ラージャ
◆ラージャ
ラージャには栄養が必要なので、まずは宿を3人部屋にする。
部屋を分けてもよかったが、ラージャが馴染むまでは3人一緒の方がいいと思ったのだ。
晩飯は、オレとエミリアはオススメ。ラージャには肉多めでがっちり食わせる。
魔法により肉体的な損傷はなにもないはずなので、いきなりガッツリ食っても大丈夫なはずだ。なによりラージャがこれまで食えなかった分を取り返すかのように食っている。満足するまで食わせてやった。
その日、エミリアが求めてこなかったので疲れていたのだな、とエミリアでも疲れるんだなぁ、なんて思ってたら単にラージャに気を使っただけらしい。
元々空気を読める子なので、落ち着けば好きなようにするだろう。
翌日、ラージャの装備を準備する。
武器はギルドでもらうとして、防具は最初からいいので大丈夫だろう。
エミリアとお揃いにしたが、スカートを嫌がったのでホットパンツだ。ホットパンツとブーツの隙間から覗く褐色の太ももが素敵になる予定である。
上もスパイダーシルクのエミリア同様のものだが、色は好みで選んでもらった。そうですか。黒っぽい方が好みですか。
外見年齢について聞いてみた。
「若くみえる、かな?」
ダークエルフ的にはこれで成長期は終了しているらしい。村では大きくも小さくもなかったそうだ。肉付きはよかったそうだが。
エルフのおばあさんの薬屋とかみるとちゃんと老けるような気もするのだが。
死期が近づくとだんだん歳を取った外見になるそうで、さらにそこから何十年も生きてから死ぬとか。老け始めるとそこから100年みたいな感じだって。
そういう生き物なのね。
先に神殿で適性を見る。
ほんのり光った。あまり適性はないだろうと言われた。重要なのはそこじゃないからね。寄付を払ってギルドへ。
空いてる時間なのでアマネさんの受付に直行。
「冒険者登録? なんで? 買ったぁ!?」
アマネさんの小声の叫び。相変わらず器用だよね。
ラージャの登録をお願いして、各種適性を見る。やはり剣士が一番だった。
まあこれからだけどね。
「ダークエルフじゃない、彼女」
やはりギルド職員はいろいろ詳しい。
「憶測も混じってるから正確な話じゃないですけど。ダークエルフって、遥か昔、魔王に造られた戦闘種族って話があるんです。
エルフは長命で知力も高く優秀な種族ですが、肉体が弱く筋力も高くありません。その弱点を補って、エルフより寿命は短いけれど、肉体は遥かに強化された種族としてダークエルフは造られたそうです。
伝説ですけど、魔王の猟犬と呼ばれた種族なんですよ」
ふむ。それは素晴らしい。魔王の猟犬。望むところだ。
初回登録の片手剣と盾をもらう。
剣術などの指導は、もはやオレとエミリアでもできるが、正統派に指導してもらう方がいいだろう。魔法指導と剣術指導をお願いする。
エミリアはラージャに付いて行くようだ。
こちらはパーティ登録を行って、王権神授でエミリアに老化禁止を付与しておく。
一度オレを経由する以上、オレにも老化禁止が付いてしまうわけだが、成長を阻害しないってのがどういうものなのかアテにならないので、未使用にしておいた。
いい機会だアマネさんに聞いてしまおう。
「精霊術師って知ってますか?」
「たまに、エルフに顕れる天職ね。精霊魔法や召喚とか使うらしいけど。
精霊魔法は精霊にお願いして行使する魔法。普通の魔法と違って決まった呪文があるわけじゃないらしいわ。こうして欲しいって精霊にお願いするのね。
召喚は精霊術師の場合は精霊召喚かしらね。対象に精霊を纏わせて、属性を与えたり、ステータス強化をしたりするみたいよ。これも使い手が少ない天啓だから、詳細はあまり知られてないの。
彼女、そうなの?」
