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異世界転生で理想の生活を  作者: かおりん@
4章

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提案

 ◆提案


「イソ君がヴァネッサにプロポーズ!?」


 騒ぎ出したのは戦乙女の連中が最初だ。


「ヴァネッサさん! そんな野郎なんかより俺の方が!」


「ずっと前から好きでした!」


「ヴァネッサ姉さんを取られるくらいならいっそ!」


「お姉さま!?」


 盛大な誤解がギルド内を駆けまわっている。


「イ、イソ君、君…」


 ヴァネッサさんも誤解しているようだ。


 説明が不足していたか?


「いや…今度アルスターに屋敷を買うことになりそうなんですよ。それでどうかと…」


「すでに屋敷まで準備してる!?」


「婚約者がいるんじゃなかったのかっ!!」


「くっそう、どれだけ甲斐性を示しやがるんだっ!!」


「お姉さま! そんな男のものにならないでっ!」


 誤解は解けないようだ。


「どういうことなんだ?」


 ヴァネッサさんは少し冷静さを取り戻している。


「会ったことはあると思いますが、アマネさんの斡旋なんです。貴族の元屋敷が安く手に入りそうなんですよ。

 まだ内覧もしてないから、全然決まりじゃない話なんですが、手付だけは払ったんです。

 …アマネさんが乗り気だから購入はほぼ確定なんですよね。

 でも貴族の屋敷ってことで部屋数がすごい。

 正直オレたちだけだと持て余すわけでして。

 だから戦乙女のメンバーも同居しないかと思ったんです。

 ほら宿代だってバカにならないですよね?

 だから家賃を取らないから、メイド代わりに屋敷の管理をしてくれないかなあと思ったんですが」


 オレの説明にギルド内は静まり返った。


「メイド…」


 ヴァネッサさんは少し考える素振りをした。


「「「「メイド…」」」」


 周囲も同様だ。


「ヴァネッサさんのメイド姿…アリだな」


「「「「「アリ!!」」」」


 そういうことらしい。


「給料は出しませんし、食事の支度、材料などは勝手にしてください、って感じです。家具も備え付けの物がそれなりにあるそうで、それらは自由に使ってもらっていいですが、それ以外は自前で揃えてもらう感じになりますかね」


「メンバーの意見も聞いてみないと。

 私たちのメインの活動はスミストルなんだ。アルスターから通う、となると、移動時間を考えないとならない」


 確かにそういう問題はある。


「ねぇ! イソ! それってあたしも同じ家に住んでいいってこと!?」


 エイミーちゃんだった。


「あーまあ、そういうことだな」


「エロいことし放題!?」


「ならねぇよっ!!」


 エイミーちゃんだけはぶれない。


「「「「「えっ?」」」」」


 戦乙女全員が声を上げた。


 いやいや。ハーレムメンバー募集に来たわけじゃないですから。


 ララティもそんな目で見るんじゃありません。


「オレは基本、夜はエミリアを相手してるから。エミリアのご奉仕タイムだから」


 結婚の条件に「エミリアのご奉仕を邪魔しないこと」ってのがあるからな。


『イソ君! なんか使えるっぽい!』


 ラージャからメッセージが入った。


 ステータスを確認すると「双剣術」なるものが生えてきてる。


 剣術とは別系統なのか?


 あ、ラージャに盗賊と暗殺者が生えてる。


 双剣は暗殺者の技か。それを身に付けたから遡って盗賊が生えてきたんだな?


 そらまあ、上位職の技なら簡単に使えるはずないわ。


 ヴァネッサさんが否定的なのも納得だわ。


『戻っていいぞ』


 ラージャにメッセージを送る。


 何はともあれ、今日の目的は果たした。


「内覧する日が決まったらメッセージを入れますので、メンバーと一緒に来てください。見るだけみて考えてもいいじゃないですか」


「それもそうだね。私としては乗ってもいいんだけど、やはりスミストルとの移動がな」


 そういう問題もある。


 まあ、実はそちらはアテがある。


 古吸血鬼(エルダーヴァンパイア)ってすげぇよな。


 そんなことをしているうちにラージャが戻ってきた。


「あれ? イソ、帰るの? エロいことは?」


「しねぇよっ!!」


 これだけの面々がいるなかで何言ってんだ、こいつ。


 本当にエイミーちゃんはブレない。


 残念そうなエイミーちゃんを残して、オレたちはアルスターに帰るのだった。


 ◇◇◇


 古吸血鬼(エルダーヴァンパイア)の魔術回路のひとつ。転移門(ゲート)。


 範囲10km以内の任意の地点に転移する魔術回路。


 なんでも空間魔法を解析して、転移の一部だけ実現可能にしたとのこと。


 実は試作魔術回路にアイテムボックスもあり、こちらは枠10。収納数も枠内で99個まで、時間固定はできない。などなど。


 劣化版のアイテムボックスだな。案外出回ってるのはこっちのアイテムボックスなのかもね、とも思った。ロリソンの「本物のアイテムボックス」に対しての驚き方がすごかったもんな。


