閑話.ラージャの挑戦
◆ラージャの挑戦
ボクはラージャ。イソ君の奴隷になったんだ。
ボクの村はソーニッジ村っていうんだ。
ダークエルフの集落なんだよ。
ダークエルフは迫害を受けているので、山奥でひっそりと暮らしているんだ。
それで昔から比べればずいぶん暮らしやすくなったって村のご老人は言ってた。
いまは他の村と交流もできるけど、昔はそんなこともできなかったって話だからね。
ダークエルフは嫌われてたんだって。
ちょっと身体能力が高いくらいで、そんなにヒューマンと違わないんだけどねえ。
寿命は長いけど。
そんなボクの故郷のソーニッジ村も土竜に全滅させられちゃった。
突然現れた土竜の襲撃で、ホントあっというまに村はやられちゃったよ。
ボクはたまたま森の中に採取に行ってたから助かったけど。
救助?
無理だって。
ドラゴンだよ? 勝てるわけないって。
そりゃ盗賊くらいならどうにでもなるけどさあ。
ボクたちも決して弱くはないけど、モンスターの頂点のドラゴンをどうにかできるほど強くはないよね。
それで、ふもとのヒューマンの村まで逃げてきたんだけど。
幸い、ドラゴンはボクを追いかけては来なかったし。そういうものなのかな?
村のひとたちは、いいひとたちで、一応ボクを住まわせてくれたんだ。物置だったけどね。雨露をしのげるだけで十分さ。
食べ物はねー。
村も潤沢とは言えなかったから、近くで採取してた。
村のひとも採取して来たものと物々交換はしてくれたから、たまにはお肉も食べられたよ。
でも、このままじゃジリ貧だよね、って思ってさ。
村八分ではなかったけど、村の一員として認められてるわけでもなかったからさ。
そしたら奴隷商のひとが村にやってきたわけ。
仕方ないかなーと思ってさ。奴隷なら食いいっぱぐれないじゃん?
どうせヒューマンが主人になるなら、人生のうち、ほんの少しの時間、奴隷になって、手に職つけてから解放されたらいいかなって。
そして、気がついたらボクはイソ君の奴隷になってたわけさ!
エミリアは―――
最初は厳しかったよね。イソ君への敬意が足りないとか言ってさ。
15歳の少年に敬意を持てって言われてもねー。
…実際にはすごい子だったんだけど。
なんなのイソ君って。呆れるほど強いんだけど。
イソ君の奴隷になったらボクもめちゃくちゃ強くなるし。
普通じゃないよね? 普通じゃないことはわかってるけど、奴隷は秘密を喋れないってことになってるし、下手に秘密を知ってしゃべれないストレスを抱えてもイヤだから、細かいことは気にしないことにしたよ!
イソ君はすごい! 結果、ボクもすごく強くなった!!
うん、それだけわかってればいいよね。
イソ君のこと?
いいご主人様だよね。
とくに何か命令をすることもないし。
奴隷の扱いはいいんじゃないかな。
…よくはないか。戦闘奴隷だしね。
ダンジョンに連れて行かれてるんだから、あまりよい扱いではないのかも。
でも、無茶は最初の頃だけだったし、すぐに強くなったし、強くなってからは無茶な敵と戦わされることはほとんどないしね。
一度、かたき討ちってことで、土竜とひとりで戦わされたけど。
あれはイソ君的には適正な相手だったみたいだしねえ。
実際ソロで倒せたし。
ソーニッジ村の石碑のことは感謝してるよ。
優しいよね、イソ君。
夜は激しいけど。
夜も毎晩じゃなくって、ボクの気が向いたときだけでいいしね!
エミリアは毎晩だけど、アレは好きでそうしてるみたいだから、何も言わない。
正直、ボクは毎晩だと身体がもたないよ。イソ君とエミリア強すぎ。
イソ君とダンジョン行かない日は、たいてい自由に過ごすよ。
外に出かけることが多いかな。
イソ君がサンマル号を作ってくれてからは、街の外に出ることも多いし、ひとりでスミストルまで行くこともある。
レベル上げ?
そんなんじゃなくて、ちょっと身体を動かしに、かな。
ソロだとそんなに深い階層までは潜れないし。
魔法? 使えるよ? 得意じゃないだけで。でも、並みの魔術師よりは強力な魔法が使えると思う。イソ君に特訓させられたからね。
なのでひとりで結構な階層までは潜れるんだよね。
サンマル号ならスミストルまですぐだし。サンマル号いいよね。イソ君、ホントいいの作ってくれたよ。あ、作ったのはデデンさんか。
だから「戦乙女」とも仲はいいと思うよ。スミストルに潜ってるとしょっちゅう会うしね。
エイミーちゃんとはとくに仲がいいかも。あの子素直だしねー。
そういう意味ではソーニャとも仲がいいのかな?
