「イソ殿」
グラハムさんだ。
「やはり魔法陣について、もう少しだけ……」
「秘密です」
「少しくらい!」
「秘密です」
「……残念です」
この人、昨日からこればっかりだな。
「ただ、トウガラシ号の基本構造についてなら説明できます」
「本当ですか?」
「はい」
オレは説明する。
車輪の中にある動力。
それぞれの車輪が独立して動くこと。
魔力を使って動力を発生させること。
そして、運転する人の魔力と知力によって性能が変わること。
グラハムさんたちは必死にメモを取っている。
「なるほど……」
「これは従来の魔道具とは考え方が違いますね」
「デデン殿の魔石駆動とは完全に別系統だ」
「デデンさんの魔石駆動も基本的な魔法陣は同じなんですよ。
こちらの方が洗練されているだけで」
古吸血鬼の技術だからな。
「デデンさんが研究している魔石駆動は、また別物の研究です。
同系統の魔法陣を魔石で駆動できないか、という研究ですからね」
これははっきりさせておく。
トウガラシ号は魔石で動いているわけじゃない。
オレ自身の魔力を使っている。
そこは譲れない。
「しかし、誰でも運転できるというのが非常に大きい」
「ただし、誰でも同じ速度ではありません」
「そこですね」
グラハムさんが頷く。
「魔力の量だけでなく、知力も影響する」
「はい」
「つまり、単純に魔力量が多ければいいわけではない」
「そうですね」
「ならば、魔術師なら誰でも高速運転できるわけではない」
「その通りです」
研究者たちが顔を見合わせる。
これはかなり重要な話らしい。
「となると、運転技術も必要になる」
「そうですね」
「訓練制度も必要になる」
「たぶん」
「やはり免許が必要だな」
「そこに戻るのか」
思わず突っ込んでしまった。
グラハムさんが笑う。
「ところで」
別の研究者が手を挙げる。
「量産は可能ですか?」
「理論上は」
「実際には?」
「分かりません」
「作る気は?」
「オレの手がいっぱいになるので、考えていません」
「王家に納める予定は?」
「今のところありません」
研究者たちが黙る。
そこまで即答で断るとは思っていなかったらしい。
「イソ様」
エミリアが横から口を挟む。
「無理をして作る必要はないのです」
「そうだな」
「イソ様が忙しくなるのは困るのです」
「なんで?」
「イソ様と一緒にいられる時間が減ってしまうからなのです」
「……」
「それは困るのです」
エミリアはにっこり笑う。
「とても、とても困るのです」
「……そうか」
やっぱりエミリアは、オレ中心だ。
研究者たちも何とも言えない顔をしている。
「それに」
エミリアは続けた。
「イソ様が作るものなら、わたしは何でも好きなのです」
「トウガラシ号じゃなくても?」
「もちろんです」
「じゃあ、何でもいいじゃん」
「イソ様が作ったものなら、それだけで価値があるのです」
「……」
これは重い。
ものすごく重い。
◇◇◇
その日の午後。
予定にはなかったことが起きた。
王宮から追加の使者が来たのだ。
「イソ様」
セドリックさんが少し困った顔をしている。
「なんです?」
「トウガラシ号について、王都ギルド本部から正式な申し入れがありました」
「何の?」
「王都の一般公開についてです」
「一般公開?」
「はい」
嫌な予感しかしない。
「陛下が本日試乗されたこともあり、王都ではかなり話題になっております」
「そうでしょうね」
「そこで、王都ギルドとしては、冒険者や商人などにも実物を見せてほしいと」
「……」
オレは考える。
別に見せるくらいならいい。
でも、人が集まりすぎると面倒だ。
「エミリア、どう思う?」
「イソ様が嫌なら断るのです」
即答。
「ラージャは?」
「私は見せてもいいと思うよ!」
「リルルは?」
「ボクもいいと思う。王都でこれだけ騒ぎになったなら、隠すほうが難しいしね」
「そうだな」
オレは少し考えた。
「条件をつけよう」
「どのような条件でしょう?」
セドリックさんが聞く。
「触るのはいい。ただし、勝手に動かさない」
「はい」
「運転は許可した人だけ」
「はい」
「製造方法については答えない」
「当然ですね」
「あと、オレへの売買交渉は禁止」
ここが一番重要だ。
「それは……」
セドリックさんが苦笑する。
「かなり難しい条件になりそうですね」
「なんで?」
「トウガラシ号そのものを欲しがる方は、かなり多いでしょうから」
「売らないって言ってるのに」
「貴族というのは、諦めが悪い方も多いので」
「……」
嫌な予感がさらに増した。
翌日。
王都ギルド本部の前には、朝から人が集まっていた。
その数を見て、オレは頭を抱えた。
「……なんでこんなにいるんだ?」
「人気者ですね、イソ様」
エミリアが嬉しそうに言う。
「オレじゃなくてトウガラシ号だろ」
「どちらでも構わないのです」
「何が?」
「イソ様が注目される理由になるのでしたら、それでいいのです」
「……」
「ですが」
エミリアが少しだけ目を細める。
「イソ様本人に近づきすぎる人は、わたしがちゃんと見ておくのです」
「普通にしてくれよ」
「もちろん、なのです」
笑顔。
怖い。
「わあ……!」
ラージャは逆に大喜びしている。
「すごい人!」
「ラージャ、迷子になるなよ」
「ならないよ!」
「本当か?」
「たぶん!」
「たぶんかよ」
リルルが笑う。
「まあ、こうなるよね」
「予想してた?」
「少しだけ」
「先に言ってくれ」
