閑話.領主リルル
◆領主リルル
やっほー! みんなの領主様、リルルちゃんだよっ! 種族はホビット、年齢はひ・み・つ。
貴族で辺境伯なんだ。辺境伯っていうのはね、王都から離れた辺境を管理する貴族のことで、公爵の下に位置するんだね。
公爵は王家を諫める立場にあるため、国内での発言力は高いけど、辺境伯はそれほどでもないんだよ。
でも辺境伯なんて誰もやりたがらないから、少しは無理も聞いてもらえるけどね!
ヴァイザーには私を含めて4人の辺境伯がいるけど、全員、先祖が冒険者なんだ。
全員がダンジョンマスターを倒して、ダンジョン持ちになっているんだね。
ダンジョンを制して、管理する街を作り、国に登録したわけだ。
王都から近いダンジョンなら、普通に国が管理する。それがどこかの貴族領なら、その貴族の管轄になる。でも、このアルスターは辺境だったんだ。
管理する貴族がいない地域だったのさ。もちろん最初のアルスターは村だよ。街道すらないところにダンジョンを発見し、何か月も掛けて踏破したんだからね。
だからダンジョンの周辺を開墾し、村を作ったわけだ。
その功績でご先祖様は男爵に叙爵されたんだね。
ついでに周辺の土地も与えられたから、廃城となっていた今のアルスターのお城を修復し、そこを中心に街を作ったのさ。
そうして発見したダンジョンをスミストルと名付け、自分が住む街を城塞都市アルスターとして作り上げたんだね。
城塞都市としたのは、もちろん辺境なので魔物が多いからさ。
そうやって都市を作り、街道を整備し、新たなダンジョンを発見して村を作りー…今のアルスター領になるわけだ。
こうして、一部未開地域を残したままだけど、領地としてある程度の開拓を終わった段階で、ご先祖さまは辺境伯に陞爵したわけだ。
もちろん、もとから全然ひとが住んでいなかったわけじゃない。
自給自足の村や漁村なんてのもあったし、そういうひとたちは自分の国の名前すら知らなかったわけだけど、領地に組み込んで税を取るなら、村の安全を保証する必要があるんだ。領軍を整備し、村落に兵を巡回させ、魔物の脅威から守る。それから道の整備だね。村を繋ぎ行き来をしやすくし、人々の暮らしをよくする。
そういう公共事業に参加したひとにはお金を払う。
いきなりやってきて「今日からおまえたちは領民だから税金を払え!」とか言っても誰も納得しないわけさ。だから「税金を払うとこんなにお得なんだよ」ってことを領主は領民に示さないとならない。
まあ、大変なことだよ。領地を開拓するというのはそういうことだからね。
ご先祖さまは自分がホビットだったから、もちろんヒューマン以外の種族も領民として認めたんだ。
だからアルスターには珍しいところではリザードマンの集落やラミア、アラクネなんて種族の集落もある。
ダンジョンの魔物にもこれらの種族が現れることもあるけど、区別は目だね。ダンジョンの魔物の目は赤い。他はおおむね金色とか。最初は冒険者がそういった多種族の集落へ襲い掛かったりして大変だったみたいだね。いまは周知が行き届いているし、ギルドから注意もされるから、そういう事故はだいぶ減ったけど。
そうやって開発が続いて、アルスターは大きな10の城塞都市と規模の小さな町、そして多数の村落で構成される辺境の領地となったわけだ。
広大な領地の開拓ってさ、その苦労は計り知れないよね。
◇◇◇
税金は人頭税を基本としているね。街へ住むのにひとりいくら、という形さ。
成人は年に銀貨1枚を基本。農村の場合は、作付面積につきいくら、とかね。
凶作の場合に厳しいけど、豊作の場合は農民も貯蓄ができるというわけだ。
あとは出店税とかだね。露店なんかは商人ギルドに出店を申請する。この時、銀貨50枚必要なんだけど、半分は税金なんだよ。そこからは売上の1割が自動的に税金になるね。ギルドバンクに入金したとき徴収される。露店の場合、現金でのやり取りだから、税金を誤魔化そうと思えば誤魔化せるね! でも大量の現金を手元に残しておくのは危険だから推奨できないけど。脱税になるしね!
あとは冒険者が買取をした時の売買金額にも税金が含まれるかな。買取は無税だけど、それがギルドから販売されたときに税金が掛かるんだよ。
冒険者には人頭税も掛からないし、実は税制面では優遇されているんだ。
冒険者への依頼にも税が掛かるけど、税金を払うのは依頼者で冒険者には関係ない。依頼失敗時のペナルティというのは、依頼者に返金される税金のことだからね。
もちろん依頼失敗というのは経歴に傷が付くから冒険者には望ましくないだろうと思うけどね!
