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異世界転生で理想の生活を  作者: かおりん@
6章

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52/56

試乗

◆試乗


 王宮での話し合いから一夜明けた。


 今日は国王陛下がトウガラシ号に乗る日だ。


 昨日の話では、王都の外にある王家所有の演習場を使うことになっている。


 王宮の近くで試乗するわけにはいかないらしい。


 そりゃそうだ。


 いくら王都の中でも安全な場所があるとはいえ、万が一ということもある。


 オレとしても、そのほうがありがたい。


 朝食を終えると、エミリア、ラージャ、リルルと一緒にガレージへ向かった。


「でも、陛下が運転するんだよね?」


 ラージャが首を傾げる。


「そういう予定」


 トウガラシ号は昨日の試験走行でかなり走った。


 念のため、出発前に一通り確認しておく。


 車体に問題はない。


 魔術回路にも異常はない。


 タイヤも大丈夫。


 まあ、タイヤについてはこの世界では珍しいものだから、王都の人たちにはかなり注目されているけど。


 改めて考えると、馬車の車輪とは全然違う。


 ゴムという素材そのものが珍しいからな。


 デデンさんの発明だけど。


 パテントは取ったって話だから、王都でゴムタイヤが流行るのも時間の問題かもしれないけどな。


「イソ様」


「ん?」


「こちらは大丈夫なのです」


 エミリアが確認を終えて報告してくる。


「ありがとう」


「はいなのです」


 嬉しそうだ。


 こういうところだけ見ると、本当に普通の女の子なんだけどな。


「ボクも確認したよ!」


 ラージャが反対側から顔を出す。


「こっちも大丈夫!」


「ありがと」


「えへへ」


 ラージャは満面の笑みだ。


 こういうところは本当に明るい。


「それじゃ、行こうか」


「うん!」


「はいなのです」


「楽しみだね」


 そんな感じで、オレたちは王家の用意した馬車と一緒に演習場へ向かった。


 ◇◇◇


 演習場は王都の南側。


 昨日の走行試験をした場所よりもさらに広い。


 周囲には高い柵が設けられている。


 魔法による防護設備まであるらしい。


 軍が訓練に使う場所だそうだ。


「随分と本格的だな」


「陛下が乗られるのですから」


 セドリックさんが当然のように答える。


「事故が起きたら大変ですからね」


「それはそうだけど」


 王様って大変だな。


 自分で乗りたいと言っただけで、ここまで大掛かりになる。


 オレがトウガラシ号を所定の位置に停めていると、周囲がざわつき始めた。


 護衛の騎士。


 魔道具研究院の研究者。


 王都ギルド本部の職員。


 それから、昨日はいなかった軍関係者もいる。


 かなりの人数だ。


「イソ君」


 リルルが小声で言う。


「これ、ちょっとした国家行事みたいになってない?」


「オレもそう思う」


「大丈夫?」


「たぶん」


「たぶんなんだ」


 リルルが笑う。


「まあ、ボクも楽しんでるけどね」


 その横でラージャも周囲を見回していた。


「すごい人だね!」


「ラージャ、あまり遠くへ行くなよ」


「はーい!」


「エミリアも」


「もちろん、なのです」


 エミリアがオレの隣にぴったりと寄る。


 近い。


 ものすごく近い。


「……エミリア?」


「護衛なのです」


「護衛なら、もう少し離れてもいいと思うけど」


「わたしの護衛対象はイソ様なのです」


「そうですか」


「はいなのです」


 これは離れる気がないな。


 まあいいか。


「陛下がお見えになります!」


 声が響いた。


 全員が一斉に姿勢を正す。


 オレも慌てて立つ。


 王族用の馬車が入ってきた。


 護衛の騎士に囲まれている。


 そして馬車から国王陛下が降りてきた。


「待たせたな」


「いえ」


 陛下はすぐにトウガラシ号を見る。


「今日も素晴らしいな」


「ありがとうございます」


「これに乗れると思うと、昨日から楽しみで仕方がなかった」


 国王陛下が少年みたいな顔をしている。


 ちょっと意外だ。


「では、さっそく説明します」


「頼む」


