増築
◆増築
ひどい目に遭った。いやリルルに失礼だな。いい目を見させてもらった。なかなかできない体験だろう。
それはそれとして、吸血鬼のような上位アンデッドには浄化が効かないというのがわかったのは大きい。
野良にいるならダンジョンにもいる。
エミリアとラージャも聖魔法のレベル上げをしとくべきだな。
1体だけで現れるなら問題ない。900発掛かったとはいえ、火魔法Lv4でも倒せる。しかし囲まれた場合に詰む。そうならないように準備することは重要だが、そうなったときに、対応できるようにしておくことも重要なのだ。
復活は当てにしない。保険だ。必要になったら迷わず使うが、その結果が、魂の抜け殻だった、とも限らない。
神殿ですら、死者の復活サービスは行っていない。単純に復活を使えるものがいない可能性もあるが、結果が不安定な魔法と考えていいだろう。
まあ。
修復というデタラメな魔法があるのだ。
死者が復活することも不可能ではないのかもしれない。
などと今後の計画を考えているとアマネさんからメッセージが入った。
『いまから行きます』
突然だな。
居るからいいけどな。
すぐに来た。
なんだろう。家の前で待ち構えていて、既読したらすぐに来た感じなんだが。
ギルドカードのメッセージは送信したひとには、相手がメッセージを見たかどうかがわかるようになっている。
安否確認にもなり便利な機能だ。
返信もできればいいのにな。
「できますよ、返信」
とはアマネさん。
「ギルドでメッセージを受け付けているのは、文字を書けないひとのためのサービスです。文字を書けるなら、フレンド設定している相手に対しては、ギルドカードだけでメッセージを作成、送信できます。
受信したメッセージに対して返信もできます」
マジか。
さきほどのアマネさんのメッセージを選択。返信のボタンがある。
返信を選択するとホロキーボードが現れた。
文字が書けないと、ここで入力できないってことか。
「知らないことって多いなぁ」
「一応、イソさんにはカード登録時に説明はしているんですけどね。聞き流していたんですね。メッセージ機能はギルドからの一斉送信などもあるので重要な機能ですから、説明しないということはないんですけど」
アマネさんの目が冷たい。
「それで、今日は何の用事で?」
「デートのお誘いです」
「デートってなんです?」
「なにかな?」
「ふたりきりでお出かけすることです」
「ふたりきり? わたし要らないです?」
「はい、必要ありません」
やめろ! それはエミリアには禁句だ!
「なら死ぬです」
光の消えた開き切った瞳孔で、エミリアが剣を取り出す。首筋に当てる。
「やめろ、エミリア。オレはおまえを必要としている。拡大解釈をするな。オレが要らないと言わない限り、常にエミリアはオレに必要とされている」
「わかりましたなのです!」
エミリアにニコニコが戻る。
「…びっくりしました」
「危うく損害賠償請求するところですよ。言い方には注意してください。ちょっとだけ愛の重い子なんです」
「…もはや病んでるのでは?」
「わたし、病気です?」
「『イソさんに必要とされていないと死んじゃう』病かしらね」
「それなら治らなくていいです」
「重症ねー…」
とはいえ、アマネさんはデートをお望みだ。
幸い、新型トウガラシ号の試運転も必要だ。ドライブもいいだろう。
オレがそういう作業をしている時は、エミリアは甲斐甲斐しく世話をしたり手伝いをしたりしている。
ラージャは好きに買い物に出たり、サンマル号で走りに行ったりしている。
新作料理への挑戦とかな。
特別行動に制限は与えていないので、これまでの生活の影響が出ているのだろうな、と思っている。エミリアは奴隷生活が長く、ラージャは自由に生きてきた生活が長い。
一度、エミリアに「自由に過ごせ」と命令してみたが、行動が変わらなかったので、完全に染みついたものなのだろう。オレを中心に世界が回っているのはどうかと思うのだが、そこを否定するとエミリアの自我が崩壊してしまいそうなので、放置一択。
ただこういう場面では少し困るな。エミリアは何も悪くないのでなおさらだ。
「そうだな。エミリアには今日は服を作ってもらおうか。いまあるものの直しでもいいが、布を買って新作を作ってもいい」
「わかりましたです」
私服を取り出して渡しておく。成長期なので、身長も伸びているのだ。冒険者の服は余裕があるので仕立て直しは要らないが、私服はきちんと身体に合わせてあるため、すこし窮屈になっている。
エミリアには服飾の才能がある。針仕事そのものはメイド時代に教わったそうだが、デザインにも光るものがあるのだ。普通にオレに似合う服を作ってくれる。
本人曰く「布を切って縫い合わせるだけの簡単なお仕事」だそうだが、普通、その感覚でウェディングドレスは作れまい。
「ラージャは、いつも通りでいいが、明日はダンジョンに行くから疲れすぎないようにな」
「了解っ!」