さて、領主の仕事だがね? 簡単に言えば集めた税金の再分配なんだ。
まずわかりやすいところでいえば、私の領主の城の維持費がある。使用人の給料などの人件費だね。さらには文官、武官の人件費。各町村の人件費。まあ、これが大きいね。あとは公共事業。具体的には道の整備などだよ。治水なども含まれるね。洪水を起こす河川は可能な形で対応するんだ。とはいえ、それほど大がかりなことはできない。せいぜい、堤防を作ってみたり、小さな川を掘ったりとかだね。それでもこういうことをして行かないと、領民の生活を圧迫してしまうからね。作物が取れなくなると大変なことになるじゃないか。
何が必要で、何をするのか。それを決めるのが領主の仕事なのだよ。
だから陳情や意見などは文官によって纏められ、私のところへは決裁ばかりが回ってくるわけだ。
単純に決裁印を押して行けばいいというものでもないのだよ、これが。
たとえば、ある町から道の拡幅工事の決裁依頼があったたとするだろう? 予算の見積もりや期間が妥当かの判断はもちろん「いま必要か?」という点を判断する必要もあるんだね。
得られる税収は決まっているじゃないか。その中で「どう税金を使うのか」「いつ税金を使うのか」を考えるのが私の仕事なんだよ。
中には町の有力者と業者の間で密談を交わして、余計に税金を掠め取ろうというものもあらわれる。疑わしいところがあれば調査して懲罰だし、そもそも決裁を通さない。
そういう判断が決裁には求められるんだね。
私の文官たちは優秀なので、明らかにダメな決裁の申し込みは、私のところへ来るまでに弾かれるし、疑わしい案件に関しては注意書きも付けてくれる。
ただ最終的な判断を下すのは私なんだね。
集めた税金の再分配だからね、責任は重いよ。
あとは裁判なども私の仕事だね。
決まり切った量刑などは武官が処理するけど、事情が複雑なものは私のところまで持ち上がってくる。そうなると互いの言い分の資料を読破し、適切な判決を決めなければならない。大変だよね。
その他に情報収集なども領主の仕事でね。
面会の依頼を受けて会うこともあるし、こちらから呼びつけて話を聞くこともあるんだね。
先日は冒険者ギルドのギルドマスター、ウリーリャとのお茶会だったんだ。
「おもしろい子はいるかい?」
「おもしろいというか、得体の知れない新人がひとりいるのう」
「キミがそういうとは珍しいね。ギルドマスターの経験でも見抜けないのかい?」
ウリーリャのギルドマスター歴は長い。前の旦那が死んでからだから100年くらいはやってるんじゃないだろうか。
「強いのは、強いんだろうが…」
「強いのかい?」
単に強い冒険者は珍しくない。私も強いし、ウリーリャも並外れて強い。単純に長命種は経験を長く積めるだけレベルも上がる。ただヒューマンのように最上位職が解放されることは稀で、最上位職に到達し、鍛え上げられたヒューマンの強さは侮れない。
「ランクFでゴブリン集落をひとりで全滅させたからのう。強いのは間違いないだろう。レベルも大したことはないはずなのだが、何か特別な天啓を持っているのだろうな。ルールがなければ暴きたいところだが、ルールは絶対だからなあ」
長く生きていると天啓も多く持つようになる。
ウリーリャは魅了持ちだし、私も似たような天啓を持っている。
その新人冒険者が攻撃力特化の天啓持ちでもおかしい話ではないかな。
「どんな子なのかな?」
「私も直接話したことはないがね」
ウリーリャの話では、まだ若いらしい。15歳。成人直後だね。
成人すると人頭税が掛かる。そのため稼ぎがないと親兄弟の負担になるんだよ。
そのため、農村なら新たに畑を開墾したり、別の村落で女しかいない家に婿入りしたりするんだよ。その新人冒険者は、それらを選択せずに冒険者として稼ぐことを選んだということだね。それもまたよくある話だけど。
ただ最初は採取ばかりこなしていて、討伐はまったくやらなかったそうなんだ。
冒険者を目指すひとは血の気が多いのも珍しくない。採取よりも討伐の方をやりたがると言えばいいかな。採取は面倒だからね。
「それも天啓なんだろうが…」
妙に採取の腕がよかったそうなんだよ。
