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異世界転生で理想の生活を  作者: かおりん@
5章

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王都からの依頼

◆王都からの依頼


 公爵さまが王都へ戻ってから、十日ほどが経った。


 とくに何も起きなかった。


 ……と思っていたわけだが。


「イソ君、ちょっといいかな?」


 ギルドに顔を出すと、アマネさんに呼び止められた。


「なんです?」


「王都から手紙が来てますよ」


「王都?」


 嫌な予感しかしない。公爵さまがらみ?


 アマネさんから封筒を受け取る。


 封蝋までされている。


「なんでオレに?」


「さあ?」


 アマネさんも首を傾げている。


 封を開けて、中身を読む。


 そこには、ものすごく丁寧な文章が書かれていた。


 要約すると――


『トウガラシ号をぜひ見せてほしい』


 だった。


「…………」


 やっぱりか。


「なんて書いてあるの?」


「王都の偉い人たちが、トウガラシ号を見たいそうです」


「へえ」


 リルルが横から覗き込む。なんでいるんだ? 仕事しろよ。


 シャイバスのダンジョン絡みで仕事山積みだろう?


「行くの?」


「行かない」


 面倒そうな話だ。トウガラシ号はあくまでも趣味の乗り物だ。


 貴族さまの晒しものにするつもりはないし、変に絡まれても面倒くさい。


 絶対に面倒くさい。


「即答だねえ」


「だって面倒そうだし」


 そもそも、トウガラシ号は売るつもりもない。次回生産も未定だ。


 デデンさん、忙しそうだしな。研究で。


 王都に持っていったら、絶対に面倒なことになる。つか、普通に馬車でいいだろ、道も整備されてないし。そもそも魔力不足で一般人には使えないわけだしさあ。

 その辺のところ、公爵さまには説明したつもりだったんだけどなあ。


 オレは手紙を封筒に戻した。


「断ろう」


「でも、もう一枚ありますよ」


「え?」


 アマネさんが別の封筒を差し出してきた。


「こっちはギルド宛て」


「なんで二通?」


「さあ?」


 嫌な予感がさらに強くなる。


 封を開ける。


『アルスター支部所属、イソ殿へ』


 そこから先は、やたらと長かった。


 王都のギルド本部。


 貴族。


 商人。


 魔道具研究者。


 軍関係者。


 いろいろな名前が並んでいる。


 そして最後に――


『トウガラシ号について、一度正式な説明の機会を設けていただきたい』


 と書いてあった。


「…………」


「どう?」


 アマネさんが聞いてくる。


「帰っていいですか?」


「ダメ」


 即答だった。なんでだよ。


「なんでですか」


「ギルドとしても、王都から正式に来た依頼を無視するわけにはいかないのよ」


「でも、オレはギルドの職員じゃないですよ?」


「冒険者でしょ?」


「はい」


「だったら、ギルドとしては仲介くらいするよ」


 うぐ。


 正論だ。


「それに……」


 アマネさんが手紙を見る。


「王都からここまで人が来るとなると、アルスターとしても無視できないんじゃないかな」


「……そうなんですか?」


「たぶん」


「たぶんなんだ」


「私も詳しいことは知らないからね」


 アマネさんらしくないが、事実だろう。


「それで、どうする?」


「どうするって言われても……」


 オレは頭を抱える。


 トウガラシ号は、趣味で作っただけだ。


 別に世界を変えようと思って作ったわけじゃない。


 ましてや、貴族相手に商売するつもりなんてない。


「売れって言われたら?」


「断ればいいんじゃない?」


「研究させてくれって言われたら?」


「断れば?」


「製造方法を教えろって言われたら?」


「断ればいいね」


「…………」


 なんだ。


 意外と簡単じゃないか。


 まあ、あるいはデデンさんに丸投げという手もあるか。基礎はデデンさんだしな。


 売り物にするのは無理だろうが、研究を一緒に、くらいなら可能かも知れない。


 王都の魔道具研究者なら、魔法陣にも詳しいだろうし。魔術回路に関しては―――


 デデンさんもまだ未知数だからなあ。オレだけの秘匿技術になってる。


「じゃあ、行かなくてもいい?」


「それは別問題かな」


「ですよね」


 世の中そんなに甘くない。


 その日の夕方。


 宿に戻ると、エミリアとラージャが待っていた。


