暴走
◆暴走
「暴走の規模は推定1万。
距離はアルスター東10km。
先頭はゴブリンの群れ。
不確定情報だが、色竜を見たとの話もある。20m級だ。
いいか、色竜には挑むな。
私と領主が出る」
おお、とどよめき。
ほう。ウリーリャとリルルが戦うと。これは見物必至だな。
「緊急依頼は2種。暴走の殲滅だ。
魔石の回収と素材剝ぎ取りはギルドで行う。後日、討伐数により清算する。
ないとは思うがギルドカードは忘れるなよ?
討伐参加で銀貨10枚。あとの稼ぎは魔物を狩れ! 実力に応じて魔物は選べよ。
次に暴走の原因特定。
ドラゴンが出てるのが原因かも知れんし、他の何かかも知れん。
原因と思われるものを報告せよ。
情報には銀貨1枚。確定後、金貨1枚を追加報酬とする。
万が一、万が一ダンジョンを発見したら、1階層のみ潜り、魔物の情報を持ち帰れ。
この場合は、別途金貨1枚の報酬を出す。
いいか、ダンジョンを見つけても勝手に攻略を始めるな。
今回はアルスターに近すぎる。
場合によってはダンジョンを殺す」
そういう場合もあるのか。ダンジョンを殺す選択をされては、ダンジョン所有者になっても意味ないからな。これもウリーリャとリルルでやるんだろうな。
素材を考えれば近いダンジョンは美味しいようにも思うが、ランクが問題になるのかもしれない。
「神殿にも協力を要請する。後詰めは気にせずガンガン行け。
動けなくなる前に戻れよ! 神官様はおまえらを探しには行かないからな!
では準備のできたものから行け!」
よく通る鈴の音のような綺麗な声で命じる。
冒険者たちは怒号で応え、一斉にギルドを出て行った。
まあ、これも魅了系天啓の結果なのだろう。
戦乙女も出て行ったしな。ラージャは少し戸惑っているようだ。
「あの、イソ君は行かないんですか?」
アマネさんだ。
「行きますよ。緊急依頼なんですよね。
オレはギルドマスターの天啓に操られてないだけなんで」
「操っているとはひどい言いぐさだ。私は彼らに『お願い』しただけだがの」
「天啓使ってるんだから一緒でしょうに」
「理性を失わせるほどではない。きちんと準備してから出撃するだろうさ。
おまえは準備ができているようだが」
「先に出るのは低ランク冒険者なんですよね。そのひとたちの手柄を奪うのもどうかと」
「そうか。おお! そうだ。この暴走の原因究明か、色竜討伐、ダンジョン発見のいずれかを達成したらランクBにしてやろう。
これがおまえのランクアップ試験だ」
おもしろい悪戯を思い付いた子供の顔だ。
「そういうのアリなんですか?」
「冒険者ランクのランクBまでは単純に強さだけが求められるからの。この暴走状態で、いま言ったいずれかを成し遂げられるなら十分だろう。
わかったら早う行け」
「ひとつだけ確認していいですか?」
「なんだ?」
「森って焼いていいんです?」
「森林火災は困るのう。ま、今回は大目に見よう。暴走を早く止められるなら制限はすまい。消火のことはギルド職員で面倒を見よう。好きにやれ」
よし言質は取ったぞ。お試しで使った魔法があるけど、実戦投入はしてないんだよな。威力がありすぎて。いい機会だろう。
なら行くか。オレたちもギルドを出た。
衛兵に軽く挨拶して森へ。
軽く冒険者たちを鑑定してみると、突出した集団がいくつか。
戦乙女は後方集団だな。ゴブリン、オーク相手がメインだろうし、無理に突出することはないだろ。
突出してるのは高ランク冒険者のパーティーか? ランクAならアルスターのギルドにも何組かいるって聞いたからな。
身体強化がないと、この速度は出ないだろ。
いや、高レベルになれば敏捷だけで行けるのか。
装備に補正があればなおさらだな。