 ちなみに。転移は空間魔法Lv4なので、まだ上がありカンストしましたが、意味がわからないので使ってないです。


 ちなみにこんな感じ。


【空間魔法Lv5・転送】

 マークした任意のポイントへ意識内の物質を転送する。


【空間魔法Lv6・空間操作】

 別次元の空間を固定し任意の空間と接続する。


【空間魔法Lv7・空間認識】

 指定された空間内の事象を認識する。


【空間魔法Lv8・空間属性設定】

 指定された空間に属性を与える。

 例)麻痺する空間。重力が増す空間。


【空間魔法Lv9・空間干渉】

 指定された空間の事象に干渉する。


【空間魔法Lv10・深淵(アビス)】

 指定された座標に存在する物質の重量を無限に増加する。

 圧縮されたエネルギーは別次元に解放される。


 という感じ。Lv5はわかる。転移の広範囲版だし、まあ、実はたまに使う。


 Lv6の空間操作もエミリアの家を作るのに使ったし、まあわかる。


 Lv7も実験して確認したからわかる。エミリアの主人探知と似た感じのことを指定空間に対して行うもの。


 Lv8はなに? どう使うものなの? 毒の空間とか。罠を設置するの? わけがわからないよ。


 Lv9。これも実験してみました。空間認識を実行しながら、空間干渉で別の部屋のエミリアのスカートを捲ってみました。別の部屋にいる女の子へ痴漢し放題の能力のようです。


 Lv10。深淵(アビス)ってなに? なんで攻撃魔法なの? これマイクロブラックホールだよね? 結界・空間断絶で括ってから使わないと危険すぎるよね?


