草食系冒険者
◆草食系冒険者
それから2週間。
淡々と薬草を採取する毎日。
一日のノルマは100本と決めている。
一日銅貨500枚。銀貨で5枚だな。生活費としては余裕。ちょっとした贅沢もできる。
森にはもっとたくさんの薬草も生えているけど、他の冒険者の邪魔になってもまずいのでノルマと上限は同じにしてる。
あの森は不思議なところで、薬草を採取しても次の日には、また同じ場所に薬草が生えている。
アマネさんに聞いてみたところ、薬草も魔物と同じように湧いてくるらしい。魔力濃度がなんとか、そういう話をしていた。
「植物図鑑に書いてありませんでしたか?」
アマネさんが不思議そうな顔をしていた。
ヤベ。マジメに読んでないから知らなかったわ。採取の常識だったか。
知らないとみると、さらに詳しく教えてくれて、ランクの低い薬草や魔物は短いサイクルでポップし、ランクの高い魔物や薬草は長いものだとポップに年単位でかかるらしい。
依頼ボードにあった「幻の果実ネクタール」などがその典型で、100年に一度しか実を付けないとか。つまり、依頼票の地図の場所に行ってもなにもないわけだ。木は生えてるかもしれないけど。あの依頼を達成するなら、別の場所からネクタールを取ってこないとダメってことだな。
そういうわけで、ギルドも薬草採取は常時依頼にしやすいということだ。
実際、薬草でフィルターしても見える範囲に常時1000本くらいあるし、森全体だとすれば、もっとあるだろう。奥まで行ってないからわからんけど。
オレは隠密が有効だと気がついてから、何度か実験して隠密中の行動は魔物にバレないと確信した。盗賊天啓すげぇ。
なので、薬草の群生地を周って一日100本の薬草を集めている。
で、付いたふたつ名が「草食系」。文字通り草で食ってるからだな。
こっちのひとは前世のスラングなんぞ知らんだろうから、悪意がないのはわかるが。
オレは草食系じゃないっての。
前世では付き合っていた女性がいたこともあるし、そういうこともした。
結果として独身ではあったが、女性に興味がないわけでも、遊びをしないわけでもなかった。。
実際、こっちで娼館を見かけたから、入ってみたこともある。
1件目。「子供が来るところじゃないから、もっと稼ぐようになってから来てね♡」と言われた。実際料金が最低銀貨10枚からとのこと。ランクの高い冒険者御用達ってことだな。オレの稼ぎでは、ちょっと贅沢過ぎる。まる二日分の稼ぎが一夜の夢で消し飛ぶ。
2件目。「あんたみたいな田舎者がこういう店に来ると、身を持ち崩すよ。地道に稼ぎが安定してから出直しなよ」とやんわりと断られた。こちらの料金は銀貨2枚。いまの稼ぎとしては悪くない感じだが、通ったりしたらヤバそう。まあ、お店のお姉さんのいうことももっともだった。
3件目。これは城壁近くにある露店娼館ともいうべき場所で、娼婦通りと呼ばれている。娼婦が自分で客引きしてて。客を捕まえると、なんか自分のテントっぽいところに連れ込んでる。テントも複数で共用している場合と、個人で持ってる場合があるみたいだ。
隠密してしばらく眺めてたけど、ヤるだけ、な感じ。娼館というと、話をしたりお酒を飲んだり仕事のストレスを発散させてくれる場所、ということを酒場で酔った冒険者のおっさんに聞いたけど、ここはストレートに性欲を発散させるだけのところだな。
料金はピンキリ。銅貨30枚のひともいれば、銀貨1枚のひともいる。娼館と違って回転が早いから、もしかしたらこっちの方が稼ぎはいいのかもな。
実際綺麗なおねーさんは人気があって、回転もいい。ときどき用心棒っぽいひとがお金を回収していく。不用心だしな。
ちょっと鑑定してみた。
気になるところは「種族:ヒューマン(奴隷)」ってところだろうか。
奴隷いるんだ。世界観的にいるかも、とは思ってたけど。
どうして奴隷になったのか気にならないではないけど、奴隷落ちなんてさまざまな理由があって当然だし、深追いしないに越したことはない。
値段の安いひとは病気だったり、見た目がよろしくなかったりといろいろとあるようだけど、さっきの奴隷のおねーさんは銀貨1枚で、テントも個人持ち。