気分が乗るとロージアンまで飛ばすこともあるからねー。
ロージアンまで行ったらソーニャに近況報告してる。
ソーニャがイソ君のことを聞きたがるからねー。
◇◇◇
ロージアンからアルスターに戻ってきたある日のこと。
ボクは冒険者ギルドに顔を出していた。
別に依頼を受けに来たわけじゃない。依頼ならイソ君が受けるしねえ。奴隷だからって受けられないわけじゃないけどさ。
今日はちょっとしたイベントがあるらしいんだよ。
その名も――ギルド飯大会。
冒険者やギルド職員が料理を持ち寄って、みんなで食べ比べをするんだって。
優勝者には賞品も出るらしい。
賞品は……金貨じゃない。
ちょっとした食材の詰め合わせと、ギルド内で使える食事券。
まあ、そんなに豪華な大会じゃない。
でも、こういうのって楽しそうだよね。
戦うわけじゃないし。
ダンジョンに潜るわけでもない。
たまには、こういう平和なイベントもいいと思う。
そう思っていたら。
「ラージャも出なさい」
ギルドのおばちゃんに声をかけられた。
「ボクが?」
「そうよ」
「料理?」
「料理」
「ボク、そんなに料理得意じゃないよ?」
「でも、ダークエルフなんでしょう?」
「うん」
「じゃあ、郷土料理を作ればいいじゃない」
なるほど。
そういうことか。
「でも、うちの村の料理なんて普通だよ?」
「それがいいのよ」
「普通?」
「普通だから食べてみたいの」
おばちゃんは笑った。
「アルスターに住んでる人間には、ダークエルフの家庭料理なんて馴染みがないんだから」
「そうかなあ」
「そうなの」
そこまで言われたら断るのも悪い。
「じゃあ、出てみる」
「決まりね!」
こうしてボクは、ギルド飯大会に参加することになったんだよね。
優勝したらイソ君、喜んでくれるかなー。
さて。
何を作ろう。
ソーニッジ村の料理を思い出す。
山奥の集落だったから、料理は基本的に質素だ。
山菜。
キノコ。
木の実。
干し肉。
保存食。
たまに狩りで取れた肉。
魚も川で取れるけど、毎日食べられるほどじゃない。
だから、山で手に入るものを上手に使う。
ポイントは、山で採れる香辛料だね!
それがソーニッジ村の料理だった。
そして。
ボクが選んだのは三品。
キノコと山菜の炊き込みご飯。
干し肉と山菜のスープ。
木の実を使った焼き菓子。
どれも村では珍しくもなんともない。
むしろ、誰でも作れる。
実はこの三品、イソ君が喜んだ料理でもあるのだ。
とくに焼き菓子は気に入ったみたいで、時々ねだられる料理だったりする。
「これでいいかな?」
材料を並べる。
おばちゃんが覗き込んだ。
「……ずいぶん地味ね」
「やっぱり?」
「いや、悪いって言ってるんじゃないのよ」
「うん」
「でも、大会だからねえ」
おばちゃんは少し考えて。
「もっと豪華なものにしなくていいの?」
「豪華?」
「肉を使うとか」
「干し肉なら使うよ」
「そうじゃなくて、もっとこう……」
おばちゃんが両手を広げる。
「ドーン! って感じの」
「料理にドーンって必要?」
「大会には必要なの!」
なるほど。
料理の世界は奥が深い。
でも。
「これがソーニッジ村の料理だから」
ボクはそう答えた。
なによりイソ君が喜んでくれた料理なのだ。
これで勝負すべきだろう。
「じゃあ、これでいいわ」
おばちゃんも納得してくれた。
調理を始める。
まず干し肉を水で戻す。
その間に山菜を刻む。
キノコを切る。
米を研ぐ。
鍋に入れる。
干し肉を細かく刻む。
あとは火にかける。
仕上げに地元の香辛料をちょっと。
簡単。
ものすごく簡単。
ソーニッジ村なら、これくらい誰でも作れる。
料理当番の子供だってやっていたくらいだ。
珍しいところといえば、地元の香辛料かな。
ソーニッジまで行かないと手に入らないから、ソーニッジのダンジョンに行ったときにしこたま採って来た。
ところが。
「……いい匂いね」
おばちゃんが鍋を覗き込んだ。
「そう?」
「うん」
「普通の匂いだよ?」