「言ったら、イソ君が逃げそうだったから」
「逃げるよ」
「やっぱり」
リルルが楽しそうに笑った。
ギルドの中に入る。
受付の前には人だかり。
その奥に、トウガラシ号を展示するためのスペースが作られていた。
そして、その周囲には警備員。
「本当に展示会になってる……」
「イソ様」
エミリアがオレの腕にそっと触れる。
「大丈夫なのです」
「何が?」
「わたしがずっと一緒にいるのです」
「……ありがとう」
「イソ様が嫌な思いをすることがないようにするのです」
「そこまでしなくても大丈夫だって」
「わたしには必要なのです」
「何が?」
「イソ様を守ることが、わたしの幸せなのです」
「……」
「だから、遠慮しなくていいのです」
こういうところだけは、本当に真っ直ぐなんだよな。
「イソ君、まずは挨拶しよう!」
ラージャに引っ張られる。
「わかったわかった」
こうして、トウガラシ号の王都公開が始まった。
◇◇◇
最初に来たのは商人だった。
「これが……」
トウガラシ号を見た瞬間、目を輝かせる。
「本当に馬なしで動くのですか?」
「はい」
「いくらですか?」
「売りません」
「……では、製造権を」
「ありません」
「では、共同事業を」
「考えてません」
「王都に工房を作っては?」
「作る予定はありません」
「……」
商人が固まった。
「イソ様」
エミリアがにっこり笑う。
「この方、もう十分質問したと思うのです」
「いや、まだ……」
「順番を待っている方もいるのです」
「は、はい!」
商人が慌てて離れていく。
「エミリア」
「はいなのです?」
「怖がらせるなよ」
「怖がらせていないのです」
「本当に?」
「はいなのです」
本人に自覚がない。
たぶん。
次は冒険者だ。
「これ、俺でも乗れるのか?」
「魔力があれば動かせます」
「俺、レベル十五だけど」
「魔術師じゃないと、歩いた方が速いかと」
「そうなのか?」
冒険者が興味深そうにトウガラシ号を見る。
「魔術師レベル二十くらいなら馬車程度なんだな?」
「そう」
「へえ」
冒険者が笑う。
「じゃあ、仲間の魔術師のレベル上げさせないとなあ」
「そうするといい」
「なんか目標ができたな!」
こういう反応なら悪くない。
魔道具研究院の人たちも見ている。
商人たちも見ている。
冒険者も見ている。
みんながそれぞれ違う角度からトウガラシ号を見ている。
その光景を見ていると、少しだけ不思議な気持ちになった。
オレが作ったものが、オレの知らないところで新しい何かを生み始めている。
便利な乗り物を作った。
ただそれだけだったはずなのに。
「イソ君」
リルルが隣に来る。
「どうした?」
「嬉しそうだね」
「そう見える?」
「うん」
「……まあ」
オレはトウガラシ号を見る。
「作ったものが、ちゃんと役に立つなら、それは嬉しいかな」
「そっか」
リルルが微笑む。
「じゃあ、これからもっと大変になるね」
「え?」
「だって、もう王都中が知っちゃったんだもの」
「……」
その瞬間。
ギルドの外から大きな声が聞こえた。
「トウガラシ号を見せろ!」
「王都まで走ってきたって本当か!」
「乗れるのか!?」
「誰が作ったんだ!」
「イソって奴はどこだ!」
オレは黙った。
リルルも黙った。
ラージャが笑う。
「大人気だね!」
エミリアがオレの腕に抱きつく。
「大丈夫なのです」
「何が?」
「これだけ人がいても、わたしがイソ様を守るのです」
「いや、そこまでしなくていいから」
「では、半分くらいにしておくのです」
「何を半分にするんだよ」
ラージャが笑い出す。
「エミリア、それじゃ半分になってないよ!」
「そうなのです?」
「うん!」
リルルも笑っている。
オレも思わず笑った。
王都に来てから、ずっと慌ただしい。
研究者に囲まれて。
国王陛下に乗ってもらって。
貴族にも注目されて。
今度は王都の人たちまで集まってきた。
正直、ちょっと疲れる。
だけど。
悪くない。
トウガラシ号を見て、驚く人。
笑う人。
夢を語る人。
自分も運転してみたいと言う人。
そんな人たちを見ると、少しだけ思う。
もしかしたら。
オレが作ったものは、オレが思っていた以上に、この世界を変えてしまうのかもしれない。
そんなことを、ほんの少しだけ考えた。
「イソ君!」
ラージャが声を上げる。
「次、私が運転していい?」
「今日はもう無理だな」
「えー!」
「明日な」
「約束だよ!」
「分かったよ」
「やった!」
ラージャが笑う。
「イソ様」
エミリアがすぐに声をかける。
「わたしも明日、お願いしますなのです」
「はいはい」
「二人きりで乗りたいのです」
「……」
「二人きりで、ゆっくりお話したいのです」
「ラージャとリルルも乗るだろ」
「……そうなのですか」
エミリアが少しだけ寂しそうな顔をする。
「まあ、順番にするから」
「本当なのです?」
「ああ」
「では、楽しみにしているのです」
今度は満面の笑顔になった。
「じゃあボクも!」
リルルまで手を上げる。
「ボクも乗りたい!」
「順番だからな」
「うん!」
三人が楽しそうに笑う。
オレはトウガラシ号を見る。
そして、明日の予定を考える。
王都での滞在は、まだ始まったばかりだ。
この先、何が起きるのか。
今のオレには、まだ分からない。
ただ。
少なくとも、退屈だけはしなさそうだった。
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