 オレは運転席を指差す。


「ここが運転席です」


「なるほど」


「このあたりで方向を変えます」


 ハンドルを説明する。


「そして、この部分が速度を調整するところです」


「分かった」


「ブレーキはこれです」


「分かった」


「最初はゆっくりでお願いします」


「もちろんだ」


 陛下は真剣な顔で説明を聞いている。


 周囲の研究者たちもメモを取っている。


「それと、昨日も話した通り、トウガラシ号は基本的に誰でも運転できます」


「魔力が必要なのだったな」


「はい」


「魔力が少ない者はどうなる?」


「動きます。ただし、かなり遅いです」


「どのくらいだ?」


「普通の人なら、歩くより少し速いくらいでしょうか」


「なるほど」


「魔力と知力が高いほど、性能を引き出せます。レベル二十くらいの魔術師なら、馬車くらいの速度は出せると思います」


「そして、君ならそれ以上か」


「そうですね」


「面白い」


 陛下が笑った。


「つまり、車そのものだけではなく、運転する者によって性能が変わるのだな」


「はい」


 オレは頷いた。


 陛下が運転席に座る。


 その瞬間だった。


 周囲が静まり返った。


 王様が馬車ではなく、見たこともない乗り物に乗っている。


 そりゃ緊張するよな。


「まずは魔力を流してください」


「こうか?」


「はい」


 トウガラシ号が小さく振動する。


 周囲から小さなどよめきが起きた。


「これが魔法陣か」


「そうです」


 グラハムさんが目を輝かせる。


「構造をもう一度……」


「秘密です」


「……はい」


 昨日も同じやり取りをした。


 グラハムさん、本当に研究者だな。


「では、ゆっくり動かしてください」


「分かった」


 陛下が操作する。


 トウガラシ号が動き始めた。


 ゆっくり。


 ゆっくりと。


 歩くより少し速いくらいだ。


「おお!」


 陛下が声を上げる。


 いや、そりゃ動くでしょう。


 でも、本人はかなり嬉しそうだ。


 そのまま少し進む。


 速度はまだ遅い。


「魔力をもう少し流してみてください」


「こうか?」


「はい」


 少し速度が上がる。


 風が入ってくる。


 陛下の顔がさらに明るくなる。


「これは面白い!」


 王様、完全に楽しんでるな。


「陛下、曲がれます」


「分かった」


 ハンドルを操作する。


 トウガラシ号がゆっくりと曲がる。


「おお……!」


「戻してください」


「こうか」


 今度は反対へ。


「これは馬車とは全然違うな」


「そうですね」


「馬車より小回りが利く」


「そこは便利だと思います」


 何周か走る。


 最初はゆっくりだったが、徐々に魔力の流し方にも慣れてきたらしい。


 速度が上がる。とはえ、国王は魔術師ではない。


 ひとが走る程度の速さで頭打ちだ。


 まだまだ安全な範囲だ。


 それでも周囲から歓声が上がる。


「速い!」


「陛下、かなりお上手ですね」


 ラージャが嬉しそうに言う。


「ほんとだ!」


「陛下、楽しそう」


 リルルも笑っている。


「でも、イソ君が運転するともっと速いんだよね?」


「そうだな」


「じゃあ、今度はイソ君が運転して!」


「予定にはないけど」


「えー」


 ラージャが不満そうな声を出す。


 その横でエミリアが微笑む。


「イソ様が運転されるなら、わたしも乗るのです」


「なんでエミリアが乗ること前提なんだ?」


「当然なのです」


「当然?」


「イソ様の隣は、わたしがいる場所なのです」


「……そうですか」


 しばらく走ったところで、陛下が戻ってきた。


「いや、楽しかった」


 完全に満足している顔だった。


「ありがとうございます」


「しかし、これは想像以上だ」


 陛下はトウガラシ号を眺める。


「これが王都中を走るようになれば、街の風景も変わるだろうな」


「そうですね」


「問題も増えるだろう」


「はい」


「速度の違う車両が混在する」


「はい」


「事故も起きる」


「たぶん」


「道路をどうするか」


「それも必要ですね」


「駐車場所も必要だ」


「そうですね」


「運転できる者をどう管理するか」


「免許みたいなものも必要かもしれません」


「免許?」