「おかえりなさいなのです」


「おかえり」


「ただいま」


 オレは椅子に座る。


「ちょっと面倒なことになった」


「何があったのです?」


「トウガラシ号のことが王都に知られたっぽい」


 エミリアとラージャはきょとんとしている。


 問題の大きさがわかってないんだろう。


「王都から見せてほしいって依頼が来た」


「それだけです?」


「それだけなんだけど……」


 オレは手紙を見せる。


「いろんな人が興味を持ってるみたいなんだ」


「なるほど」


 ラージャが手紙を読む。


「売るの?」


「売らない」


「作り方を教える?」


「教えない」


「じゃあ、問題ないんじゃない?」


「……そうかな?」


 ラージャは首を傾げる。


「嫌なら断ればいいと思うけど」


「まあ、そうなんだけどな」


 エミリアも頷く。


「イソ様が望まないのであれば、私もお断りすればよいと思うのです」


「そうだよな」


 少し気が楽になった。


 ところが。


「でも」


 エミリアが続ける。


「イソ様が王都へ行かれるのであれば、私も同行するのです」


「もちろんボクも」


 ラージャも続く。


「いや、まだ行くって決めてないんだけど」


「では、行かないのです?」


「……」


 オレは手紙を見る。


 正直、王都には興味がある。


 この世界の中心がどんな場所なのかも見てみたい。


「……見せるだけなら、行ってもいいか」


「では、決まりなのです」


 エミリアが嬉しそうに笑う。


「いや、まだ決まってない」


「行かないのです?」


「…行くことにはなるんだろうけどさ」


 ラージャまで頷いている。


「決まりだね!」


「お前ら……」


 まあ、いいか。


 王都へ行くくらいなら。


 そう思った。


 翌日。


 ギルドへ行くと――


 アマネさんが一枚の紙を差し出した。


「王都までの街道を使う許可を、正式に取ったらしいですよ。

 トウガラシ号で行くことになりそうね」


「…………」


 そこまでやるのか。


「あと、王都の研究者が何人か来るって」


「…………」


「商人も来るって」


「…………」


「それから、王都の貴族も――」


「もういいです」


 オレは額を押さえた。


 どうやら。


 ただの趣味だったトウガラシ号は、思っていた以上に大事になってしまったらしい。


 そしてその日の午後。


 さらにもう一通。


 王都から手紙が届いた。


 今度の差出人は――


 国王陛下だった。


 封筒には、王家の紋章が押されていた。


 さすがに、これは冗談では済まない。


「……国王陛下からなのです?」


 エミリアは通常営業だ。ことの重大さはわかっていないらしい。


 エミリアの世界をオレを中心に回っている。オレに害があるかどうかで判断しているので、この程度のことは問題にしていないのだろう。


「たぶん」


「たぶんって……」


 ラージャは常識人なので、こういう反応だ。


 オレは封蝋を確認する。


 偽物かどうかなんて分からない。


 でも、ギルドの職員たちが妙に緊張しているところを見ると、本物なのだろう。


 意を決して封を開ける。


 中には、一枚の上質な紙。


 王家の紋章が入っている。


 そして、かなり丁寧な文章が並んでいた。


『アルスター所属の冒険者、イソ殿へ』


『先日、マーク・ランバート公爵より、そなたの製作したトウガラシ号について報告を受けた』


『馬を必要とせず、自らの力で走行する乗り物であると聞いている』


『余はこの話に大きな興味を持った』


 ……国王も興味を持ったらしい。


 まあ、そりゃそうか。世界初だからな。


『そなたがこれを趣味として製作したものであり、販売を目的としていないことも承知している』


『ゆえに、トウガラシ号そのものを献上せよとは命じぬ』


 お。


 まともだ。


『また、その製造方法についても、そなたが望まぬ限り開示を求めない』


 さらに安心した。


 その一文があるだけで、かなり印象が違う。


『ただし、この技術が我が国の交通、物流、冒険者活動、さらには人々の生活に与える可能性については、余も無関心ではいられぬ』


『そこで、そなたに王都への来訪を願いたい』


 ここまでは予想通り。


 問題は、その次だった。


『王都への出発日は、そなたの都合に合わせて構わぬ』


『ただし、王都到着後は最低七日間、王都に滞在してもらいたい』


「七日……」


 思ったより長い。


『滞在中、以下の予定を組んでいる』