若い身体が滾ってしまったら、このおねーさんへお願いすることにしよう。
後日、また来て営業時間も調べておかないとな。
そう思って娼婦通りを抜け出し、オレは隠密を解除した。
◇◇◇
「イソさん、狩りをしませんか?」
にっこりとアマネさん。本日の採取の結果を査定してもらっているところだ。
「狩りをしないとまずいですか?」
「まずいということもないのですけど、採取だけだと冒険者ランクを上げられないんです。冒険者の主な仕事に護衛があるんですが、狩りの実績がないとできない仕事です。
冒険者に好まれる割のいいお仕事なんですが、ランクEからじゃないと受けられません。
イソさんの場合、ランクGですから受注できないんですよ」
冒険者ランクなんて上がらなくていいのでは? オレはそう思っていたのだが。
「ランクがひとつあがると、常時依頼のFランク以上指定が受けられるようになります。こちらは薬草の買取額が上がり、ひとつ銅貨10枚になるんです。
その、ギルドとしてもイソさんの採取の腕前は評価していて、もっと高ランクの採取に挑んで欲しいって思惑もありまして。
それに私もイソさんにはランク上がって欲しいなって」
にっこりと微笑むアマネさん。おおお…いやこれは罠だから。営業スマイルだから。
それはともかく薬草採取の買取金額が倍になるのは大きい。
それに娼館2件目で断られたのはギルドカードを寄越せと言われてランクGなのがわかったから断られた感じだ。
総合的には冒険者ランクは上げておいた方が得なのか? 実際、オレに娼館のことを教えてくれたのはランクDの冒険者だ。そのおっさんは月に一度、自分へのご褒美として娼館に行っていろいろと発散するらしい。財布も発散するらしいが。
ただまあ。
ぶっちゃけると魔物って恐いんだよ。
ガチの生存競争なんだよ? 競技じゃなくて。勝った負けたを競うんじゃなくて、負けたら死ぬの。
魔物もそれをわかってるから、生き残りに賭けてるから、執念がすごいの。迫力満点なんてものじゃなくて。
何度か森で冒険者対魔物ってバトルを見てるけど、鬼気迫るって感じ。どっちもガチだから。格下のツノウサギ相手だからって「こんなのラクショーっしょ」って雰囲気は微塵もない。
実はチャレンジもしました。
森じゃなくて草原の方で、鑑定でツノウサギを探して。アクティブになった瞬間、転移(短)で逃げました。だって殺意がすごいの。絶対殺してやるって意思が伝わってきて、身体が動かなくなって、天啓使うしかできなかったから。
身体が動かなくても実行できる天啓っていいよね。死なずに済むから。
でもアマネさんの話を聞くと、狩りはしないとダメそうだし、もう少しチャレンジする必要はあるのかもしれない。なんか冒険者向いてないんじゃね? とか思ったりもしたけど。とはいえいまさら生産職で地味に稼ぐのもなんか違うなって思うんだよ。
こう一攫千金を狙うのが人生っていうか? 宝くじ? 買う方です。
でもこのままじゃダメだわ。
「じゃあ、ランク上がったらデートしてくれますか?」
命を賭けるんだから、なんかご褒美が欲しい。アマネさんに言ってみた。
「え? ええ~?」
困惑している。
「い、いいですよ。でもランクアップのためには、ゴブリン50匹以上の討伐が必要です。
10日以内にランクアップできたらデートします」
ちょっと赤い顔でアマネさん。
聞き耳を立てていた周囲の冒険者たちやギルド職員から歓声が上がる。
「どっちに賭ける?」
「そら失敗だろ。オレたちなら一日5匹以上のゴブリンとか余裕だけどよ、草食系だぞ? いままで討伐実績0。しかもランクGってことを考えても、魔術師でソロだし、うまく行っても一日ゴブリン3匹だろ」
「まあ、そうだよなぁ」
「じゃあ大穴狙いで成功!」
周囲は賭けで盛り上がり始めてしまった。
まあいいだろ。盛り上がるくらいにはオレもこの街に受け入れられてきたってことだ。
「じゃあ、期間は明日からでいいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
緊張感のある顔でアマネさんがうなずいた。デートがかかってるんんだから当然か。
いや、大人のデートのつもりはありませんよ? 健全なデートですよ?