「私には珍しい匂いなのよ」
言われてみればそうか。
キノコと山菜。
干し肉。
それに、ソーニッジ村独特の香辛料。
ボクにとっては故郷の匂いだけど。
アルスターの人には違うんだ。
やがて、他の冒険者たちも集まってきた。
「何作ってるんだ?」
「ダークエルフの郷土料理だってよ」
「へえ」
「珍しいな」
「食っていいのか?」
「まだ駄目!」
おばちゃんが追い払う。
なんだかちょっと面白い。
料理ができるまで、みんな待っている。
やがて。
炊き込みご飯が炊き上がった。
蓋を開ける。
ふわっと湯気が上がる。
キノコと山菜。
干し肉。
香辛料。
懐かしい匂いがした。
「……」
一瞬。
ソーニッジ村の景色が頭に浮かんだ。
みんなで食事をして。
今日採ってきたものを自慢して。
子供たちは騒いで。
大人たちは笑って。
……もう、ないんだよね。
ボクは少しだけ目を伏せた。
「ラージャ?」
「ん?」
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
笑ってごまかした。
「じゃあ、食べてみて」
まずはおばちゃん。
匙で少しすくう。
ぱくっ。
「……」
無言。
「どう?」
おばちゃんがもう一口食べる。
「……おいしい」
「本当?」
「ええ」
そして、少し考える。
「派手じゃないけど……」
「うん」
「なんだか、落ち着く味ね」
その言葉に、ボクはちょっと嬉しくなった。
「そう?」
「そうよ」
次々と冒険者も食べ始める。
「うまい!」
「キノコの味がいいな」
「干し肉の旨味が出てる」
「これ、酒にも合うぞ」
好評だった。
次はスープ。
干し肉を煮込んで、山菜を入れただけ。あとはほんの少しの香辛料。
これも村では冬によく食べた。
「うまい!」
「身体が温まるな」
「これならダンジョン帰りにもよさそうだ」
さらに焼き菓子。
木の実を潰して、少し甘くして焼いたもの。これにも香辛料が使われてる。
「これ好き!」
「子供にも食わせたいな」
「売ってくれないか?」
「え?」
「これ、売ってないのか?」
「売る?」
「うん」
「ただの村のお菓子だよ?」
「だからいいんじゃないか」
なんだか話がおかしくなってきた。
でも。
ここまでは、かなり評判がいい。
もしかして。
ボク、結構いける?
……なんて思ったのは、ほんの一瞬だった。
他の参加者の料理を見て。
「……」
黙った。
すごい。
ものすごい。
丸ごと焼いた肉。
香辛料をたっぷり使った魚料理。
色鮮やかな野菜料理。
何層にも重なったパイ。
見た目からして違う。
どれもどこかのお店で出しても恥ずかしくないような料理ばかりだ。
ボクの料理なんて。
鍋。
鍋。
焼き菓子。
地味。
圧倒的に地味。
「これ、勝てるの?」
思わず口に出した。
「何に?」
「大会」
おばちゃんが笑った。
「さあね」
「やっぱり無理かな」
「味では負けてないと思うけど」
「でも見た目が……」
「まあ、見た目はね」
そう言って、おばちゃんは苦笑した。
そして審査が始まった。
審査員はギルドマスターと職員、それから何人かの冒険者。
最初は料理の見た目。
次に香り。
そして味。
他の料理はどれもすごかった。
「これは香辛料の使い方がいい」
「肉が柔らかい」
「ソースが絶品だ」
次々に高評価が出る。
そしてボクの番。
「ダークエルフの郷土料理ね」
「はい」
「これは?」
「キノコと山菜の炊き込みご飯」
「なるほど」
一口。
「……」
審査員が考え込む。
「おいしいですね」
「ありがとうございます」
「でも、素朴ですね」
「うん」
「これは?」
「干し肉と山菜のスープです」
一口。
「……これも素朴だ」
「そうですね」
最後に焼き菓子。
「これも?」
「木の実のお菓子です」
「……なるほど」
審査員が困った顔をした。
ボクは思った。
ああ。
これは駄目だ。
おいしいとは言ってくれた。
でも、大会で優勝する料理じゃない。
やっぱり、普通の料理なんだ。
そして最後の料理が終わった。