『一日目――王都到着。王家が用意した宿舎へ案内する』


『二日目――トウガラシ号の点検および整備。王都の魔道具技師立会いのもと、構造について可能な範囲で説明を願いたい』


『三日目――王都南門外にて、余への試乗披露』


『四日目――王都ギルド本部、商業ギルド、魔道具研究院による質疑』


『五日目――トウガラシ号による王都周辺の走行試験』


『六日目――自由時間』


『七日目――余との面会。今後についての相談』


 ……六日目だけ急に普通だな。


『なお、七日間の滞在を終えた後、そなたが希望するなら、そのままアルスターへ帰還して構わない』


『滞在延長を望む場合も、王家としては歓迎する』


 なるほど。


 拘束する気はないらしい。


 そして、さらに下を見る。


『同行者について』


『そなたが信頼する者、最大三名までの同行を認める』


「三人までか」


 オレはエミリアを見る。


「私は当然一緒なのです」


 即答。


 ラージャも手を挙げる。


「ボクも」


「だよな」


 あと一人。


 ……リルルか? アマネさんはギルドの業務があるから無理か。


 と思ったところで、手紙の続きを読む。


『なお、リルル殿については、本人が希望するのであれば同行を許可する』


「なんでリルルの名前があるんだ?」


「ボクが有名だから?」


 横からリルルが言った。


「お前、国王と知り合いなの?」


「昔、会ったことはあるよ」


「昔ってどのくらい?」


「今の王様のおじいちゃんの時代」


「…………」


 聞かなかったことにしよう。


『同行者の宿泊費、食費、移動に必要となる費用については、すべて王家が負担する』


『また、王都までの街道使用についても、王家より各領主へ通達を行う』


『トウガラシ号の走行について、街道の使用許可を取得しておく』


「至れり尽くせりだな……」


 王家の金って、こういうところに使われるのか。


 そして最後。


『王都までの移動については、王家の馬車を用意することも可能である』


『しかし、余はトウガラシ号そのものが王都まで自走することを望んでいる』


『道中でどのような問題が起こるのか』


『どの程度の距離を走行できるのか』


『途中で必要となるものは何か』


『そして、現在の街道がこの乗り物に適しているのか』


『それらを実際に確認することも、今回の招待の目的のひとつである』


 なるほど。


 ただ王都まで持ってこい、じゃない。


 実際に走らせて、問題点を見たいのか。


『したがって、王都への到着予定日は、出発日から五日以内を目安とする』


『ただし、天候、車両の不具合、街道の状態その他の事情により予定を変更することは自由である』


『そなたに無理をさせるつもりはない』


 これはありがたい。


 トウガラシ号の性能なら、五日もあれば余裕だと思う。


 たぶん。


 最後に、国王の署名がある。


 オレは手紙を畳んだ。


「どんな感じだったのです?」


 エミリアが聞いてくる。


「王都に七日間滞在しろって」


「七日ですか、長いのです」


「うん」


 エミリアが少し考える。


「ですが、イソ様と一緒なら問題ないのです」


「そう?」


「はい」


 ラージャも頷く。


「王都、行ってみたい」


「まあ、オレも興味はある」


 それに。


 王都の魔道具研究院というところも気になる。


 この世界の魔法技術がどの程度なのか。


 オレの知識と比べてみるのも面白そうだ。


「出発はいつにする?」


 リルルが聞いてくる。


「国王は、こっちの都合でいいって書いてある」


「じゃあ明日?」


「急すぎるだろ」


「じゃあ三日後」


「準備がある」


「一週間後」


「……それくらいかな」


 オレは手紙をもう一度見る。


 五日以内に王都へ到着。


 滞在七日。


 往復を考えると、二週間以上の旅になる。


「よし」


 決めた。


「五日後に出発しよう」


「楽しみなのです」


「了解だよ!」


 エミリアとラージャが頷く。


 リルルも嬉しそうだ。


「王都かぁ」


「そういえば、リルルは王都に行ったことあるんだよな?」


「あるよ」


「どんなところ?」


「大きいよ」


「それだけ?」


「昔より大きくなってると思う」


「参考にならない……」


 ともかく。


 出発は五日後。


 王都で七日間。


 そしてトウガラシ号で往復。


 これなら、ただの観光旅行では終わらないだろう。


 王都の研究者。


 商人。


 貴族。


 そして国王。


