王都にて
◆王都にて
王都が見えてきた。
「……大きいな」
思わず声が出る。
アルスターもそれなりに大きな街だったが、王都は規模が違った。
高い城壁が延々と続いている。
その向こうには、建物がいくつも並んでいるのが見えた。
人の数も多い。
商人らしき人たち。
冒険者。
旅人。
そして、見るからに貴族と思われる馬車。
その中を、オレたちはトウガラシ号で進んでいく。
「王都は久しぶりだねえ」
リルルが窓の外を眺めながら言った。
「昔と違う?」
「そうだね。かなり大きくなってる」
さすがは辺境伯。
王都にも来たことがあるらしい。
というか、よく考えたらリルルは辺境伯なんだよな。
普段の言動を見ていると、そんな感じがまったくしないけど。
門の前には、かなりの数の人が並んでいる。
トウガラシ号が近づくと、門番たちがこちらを見た。
そして、一人の兵士が慌てたように駆け寄ってくる。
「トウガラシ号ですね?」
「そうだけど」
「お待ちしておりました」
兵士はそういうと、リルルを見た。
「……失礼いたしました」
姿勢を正す。
「リルル辺境伯閣下」
やっぱり、そうなるよな。あらためてリルルは辺境伯なのだと痛感する。
「うん。出迎えご苦労さま!」
リルルが普通に答える。
さっきまで「王都は大きくなったね」と言っていた人とは思えないくらい、堂々としていた。
「国王陛下より、皆様を速やかに王家の宿舎へお連れするよう申しつかっております」
「わかったよ!」
リルルが答える。
……なんかオレよりリルルが代表みたいになってないか?
まあ、辺境伯だしな。
そんなことを考えていると、門の奥から一台の馬車がやってきた。
馬車から降りてきたのは、落ち着いた雰囲気の男性だった。
「お初にお目にかかります。王家の侍従を務めております、セドリックと申します」
セドリックは丁寧に頭を下げる。
「イソ様。そして、リルル辺境伯閣下。遠路はるばる王都までお越しいただき、ありがとうございます」
「お世話になるよ!」
リルルが答える。
「こちらこそよろしく」
オレも続けた。
セドリックはトウガラシ号を見る。
「こちらが……」
「トウガラシ号ですよ」
「やはりそうですか」
セドリックは興味深そうに車体を眺めた。
「アルスターから五日で王都まで来られたと聞いております」
「はい」
「本当に馬を使わずに?」
「そうですね」
「……王都に来るまで、一度も馬を繋いでいない?」
「繋いでないですねえ」
セドリックが少し黙る。
「なるほど……」
その反応を見る限り、かなり驚いているらしい。
「では、こちらへどうぞ」
セドリックに案内され、王都の大通りを進んでいく。
周囲の視線がすごい。
トウガラシ号が珍しいのもあるだろう。
それに――
「リルル様だ」
「辺境伯閣下?」
「なぜ王都に?」
そんな声も聞こえてくる。
やっぱり有名なんだな。
「リルルって、王都でも結構知られてるんだな」
小声で言うと、
「辺境伯だからね!」
リルルは当然のように答えた。
「……そうでした」
忘れてた。
「すぐに忘れるんだから。そんなに貴族っぽくない?」
怒られた。
しばらく走ると、街の中心部から少し離れた場所にある大きな屋敷へ到着した。
「こちらが皆様にご滞在いただく王家の宿舎です」
「宿舎?」
「正確には、王家が賓客をお迎えするための邸宅です」
……宿舎っていう規模じゃない。アマネさんの家くらいあるな。
門をくぐった先には、大きな庭。
そして立派な建物。
入口には使用人たちが並んでいた。
「お帰りなさいませ」
「いや、帰ってきたわけじゃないんだけど……」
思わず呟く。
「王家のお客様だからなのです?」
中に入ると、部屋まで用意されていた。
しかも、オレだけじゃない。