そもそも偵察に出ていたのが高レベル冒険者パーティーの盗賊だろうとは想像できる。
そうじゃないなら、あれほどの速度で偵察はできないだろうしな。
「イソ様、どうするです?」
「作戦あるの?」
奴隷ズが聞いてくる。
「ドラゴンはわかるか?」
気配察知の話だ。
「わかるです」
「大丈夫だよ」
「なら、これから転移で暴走の正面に飛ぶ。
エミリアとラージャは、左右に分かれよう。
暴走はドラゴンを中心として円状に発生したみたいだ。
それがアルスター目掛けて収束してる。
オレはその頂点からドラゴンを目指すから、お前たちは左右に1kmほど離れてドラゴンを目指せ。
ドラゴン周辺なら魔物を狩り尽くしてもいいが、外側の弱い魔物は他の冒険者のために残しておくように。戦乙女が倒せるようなのは、わざわざ狩らなくていい。邪魔なら潰せ。
見たことのない魔物がいたらサンプルとして死体を回収。それ以外はギルド任せでいいだろう。
質問は?」
「ドラゴンに到着したらどうするです?」
「全員合流するまで隠密だな」
「ヤバそうな敵がいたら?」
「逃げられそうなら放置してドラゴンへ。他の高レベル冒険者に任せよう。
逃げられないようならメッセージをくれ。援護に向かう」
エミリアとラージャのいる場所なら転移で跳べる。救援が必要なら瞬時に跳べるし、そこから逃げるのも一瞬だ。
ランクアップ試験ごときに命を懸ける必要はない。
ダメだったなら、時期が早かったというだけだ。
本来、ランクアップ試験というのは実力確認のために行われるためのもの。
ウリーリャがランクアップ試験だと言ったならば、オレたちの実力はこの試験に耐えられると見込まれているということだ。
ラージャの心配するようなことにはならないと思うが、何事にも万が一はある。
事故の心配をするラージャの考えは正しいし、注意喚起も必要なことだ。
そして事故が起きた場合の行動を確認しておくこともまた必要なことである。
「行くぞ」
「がんばるのです!」
「がんばるよっ!」
普通に考えれば死地に乗り込むのだが、うちの奴隷たちはノリがいい。
とはいえ、これはランクアップ試験なのだ。
いっちょがんばるとしましょうかね。
◇◇◇
さすがの転移もポイント登録したこともなければ、探知で引っ掛かるものがない場所には跳べない。
そのため隠密した上で転移(短)を連発して空中を行く。
空中で気が付いた。「空間認識」で戦場を把握すれば、どこに転移すればいいのかわかるのでは? わかった。
転移する。空間認識は「違う部屋にいる女の子へ痴漢し放題の魔法」ではなかったらしい。こちらが本来の目的か。イメージとしてはGo○gleMap。把握したい空間を俯瞰して拡大していく感じ。拡大率は等倍までは確実。恐らく数十倍まで拡大できるんじゃないだろうか。今度エミリアに痴漢ごっこするとき確認しよう。
もちろんスクロールも自由だし、スト○ートビューチックに回転なども可能。
そこで把握した座標に対して転移できるってのは戦場ではかなり強みになるんじゃないだろうか。奇襲し放題じゃんね。…痴漢も、し放題だよな。瞬間記憶と合わせれば盗撮も…しないけどね。
座標把握に僅かの時間。空中でやったので、抱きついてるラージャが「ひっ!」と悲鳴を上げた。落下したからね。エミリアはまったく動じない。
これが信頼の厚さか、と思いもするが、ラージャの反応が普通である。
ラージャは普通に死ぬのが恐いが、エミリアはオレと一緒に死ぬなら問題がない。むしろオレに殺されるのは本望だ。要らなくなったってことだからな。
だからオレと一緒に墜落死など恐れない。
エミリアの愛が重い。迷惑ではないけれども。けれども!