いよいよ結果発表。
ボクはもう、ほとんど諦めていた。
イソ君が好きならそれでいいよねーと思っていた。
「今回のギルド飯大会だが――」
ギルドマスターが立ち上がる。
みんなが静かになる。
「まず、料理としての評価を発表しよう」
なるほど。
料理として。
……ということは。
「優勝候補は、こちらの肉料理!」
会場から拍手が起こる。
当然だ。
あれだけ豪華なんだから。
ボクの料理が勝てるわけがない。
そう思っていた。
ところが。
「ただし」
ギルドマスターが続けた。
「今年は、少し事情が違うのだよ」
「?」
会場が静かになる。
「そもそも、この大会は何のために始めた?」
誰かが答えた。
「冒険者が楽しむため?」
「それもある」
ギルドマスターが笑う。
「だが、もう一つあるであろう?」
ギルドマスターが料理を見回す。
「冒険者が、冒険者らしい飯を知るためだ」
ボクは首を傾げた。
「冒険者らしい飯?」
「そうだ」
ギルドマスターは続けた。
「豪華な料理は確かにうまい。だが、ダンジョンの中で毎日食えるか?」
「……」
「材料は簡単に手に入るか?」
「……」
「保存できるか?」
「……」
「疲れた冒険者でも作れるか?」
会場が静かになった。
ギルドマスターが、ボクの料理を見る。
「ラージャの料理は、そのすべてを満たしている」
ボクは目を丸くした。
「え?」
ギルドマスターが炊き込みご飯を指差す。
「材料の多くが保存可能」
スープを指差す。
「干し肉を使っているから、肉が手に入らない時期でも作れる」
焼き菓子を指差す。
「木の実を使った保存食だ」
そして。
「何より、作り方が簡単だ」
「……」
そう言われても。
ボクには普通のことだ。
「でも、それって……」
「普通だろう?」
「うん」
ギルドマスターが笑った。
「そこが重要なんだ」
会場の冒険者たちも、少しずつ納得し始めた。
「そういえば……」
「遠征に持っていけるな」
「鍋一つで作れるのか」
「材料もそこまで高くない」
「何日も食べられそうだ」
さっきまで料理の味だけを見ていた人たちが、別の視点で料理を見始めている。
そして。
「もう一つ」
ギルドマスターが言った。
「この料理には、もう一つ大きな特徴がある」
「?」
「ラージャ」
「はい?」
「これは、誰に教わった料理だ?」
「村の人たち」
「誰が作っていた?」
「みんな」
「料理人か?」
「違うよ」
ボクは笑った。
「うちの村では、誰でも作ってた」
「つまり?」
「……誰でも作れる?」
「そうだ」
ギルドマスターは頷いた。
「特別な技術を必要としない。特別な設備も必要としない。特別な食材も必要としない」
そして。
「それでも、ちゃんとうまい」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が、少し熱くなった。
ソーニッジ村では。
これが普通だった。
特別じゃなかった。
誰でも作れて。
誰でも食べられて。
みんなで同じ鍋を囲んだ。
それが。
ボクの故郷だった。
そしてギルドマスターが宣言する。
「今回のギルド飯大会、優勝は――」
一瞬、間があった。
「ラージャのダークエルフ郷土料理!」
「……え?」
ボクは固まった。
「ええっ!?」
会場から拍手が起こる。
「おめでとう!」
「ラージャ!」
「また作ってくれ!」
「遠征に持っていくぞ!」
「作り方を教えてくれ!」
ものすごい騒ぎになった。
ボクは呆然としていた。
「なんで?」
思わず聞いた。
ギルドマスターが笑う。
「味だけなら、他にも優れた料理はあった」
「じゃあ……」
「だが、この大会で求められていたのは、単純に一番豪華な料理でも、一番高級な料理でもない」
ギルドマスターは、ボクの料理を見た。
「冒険者が食べる飯として、これほど優れた料理はなかった」
そして。
「それに――」
ギルドマスターが少しだけ表情を変える。
「食べている人間が、一番うまそうだった」
「え?」
ボク?