エミリア。
ラージャ。
そしてリルル。
それぞれに部屋が用意されている。
「リルル辺境伯閣下のお部屋はこちらとなります」
「はいよー」
リルルが案内されていく。
やっぱり扱いが違う。
オレたちとは明らかに違うぞ。
「イソ様」
セドリックが声をかけてきた。
「トウガラシ号についてですが、専用の車庫を用意しております」
「車庫?」
「はい。王家の管理下で警備いたしますので、ご安心ください」
外を見ると、確かに立派な車庫がある。
収納にしまってしまえば、警備上の問題はないのだが、空間魔法は秘密だったな、そういえば。
アイテムバッグといって、しまうこともできるが…。
その前には兵士まで立っている。
せっかく用意してくれたので、お言葉に甘えることにする。
「……盗まれるようなものでもないと思うけど」
「念のためです」
まあ、王都に来たばかりだ。
これくらいは仕方ないか。
夕方になると、食事が運ばれてきた。
「……すごい」
テーブルいっぱいに料理が並んでいる。
肉。
魚。
野菜。
スープ。
パン。
果物。
「これ、全部食べるの?」
「王家からの歓迎の意を込めております」
セドリックが微笑む。
「なるほど」
豪華なのはいい。
だったら、こっちも何か用意しておいたほうがいいかもしれない。
激辛料理となるとラージャかな。香辛料なら、収納の中に大量にあるし。
そんなことを考えながら食事をしていると、セドリックが明日の予定を説明してくれた。
「明日の午前九時より、魔道具研究院の研究員と技術者の方々がこちらへ参ります」
「トウガラシ号を見るため?」
「はい」
「どこまで説明すればいい?」
「可能な範囲で構いません」
それなら安心だ。
全部を教えるつもりはない。
「午後三時からは、王都南門の外に用意された場所で試運転を行います」
「国王陛下も来るの?」
「明日は研究院の方々を中心とした試運転となります。陛下との正式な謁見は、明後日の午前十時を予定しております」
「わかった」
明日は魔道具研究院。
明後日は国王陛下。
王都に来た目的が、いよいよ始まる。
「イソ様」
エミリアが声をかけてくる。
「何?」
「少し緊張しているです?」
「……ちょっとだけ」
「大丈夫です」
エミリアが笑う。
「私たちも一緒なのです」
「問題ないよ!」
ラージャも短く言った。
「うん。何かあれば、ボクもいるしね!」
リルルも言う。
頼もしいといえばいいのか。まあ、三人はお気楽なものだな。
「まあ、なるようになるか」
そう言って、椅子にもたれた。
王都まで来た。
せっかくだ。
いろいろ見て回りたい。
そんなことを考えながら、オレは明日のことを思った。
魔道具研究院。
トウガラシ号を見た研究者たちは、いったい何を言ってくるのだろうか。
……できれば、あまり面倒なことにならなければいいんだけどな。
◇◇◇
翌朝。
朝食を終えたところで、屋敷の外が騒がしくなった。
「来たみたいです」
エミリアが窓の外を見る。
「予定通り九時か」
「時間には正確なようだねえ」
ラージャが言った。
「問題ないよね」
……ラージャの問題ないは、何に対してなのだろう。
やがて屋敷の入口から、何人もの人が入ってきた。
先頭にいるのは、白髪の男性。
その後ろに、十人近い男女が続いている。
服装を見る限り、全員が研究者か技術者らしい。
セドリックさんがオレのところまでやってくる。
「こちらが王都魔道具研究院の方々です」
「初めまして」
白髪の男性が頭を下げた。
「魔道具研究院の主任研究員、グラハムと申します」
「イソです」
「そして……」
グラハムさんの視線が横に移る。
「リルル辺境伯閣下」
「うん」
リルルが頷く。