「運転していい人を決める仕組みです」


「なるほど」


 陛下が考え込む。


「面白いな」


「面白い?」


「新しいものが生まれるということは、新しい仕事も生まれるということだ」


 陛下は研究者たちを見る。


「製造する者」


 商人を見る。


「販売する者」


 軍人を見る。


「整備する者」


 そして街の管理をする者。


「道路を作る者」


 陛下は一度トウガラシ号を見る。


「これは単なる乗り物ではないのだな」


 そう言われると、少しだけ考えてしまう。


 オレとしては、ただ便利な乗り物を作っただけなんだけど。


「まあ……便利になればいいですね」


 オレがそう答えると、陛下は笑った。


「そのくらいでいい」


「え?」


「君が国家の未来を背負う必要はない」


「……」


「君は君の好きなものを作ればいい」


 なんだか妙に心に残る言葉だった。


 ◇◇◇


 試乗が終わった後、研究者たちから追加の質問が始まった。


「イソ殿」


 グラハムさんだ。


「やはり魔法陣について、もう少しだけ……」


「秘密です」


「少しくらい!」


「秘密です」


「……残念です」


 この人、昨日からこればっかりだな。


「ただ、トウガラシ号の基本構造についてなら説明できます」


「本当ですか?」


「はい」


 オレは説明する。


 車輪の中にある動力。


 それぞれの車輪が独立して動くこと。


 魔力を使って動力を発生させること。


 そして、運転する人の魔力と知力によって性能が変わること。


 グラハムさんたちは必死にメモを取っている。


「なるほど……」


「これは従来の魔道具とは考え方が違いますね」


「デデン殿の魔石駆動とは完全に別系統だ」


「デデンさんの魔石駆動も基本的な魔法陣は同じなんですよ。

 こちらの方が洗練されているだけで」


 古吸血鬼(エルダーヴァンパイア)の技術だからな。


「デデンさんが研究している魔石駆動は、また別物の研究です。

 同系統の魔法陣を魔石で駆動できないか、という研究ですからね」


 これははっきりさせておく。


 トウガラシ号は魔石で動いているわけじゃない。


 オレ自身の魔力を使っている。


 そこは譲れない。


「しかし、誰でも運転できるというのが非常に大きい」


「ただし、誰でも同じ速度ではありません」


「そこですね」


 グラハムさんが頷く。


「魔力の量だけでなく、知力も影響する」


「はい」


「つまり、単純に魔力量が多ければいいわけではない」


「そうですね」


「ならば、魔術師なら誰でも高速運転できるわけではない」


「その通りです」


 研究者たちが顔を見合わせる。


 これはかなり重要な話らしい。


「となると、運転技術も必要になる」


「そうですね」


「訓練制度も必要になる」


「たぶん」


「やはり免許が必要だな」


「そこに戻るのか」


 思わず突っ込んでしまった。


 グラハムさんが笑う。


「ところで」


 別の研究者が手を挙げる。


「量産は可能ですか?」


「理論上は」


「実際には?」


「分かりません」


「作る気は?」


「オレの手がいっぱいになるので、考えていません」


「王家に納める予定は?」


「今のところありません」


 研究者たちが黙る。


 そこまで即答で断るとは思っていなかったらしい。


「イソ様」


 エミリアが横から口を挟む。


「無理をして作る必要はないのです」


「そうだな」


「イソ様が忙しくなるのは困るのです」


「なんで?」


「イソ様と一緒にいられる時間が減ってしまうからなのです」


「……」


「それは困るのです」


 エミリアはにっこり笑う。


「とても、とても困るのです」


「……そうか」


 やっぱりエミリアは、オレ中心だ。


 研究者たちも何とも言えない顔をしている。


「それに」


 エミリアは続けた。


「イソ様が作るものなら、わたしは何でも好きなのです」


「トウガラシ号じゃなくても?」


「もちろんです」


「じゃあ、何でもいいじゃん」


「イソ様が作ったものなら、それだけで価値があるのです」


「……」


 これは重い。


 ものすごく重い。


 ◇◇◇


 その日の午後。


 予定にはなかったことが起きた。


 王宮から追加の使者が来たのだ。


「イソ様」