ラージャが元気よく返事する。ラージャはたいてい元気だ。ひとりで過ごす術を知っている。オレとしてはこちらが普通だと思うが、エミリアがダメというわけでもない。
まあ、建前上婚約者なんだ。デートくらいはいいだろう。健全なやつな。
◇◇◇
家の前からトウガラシ号で北門へ向かう。
街中でトウガラシ号を出すのは珍しいのだが、ドライブっぽさをアピールだ。
「話だけは聞いてたけど、本当に乗り心地いいのね」
「誰にですか?」
「ララティ」
仲良くなったな、こいつら。それにララティはいまスミストルだと思うが。
「たまにね、メッセージのやり取りがあって。一昨日はソーニャから熱いメッセージが届いたわ」
デートの引き金を引いたのはソーニャさんか。リルルといい、アマネさんといい。
門を抜けて街道へ。北門も南門もオレとアマネさんなら顔パスだ。門番仕事しろよ。
「速いのね。高速馬車くらい?」
徐々に速度を上げていったので、他のひとのように騒ぐことはなかった。
「街道では危険なので、このくらいですね」
「もっと出るってこと?」
「この5倍くらいは」
草原に逸れて、少し速度を上げる。通常運用範囲の120km/hまで出して見せる。
ちなみに魔物は「イソ無双」で排除している。
「驚いた。それに本当に魔物に遭わないのね。ソーニャのメッセージで、そんなはずないって思ってたけど」
実際に遭遇していますが、見える前に殲滅しているだけです。普段はエミリアがやってます、とは言わないでおく。トウガラシ号の特殊機能だと思ってもらえるなら、その方が都合いい。
スミストルで昼の鐘の音が鳴った。意外にスミストルが近いようだ。
「お弁当作って来たの」
あのバスケット。買ったんだな。
スラマイムマットを取り出す。こういう用途にも使える万能マットだな。
結界。安心して昼飯を食える。外では鉄板だ。
アマネさんがバスケットを開いた。中身もサンドイッチだ。
「パンは買ってきたけど、中は手作りなのよ。あの露店の奥さんに教わったの。イソさんがお気に入りって聞いてたし」
ん? もしかして落としに掛かってるのか?
男は胃袋を掴めというしな。そういう意味ではサンドイッチ露店の奥さんにはオレの胃袋はガッチリ掴まれているな。
「美味しいですよ。料理も上手ですねぇ」
「料理も? …ねぇ、他にイソさんが好きだと思ってることを挙げてもらえないかしら」
変なところに食いついて来た。
「そうですねぇ。
まず受付のときの笑顔がいいですね。『結婚してぇ』って思いましたよ。営業スマイルですけど。
それから『男は甲斐性よ』って断言できる打算の高いところもいいと思います。オレは、見てくれは良くないですからね。男は甲斐性ってアマネさんが断言すると、オレにも可能性があるのかって思えていいですよね。
あとは、普段、努めて冷静な態度なのに、ときどき本音がぽろっと零れて、その本音が欲望まみれなのも好感触です。
ボディラインはー…」
「そこは触れなくていいわ。エミリアと比較されたくないの」
それはそうか。
「まるで褒められた気がしないんだけど、イソさんはいいのね?」
「いいというと」
「婚約のこと」
婚約。婚約か。
「結婚して、冒険者に戻るということですか?」
冒険者ギルドの受付になったのはパーティーに入れなかったからだと聞いている。詳細は知らん。うちはオレと奴隷のハーレムパーティーだから大丈夫だろう、というならそうかもしれない。
ぶっちゃけ「パーティーメンバーだからいいよね」的に肉体関係を迫ることはない。
「いいえ。冒険者に戻る気はないわ。イソさんが結婚したら冒険者に戻って一緒に来て欲しいというなら、結婚は諦めるしかないわね」
そういう条件の確認か。
「結婚の条件ですか。オレからはひとつだけですね。朝晩エミリアが『ご奉仕』します。これはエミリアが望んでしていることなので、これを許せるかどうか、ですね。たまにラージャも混ざってきますけど。こちらは気分のようです」
「寝室を別にしていいなら構わないわ」
「なら他に条件はありませんね」
「ギルドの仕事を続けてもいいの?」
「かまいませんね」
「他の男と寝るのは?」
「ん~オレとしては独占欲が強い方なので、勘弁願いたいところです。でも、こちらがすでにエミリアと褥をともにしている状態で何様だってところですね。つまみ食いくらいならいいと思います。浮気じゃなく本気になるなら、離婚してくださいってところですか」
「お金を使い込むのは?」
「用途によりけりですね。大きな買い物の時は事前に相談してくれれば、よほどおかしな使い方じゃない限り止めませんよ。たとえば遺産確保のために不動産を買うとか止めませんけど、名義がアマネさんの場合、税金はアマネさんへ行くんですから、その辺を考えて買うなら問題ありません」
「生活費はどうなるのかしら?」
「同居するなら、買い物にうちの奴隷、ラージャがいいと思いますが、を連れて行けば奴隷のギルドカードの決済は主人の口座から行われます。
日々の買い物はそれでいいのでは?