 とまあ、女の子に痴漢し放題の魔法はともかく、他はちょっと用途が思い付かない。


 深淵(アビス)は強力そうだけど、魔物を倒したって世界に認識されんのかな。


 危な過ぎて迂闊に実験もできねぇ…。


 空間属性設定は体力自動回復取得目的なら使えるかもしれない。


 毒空間にしておけば毒薬要らないし。要研究。


 それはともかく。


 転移の魔術回路は1箇所だけ地点を設定できる。キーホルダーチックなサイズのミスリルで組み込めた。薄い金属板。


 初回起動時の魔力パターンを記憶して他人には使用不可という安全装置付き。


 古吸血鬼(エルダーヴァンパイア)の技術はすごいわ。


 ちなみに。


 この魔術回路という技術体系。実はこの世代にも伝わっていました。


 デデンさんから教えてもらいました。


 今は「魔法陣」というそうです。


 普通に魔道具に使われていて、蛇口やシャワーなどの水回りの魔道具。魔石コンロなど火系統の魔道具には魔法陣が組み込まれていて、魔石を燃料として駆動するそうです。


 この魔法陣もなかなかおもしろい技術で、単体の魔法陣には大きな機能が組み込めないそうで、複雑な術式を組み込もうとすると魔法陣が大きくなるか、起動に失敗するらしい。


 そういう意味では魔法陣は魔術回路が退化した技術なのでは? と思うけど、魔術回路のもうひとつの可能性ということで魔法陣も研究してみるとデデンさんは言ってた。


 既存技術の改良ならデデンさんならすぐにできてしまうのでは? と思った。


 根拠はないけど。


 というわけで、移動に関しては目途が付いたけど、これ契約しないとダメだろうな。


 ◇◇◇


 日程をすり合わせて内覧の日。


「貴族ってさ、税金で暮らしてるんですよね?」


「多くの貴族の方はそれ以外にも副業を持っているのが普通です。商会を持っていたり、農園を経営していたり。

 領地の税収のみで生計を立てているのは辺境伯などの上位貴族だけではないかと思いますね」


 とはアマネさんの解説。


 目の前には広大な庭園と巨大な屋敷が立っていた。


 まず庭が広い。池に噴水とか、川とか流れてる。なんか薔薇のアーチで小径がある。


 たぶんガーデンパーティー用の庭とか。そこからいくつか密談用の東屋。庭木で区切ってるのはそのためだと思う。魔法まで使えば完璧だな。


 建物の方は。


 まず重厚な玄関。


 中に入ると吹き抜けになっているホール。


 1階は主にパーティーや晩餐会に使われるであろうホールと、いくつかの応接室。


 それ以外に使用人用の部屋と思われる大部屋が4つほど。4人ひと部屋前提なのだろう、ベッドが4つにクロゼットも4つ。


 それに加えてもう少し扱いのよい使用人向けと思われる部屋が個室で10ほど。


 あとは大厨房。すげぇ設備。パーティーなんかではフル稼働するんだろうけど。


 次に普通の厨房。使用人向けだったのかな。それでもご家庭サイズとは思えないシステムキッチン。


 んで風呂。たぶん4人くらい同時に入る想定。


 あとは倉庫とかいろいろ。中身は空だった。


 そんで2階。


 マーヴァイルって貴族はアレだったんだろうなあ。ハーレム作ってたんだろうなあ。


 リルルのとこに負けない寝室が3つ。


 大浴場。10人くらいで入れるやつで獅子とかがお湯を吐く。これ魔道具。


 あとは並みサイズのキッチンと小規模なダイニング。内装は豪華だけど。


 普段の食事はここでしてたのかね。


 そんで、奥方や側室? 妾? 用と思われる部屋が6つ。天蓋付きベッドあり。クィーンサイズ。さすがお貴族さまの寝室。見事にスライムベッドだった。


 書斎、執務室、リビング、ホームバーなどなど。空だったけど書架があり、図書室と思われる部屋もある。


 奥方たちの部屋とは執務室とリビングを挟む形で家族向けと思われる部屋が4つ。


 たしか嫡男とかいうのがエミリアを奪いに来たと思ったので、そいつが住んでた部屋なのかな。


「ちなみに、この土地建物はマーヴァイル子爵の別邸で、本邸は王都にありました。

 破産した結果そちらも売買に出てます。

 結構いい値段が付いてるらしいですよ。

 今回は、辺境の別邸ということで、あまり注目を集めることがなかったので押さえることができたんですよ。

 資料を見ましたが、王都の家の方が、こちらより古くて狭いですね。

 どうやらこちらに土地を確保してお金を投入して別邸を作ったようで、王都よりもこちらの方が気候的にも過ごしやすいので、こちらで過ごすようにしていたみたいです」


「ギルド調べですか?」


「もちろん。ギルドの情報網を甘く見てもらっては困りますね」


 その情報網を私物化すんなよ。


「実際、アルスターは辺境なのも事実で、領主様に代官でも委任されるなら話は別ですが、自領を離れてアルスターに住み着く貴族は稀です。

 マーヴァイル子爵は変わり者と言っていいかもしれません。

 あるいは家督を譲るつもりだったのか」


 家督を譲れば、自分は隠居生活だ。なるほど、アルスターに引き籠ろうと思っても不思議はない。


「そのような理由から、この物件はろくに査定もされていません。管財人もアルスターまでひとを派遣して見積もりは取らなかったみたいですね。

 単純にアルスターの土地平均価格と面積から処分価格を決めたっぽいです」


 だから格安なのか。立地も建物も文句はないな。


「買います?」


「欲しいんでしょ?」


 にんまりと笑うアマネさん。


「イソ君、この家買うんだ。前の家は?」


「残すよ。アレ、ラージャの家だし」


「え? そうだったんだ」


「いろいろしてたのは知ってるからね。エミリアの家はあっちだし」


「あーたしかにあっちはエミリアがいろいろしてるね。そういうことだったんだ」


 ラージャが納得している。まあ棲み分けは必要だと思うんだよ。


「ところで戦乙女のみなさんはどうしてここへ?」


「ああ、一緒に住もうかと思ってね。呼んだんだよ」


「戦乙女のみなさんと?」


「これだけの規模の家だよ? メイドは必要だと思わない?」


「冒険者をメイド扱いですか。やりますね、イソ君」


「パーティーメンバーの出入りもあるだろうし、必要なら別にメイドなりハウスキーパーなり雇うけどさ。スミストルをメインに活動してる戦乙女なら遠征とか少ないだろうし、人数も問題ないかなとか」