無事に転移終了。冒険者たちは遥か後方だ。
さて、道を拓こう。
「散れっ! ドラゴンのところで会おう!」
「わかりましたです」
「了解だよっ!」
奴隷たちが十分に離れた。魔物ともまだ距離がある。
暴走といっても、平原を暴走してくるわけではないし、整然と進軍してくるわけではない。
魔物によって速度はさまざまだし、先頭集団であるランクF魔物の速度は遅い。
そのため前がつかえる形となり、全体に進行速度は遅いのだ。
それに暴走とは、元々新たに発生した魔物に縄張りを奪われた弱い魔物が新たな縄張りを求めて移動する現象であり、アルスターを狙って進軍しているわけでもない。ゴブリンはアルスター近郊の草原なら住めそうだ、と狙っているだけだし、オークはゴブリンの元の森を狙って移動している。
そういう縄張りの入れ替えが発生しているに過ぎないので、発生するエリアこそ広いものの、アルスターを飲み込むまでの時間には余裕がある。
というのは鑑定で現状を眺めながら考えた話。
ドラゴンを中心とした魔物の動きが緩慢だし、ダンジョンもあるな。
さてまずは。
冒険者の先頭集団は、もう森に入ってるか。
まあ、後からくる連中のために道を作っておこう。
火魔法Lv4超級・火炎砲。いわゆる火炎放射器なんだが、温度と速度、規模がやべえ。
青白い光が一直線に周囲を炭化させながら進むさまはまるでビームのようである。
これが、手の先に放たれた小さい光点を起点に直径10m、最大距離1kmほどの範囲を焼き払う。
対人、対魔物で使う規模じゃない。
こういう戦場で使う戦術級魔法だった。
一度試し撃ちして「こんなの使う場面ねーよ」と思ったが、使う場面が来てしまった。
なお射程は任意で縮めることもできるが直径は絞れない。魔力を込めれば広げることはできる。
ひとまず冒険者の道として後ろに放って、水魔法で消火・冷却しておく。
あとは魔物側を向いて魔力を追加して最大射程で1発。
気にかけていた森の延焼は発生しなかった。
威力が高過ぎて、一瞬で木々が炭化するので、それ以上燃え広がらないのだ。
ただ焼き払われた後に熱は残る。水魔法で冷却をする。
それを魔物に遭遇するまで繰り返した。
エミリアの方角を見ると何本も氷の柱が立っている。
ラージャの方角を見るとすごい勢いで魔物が空中に打ち上げられている。
どうやらエミリアは水魔法、ラージャは物理で行くことにしたらしい。
水魔法のいい点は、氷漬けにしたあと砕け散ることだろうな。
道を確保しつつ自分の進撃も邪魔しない。
ラージャはダークエルフだからなのか、森林破壊がイヤなのかもしれない。魔法による範囲攻撃はどうしても森を壊すからな。
幅10mで1kmの道というのは魔物にとっても通りやすい道である。
そのため、森の左右から魔物が焼き払われた道に満ち溢れる。
魔法を追加して進む。
あ、やべ。後ろががら空きだわ。
作戦間違えたな。
いったん進軍を停止してエミリアとラージャを呼ぶ。
「エミリア、ラージャ。こっちに合流してくれ。エミリアはオレの魔法の後の冷却を、ラージャは後方の防御を頼む」
『わかりましたです』
『了解っ!』
すぐに返事が来た。ラージャ方面からは魔物を空中に斬り飛ばしながらラージャが駆けてくる。エミリアは森を駆けてきた。正確には森の木の上を走ってきた。
どうやんの?
「イソ様に呼ばれましたので、最短距離を来たです」
愛の力だろうか。
後日、ラージャは森林走法ともいうべきこの走り方を身に付けた。
木の天辺ってさ、若木っていうか芽だよね? そこからまだ成長するから柔らかいよね?
「本当に若木じゃないなら、支える点があって、そこを踏めば走れるよ」
とはラージャの言葉。わかんねぇよ。
先にエミリアが合流したので、後方をエミリアに任せる。
ラージャもほどなく合流したので、オレが焼き払う。エミリアが冷やす。前進する。魔物が充填される。ラージャが後方から来る魔物を斬り飛ばす。焼き払う…の流れが完成した。
冒険者の様子を見ると、扇状に展開して森を包囲している。
ランクの低い冒険者は森の外縁部に追い立てられてくるゴブリンを中心として倒しているようだ。
あとはランク別で帯状に進行している。
こちらに向かってる扇の根本はランクAなんだろう。
空を飛ぶ魔物の姿も見える。鳥とか。あとあれはハーピーかな。ワイバーンっぽいのもいる。あれがアルスターに向かうと厄介か。
空中へ火魔法Lv4火炎強嵐を振り撒く。
火球の超級版なので、戦術級だ。これは最大直径1kmの太陽のような灼熱の光が空間を焼く。持続時間は魔力による。直径は小さくすることも可能。強い光なので直視すると視界を奪われる。持続時間には注意が必要な魔法だ。
一瞬の展開を範囲別に5発。
鳥はたぶん蒸発した。ハーピーも素材は無理っぽい。ワイバーンは落下した。
ドラゴンの周囲の魔物がオレを脅威認定したようだ。こちらに向かって動いている。
集中したっぽいタイミングで火炎強嵐を撃ち込む。
だいぶまとめて数を減らしたはず。
ドラゴンには動きがないが、動かれても厄介だな。
牽制として火魔法Lv4火炎杭をドラゴンとの間に立てておく。
青白い炎の柱が幅1km、高さ500mほどに展開する。
炎の柱の間は通り抜けられそうに見えるが灼熱地獄だ。この辺は炎壁と変わらない。
超級魔法ってさ、完全に戦争用だよね。
冒険者が上級までしか取得しないのが理解できたわ。
超級とか迂闊にダンジョンなんかで使ったら、味方も巻き添えになるわ。
ゴブリン・キング相手に中級暴発したの思い出すよね。あの時も自分の魔法で死にかけたからね。
普通の冒険者なら上級+威力調節で十分だわ。
今回言質を取ったから使ったけどな。あと威力が強すぎて、一瞬で木々が燃え尽きるから延焼はしてないのが救い。ただ熱は残るから進むならエミリアに冷やしてもらわないとならないのがネック。
これらの魔法にビビった魔物はオレから逃げていく。
ある意味当然の生存本能なんだけど、そっちにはそっちで恐い冒険者さんが待ち受けている。
まだこちらに向かっている魔物はいる。
諦めていない?
