レイド
◆レイド
朝一でスミストルに訪れた。普通に転移である。
スミストルの冒険者ギルドでレイドの説明を受けていた。
「レイドは複数のパーティーで構成されるグループになります。
スミストルでは最下層の金獅子などがその対象になりますね。
レイドを構築することで、あるパーティーが敵を倒したとしても、経験値はレイド参加冒険者全員へ配分されることになります。
このため、本来パーティー内での役割分担である「盾役」「攻撃役」「回復役」をパーティーを跨いで配置することができ、不平等になりません。
ドロップは別ですが。ドロップに関しては事前に取り決めを行うことが多いです。
金獅子などはレアドロップで『金獅子の鎧』を落としますが、ひとつだけです。
とどめを刺したパーティーが取るなどの取り決めをしておかないと争いのもとになります。
多くは売却して頭割り、ですね。レアドロップにかかわらず。その方が不公平にならないので。
もしくは欲しいひとがドロップを買い取る、になります。買取金額を欲しいひとが払って、それを頭割りする方法ですね。
例に挙げた『金獅子の鎧』の場合は、レイドを組む理由が『金獅子の鎧』の場合が多いので、この方式が多いです」
単純に「強敵に挑むのは自分たちだけではちから不足なので協力しましょう」システムなわけだ。
レイド中はレイドメンバー間でチャットも可能と。
なかなか便利だが、どうしてオレたちをレイドに誘ったのか、理由がわからない。
オレたちの到達階層はササラさんなら知ってるはずだ。
「ウチのパーティーはほぼLv25で、ララティだけ突き抜けててLv31なのね。本当は3階層でレベリングなんだけど、3階層はほら、いろいろと厳しいじゃない?」
匂いのことだな。
「それで4階層でレベリングしようと思ってるんだけど、ボスのワイトは初見だし、お手本を見せて欲しいの」
お手本ということなら納得できないでもない。
「それにイソ君とこは前衛2枚に魔術師の構成でしょ? ウチも似たようなものだから参考になるかなって」
参考にはならんと思うが。
「いいでしょう。参考になればいいですが。レイドの手続きは受付で?」
「パーティーリーダーのギルドカードでレイドを設定できるわ」
ササラさんにカードを渡した。
「イソは元気そうだね!」
エイミーちゃんが絡みに来た。
「エイミーちゃんも元気そうだけど、何かあった?」
「イソと仲がいいって噂が広まって、女性冒険者に意地悪されるくらいかな!」
なにそれ恐い。
「最初はイソ君を紹介して欲しい、くらいだったんだけどね…」
ヴァネッサさんだ。
「この子も正直だから…『あんたなんかにイソが見向きもするはずない。エミリアに勝てるとこがあるなら言ってみろ』って」
完全にケンカを売ってるよ、エイミーちゃん。つか、それオレのセリフ。セリフ取んな。
「それから睨まれちゃって」
「たまに魔法飛んでくるけど、練習になっていいよ! イソが言ってたよね、ダンジョンの中では、どこから攻撃が来るかわからないから油断するなって。
最近、パーティーで戦ってたから油断してたけど、気持ちが引き締まった!」
これは、事案なのではないだろうか?
「こういう事情もあってね。初見のフロアは安全を確保したいのよ」
こそっとエイミーちゃんに確認する。
「誰がやってるのかはわかるのか?」
「気配察知があるからね。でもダンジョンだと証拠がないから」
嫌がらせしてる方も、嫌がらせになってないから引くに引けないんだろうな。意固地になってる感じか。
エイミーちゃんの自業自得なんだが、どうしたものかな。
「殺したらまずいよな」
「けっこう強いよ。Lv35くらい」
スミストルなら稼げるレベルだな。確か、冒険者間の揉め事はギルドに相談しろ、だったか。しこりを残しても面倒だなー。特定できたら対処するか。
◇◇◇
というわけで、レイドを組んで4階層を一周する。
罠検知と罠解除はエミリアに任せた。困ったことにラージャはこういうのに向いていない。
「参考になりましたかね?」
ダンジョン入口だ。4階層で現れるアンデッドは浄化で処分。ジャイアントスパイダーはラージャが致命撃で一撃。ワイトも浄化一発だ。
ドロップ品は要らんので譲っている。どうせ呪いの指輪だ。
「ならない、ならないわ! どうして魔術師のあなたが上位神官の魔法を使えるの!?」
やはり参考にならなかったか。
「リリー!」
「無理ですよ、あたしまだ神官Lv1ですもん」
リリーと呼ばれた女の子が「戦乙女」の神官なのだろう。
「ひとついいですかね? リリーさん」
「なになに? スリーサイズでも知りたい?」
「いえ、Lv25なのに神官Lv1ということは、体術・格闘を覚えていないか、使っていない?」
「後衛職だし…」
「神殿では指導しないんですかね。神官レベルを上げるためには、聖魔法を使ってもダメで、格闘で敵を倒さないとならないんですよ。
Lv25あるなら、ゴブリンやオークなら余裕です。100匹ほど倒せば神官Lv2になりますよ。400匹で神官Lv3です。そこまで神官レベルを上げれば、聖魔法も中級までは覚えますし」