「戦乙女のみなさんの意向はどうなんでしょう?」


 アマネさんは問題がないらしい。ハウスキーパーは必要だと考えているのだろう。


 冒険者のパワーがあれば下男的な役割もできるしな。


 なにより、警備面で安全だ。


「えっと、イソ君。この家に住んでいいって?」


 少し青い顔をしてヴァネッサさん。


「1階は好きに使ってもらおうと思ってますけど、狭いですかね」


 個室が16畳くらいだったな。ダブルベッドと、なんか業務机と簡易キッチン。


 2階と違ってスライムベッドではなかったけど、それなりの品質のベッド。


「あの4人部屋をふたつ占領していいと?」


 4人部屋はあまり広くない。24畳くらい。ベッドもシングル。品質は個室と大差ない。


「それでもいいですけど。6人しかいないんだし、全員個室でもいいのでは?」


「いや、いやいや、いやいやいや」


 盛大に首を横に振るヴァネッサさん。


「私たちが借りている宿はだね、イソ君。3人部屋がふたつで、1日銀貨2枚なんだ。

 広さも大したことはなくてね、ベッドが3つあるだけで、他は荷物を置いたらもう一杯という大きさの部屋なんだよ。

 ベッドの品質もだね、まあ君も冒険者だからわかると思うんだけど、寝藁を束ねて上にシーツを重ねました的なものなんだよ。

 それなのに、だよ?

 4人部屋でさえ過剰なのに個室を与えるとか、君は私たちに何をさせたいんだね!?」


「え? メイドですけど」


「本気だったのかい…」


 それ以外になにを。


「これはメンバーの総意ではなく、私の個人的意見だから参考程度にして欲しいんだけどね。

 これだけの屋敷に住まわせてくれて、基本施設は使い放題、冒険に行って稼いでいいし、好きな時だけ家事をしてくれればいいから、ってことなら、私はイソ君に嫁いでしまうよ!?」