長距離遠征で長く家を空ける場合、事前にお金を渡しておきます。月に金貨2枚で足りると思いますが、相談ですね。
ギルド職員の寮は残しておいた方がいいかもしれません。
同居するとしても、オレたちが留守にしていることも多いですし、ギルドの寮ならサロンみたいなものがあって、寂しくないですよね?」
それよりも。
「むしろアマネさんがオレでいいんでしょうか。なんか、今後増えそうですよ。奥さんとか」
「一夫多妻制は認められているから問題ないけど、それは妻が自立して稼いでいて、良人に仕えるのをよしとしている場合か、良人の資産が十分にあって、妻を養えることが可能な場合なの。イソさんの場合、すでに資産があるので問題ないわね。10人くらいは認められるんじゃないかしら」
多いよ、要らねぇよ。
「アマネさんはいいのか、ってことですよ」
「結婚は打算だって見抜いてるじゃない?
でもね、秘密にしていたけど、私、男性恐怖症なのよ」
「平気そうですよ?」
「そうね。平気なのよね」
取っていた距離を詰めるようににじり寄ってくるアマネさん。
「ほら、この距離でも平気」
ついばむようなキス。
「まだ平気」
オレの手を取って胸の上へ。
「これでも大丈夫。ねえイソ君、私をこの先に連れて行ってくれないかな?」
呼び方が変わったな。
「外ですよ?」
「場所なんてどうでもいじゃない? このマット、寝心地よさそうよ?」
スライムマットですからね。
仕方ない。確かめたいんだろう。
3桁の失敗ってことは、ここまでは行けた男はいたってことだ。
「エミリア、エロ部屋使うから入ってこないでね」
『はいです。必要になったら呼んでくれれば行くのです』
ギルドカードのパーティーチャット。便利だよなあ。
「場所を変えましょう」
スライムマットをしまって、トウガラシ号のリアハッチを開く。オレの魔法で切り替えるのだが、リアゲートをエミリアの家につなげてあるのだ。
アマネさんを先に通して、あとから続く。
「これって…」
「空間魔法です」
エロ部屋に連れ込んで、灯りを暗くする。
「雰囲気があった方がいいでしょう?」
「…そうね」
大人のキスをして。お互いにゆっくりと服を脱がせて。おっぱいが露わになったところで、優しく撫で回して。反応を見ながら、少しでも緊張する素振りを見せたら、落ち着くまで待って。
互いに全裸だが、まだアマネさんは大丈夫のようだ。
「まだ平気…」
ハジメテだったはずなので、入念な準備が必要だ。ララティのように。ララティのように! まあララティのときはやり過ぎたが。
「え、ちょっと。なにするの?」
嫌がってはいない。驚いただけのようだ。
びくんびくんと何度か痙攣するアマネさん。軽く達したのだろうな。
「あ、あのね? すごく気持ちいいの。これはイソ君が上手だから?」
アマネさんが気持ちいいところを探る。女性は受け身になりがちだからな。こちらから探って反応をみないと。だから時間も掛かる。
一度最後まで終わって。少しは探りを入れたが、開発はこれからの課題だろう。
「あのね? 平気だったよ。私、恐くなかったの。いつもは男のひとに覆い被さられると恐くてダメだったの。でも、今日は…気持ちいいのが溢れてたからかな? このまま最後まで行くんだ~って思って…最後までしちゃった」
話し方まで甘えた感じになってしまった。可愛いことは可愛い。
「もう1回、しない?」
「そういうことなら遠慮なく」
オレはがんばってアマネさんの弱点を探ることにした。
◇◇◇
おそらく必要になるだろうから、エミリアの家にアマネさんの部屋を増築。
トウガラシ号で街に戻る。
アマネさんは上機嫌で帰って行った。
なんとなく、だが、これで本当に「婚約者」になったのだろう。結婚の準備も進めないとならんのかな。
とはいえ、こういうことの先走りは禁物だ。なにしろ、オレはこの世界の常識がない。周囲に相談しながら進めるのがいいだろう。
さしあたっては、アマネさんが泊まりにこられるように準備だけしておくことか。
スライムベッドは確定として、他に必要なものがあれば、次の休みの日にアマネさんと見繕う必要があるだろう。