「数が重要なの?」
ゴブリン、オークを相手に格闘で戦えというのはリリーには厳しい宣言だったのだろう。青い顔をしている。代わりに応じたのはヴァネッサさんだ。
「体術関係は単純に数ですね。エイミーちゃんの剣士レベルが高いのも、戦闘で頻繁に剣術を使うからです」
「私たち、レベルのわりに職業レベルが低いのはそのせいなのね」
ヴァネッサさんも納得したらしい。
「えっと、悪いんだけど、次は聖魔法なしでお願いできない?」
初回はそれで攻略したしな。ワイトはレイスと違い物理無効ではない。
剣術だけでもいけるだろう。
「いいですよ」
再び4階層へ。今回も罠の解除はエミリアに任せるが、制限を解除した。
呼吸するように罠を発見し解除していくエミリア。前の周回ではお手本の意味で周りにわかるように罠の解除をしていたのだ。
「あら? 今回は罠がないのね」
「あるですよ?」
なお、現れる魔物は、すべてラージャが一撃で狩り取っていく。
ワイトも一撃だった。
「わかりましたか?」
「わかったわ」
ヴァネッサさんが頷く。
「全然参考にならないことがわかったわ! どうして罠が作動しないの!? どうして道に迷わないの!?」
天啓なわけだが。
「罠に関しては見分け方を教えますよ。地図に関しては無理なので、がんばってくださいとしか言えませんね。エイミーちゃんがワイトの気配を覚えたと思うので、ボス部屋の方向はわかるでしょうけど。近道が正解とは限りませんからね。素直にマッピングして行くのがいいと思いますよ」
3周目は、オレたちは手を出さずに口を出すだけになった。
とはいえ、元々連携は悪くない。
スケルトンには格闘が有効なため、数稼ぎにリリーも前に出ている。
ジャイアントスパイダーにはララティが対応している。
ララティは弓術Lv2保持のようで矢生成により、その場で矢を生成して射殺している。
「弓術士なら弓術中級は必須ってウリーリャ様に言われてるのよ」
様付けなんだ、ウリーリャ。エルフの里でどういう立場なのか興味があるな。
罠はエイミーちゃんが罠検知と罠解除を身に付けた。気配察知のときもそうだったが、意外にエイミーちゃんは天啓を閃く。案外将来化けるのかもしれないな。天真爛漫なところがポイントなのかもしれない。天真爛漫といえばラージャもそうだが、体術関係はすぐに閃くが、頭を使う系は閃かない。体質とか、センスとかそういうものがあるのかもな。こればかりは判断しようのないことだ。やってみないとわからない。
道も魔術師のマインちゃんが丁寧にマッピングするので、迷うことはない。
時間をかけ過ぎれば、道は変わるそうだが、ササラさんからの情報では通路変更は深夜に1度だけだそうな。壁が動く形で切り替わるので、冒険者が巻き込まれることもないし、丁寧にマッピングしていれば現在位置を見失うこともないとのこと。
「イソ君って何歳?」
「15歳ですね」
唐突にマリンちゃん。
「ヴァネッサ姉さんから、ギルドの受付嬢と結婚するかもって聞いたけど。15歳なら、3年ガマンだね」
「3年?」
「農村とか普通の職業のひと、貴族なんかは15歳で成人してすぐに結婚は珍しくないけど、冒険者は稼ぎが安定するのは18歳くらいなんだって。
だから18歳までガマンだねって。
それとももう安定してんの?」
しているといえばしてる。
「それに、15歳くらいの男の子だと、性欲が暴走して稼がなくなるから、オススメしないって聞いたな」
そうかもしれんとは思うが。オレの精神年齢は35歳なので、そういう感覚はとうに過ぎている。身体はそうでもないが。
「はいはい。この前自分が失敗したからって他人を弄らないの。
ごめんねぇ、イソ君。この子、この前、15歳の冒険者の男の子に二股掛けられててさ」
「カッコイイと思ったのにな。下半身に節操がないのはダメだよ、イソ君」
オレの下半身もあまりひとのことは言えないかもしれない。自重はしている。
雑談しているうちにボス部屋へ到着した。
なおエイミーちゃんは黙々と罠を探って解除していた。
なんというか「シューティングスター」の頃のイメージとはだいぶ違っていて、教わったことはマジメに反復練習する。
後で聞いてみた。
「だってさ、イソっていつも一緒にいるわけじゃないじゃん? 教わったことを忘れても、聞き直せないんだよ? だから聞ける間に聞くしかないじゃん」
正論である。限りあるチャンスを確実にものにしようという姿勢は買える。
これを「シューティングスター」の面々が活かせていれば、こういう結果にはならかったのだろう。とはいえ「シューティングスター」の生命の代償として、いまのエイミーちゃんがあるのかもしれないと考えれば、君たちの犠牲はムダにならなかったのだ、ともいえる。ま、もう死んでるから言えることだな。
◇◇◇
ボス部屋の前に、一組のパーティーが陣取っていた。女性4人組。前衛2枚。魔術師に神官かね。見てもいいか。Lv35。この階層のレベルじゃないから、周回組か?