◇◇◇
翌日。オレは草原で鑑定していた。森の方が、ゴブリンが多いのはわかっていたが、あちらは単体が少ない。2~3匹の群れで行動することが多いのだ。自分たちの非力を十分にわかっており、群れないと簡単に狩られてしまうことを知っているからだ。多い場合には5~6匹の群れになり、この場合はこちらも数人のパーティーじゃないと逆に狩られてしまう。
そのため、はぐれて草原に出てきている1匹のゴブリンを狙う。
ノルマを達成するだけなら、魔法で単純に遠距離攻撃でいい。
しかし、それだとどこかゲーム感覚、命のやり取りの感覚が薄まると思うのだ。
だから片手剣で直接命のやり取りをする。ステータス的には互角とはいい難いが、こちらも命を取られる可能性がある距離で戦う。覚悟を決める。
「よし、見つけた」
はぐれゴブリンを見つけた。武器はこん棒だ。
実は頻繁に鑑定していたので、鑑定はLv3になり「ステータス鑑定」という天啓も得ている。これを使うと、体力を名前の下にゲームよろしくHPバーとして表示できる。鑑定なのか? 鑑定か。
ゴブリンに向かって走り出す。
「うぉおおおお!」
戦意高揚のために雄叫びを上げる。
こちらはLv5。ゴブリンはLv3。ステータスもオレが圧倒的に上だろう。でもゴブリンはひるまない。こん棒を構えてやる気十分だ。
こちらに向けられる殺気。殺意。足が竦みそうになったが、アマネさんの笑顔が浮かんだ。笑顔が勇気を与えるってこと、本当にあるんだなぁ。
振りかぶられたこん棒を片手剣で弾き飛ばす。
素振りで得られた感覚なら、間合いは十分。
剣術・斬撃。
狙うべき急所が見える。急所に斬撃を通すために身体が動く。
片手剣は狙い違わずにゴブリンの急所を切り裂き、ゴブリンは唖然とした表情で倒れた。
まあそうだろう。天啓発動前までは身体がブルブルいっていたような戦闘の素人だ。自分が一撃で殺されるとは思ってなかったに違いない。
実際、天啓があってよかった。ないままに戦いを挑んでいれば思うように動かない身体でゴブリンと泥仕合になっていただろう。体力で圧倒的に上回るから、オレが勝ったとは思うが、1戦ごとに泥仕合では、確かに一日で3匹がいいところだろう。念のために剣術を反復練習しておいてよかった。
ただ練習では急所が見える感覚はなかったな。実戦じゃないとわからないことも多いなぁ。
そのままはぐれゴブリンを探して、本日分のノルマ5匹を倒す。鑑定なかったら、草原ではぐれゴブリンを探すのも大変かもしれない。オレには鑑定と転移(短)があるから時短できるけど。収納から5匹分の魔石を取り出してみる。鑑定すると「ゴブリンの魔石」と出るから間違いないのだろう。他の魔石見たことないからわからないけどな!
それでだ。
ある程度は殺気というか殺意を受け流す方法も見えてきた気がする。まだガクブルだけど、要は「オレの方が強い」と思えるかどうかが重要だ。簡単なようだが、これが間違ってると慢心ってことになって死ぬ。このことに自信がなくても身体が動かなくて死ぬ。
絶対に死なないぞ! と思いながら、相手のことをよく見て、勝てるかどうかを見極め、ダメそうなら退く。ちなみに退くのはゴブリンがやってた。こちらを見て、明らかに勝てそうもないから逃げる。賢明な判断だ。その時のゴブリンのレベルは1。逃げて当然。オレもゴブリンを見習う必要がある。
とにかく殺意とか殺気は慣れないとどうしようもない。相手も必死なのだから、こちらも必死にならないとならない。
採取のように淡々とではなく、必死に数をこなそう。
魔物相手の狩りは狩りじゃない。生き残りを賭けた闘争なんだ。油断したら死ぬ。ビビっても死ぬ。勇気をもって戦う。もうそれしかない。
ああ、アマネさんの笑顔のために。まあ営業スマイルなんだけどさ。
草原で10匹目。だいぶがむしゃらにやってきた。さっきは2匹同時だったけど、斬撃から刺突への連携がうまく行った。2方向からの殺気に少し足が竦んだが、きちんと天啓は実行できた。
12匹目。
『Lvが上がりました』
とファンファーレの鳴り響く気がした。実際には鳴ってないんだろうけど。
基本ステータスが上がったみたいだ。
Lv:6
基本 職業補正
体力:85(85)340(340)
魔力:67(67)268(268)
筋力:85(85)340(340)
知恵:61(61)244(244)
敏捷:63(63)315(315)
器用:63(63)315(315)
幸運:65(65)260(260)
『天啓:成長補正のLvが上がりました』
成長補正もレベルが上がったらしい。この辺は何基準でレベルが上がるのかわからんな。つか成長補正ってなに?