勝てると思っている?
どちらもだろう。
魔物はオレの魔法を見て、それでもなお諦めていないし、勝てると思っている。
それなのに、オレはどうだ?
確かに魔法で蹂躙して来た。ここまで傷ひとつ負ってない。
それがどうした。
もしも魔法の効かない敵が残っていたら?
魔力を奪う敵がいたら?
情報は足りていない。どんな魔物が残っているのか、それすら知らないのだ。
超級魔法の威力にどこか酔っていた。
浮かれていたんだ、オレは。
ここはダンジョンじゃない。
いま相手にしているのは、これまで生存競争の中で生き残ってきた魔物たちだ。
逃げたのもそう。
勝てないから逃げた。正しい判断だ。
オレは今、正しい判断をしているか?
次の瞬間エミリアを、ラージャを失う覚悟があったか?
復活も死体の一部も残さず失われてしまっては蘇生できないだろう。試してないが。今度試そう。魔物で。
ちからに酔うな。
終わるまでわからない。
いつでも逆転はあり得る。
実戦だ。慎重さを失うな。
万が一オレが死ねば、エミリアは復活を優先する。間違いない。そのとき、ラージャひとりでは戦線は支えられない。
オレが死ねば、全員死ぬ。
全周囲が魔物とはそういう意味だ。
魔物単体が相手なら立て直せるし、逃げ出せる。
しかし、転移の使えないエミリアたちが残されれば逃げさせない。
森の保全? 関係あるか。オレとエミリアの生命の方が大事だ。
今は生命の奪い合いの最中だ。
遊ぶな。
全力を尽くせ。
スイッチが入った。
空間把握。
魔物の分布を確認。
冒険者の位置確認。
影響範囲を計算。
必要な火炎強嵐は36発。
魔力残量確認、問題なし。
魔力残量に余力があるため、魔力量調整。
未知の魔物の可能性を考慮して4倍投入。
結界により自分たちを保護。
魔法実行。
その瞬間、森の中に36個の太陽が出現。
森ごと魔物を焼き尽くし、焼けた地面を晒した。
「イソ様、前方は終わったです。後方を支援に行きます?」
「ドラゴン残ってるけどね」
魔法範囲に入っていたにもかかわらずドラゴンは不動だ。
20m級ともなると、もうその姿は見えている。
動けないのか?
動かないのか?
魔法のダメージは入っているのか?
都合のいい考えは捨てよう。
ダメージは入っていないし、動かないのだ。
動かないなら、理由はなんだ。
そこが縄張りだからだ。
「試験継続中だ。ドラゴンをやる」
「わかりましたです」
「了解だよっ!」
ドラゴンはあらぬ方を見ている。こちらは眼中にないと言わんばかりの態度だが、それだけの実力があるのだろう。
色竜には手を出すな、そういわれている存在だ。
ひとなど眼中にないのも当然と言える。
なら、こちらも鑑定で情報をもらうとしようかね。
【青竜Lv250】
詳細は妨害されました。
まさかの鑑定失敗。
天啓なのか、レベル差なのか。
Lv250って。これまで最高だな。
体力でもわかれば良かったが。
ひとの標準と考えて、鱗の防御力がランクSと仮定するなら。
体力320万相当。
身体のデカさが体力にも相当するなら1千万を超えてても不思議はないな。
詳細鑑定は邪魔されたが、体力ゲージは見えるのか。
まだマシな状態だな。
ドラゴンはまだこちらを向いていない。
単にテリトリーに入っていないのか、小虫と思って相手にしていないだけか。
後者の可能性は高い。
ただまあ。
待っててくれるんだ。考えようじゃないか。
さっきとは状況が違う。
周囲に敵がわんさかいる状況じゃない。
もちろん情報がないのは同じだ。
それでも。
作戦を考える時間をくれるというんだ。
考えようじゃないか。
ランクアップ試験に合格するためにな!