ただ採取依頼に出ている薬草というのは、魔力を吸って変異した植物なんだ。魔物化した植物といえばいいのかな。だから草の根が少しでも残っていると魔力で再生してしまうんだね。どれだけ丁寧に採取しても僅かな根は残るから、たいてい次の日には再生してることが多いね。
そういう事情があるから、薬草の周りというのは魔力が濃厚ということでもあるんだ。そのために、魔物を引き寄せたり、発生させたりするんだけど…。
丁寧な採取には時間が掛かる。でも、薬草の周りには魔物がいる。普通は討伐と採取はセットで行われるものなんだね。
それを採取ばかりというのも実に珍しい。
「ただ、そちらはランクアップも必要なので、アマネに少し無理を聞いてもらって討伐をするようにしたんだがね。実力もあったのだろうが、それからの討伐数も異常なんだなあ」
一日にゴブリン50匹。高ランク冒険者なら無理な話じゃないけど、索敵系の天啓持ちじゃないと難しいだろうね。持ってるんだろうけど。そうじゃないと無理だからね。
「あとロリソンとこのアレ、アレを買った」
「エミリア?」
「そう」
娼婦通りのエミリアといえば、けっこう有名な娼婦だ。ロリソンの特殊な事情のため、あんなところで娼婦をしているけど、本当なら高級娼館で稼いでいてもおかしくない器量の持ち主なんだよね。
何人もの冒険者が熱を上げて、結婚を申し込み、奴隷だから断られて。
ならばってことでロリソンのところに行って買取を希望して玉砕。
噂では金貨100枚とも、1000枚とも聞いてるけどさ。
金貨100枚といえば、ランクA冒険者の年収だよね。奴隷にそこまで出さないでしょ、普通。1000枚は眉唾だと思う。
「どうやって?」
「まあー…新人冒険者がエミリアを買えるだけの現金を持ってるとは思えないからのう。物々交換だとは思うのだが」
「まさか」
「「アイテムボックス」」
ウリーリャとハモった。
アイテムボックスは王都近郊のダンジョン「奈落」のとあるフロアボスのレアドロップだ。
絶対に入手不可能なものではないけど、年に数個出回るかどうかの代物であり、現存数も4桁には届かないだろうと言われているんだよ。
一部冒険者の間ではプロポーズに使われるとか言われているけど、そんな気軽に使えるものではないし、アイテムボックスがないと結婚できないなら、世の冒険者のほとんどは結婚できないじゃないか。
アイテムボックスを持つことがひとつのステータスであることは事実だけどね。
ぶっちゃけ枠10のアイテムボックスの売買価格は金貨100枚。
これを購入し、普段使いできるだけの資金力があるということを示すからで。
そういう代物なので、とうてい新人冒険者が持っているものではないんだよ。
ただ、もしも新人冒険者がロリソンに提示したのがアイテムボックスなら、エミリアと引き換えにするのに迷いはなかったと思う。
「…推測の域を出ないがね、私は空間魔法持ちじゃないかと思っている」
「空間魔法!」
空間魔法の知名度は高い。それこそ学校の教科書に載っているほどなんだよ。
しかし、過去それを使えたのはひとりだけと言われている。「魔王」そのひとのオリジナル魔法と言われているんだ。学校の教科書に載ってるのもそれが理由だからね。
魔王の開発した魔法は多い。いくつかは一般に広がっているし、これも名前だけ知られている炎獄という火魔法もあるらしいけど。
その中でも特別なのが空間魔法。能力のひとつが「収納」。これはアイテムボックスと同じ能力らしいよ。あとは「転移」。任意の場所、どこへでも行けるらしいんだ。魔王無敵の理由のひとつだったらしいよ、転移。そんで最後に「アイテムボックス作成」。これはもう文字通り。魔王配下に「収納」を持たせたかったんだろうね。
「根拠は?」
「エミリアがね、アイテムボックスを持ってる」
なるほどね?
興味深い新人君が現れたねぇ。
◇◇◇
ソーニッジでダンジョンが発見された。発見者は例の新人君らしい。
おかげで一気に仕事が増えたよ!
新しく村を起こすなんて、どれだけ手間が掛かると思うんだい?
ご先祖様の苦労を私もすることになるとは思わなかったよ!
その上、元々ダークエルフの村落で現在は誰もいないときているし。
入植から始めないとダメなわけだからね。道の手配もだよ。
ダンジョンだから、今後の税収が見込めないわけじゃないけどねぇ。
アルスター領の新しい財産であることは喜ばしいけど、私個人としては全然嬉しくないね!