【成長補正】
Lv1:成長速度を補正します。
Lv2:成長結果を補正します。
鑑定してみたらそういうことらしい。
つか、天啓も鑑定できるのか。すげぇな鑑定!
まだ陽は高い。もう少しがんばろう。
訓練ということで、2匹の群れを狙う。さっき試した形で剣術が連携できれば、2匹はさばけそうだ。殺気の強さに慣れるためにも、ここは強気で行こう。
20匹。
前後で挟まれたときはどうしようかと思ったけど、接近されてからの薙ぎ払いで距離を取り、斬撃2発で大丈夫だった。
もう少し薙ぎ払いを使い込みたい。身体に馴染ませないとすんなり出てこない。街中での訓練では一度の実戦に及ばないことが見に染みた。だから何度も繰り返し剣術を身体に馴染ませる。
よし、次はもう少し大きな群れを狙おう。薙ぎ払いからのコンボを染み込ませる。
32匹。
『職業:剣士のLvが上がりました。剣術Lv2を覚えました』
『2連斬を覚えました』
『2連突を覚えました』
『円薙ぎを覚えました』
おおう。新しい剣術か。でも練習なしで使うのは危険だな。まずはいままでの剣術で戦おう。相手はゴブリンだとしても、道具を使うんだから知恵ある生き物だ。
油断したら足元を掬われるのは間違いないからな。確実に行こう、確実に。
鑑定しながら狙いを定める。
3匹の群れがいるけど、なんかちょっと大きなゴブリンがいるな。転移(短)で遠間に近づくと明らかに頭ひとつ大きなゴブリンだ。武器も片手剣。Lv8で種類もゴブリン・ソードマンとなっている。ん? これゴブリンじゃないのか?
草に潜んでいたのに、ゴブリンたちに気が付かれた。
もしかして、ゴブリン・ソードマンって普通のゴブリンよりテリトリーが広いのか?
戦うか? 逃げるか?
いや、まずはやってみよう。2匹は普通のゴブリンだ。先にそちらを倒して、1対1に持っていく。これだ。
ゴブリン・ソードマンを先頭にゴブリンたちが駆け寄ってくるので、こちらも走った。相手に有利な戦場を作りたくない。ゴブリン・ソードマンを避けて、後ろのゴブリンを倒すんだ。足はオレの方が速い。しかも、オレから向かって行ったからゴブリン・ソードマンが少し怯んだ。
よし、いける。ゴブリン・ソードマンの横を駆け抜け、ついでにゴブリンたちも通り越し、バックアタックの形を取る。刺突2発でゴブリンを倒すと、目の前には引き返してきたゴブリン・ソードマンがいた。
ゾクリ、と首筋を伝うもの。
とっさに剣を立てて首元をかばった。
ゴブリン・ソードマンの放った斬撃がオレの剣に弾かれる。
ゴブリンにも天啓があるんだ。
間違いない。いまのは剣術・斬撃だった。
普通のゴブリンよりも背の高いゴブリン・ソードマンならオレの首を狙える。軽装の革鎧は首までは覆っていない。だからこそ急所になる。
急所が狙えるなら剣術は最適だ。
それでゴブリンが剣術を使えないと思っていたのはオレの油断だ。
魔物が天啓を持ってないと誰が言った?
ゴブリンに関してしっかり下調べしていないオレのミスだ。もしかしたらアマネさんなら知っていたかもしれない。聞いていれば教えてくれたかもしれない。イジワルで教えてくれなかったことはないと思う。ないよな?
とにかく、こいつはヤバい。
次の剣術が来た。相変わらず首狙いの斬撃だけど、狙われた瞬間にゾクリと来るからわかる。なんつーか、殺気が濃くなる感じ?