研究員たちが一斉に姿勢を正した。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
「構わないよ。ボクは立会人みたいなものだからね」
リルルはそう言って、オレを見る。
「それより、トウガラシ号を見せてもらったらどうだい?」
「はい!」
グラハムさんの目が輝いた。
……完全に研究者の目だ。
「では、さっそく」
屋敷の裏手にある車庫へ向かう。
扉が開く。
そこにはトウガラシ号が停まっている。
「……」
研究員たちが黙り込んだ。
一人が車体の前まで近づく。
「これが……」
「トウガラシ号です」
オレが答える。
「想像していたより小さい」
「そうですか?」
「馬車よりも大きなものを想像しておりました」
別の研究員が車体を眺める。
「車輪は四つ」
「はい」
「車軸は?」
「馬車の車軸とは少し違います」
「少し?」
「はい」
これ以上は説明しない。
研究員がしゃがみ込む。
「……車輪の中に何かある?」
「あります」
「これは?」
「駆動するためのものです」
「魔石ですか?」
「違います」
即答する。
研究員たちが顔を見合わせた。
「魔石ではない?」
「はい」
グラハムさんがトウガラシ号を見つめる。
「では、何を動力としているのです?」
「オレの魔力です」
「……」
また、沈黙。
「イソ殿の魔力?」
「そうです」
「魔石を使わずに?」
「使ってません」
「では、魔力を直接この車体の駆動に利用している?」
「そういうことです」
研究員たちがざわつき始めた。
「そんなことが……」
「しかし、魔力を継続的に供給するとなると……」
「いや、問題は変換効率だ」
「魔法陣はどこにある?」
その言葉に、オレは少しだけ警戒した。
「魔法陣ならあります」
「やはり!」
グラハムさんが身を乗り出す。
「どのような魔法陣なのです?」
「特殊なものです」
「構造を見せていただくことは?」
「それは無理です」
魔法陣というか、魔力回路はホイールの中だ。
錬金術の構造解析ができないと読むこともできない。
「……」
グラハムさんが固まった。
「企業秘密、ということでしょうか?」
「そんな感じです」
嘘ではない。
古吸血鬼の技術を読み解けるものはいないだろう。
しかも、この世界の人たちは劣化魔術回路を魔法陣として認識している。
なら、わざわざ余計なことを説明する必要もない。
「魔法陣の詳細についてはお答えできません」
「そうですか……」
グラハムさんは残念そうだった。
だが、諦めたわけではないらしい。
「では、せめて動作を確認させてください」
「それなら」
オレはトウガラシ号の運転席に座る。
魔力を流す。
――トウガラシ号が静かに動き始めた。
「おお……!」
研究員たちから声が上がる。
ゆっくり前進する。
そして止まる。
「音がほとんどない」
「魔力の流れを感じる……」
「車輪そのものが動力になっているのか?」
研究員たちが一斉に車体を見る。
「すごいな……」
グラハムさんが呟いた。
「これを五日間走らせて王都まで来たのですか?」
「そうです」
「途中で魔力が切れたりは?」
「ないです」
「イソ様の魔力量は……」
グラハムさんが言いかけて、口を閉じた。
たぶん、聞いてはいけないと思ったのだろう。
「なるほど」
少し考えてから、グラハムさんが言った。
「これは、魔石駆動とはまったく違う技術ですね」
「そうですね」
「デデン殿が研究しているものとは、別物だ」
その名前が出てきた。
王都でも名前が知られている?
「デデンさんの研究って、どこまで知られているんですか?」
オレが聞くと、グラハムさんが少し驚いた。
変わり者のドワーフが王都で有名になっているとは。
パテントの件が効いたのかな?