 いや、安すぎるだろう、ヴァネッサさん。


 他の戦乙女のメンバーも頷いている。とくにエイミーちゃんがにこにこだ。


「ねえイソ、2階も使っていいの?」


 エイミーちゃんである。


「どうしても2階がいいというなら考えないでもないけど、2階はうちのスペースにしたいと考えている。エミリア、ラージャの奴隷ふたりとアマネさんの3人だな。

 言い換えればオレの嫁だ」


 その宣言にアマネさんが真っ赤になる。何をいまさら。


「あとはオレの希望というか家主の希望なんだが、男を連れ込むのは遠慮して欲しい。

 盛るのは自由だが、オレの家にオレ以外の男がいて我が物顔されるのは、たぶんムカつくと思う。現実になってみないとなんともいえないんだが」


「イソならいいってこと?」


 そこを突かれて思わず言葉に詰まる。


「…オレが相手では、ムカつくことはできないと思う」


「じゃあ大丈夫! あたしイソとしかしないし!!」


 オレがしねぇんだよ。


「まあ」


「さすがに」


「ねえ」


「そんなことはしない」


「と思う」


 さすがにそんなことはないとオレも思う。


 エイミーちゃんとララティは、オレに対してはちょっと怪しい。


「なお、庭が広いから庭ならOKという隙間を突くのもNGとさせて欲しい」


「外でなんてしないわよ」


「したことある」


「興味はある」


「普通じゃないの?」


「…」


 ララティが顔を赤らめて沈黙した。何を想像したエロフめ。


「東屋とかいい感じだったね!」


 ちょっと黙ろうか、エイミーちゃん。


 しかし東屋か。よし、正式に屋敷を入手したらエミリアと試そう。


「炊事などは当番制にすれば回るだろうし、これだけの住環境を得られる機会はめったにない。スミストルとの距離を考慮しても、この話は飲むべきじゃないだろうか…」


 悩むヴァネッサさん。


 やっぱり最終的にはそこに行きつくよね。


「ちょっとヴァネッサさんを借りるね?」


「エロいことならあたしが行くよ!」


「ちげーよっ!!」


 ヴァネッサさんのみを別室へ。


 2枚の羊皮紙を取り出す。先日作成しておいた契約の書類だ。


「これから試してもらう、とある魔道具に関しての契約書です。

 わりと洒落にならない魔道具なので、他人に漏らしたくないんですよ。

 2種類の契約を用意しました。天啓(スキル)による契約なので、確実に実行されます。

 これから見せる魔道具に関して、一切を他人に話せなくなる契約と、話したら死ぬ契約を用意しています。

 どっちにしますか?」


 不自由な2択というやつだ。


 絶対無理という条件と、これならいいかな、という条件を用意し誘導する。


 この場合、契約を結ばない、そもそも魔道具を見ないという選択もあるのだが、その自由を奪う。


「…話せない方で」


 死んだら困るもんな、普通。


「では血の契約を」


 ヴァネッサさんは血を1滴垂らす。


 薄い金属片を取り出す。


 転移門(ゲート)の魔術回路を組み込んだアレだな。


「では、これがその魔道具です。すぐにオレも行きますから、その場から動かないでくださいね」


 金属片をヴァネッサさんに渡した。


「魔力を流してください。火を起こす程度でいいです」


 頷いたヴァネッサさんが目の前から消えた。本当に消えるのな。


 オレも急いで後を追って転移する。


 万が一動転して移動していると困るので探知して傍に転移する。


 ヴァネッサさんはスミストルの門が遠目に見える場所へ転移している事実を理解して立ち尽くしていた。


「どうです?」


「どうって…どうなってるの!?」


「道々話しましょう。まずはアルスターへ帰りましょうか」


 オレはトウガラシ号を取り出した。


 トウガラシ号の助手席で放心しているヴァネッサさんに転移という魔法、そしてそれをミスリルの金属片に埋め込む魔術回路が存在することを説明した。


「古吸血鬼(エルダーヴァンパイア)の技術なんですけどね。運よく解析できまして」


 ウソだが、その辺はどうでもいいだろう。


「広まると大変なことになるんですよ。加えて言えば、金属片ひとつに設定できる位置もひとつだけ。だから、スミストル近くのひと目に付かない場所をひとつ、あとはアルスター郊外にひとつ設定して、2枚の金属片を渡します。

 直接ダンジョンに転移も可能ですが、衛兵に出入りを見られないのにダンジョンにいるのは不自然ですからね。

 転移による時間短縮は、衛兵同士が互いに疑問を持たなければ問題にならないと思います」


 ヴァネッサさんは小さく頷いた。


 これで戦乙女があの屋敷に住む障害はなくなったはずだ。


 それでもイヤだというなら、本当にハウスキーパーを考えよう。


 無理に戦乙女と同居したいわけではない。


 あの屋敷はアマネさんが欲しいというので買う。これは決定事項だ。


 ただアマネさんは屋敷の運用までは考えてなかったに違いない。


「いい物件が格安で出た! 買う!」


 というノリだからだ。


 ここにオレの交友関係の狭さも影響してくる。


 同居しても良さそうな知人など戦乙女しかいなかったのだ。


 ソーニャさんなら同居してもいいけど、距離的になあ。ロージアンからアルスターに転勤にでもなれば考えないでもない。


「移動の問題が解決したことは理解したわ。

 もう、私ひとりでもあの屋敷に住む!」


「いや来るなら全員で来てくださいよ」


 ヴァネッサさんが欲しいわけではない。人手が欲しいのである。


 トウガラシ号で屋敷に戻ると、戦乙女のメンバーはエイミーちゃんを除いて不安顔、奴隷たちはいつも通り、アマネさんは「なんかやらかしたわね」という顔で待っていた。


「みんな、スミストルとの距離の問題はイソ君が解決してくれたわ。

 天啓(スキル)による契約が必要になるけど、みれば納得すると思う。

 メイド兼業がイヤな子はいるかしら?」


 ヴァネッサさんの質問に戦乙女のメンバー全員が首を横に振る。


「そう。よかったわ。反対するならパーティーから抜けてもらうことも考えていたから」


 そこまでかよ!


「それで、イソ君。いつから住めばいいのかしら?」


 アマネさんを見る。


「譲渡の手続きはイソ君次第だから、名義変更は今日中にでもできるわ。金貨100枚程度なら問題ないでしょう?」


 仮にいま口座が空だとしても分割払いにして貰えれば、そのくらいの金額は支払うことができるだろう。


 やはりソーニッジのダンジョンを入手できたのは大きい。


 不労所得バンザイ。


「「「「金貨100枚!」」」」


 エイミーちゃんとララティを除く戦乙女のメンバーが驚く。


「あら? みなさん知らなかったのですか。イソ君の資産は最低でも金貨1万枚ですよ? 何かに使ってなければ」


「ムダ遣いはしてないですよ?」


「「「「金貨1万枚!?」」」」


「そのイソ君の資産のネタがマーヴァイル子爵なわけですが」


 戦乙女のメンバーからごくりと唾を飲む音がする。


「イ、イソ君!」ヴァネッサさん。


「イソきゅん!」ナナ。


「イソ君!」マインちゃん。


「イソさん!」リリーさん。


「おまえら、エミリアに勝てるところがひとつでもあるなら言ってみろ」


 戦乙女との同(・)居(・)が確定し、引っ越しは1週間後と決まるのだった。


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