来た! 受けて流して、相手の体勢を崩して。今度はこちらから斬撃。
ピタリとハマる。もしかしてLv高いから1撃では無理かと思ったけど、どうにかなったようだ。
よし、どんどん行こう。ちょっとした難敵に勝って気分が高揚してる。
脳内麻薬が出ているうちに数を稼ごう。
55匹。
たまにゴブリン・ソードマン、ゴブリン・リーダーを交えつつ、ゴブリンを50匹討伐した。ゴブリン・ソードマン、ゴブリン・リーダーがゴブリン討伐対象外だと困るので、念の為ゴブリンだけで50匹だ。ゴブリンの身体から魔石をえぐり出すのも解体になるようで、天啓・解体も閃いたし、レベルも上がった。レベルが上がると魔石の位置がわかりやすくなった。
移動は転移(短)でしていたけど、戦闘で身体も精神も疲労している。
ああ、ここが日本ならぱーっと温泉にでも入りたいところだわ。
◇◇◇
冒険者ギルドに戻ると、混む時間なんだろう、カウンターは混雑していた。
でも、みんな賭けてたから今日のオレの戦果に興味があるんだろう。
アマネさんのところの列がみんな順番を譲ってくれた。みんな興味津々って感じだな。
「常時依頼のゴブリン討伐をしてきました。こちらが魔石です」
ゴブリンの魔石の入った麻袋をアマネさんに渡す。
実際ゴブリンの魔石は小指の先くらいの小さなもので、道具の燃料としても単体で使えるのはランプ程度。もっと魔力が必要な場合は複数使うのだそうな。
「では鑑定をお願いして来ますね」
アマネさんはにっこりと微笑みながら席を立つ。しかし後ろにカンダさんが控えていて、奥まで行く必要はなかった。麻袋をカンダさんに渡すと席に戻った。
「お疲れさまでした。どうでした? 討伐は」
「恐かったです。何度も死ぬかもって思いました」
「それでいいんです。魔物に慣れてしまうと、そういう恐さを忘れてしまいます。恐いから身を守ろうとするんですよ」
優しく微笑んでくれるアマネさん。
「では傷を見せてください」
傷? 一発ももらってないが。
「え? はじめてのゴブリン討伐ですよね? ふつうはそれなりにケガもするんですけど。もしかしたらキュアポーション使っちゃいました? 高価なのに…」
キュアポーションとは、治療1回分を水に閉じ込めたもので、飲むと体力の1割を回復する。オレが普段採取している薬草は、このポーションの原料のひとつだ。1本銀貨1枚もするため、緊急じゃない場合、自然回復に任せるか、街まで戻ってギルドの受付で治療をかけてもらう。
オレの場合はダメージを受けなかったから、そもそも必要なかったし、治療ならオレも使える。
とはいえ、アマネさんは勝手に納得してしまったようだ。
そんな話をしているうちに鑑定結果が出たようだ。
「無茶をするなぁ、草食系」
苦笑しながら結果をアマネさんに渡すカンダさん。
受け取ったアマネさんが目を見開いた。
「ゴブリン50匹、ゴブリン・ソードマン3匹、ゴブリン・リーダー2匹です」
一瞬周りが静まりかえった。
次に一斉に騒ぎ始める。
「初日に賭けてたやついるか!」
「いるわけねぇだろ! ほとんどが失敗に賭けたんだ!」
「成功に賭けてても最終日だよ!」
大騒ぎだった。
「あ、ひとりだけ賭けてる。しかも銀貨10枚って」
また静まりかえった。
「だ、誰?」
するすると手を上げたのはアマネさんだった。
「「「「アマネ!?」」」」
「だって、私とのデートがかかってるんですよ? がんばってくれると思うじゃないですか」
ちょっと頬を染めながら、バチンとウィンク。
あざといなぁ。
「あ、イソさん。ゴブリン・ソードマンとゴブリン・リーダーの魔石を一度お返しします。こちらはランクGの常時依頼の対象外となってしまいますので、イソさんから買取できません。ランクが上がったら持ってきてください。どちらも常時依頼ですから」
ゴブリン50匹分の買取金額の銀貨2枚と銅貨50枚と一緒に魔石を渡してくれる。
「じゃあ、私、明日お休みを取るのでデートしましょうか?」
そういってにっこりと微笑むアマネさん。その微笑みはいままでの営業スマイルとはちょっと違うような気がしたのだった。