「デデン殿をご存じで?」
「アルスターで会ったことがありますし、そもそもトウガラシ号の製作者ですよ」
「なるほど、デデン殿が」
グラハムさんが頷く。
「魔石を利用した動力装置の研究は進んでいると聞いてはいます。ただし、まだ安定した実用化には至っていません」
「そうですね、オレもそう聞いてます」
「だからこそ、トウガラシ号には興味があるのです」
研究員たちの視線が集まる。
「魔石ではなく、人間の魔力を動力として利用する」
「……ただ」
グラハムさんが真剣な顔になる。
「ひとつ問題があります」
「何です?」
「イソ様が乗れない場合、この車は動かせないのでは?」
「そんなこともないですけどね。速度は出ませんが。知力と魔力に依存するんですよ。だから魔石駆動が研究されてるのです」
「つまり、現状では誰でも使える乗り物ではない」
「はい。魔術師なら、そこそこ運用可能かと思いますが。
魔力が低いとのろのろとしか進みませんので、馬車の方が現実的な速度になります。
知力依存なので、ある程度、レベルも必要ですしねえ」
一般人は高くてもレベル5。トウガラシ号を動かすには、知力が低い。
研究員たちが一斉にメモを取り始めた。
……なんか、話が大きくなってきた。
「これは重要な情報です」
グラハムさんが言う。
「トウガラシ号そのものより、むしろこちらのほうが重要かもしれません」
「そうですか?」
「はい」
グラハムさんは真剣な表情で答えた。
「この乗り物が広く普及するには、誰でも扱える動力源が必要になります」
「なるほど」
「ですが――」
グラハムさんがトウガラシ号を見る。
「もし、属人的な魔力を利用することでしか動かせないとしても……」
一度言葉を切った。
「この技術は、十分に価値があります」
……やっぱり。
王都まで来た時点で、こうなる気はしていた。
トウガラシ号は、ただのオレの趣味だった。
でも。
王都の研究者から見れば、未知の技術の塊らしい。
「それでは、午後の試運転で実際の走行性能も確認させてください」
「わかりました」
「楽しみですね」
グラハムさんが笑う。
その後ろでは、研究員たちがすでに何やら相談を始めていた。
「午後は速度測定も必要だな」
「停止距離も測ろう」
「旋回性能も」
「坂道では?」
「積載量も確認したい」
「ちょっと待って」
思わず口を挟む。
「何ですか?」
「試運転って、そんなに大がかりなんですか?」
「当然です」
グラハムさんは真顔だった。
「王都で初めて公開される未知の乗り物ですよ?」
「……」
嫌な予感がする。
午後三時。
たぶん、ただ走るだけでは終わらない。
そんな気がしてきた。
◇◇◇
午後三時。
予定通り、王都南門の外へやってきた。
「……広いな」
目の前には、かなり広い空き地が用意されていた。
周囲には簡単な柵が設けられている。
その外側には、魔道具研究院の研究員だけではなく、王都の兵士やギルド関係者らしき人たちまで集まっていた。
「こんなに人が来るとは思わなかった」
「王都で初めて見る乗り物だからねえ」
リルルが言う。
「見物人まで集まってるよ」
リルルが楽しそうに周囲を見る。
「リルル、楽しんでない?」
「もちろんだとも!」
辺境伯として来ているはずなのに、完全に見物人の顔をしている。
「まずは基本的な走行からお願いします」
グラハムさんが説明する。
「直進、停止、旋回。その後、速度を上げていただきます」
「わかりました」
オレは運転席に乗り込む。
トウガラシ号に魔力を流す。
車体が静かに動き出した。
「おお……!」
周囲から声が上がる。
ゆっくりと前進する。
指定された線に沿って走り、そこで停止。
「停止位置、ほぼ正確です」
研究員が測定結果を確認している。
「では、次は旋回を」
「了解です」
ハンドルを切る。
トウガラシ号が滑らかに向きを変える。
「小回りが利きますね」
「馬車よりかなり小さく回る」
「四輪なのに、これほど旋回できるのか」
研究員たちが次々と記録していく。
なんだか試験を受けている気分だ。
「次は速度を上げてもらえますか?」
「どのくらい?」
「まずは馬車程度で」
「わかった」
魔力を少し増やす。
トウガラシ号が加速する。
風が車内に入ってくる。
「安定しています!」
「もう少し上げられますか?」
グラハムさんが聞いてくる。
「まだ余裕はあります」
「では、馬車の2倍まで」
さらに魔力を流す。
トウガラシ号が速度を上げる。
「馬車4倍相当出ました!」
研究員が叫ぶ。
「車体の振動は?」
「ほとんどありません!」
「操舵は?」