 いろんな人間に会うことになる。


 ……面倒そうだ。


 でも。


 ちょっとだけ楽しみでもある。


「じゃあ、明日から準備だな」


「はい」


 エミリアが笑う。


「王都へ行くのです」


 こうして。


 オレたちの王都行きが正式に決まった。


 ◇◇◇


 王都へ向かうと決めた翌日。


 オレは朝からトウガラシ号の整備をしていた。


「駆動系……は、問題なし」


 異世界なので、普通の車とは違う。


 魔力を動力に使っている部分もあるし、オレの知識だけでは完全に説明できない部分もある。基本はデデンさん任せだったからな。


 とはいえ、基本的な構造は自動車に近い。


 長距離を走るなら、念のため確認しておいたほうがいい。


「タイヤも問題なし」


 四本とも確認する。こちらのタイヤは無垢のスライム素材だ。


 空気が入ってるわけではないので、パンクの心配はない。


 まあ、その分重量がかさむので軽量化の魔術回路が組み込まれているわけだが。


 意外にスライム素材と魔術回路の相性も悪くない。ミスリルほどではないが。


 ブレーキも問題なし。


 灯りも点く。夜は走らないけどな! ヘッドライトだけで真の暗闇の中は走れないっての。


「イソ様」


 後ろからエミリアの声。


「ん?」


「こちらの荷物はどうしましょうかです」


 見ると、大きな荷物がいくつも並べられていた。


「多くない?」


「王都まで五日なのです」


「五日って言っても、トウガラシ号ならそんなに荷物いらないだろ」


「着替えです」


「うん」


「食料です」


「うん」


「野営用の道具です」


 リルルが一緒だから、普通の野営用の道具は必要か。


 オレたちだけなら、エミリアの家に接続すればそれで済むけど。


 一応秘密にしてるしな。


「うん」


「それから――」


「もういい」


 多い。


 明らかに多い。


「アイテムボックスか収納に入れればいいだろ」


「そうでした」


 エミリアが少し恥ずかしそうにする。


 オレの収納なら、これくらいの荷物は問題ない。


 次々と収納していく。


「便利だね」


 ラージャが感心している。


「今さらだな」


「でも、こういうとき便利」


 アイテムボックスでもアイテムバッグでも同じようなことはできるが、オレの収納は制限がないからな。


「まあな」


 荷物の準備が終わったところで、リルルがやってきた。


「準備できた?」


「だいたいな」


「じゃあ、出発?」


「今日は出ないぞ」


「なんで?」


「国王陛下には五日後に出発すると伝えてある」


「そうだった」


 リルルは納得したように頷いた。


 ……と思ったら。


「じゃあ、四日間暇だね」


「なんでお前が暇を持て余してるんだよ」


 領主なんだから仕事をしろよ。


「王都に行く前にアルスターで遊んでおこうかなって」


「好きにしろ」


 リルルは楽しそうに笑った。


 そして四日後。


 ついに出発の日になった。


 朝。


 アルスター南門。


 トウガラシ号を出す。


「これが王都まで走るのか……」


 門番が興味深そうに見ている。


「そうです」


「五日で?」


「予定では」


「馬車ならもっとかかるぞ」


「だからトウガラシ号なんですよ」


「なるほど」


 門番が妙に納得している。


 出発前に、ギルドのアマネさんも見送りに来てくれた。


「気をつけてね」


「はい」


「王都で問題を起こさないように」


「善処します」


「その返事、問題を起こす人の返事なんだけど」


「……」


 何も言えない。


「それと」


 アマネさんが少し真面目な顔になる。


「王都の人たちに何を言われても、無理に約束しなくていいからね」


「分かってます」


「イソ君は自分で何でもできちゃうから、そこだけ心配なんですよ」


「そうですか?」


「そうですよ」


 まあ、気をつけよう。


「それじゃあ、行ってきます」


「いってらっしゃい」


 トウガラシ号に乗り込む。


 オレが運転席。


 助手席にはエミリア。


 後部座席にラージャとリルル。ラージャはサンマル号で付いてくるかと思ったが、まずは素直にトウガラシ号に乗るようだ。


「狭くない?」


「大丈夫です」


「問題ないよ」


「ボクは快適」


 三者三様だった。


 スルスルと移動を開始する。魔力駆動なので、エンジンなどというものは付いていない。


 門番たちが一斉にこちらを見る。


「それじゃあ――」


 アクセルを踏む。