アルスター領は広いからね、それだけ決裁も多いのさ。それなのに新規にダンジョンと村興しとか。もうガマンならないね!
責任者呼んで来い! 私です。
これは発見者の新人君に、憂さ晴らしに付き合ってもらうしかないよね。
そのくらいの権利はあるはずだよ。
ウリーリャは私が冒険者と関わるのを好まないけどね。
なんといっても私は魅力的なホビットだからね。私の魅力にやられてしまう冒険者もいるんだよ。過去に一度盛大に勘違いした冒険者が警備をかいくぐって、私の寝室に侵入したときにはさすがに処分せざるを得なかったけどね。
罪作りな女だよ、私は。
それからウリーリャの方で警戒して、あんまりな冒険者は面会もさせてもらえなくなったけどね! 正解だとは思うよ。
それでイソ君に会ってみたわけだけど。
騎士として鍛えたアルネーの剣術に合わせて武器破壊とは非常識だね!
アルネーも手を抜いてなかったけど。剣術上級まで修めているアルネーの剣術だからね。初級の斬撃でも鋭さは上級と変わりないんだね。
その鋭い剣戟に自分の剣術を合わせてくるなんてマネは普通できないもんだよ。
その上、僕の交渉系の天啓も無効ときた。
その後の話し合いでもうまく丸め込まれるし。アルネーまでね。
15歳の少年とは思えないよ。
その後のソーニッジ発見の報酬はいいけどね。少し渡しすぎとも思わないでもないけど、ダンジョンマスター討伐したあとだから、いまさらなところがあるからさ。
私も個人資産のほとんどはダンジョン収益だし。
それでもさー。強いのはわかってたけど、古吸血鬼を倒すのってアリなの?
アレも長命種だからLv200超えてるのが普通なんだけど。ヒューマンが倒せるような相手じゃないんだけど。
そんでなに? ソーニャを守りながら、グール化した村人を一撃で屠って、圧倒的魔法で古吸血鬼を倒したって?
そんな話を聞いたらさ、もう辛抱たまらんじゃない?
発情期に入ってんの!
発情期に入ってもさ? 優秀なオスがいないならそれまでなんだよ。盛っても仕方ないからさ。優秀な子供を残せないなら意味ないでしょ?
周囲にそんなのいなかったから、これまではガマンできてたのさ。
でもさーこうなるとね。
別に父親は要らないんだよ。私くらい資産があればひとりで子供は育てられるしね。
実際、息子は王都で冒険者やってるし。
息子の父親はヒューマンだったからもう死んでるけどねー。
子供? ホビットだよ。
異種族で交配すると、だいたい母親の種族になるの。
たまにハーフが生まれるけど。父親の種族になるのは珍しいかな。だからかもしれないけど、旦那にヒューマン選ぶ場合も多いよね。短命だけど、年中発情してるから、子供を残しやすいんだね。
私は、夫はひとりしか持たなかったけど、やっぱりヒューマンだったよ。
冒険者時代、一緒に冒険したひとだね。その頃だと先代が生きてたから、私も旦那とせっせと盛って子供を作ったわけ。
まーパーティー組んでたくらいだから、優秀なひとだったよ。
それでだね。
実際に目で見て。
他人の話を聞いて。
発情期に入っていた。
条件は揃っていたわけさ。
とはいえ、子供を作ろうと思ったわけじゃないのさ。
言わば治療だよ。発情期を抑えるというね。
長いと1週間以上辛いからね。
相手がいるなら二日くらい盛れば治まるかなって思ったのさ。
食っちゃえばいいか~みたいなノリでね?
エミリアなんて奴隷を連れてるくらいだから、私の身体に反応しない可能性は高かったから媚薬まで用意してね。
…食われたよね。
反省してる。イソ君を甘く見てた。
エミリアも。あの二人のコンボヤバイ。
よく、良すぎて失神するなんて言われるけど、そんなことあるかって思ってたよ。
あるよ? 頭の芯まで痺れるような快感っていうのはね?
それが連続で来ると本当に失神するんだねぇ。
勉強になったよ。
私の経験は約束だからウリーリャには話さないでおくけどね。
ウリーリャの発情期は、十数年に1度っていうくらい間が空くからね。
その分、来た時がすごいんだよねぇ。
ウリーリャもイソ君には目を付けてるみたいだし、さてイソ君は大丈夫なのかな?