「問題なし!」
周囲が一気に騒がしくなった。
「すごいな……」
グラハムさんが呟く。
そのまま直線を走り、少しずつ速度を落とす。
「では、停止試験!」
前方に設置された目印へ向かう。
「今です!」
魔力供給を絞る。
ブレーキを踏む。
トウガラシ号が滑らかに減速し、停止した。
「停止距離は――」
研究員が地面を測っている。
「予想より短い」
「車体重量を考えるとかなり優秀ですね」
次々に数字が記録されていく。
「次は急停止をお願いします」
「急停止?」
「危険がない範囲でお願いします」
「わかった」
指定位置まで走る。
そして。
「今!」
強くブレーキを踏む。
トウガラシ号が一気に減速する。
身体が前へ持っていかれる。
……危ない。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫」
シートベルトがあって助かった。
「今のはかなり強い減速でしたね」
「実際の道路では、あまりやりたくないですけどね」
「なるほど」
グラハムさんがメモを取る。
「つまり、運転者が意図すれば相当強い制動も可能、と」
「まあ、そうですね」
また記録された。
……何でも記録するな、この人。
「次は坂道です」
「坂?」
見ると、いつの間にか簡易的な坂道まで用意されていた。
「いつ作ったんだよ……」
「朝から準備していました」
「朝から?」
「はい」
研究者って怖い。
坂道の前にトウガラシ号を止める。
「登れるか確認します」
「問題ないと思う」
魔力を増やす。
ゆっくりと坂を上る。
「止めてください!」
「ここで?」
「はい」
坂の途中で停止する。
そのまま再発進。
「……」
研究員たちが黙っている。
再び坂を上りきる。
「成功です!」
「再発進も問題なし!」
「魔力消費量は?」
「通常走行より増えています!」
研究員たちが慌ただしく記録する。
そして最後。
「では、旋回試験です」
「まだあるの?」
「あります」
グラハムさんが笑った。
「むしろ、ここからが本番です」
地面にいくつもの線が引かれている。
「この範囲内で八の字を描いてください」
「了解」
ハンドルを切る。
トウガラシ号が滑らかに旋回する。
右。
左。
再び右。
車体がほとんど膨らまずに曲がっていく。
「すごい……」
研究員の一人が呟いた。
「馬車では、この動きは難しい」
「車体が小さいこともありますが、車輪の制御が特殊です」
「やはり魔法陣が関係しているのか……」
その言葉に、オレは聞こえないふりをした。
走行を終えて車を止める。
外へ出る。
「お疲れさまでした」
グラハムさんが近づいてくる。
「どうでした?」
「非常に興味深い結果です」
「そうですか」
「速度、旋回、制動、登坂能力。どれも馬車とは比較になりません」
まあ、そらそうだ。魔導車だからな。馬車とは違うのだよ、馬車とは。
グラハムさんがトウガラシ号を見る。
「ですが、一番興味深いのはやはり動力ですね」
「……魔力?」
「はい」
グラハムさんは頷いた。
「イソ様の魔力を直接動力として利用しているにもかかわらず、走行中の動作が非常に安定している」
「そういう魔法陣だから」
「その魔法陣を詳しく教えていただければ――」
「それは秘密」
「やはりですか」
グラハムさんが苦笑した。
そのとき。
「おおー!」
外から歓声が上がった。
振り返る。
どうやら、さっきの走行を見ていた見物人たちが盛り上がっているらしい。
「王都じゃもう噂になりそうだよね」
ラージャが言う。
「……嫌な予感がする」
「有名になるね!」
リルルが笑う。
「リルルは楽しそうだな」
「面白いじゃないか」
「他人事だと思って……」
「辺境伯としては、こういう珍しいものを見る機会は少ないからね」
「それ、辺境伯関係ある?」
「ないかも!」
「ないんだ」
リルルが笑う。
そんなやり取りをしていると、グラハムさんが再びやってきた。
「イソ殿」
「はい?」
「明日の陛下との謁見ですが……」
「はい」
「研究院からも、いくつか質問をさせていただきたいのですが」
「……いくつくらい?」
「十ほど」
「十……」
「いえ」
グラハムさんが少し考える。
「二十ほどになるかもしれません」
「増えてるじゃん」
思わず突っ込んだ。
グラハムさんは笑っている。
「それだけ、皆が興味を持ったということです」
「……まあ、仕方ないか」
王都まで来たんだ。
こうなることくらい、覚悟しておくべきだったのかもしれない。
ただ。
明日の国王陛下との話が、さらに長くなりそうなことだけは確かだった。