 トウガラシ号が力強く動き出した。


 アルスターの南門を抜ける。


 街道に出る。


「……出発だな」


 王都まで、およそ五日。飛ばせばもっと短縮できるが、街道を行くなら妥当なところだろう。


 普通の馬車なら、もっと時間がかかる。20日といったところか。


 そこを5日で来いという王様も王様だ。よほど公爵さまが吹いたのだろう。


 でも。


 トウガラシ号なら、それほど苦労することもない。


 そう思っていた。


 最初の問題が発生したのは、出発してから二時間後だった。


「イソ様」


「ん?」


「道が悪くありませんか?」


「……悪いな」


 舗装されていない街道。


 馬車の車輪が通った跡がいくつもある。


 正直、轍にハンドルが取られることもある。


 これなら街道を無視して走った方がラクだったかな?


 大きな石も転がっている。


 トウガラシ号が上下に揺れる。


「うわっ」


 リルルが後ろで跳ねた。


「大丈夫か?」


「大丈夫だよー」


 ラージャは平然としている。


 エミリアは手すりを掴んでいる。


「速度を落とします」


 アクセルを緩める。


 さすがに、この道では速度を出せない。


「……なるほど」


 国王の手紙を思い出す。


『現在の街道がこの乗り物に適しているのか』


 これのことか。


「どうしたんだい?」


 リルルが聞いてくる。


「いや」


 オレは前方を見る。


「トウガラシ号を普及させるなら、車の性能だけじゃどうにもならないなと思って」


「道?」


「そう」


 馬車なら問題なく通れる道でも、トウガラシ号には厳しい場面がないでもない。無論、悪路の走破性はトウガラシ号に軍配が上がるのだが、そもそも速度が違う。


 逆に言えば。


 道を整備すれば、もっと速く走れる。


 そうなると――


 物流も変わる。


 冒険者の移動も変わる。


 王都と地方都市の距離感だって変わるかもしれない。


 まあ、魔物の問題があるから、護衛は必須だし。


 エミリア無双ができるほどの護衛がいるなら話は別だが。


 最初は大型バスのような魔導車から導入すれば、護衛が乗り込むことも可能かも知れないなあ。


 容量の大きなタイヤなら魔術回路も多く組み込めそうだし。


 重さとのバランスが問題になるか?


「……思ったより大きな話になりそうだな」


「最初から大きな話だったんじゃないかな? 国王陛下からのお言葉だしねえ」


 リルルが言う。


「オレは趣味で作っただけなんだけどな」


「それは知ってる」


 リルルが笑う。


 翌日の昼過ぎ。


 街道沿いの街に到着した。ジジの街。ジジのダンジョンがある有名な街だ。


 ジジのダンジョンはスライムダンジョンとして有名で、各種生活用品をドロップする。


 普通の馬車だと、ジジの街までアルスターからは10日かかる。


 今日はここで一泊する予定だ。


 宿を探していると――


「……あれ?」


 街の入口に人だかりができていた。


「なにかあったです?」


 エミリアが不思議そうに見る。


 近づいてみる。


 すると。


「なんだ、あの乗り物は!?」


「馬がいないぞ!」


「どうやって動いてるんだ?」


「魔道具なのか!?」


 ……しまった。


 トウガラシ号。出しっ放しだったわ。収納に入れとけばよかった。街に着いた安心感で、ついつい先に宿を探しに行ってしまった。


 目立ちすぎる。


「イソ君」


「なんだ?」


「もう有名になってるよね」


「まだ王都にも着いてないのにな」


 オレはため息をつく。


 すると、人混みの中から一人の男が近づいてきた。


「失礼!」


 商人らしい。身なりは悪くない。


「私はこの町で商売をしている者ですが――」


 嫌な予感がする。


「その乗り物、一台いくらで売っていただけますかな?」


「売りません」


 即答した。


「……ですよね」


 商人は残念そうに肩を落とした。


「では、せめて製造方法を――」


「それも秘密です」


「……ですよね」


 商人はさらに肩を落とした。


 そして。


「では、せめて一度だけ乗せてもらえませんか?」


「それくらいなら」


 こうして。


 王都へ向かう旅の初日から、トウガラシ号の試乗会が始まることになった。


 ……国王陛下。


 王都に着く前から、もう問題が起きています。


ユニークアクセス1000人超えました。

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