 セドリックさんが少し困った顔をしている。


「なんです?」


「トウガラシ号について、王都ギルド本部から正式な申し入れがありました」


「何の?」


「王都の一般公開についてです」


「一般公開?」


「はい」


 嫌な予感しかしない。


「陛下が本日試乗されたこともあり、王都ではかなり話題になっております」


「そうでしょうね」


「そこで、王都ギルドとしては、冒険者や商人などにも実物を見せてほしいと」


「……」


 オレは考える。


 別に見せるくらいならいい。


 でも、人が集まりすぎると面倒だ。


「エミリア、どう思う?」


「イソ様が嫌なら断るのです」


 即答。


「ラージャは?」


「私は見せてもいいと思うよ!」


「リルルは?」


「ボクもいいと思う。王都でこれだけ騒ぎになったなら、隠すほうが難しいしね」


「そうだな」


 オレは少し考えた。


「条件をつけよう」


「どのような条件でしょう?」


 セドリックさんが聞く。


「触るのはいい。ただし、勝手に動かさない」


「はい」


「運転は許可した人だけ」


「はい」


「製造方法については答えない」


「当然ですね」


「あと、オレへの売買交渉は禁止」


 ここが一番重要だ。


「それは……」


 セドリックさんが苦笑する。


「かなり難しい条件になりそうですね」


「なんで?」


「トウガラシ号そのものを欲しがる方は、かなり多いでしょうから」


「売らないって言ってるのに」


「貴族というのは、諦めが悪い方も多いので」


「……」


 嫌な予感がさらに増した。


 翌日。


 王都ギルド本部の前には、朝から人が集まっていた。


 その数を見て、オレは頭を抱えた。


「……なんでこんなにいるんだ?」


「人気者ですね、イソ様」


 エミリアが嬉しそうに言う。


「オレじゃなくてトウガラシ号だろ」


「どちらでも構わないのです」


「何が?」


「イソ様が注目される理由になるのでしたら、それでいいのです」


「……」


「ですが」


 エミリアが少しだけ目を細める。


「イソ様本人に近づきすぎる人は、わたしがちゃんと見ておくのです」


「普通にしてくれよ」


「もちろん、なのです」


 笑顔。


 怖い。


「わあ……!」


 ラージャは逆に大喜びしている。


「すごい人!」


「ラージャ、迷子になるなよ」


「ならないよ!」


「本当か?」


「たぶん!」


「たぶんかよ」


 リルルが笑う。


「まあ、こうなるよね」


「予想してた?」


「少しだけ」


「先に言ってくれ」


「言ったら、イソ君が逃げそうだったから」


「逃げるよ」


「やっぱり」


 リルルが楽しそうに笑った。


 ギルドの中に入る。


 受付の前には人だかり。


 その奥に、トウガラシ号を展示するためのスペースが作られていた。


 そして、その周囲には警備員。


「本当に展示会になってる……」


「イソ様」


 エミリアがオレの腕にそっと触れる。


「大丈夫なのです」


「何が?」


「わたしがずっと一緒にいるのです」


「……ありがとう」


「イソ様が嫌な思いをすることがないようにするのです」


「そこまでしなくても大丈夫だって」


「わたしには必要なのです」


「何が?」


「イソ様を守ることが、わたしの幸せなのです」


「……」


「だから、遠慮しなくていいのです」


 こういうところだけは、本当に真っ直ぐなんだよな。


「イソ君、まずは挨拶しよう!」


 ラージャに引っ張られる。


「わかったわかった」


 こうして、トウガラシ号の王都公開が始まった。


 ◇◇◇


 最初に来たのは商人だった。


「これが……」


 トウガラシ号を見た瞬間、目を輝かせる。


「本当に馬なしで動くのですか?」


「はい」


「いくらですか?」


「売りません」


「……では、製造権を」


「ありません」


「では、共同事業を」


「考えてません」


「王都に工房を作っては?」


「作る予定はありません」


「……」


 商人が固まった。


「イソ様」


 エミリアがにっこり笑う。


「この方、もう十分質問したと思うのです」


「いや、まだ……」


「順番を待っている方もいるのです」


「は、はい!」


 商人が慌てて離れていく。


「エミリア」