「悪いね、順番は守ってもらわないとね」
正論である。しかし、なかなかそのパーティーはボス部屋に入ろうとしない。
「入らないなら、先に挑戦してもいいですか?」
「中に入るタイミングはあたしらの自由だろ。…おまえがイソって小僧かい? まあ、確かにかわいい顔をしてるけどね」
ああ、推定こいつらか。振り返るとエイミーちゃんが頷いている。
「あなた方がエイミーちゃんに大人げなく意地悪をしているパーティーですか。こんな嫌がらせをするくらいなら、適正階層を周回していればいいのに」
「なにを証拠にそんなことをいってるんだ、小僧。そういうのをな、言いがかりっていうんだぞ?」
「男に構われないからって、やつ当たりはみっともないと言っているんです。オレとエイミーちゃんは特別な仲ではありませんが、ダンジョンで戦闘中のパーティーに向かって魔法を放つというのは悪質すぎます」
青筋が立ってきたようだ。
「だから、何を根拠にそう言ってるんだよ!」
「根拠や証拠が必要ですか? ここはダンジョンです。そして、ここにいるのは、あなた方とオレのパーティー、そしてレイドを組んだパーティーだけです。
あなた方がそうしているように、不幸な事故があっても、誰も証言しません。
わかりますよねぇ、言ってる意味が。それとも、この程度もわからないからエイミーちゃんに悪ふざけをするんですか?」
「てめえらのレベルであたしたちをどうにかできると思ってんのか!」
「できますよ。エミリア」
「はいです」
エミリアは剣を抜き放った。
「4対1でいいですよ。これから起こる戦闘についで、奴隷に与える損失を不問とし、損害賠償請求を行わないものとする。
これでどうですか?
エイミーちゃんが言った言葉をオレも言いましょう。『エミリアに勝てるところがひとつでもあるなら言ってみろ』」
嫌がらせ組は逆上して剣を抜き放った。
「エミリア」
「はいです」
「殺していいぞ」
「はいです!」
にっこり笑うエミリア。
ヒューマンでLv35は、まだ中堅冒険者だ。ランクDというところだろう。試験を受けていれば。
剣士は一歩目を踏み込めず、魔術師は呪文を開始できず、神官は防御姿勢を取れなかった。
一瞬で4つの首が落ちた。
吹きあがる血飛沫。
「復活」
オレは復活を全員に掛けた。
復活の弊害というか神殿でサービスしてない理由は、死亡後15分以内に実行しないと、必ず失敗する。そのため神殿ではサービスとして行えないのだ。復活を必要とする冒険の場合、高位神官の同行が必要だ。
「ちょっと、なにそれ…」
「聖魔法の超級ですね。あまり使い勝手はよくないですけど」
復活したパーティーは自分の身に起こったことが理解できないらしい。
血塗れの装備、周囲に飛び散った血飛沫。攻撃されたことは理解できたようだが。
「あなた方はエミリアの攻撃で死にました。周囲の血の量、失われた活力がそれを示しているのはわかるでしょう? 多くの血液を失ったので、身体がだるいでしょう?
そちらの神官の治癒である程度は回復すると思いますけどね。
言いがかりかどうかはどうでもいいんですよ。
むしゃくしゃしてやった。反省はしてない。
なにしろ、あなた方は、エミリアに綺麗に首を飛ばされて、一度死んでいるんです。
エミリアの攻撃は見えましたか? 見えなかったですよね?
オレが気に入らないというだけで、あなた方には、何度も同じ目に遭います。
エイミーちゃんに粘着して、そのたび、死の苦痛を味わうのが望みなら、何度でもお相手しましょう。
オレはスミストルに常駐していませんが、「戦乙女」から連絡があれば、瞬時に駆けつけることができます。
繰り返しますが、あなた方はオレの敵にすらなり得ません。実力が違い過ぎるのです。それでもエイミーちゃんに嫌がらせを続行しますか?