後日、腕を絡めてオレと買い物をするアマネさんを目撃した冒険者が「鉄壁は崩れた!」と騒ぐのだが、知らんがな。相手の事情も慮ってこその恋人だろう。一方通行では片思いと変わらんわ。
アレに関しては、オレも特別上手な方ではないはずなのだが。
前世で付き合っていた女性に「自分だけ気持ちよくなるのは不公平だ」とのことで、徹底的にやり方を指導された。相手がイイと、自分もイイので、勉強にもちからが入ったものだ。諸事情あって別れたが、よい経験だったのだろう。ひとに歴史ありだな。
そういうわけで情事の際に手を尽くさないのは自分も損をしているとオレは思うのだ。アマネさんには、うまく嵌った形だな。
今後のことを考えていたら、ヴァネッサさんからメッセージが届いた。ワイト戦をするからレイドしないか、とのお誘いだ。こっちのレベル知らないんだろうな。
日程確認を返信しておく。
いつでもいいとのことだったので、明日の朝一で予定を組むことにする。
その前にワイト周回しておくか。課題は気が付いたときに潰しておきたい。
深夜まで掛かったがエミリアとラージャの聖魔法Lv4を得ることができた。
ちなみに、エミリアが直したオレの私服はサイズぴったりになっていた。
その日の夜。
「イソ様、アマネとは上手く行ったです?」
いつもの儀式の前にエミリア。珍しい。
「結婚のことか?」
以前にエミリアは「ご奉仕を邪魔しないなら問題ない」と言っていた。
そういうことなら気になるのか。
「お付き合いは、エミリアのご奉仕前提になるな。寝室を別にするなら構わないそうだ」
エミリアは笑顔を深くして軽いキスをする。
「それならわたしも問題ないです」
エミリアは言葉を続けた。
「これから奴隷増えても、お嫁さんが増えても、ご奉仕を邪魔しないなら、わたしは問題ないです。
もちろんイソ様の体調に気分や都合、周囲の状況は考えるです。
ご奉仕はわたしがわたしであるために必要な儀式です。
ご奉仕している時が一番必要とされていることを実感できるのです。
もちろんイソ様がいつもわたしを必要としてくれていることは理解しているのです。
それでも、わたしも女ですので、胎に放たれるイソ様の精を受けるときに一番強く求められていることを実感できるのです。
ご奉仕はわたしの生きる糧なのです」
エミリアの告白は続く。
「今日はイソ様の服のお直しをして、それなりに充実した時間を過ごせたのです。
お屋敷で先輩方に習った技術を生かせるのは楽しいです。
出来栄えにも自信があるです。
でも、イソ様のお傍でやりたかったです。
今日はアマネとデートなので一緒にいられないと聞いたときには悲しかったのです。
アマネのハジメテを奪うときに呼ばれなかったのも寂しかったのです。
アマネの感じからすると、わたしが入らなかったのは正しい判断なのです。
イソ様を傍に感じないとわたしは死んでしまいそうになるのです」
ウサギは寂しいと死んじゃう感じか。ウソらしいけどな。
「エミリアの気持ちはわかったし、嬉しいよ。
ご奉仕もエミリアが考えてくれていることはわかったから、オレに不満はない。
…亀エキスもあるから大丈夫だろう。不足するならカメ狩りに行こう。
ただどうしても別行動になることはあるだろう。
…どうしたものかな」
狩りの時には別行動でも不満を示したことはない。ダンジョンフロア程度なら、エミリアの気配察知でオレがわかるのだろう。
試してみる価値はあるか。
「天啓・気配察知を磨こう。オレがどこにいても、何をしていても、エミリアがそれをわかるようになれば、離れていても問題ない。
要はオレがどこにいるのか、何をしているのかわからなくなると不安なんだろう?」
エミリアの家は空間的に断絶している。
それなのにギルドカードのメッセージは届く。謎は深まるばかりだ。
空間が断絶しているため、いまのエミリアではオレの気配を察知できない。
根本的な解決にはならないかもしれないが、少しおかしくなっているエミリアの目を逸らすには悪くないはずだ。
「磨くのです」
ふんす! とばかりにエミリアが応じた。
「全部脱ぐです?」
今夜の儀式の始まりらしい。