「ラージャ。君は自分の料理を食べたとき、ずっと笑っていただろう」
「……」
「料理を作った人間が、それを心からうまいと思っている。それは食べる側にも伝わるものだ」
ボクは炊き込みご飯を見る。
湯気が立っている。
キノコと山菜の匂い。
干し肉の香り。
懐かしい。
村で食べていたのと同じだ。
「……そっか」
ボクは小さく呟いた。
ソーニッジ村はなくなった。
村の家も。
畑も。
広場も。
みんなが集まっていた場所も。
もうない。
でも。
料理は残っている。
ボクが覚えている。
そして。
今日、アルスターの人たちが食べてくれた。
「じゃあ……」
ボクは料理を見ながら笑った。
「ソーニッジ村も、優勝したってことかな」
おばちゃんが隣に立った。
「そうね」
「村のみんなに教えてあげたかったな」
「きっと喜ぶわよ」
「……うん」
少しだけ寂しかった。
でも。
不思議と悲しくはなかった。
だって。
今日、ここにいる人たちが。
ソーニッジ村の料理を食べてくれた。
笑ってくれた。
おいしいと言ってくれた。
それだけで。
少しだけ、故郷が戻ってきたような気がした。
「ラージャ」
「ん?」
「賞品、受け取って」
「あ」
そうだった。
優勝したんだった。
賞品は食材の詰め合わせと、ギルドの食事券。
……食べ物ばっかりだ。
「これ、全部もらっていいの?」
「もちろん」
「じゃあ、これでまた料理を作れるね」
「そうね」
おばちゃんが笑った。
「次は何を作ってくれる?」
「次?」
「ソーニッジ村には、まだ料理があるんでしょう?」
「あるよ」
「じゃあ、次もお願い」
周りの冒険者たちも口々に言う。
「俺も食いたい!」
「次は肉料理がいい!」
「保存食を教えてくれ!」
「酒に合うやつも頼む!」
「甘いものをもっと!」
……なんだか大変なことになってきた。
「えーっと……」
ボクは頭を掻いた。
「そんなに一度には作れないよ?」
「じゃあ順番で!」
「勝手に決めないでよ!」
みんなが笑う。
ボクも笑った。
そして。
その日の夕方。
大会が終わって人が少なくなったギルドの食堂で、ボクは一人で残った炊き込みご飯を食べていた。
一口。
うん。
やっぱり、いつもの味だ。
でも。
今日は少しだけ違う。
ソーニッジ村で食べていたときは、これが当たり前だった。
みんながいるのも。
笑い声が聞こえるのも。
明日も同じように食事ができると思っていたのも。
全部、当たり前だった。
でも、今は違う。
だからこそ。
こうして料理を作ることで。
ボクは故郷を思い出せる。
そして、誰かに食べてもらうことで。
故郷の味を残していける。
「……悪くないね」
ボクは一人で呟いた。
そのとき。
「何が悪くないの?」
おばちゃんが戻ってきた。
「え?」
「一人で笑ってたから」
「別に」
ボクは残ったご飯を見せる。
「これ」
「うん」
「ソーニッジ村の味」
「そうね」
「みんなに食べてもらえてよかったなって」
おばちゃんは何も言わずに、隣の椅子に座った。
「じゃあ、私も最後に一口もらおうかな」
「いいよ」
おばちゃんが匙を取る。
一口食べる。
「……うん」
「おいしい?」
「ええ」
そして。
「いい故郷ね」
そう言った。
ボクは少しだけ驚いた。
「……うん」
それから、笑った。
「そうなんだよ」
もう戻ることはできない。
でも。
忘れる必要もない。
ソーニッジ村で食べた料理も。
みんなと過ごした時間も。
全部、ボクの中に残っている。
だから。
いつかまた、誰かに食べてもらおう。
ソーニッジ村の料理を。
それが、ボクにできる故郷の残し方なのかもしれない。
――そして翌日。
「ラージャ!」
「なに?」
「昨日の料理、もう一回作って!」
「ええっ!?」
「今日は昨日来られなかった奴らもいるのよ!」
「大会は終わったんじゃないの?」
「終わったわよ」
「じゃあ、なんで?」
「優勝した料理なんだから、もう一度食べたいでしょう?」
「……」
どうやら。
ギルド飯大会は終わったけど。
ボクの料理当番は、終わっていなかったらしい。
まあ。
いいか。
ソーニッジ村の料理を食べたいって言ってくれる人がいる。
それは。
きっと、悪いことじゃない。
「じゃあ、今日はスープを作るよ」
「本当!?」
「うん」
ボクは袖をまくった。
アルスターの冒険者ギルドに。
今日もソーニッジ村の味が広がっていく。
村はなくなった。
でも。
故郷の味は、まだ消えていない。
そして、それでいい。
ボクはラージャ。
ソーニッジ村のダークエルフ。
今はイソ君の奴隷だけど。
今日からはもう一つ。
ソーニッジ村の料理を伝える人でもある。
……まあ。
本人としては、そんな大層なものじゃないんだけどね。
ただ。
みんなで食べるご飯が、おいしい。
それだけなんだ。