「はいなのです?」


「怖がらせるなよ」


「怖がらせていないのです」


「本当に?」


「はいなのです」


 本人に自覚がない。


 たぶん。


 次は冒険者だ。


「これ、俺でも乗れるのか?」


「魔力があれば動かせます」


「俺、レベル十五だけど」


「魔術師じゃないと、歩いた方が速いかと」


「そうなのか?」


 冒険者が興味深そうにトウガラシ号を見る。


「魔術師レベル二十くらいなら馬車程度なんだな?」


「そう」


「へえ」


 冒険者が笑う。


「じゃあ、仲間の魔術師のレベル上げさせないとなあ」


「そうするといい」


「なんか目標ができたな!」


 こういう反応なら悪くない。


 魔道具研究院の人たちも見ている。


 商人たちも見ている。


 冒険者も見ている。


 みんながそれぞれ違う角度からトウガラシ号を見ている。


 その光景を見ていると、少しだけ不思議な気持ちになった。


 オレが作ったものが、オレの知らないところで新しい何かを生み始めている。


 便利な乗り物を作った。


 ただそれだけだったはずなのに。


「イソ君」


 リルルが隣に来る。


「どうした?」


「嬉しそうだね」


「そう見える?」


「うん」


「……まあ」


 オレはトウガラシ号を見る。


「作ったものが、ちゃんと役に立つなら、それは嬉しいかな」


「そっか」


 リルルが微笑む。


「じゃあ、これからもっと大変になるね」


「え?」


「だって、もう王都中が知っちゃったんだもの」


「……」


 その瞬間。


 ギルドの外から大きな声が聞こえた。


「トウガラシ号を見せろ!」


「王都まで走ってきたって本当か!」


「乗れるのか!?」


「誰が作ったんだ!」


「イソって奴はどこだ!」


 オレは黙った。


 リルルも黙った。


 ラージャが笑う。


「大人気だね!」


 エミリアがオレの腕に抱きつく。


「大丈夫なのです」


「何が?」


「これだけ人がいても、わたしがイソ様を守るのです」


「いや、そこまでしなくていいから」


「では、半分くらいにしておくのです」


「何を半分にするんだよ」


 ラージャが笑い出す。


「エミリア、それじゃ半分になってないよ!」


「そうなのです?」


「うん!」


 リルルも笑っている。


 オレも思わず笑った。


 王都に来てから、ずっと慌ただしい。


 研究者に囲まれて。


 国王陛下に乗ってもらって。


 貴族にも注目されて。


 今度は王都の人たちまで集まってきた。


 正直、ちょっと疲れる。


 だけど。


 悪くない。


 トウガラシ号を見て、驚く人。


 笑う人。


 夢を語る人。


 自分も運転してみたいと言う人。


 そんな人たちを見ると、少しだけ思う。


 もしかしたら。


 オレが作ったものは、オレが思っていた以上に、この世界を変えてしまうのかもしれない。


 そんなことを、ほんの少しだけ考えた。


「イソ君!」


 ラージャが声を上げる。


「次、私が運転していい?」


「今日はもう無理だな」


「えー!」


「明日な」


「約束だよ!」


「分かったよ」


「やった!」


 ラージャが笑う。


「イソ様」


 エミリアがすぐに声をかける。


「わたしも明日、お願いしますなのです」


「はいはい」


「二人きりで乗りたいのです」


「……」


「二人きりで、ゆっくりお話したいのです」


「ラージャとリルルも乗るだろ」


「……そうなのですか」


 エミリアが少しだけ寂しそうな顔をする。


「まあ、順番にするから」


「本当なのです?」


「ああ」


「では、楽しみにしているのです」


 今度は満面の笑顔になった。


「じゃあボクも!」


 リルルまで手を上げる。


「ボクも乗りたい!」


「順番だからな」


「うん!」


 三人が楽しそうに笑う。


 オレはトウガラシ号を見る。


 そして、明日の予定を考える。


 王都での滞在は、まだ始まったばかりだ。


 この先、何が起きるのか。


 今のオレには、まだ分からない。


 ただ。


 少なくとも、退屈だけはしなさそうだった。


ユニークアクセスが2000人を超えました。

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