心を折るまで続けてもいいですよ?」
嫌がらせパーティーは黙ってボス部屋に入って行った。
ちなみに「戦乙女」のメンバーはドン引きである。平気な顔をしているのはエイミーちゃんだけだ。
15分ほどでボス部屋の扉が開いた。レベルなりの攻略時間だろう。
さて、こちらも行こうか。
ぶっちゃけ「戦乙女」とワイトの戦いは泥仕合だった。
前衛の攻撃もダメージは与えるが、ドレインタッチでなかったことにされるし、頼みの綱であるマインちゃんの魔法も致命傷にはならない。
ララティが適正レベルということもあり、魔力10の矢でちくちくダメージを蓄積し、前衛はヒット&アウェイでドレインタッチを避けるという方法を確立し、どうにか倒すことができた。
やはり倒すのに時間がかかると、ドロップは難しいようだ。
とはいえ「戦乙女」の4階層周回の目途は立った。これなら、4階層安定周回も難しくないだろう。
翌日は、エイミーちゃんとララティを除くメンバーが剣術、格闘の回数をこなすために、1階層へ潜ることになる。ララティは弓術士Lv3、エイミーちゃんは剣士Lv3、マインちゃんは魔術師Lv3まで習得していたので、ギルドで待機とのことである。
オレたちは帰ってもよかったのだが…。実はレイドの解除漏れでヴァネッサ待ちである。
「あのさ、イソ。ああいうのはよくないよ。あたしのためかもしれないけど、イソが悪者になっちゃうよ…」
しょげているエイミーちゃん。
「誤解があるようだが、あれはエイミーちゃんのためにやってことじゃないぞ。どうしてオレがわざわざエイミーちゃんを助けないとならないんだ?」
「え? だってさ…」
「どうにも噂が一人歩きしているっぽいんだよな。まあ、オレが金持ちとか事実のものもあるんだろうけど。
そんな中に、まだ子供だからちょろいとか、下半身に理性がないとか思われる類のものがあるのは困るんだ。
それなら、ボス部屋でちょっと準備に手間取ってただけなのに、殺されかけた頭のおかしいやつって噂の方が、ちょっかいかけるひとが減って好都合なんだよ」
「ホントに?」
「オレがエイミーちゃんを助けていいことある?」
「え? ほら、あたしと、エロいことしたいとかさ」
「それ、おまえがしたいだけだろうが」
「えー、だってさー。昨日のイソを見て、お腹がきゅんってなったんだよ? ここはふつーエロいことしていく流れじゃない?」
「今日は帰るっての。誘うんだったら、昨日の夜だったな」
ちぇーとかいってエイミーちゃんが去った。素振りだそうな。
「私にも、あれはエイミーのために見えましたけどね」
ララティだ。
「誤解だっての。エイミーちゃんにも言ったけど、オレの得がなんもないでしょうが」
「私からの好感度も上がったし、『戦乙女』のみんなもそうだと思うけど。いい噂と悪い噂、両方あった方がいいんでしょ?」
「オレとしては噂は悪いのだけでいいけどね。オレの直接の知人だけ、本当のことを知ってればいいっていうか」
「いい噂は必要だと思うなあ。イソ君、カッコよかったね。魔術師なのに聖魔法ってどうやるの?」
マインちゃんが食いついて来た。
「天啓なので、コツとかないです」
「天啓かあ。持ってるひとは持ってるよね」
「エイミーちゃんを見てればわかると思いますが、天啓は使いこなしてこそですよ。マインちゃんは魔術中級を取ってるんですか? ワイト戦では初級しか使ってなかったですけど」
「…実はまだ」
「だったら魔法中級を取得する方がいいですね。呪文も長くなりますが、威力も倍です。ボス戦でのダメージディーラーとしての役割は大きくなりますよ」
「うへぇ。遠回しにコナ掛けたら、直球が返って来たよ」
「二股で懲りたのに、オレに二股をかけさせるんですか?」
「あたしは別に二股がイヤだったんじゃなくてさ、コソコソ二股かけてたのがイヤだったんだよね。ふたり養う甲斐性がないのに、ひとりに絞れないから、どっちにもいい顔しながら、どっちがいいか比べるっていう。
イソ君みたいに、オレのところくれば、まとめて面倒見るよ! っていうなら、何股でもオッケー」
それはそれでどうなんだ?
微妙な顔をしていると、ヴァネッサさんたちが戻ってきた。一度全員で引き揚げてきたようだ。
「やっぱり個人で潜っていると、索敵が厳しいわ。エイミーを連れて行かないとダメね…」
レベリングには必須だからな、気配察知。全員持っててもいいくらいだ。
レイドを解除してもらい、オレたちは無事にアルスターへ帰るのだった。