「いえいえ。そんな職業があるって聞いただけです。前衛2枚の構成で行きますよ」
名目上、ラージャは剣士で登録してある。
パーティ登録が完了した時点でラージャの職業も解放されているから、精霊魔法と召喚も付いてきた。
職業チートのせいでLv10のときのエイミーちゃんと同じくらいの強さ。
スミストルの1階層で戦闘訓練かな。
◇◇◇
スミストルの1階層。
万が一にもエイミーちゃんに会いたくなかったのでボス部屋前に転移。
ラージャは混乱していたが、オレの天啓で黙った。
事前に可能な限りの天啓を王権神授で与えたが、限界突破はレアスキルなのかダメだった。同様に精霊魔法と召喚はオレも獲得できなかった。
「まずはひとりで戦闘だな。ゴブリンの気配を察知して戦ってみて」
経験分配はラージャの全取りだ。レベリングも兼ねてるからな。
ゴブリンを見つけてダッシュ。それなりに速い。
1匹では相手にならない。剣術を使わなくても普通にあしらってしまう。
どうも村での生活に狩りも含まれてたんじゃないだろうか。経験値にならないのは不思議だが。
もしかして。
「ラージャの村って盗賊によく襲われてた?」
「うん。よくわかったね。ダークエルフは珍しいようで、よく狙われたよ。ボクも何度も撃退したし。あいつら、複数でひとりを狙うから性質が悪いんだよね。
でも気配を隠すのが下手だから、逆襲した方が多いかな」
対人戦闘で磨かれた技術なので経験値が入らなかったのでした。
それならゴブリン戦は余裕かもしれない。
剣術レベルを上げる必要があるから、しばらくはゴブリン討伐だな。
剣術Lv2を習得した。レベルも10になった。
準備は整った。ここから魔法のレベル上げだ。ひたすら属性魔法を連射する。
ゴブリンなので弾系で十分倒せる。
一通りの属性魔法がLv2になるころ、レベルが15になった。
弓術もレベル2が欲しい。矢はオレが作ったものを提供する。
なおラージャはひたすら魔物を倒し、エミリアが後始末として魔石を集めている。
オレ? 見てるだけ。
弓術もレベル2になったな。
格闘がLv2なる頃、レベルが20になった。
体力自動回復が上がらんな。ダメージ受けないから当たり前か。
「精霊魔法と召喚は使い方わかるか?」
「この天啓だよね。うん、わかるよ」
ゴブリンの群れを見つけたので使ってもらう。
「精霊魔法から行くね」
ゴブリンが燃え尽きて。凍って砕けて。風で引き裂かれて。土の槍に貫かれた。
「次は召喚だけど」
なにかやってる。ステータスを見てると、数字がコロコロ変わっていた。
「火の精霊だと筋力。水の精霊だと知恵。風の精霊だと敏捷。土の精霊だと器用。
それぞれ1割くらい強化されるよ」
ふむ。
「ワイトに行こう」
ワイトならダメージも食らうだろう。ダメージ食らったら治療で自力治療でいいかな。
できるなら、1回のワイトで精霊魔法のレベルと体力自動回復のレベル上げをしたい。
今日はもう遅いから、明日またダンジョンだな。お昼は弁当を食べたとはいえ、そろそろサンドイッチも補給しないとならないし、サンドイッチだけだと飽きるからな。
出掛けに露店を覗いて行こう。
いろいろ仕入れて翌日もダンジョン。
「ダメージ食らわんな」
「です」
精霊魔法だけ縛りを入れたが、ダメージを食らわなない。ちょぴっとは食らうけど、期待値ではない。仕方ない。毒使うか。
ワイトを倒し切る頃、精霊魔法Lv3になっていた。Lv3で上位精霊にお願いできるらしい。威力が上がるんだな。
ワイトで意外に時間を食った。
体力自動回復は毒でやるとして、本格的にパワーレベリングしよう。
魔力1000の矢をエミリアと一緒に量産する。ラージャ用の盾が欲しい。
その日の夜。無事にラージャはLv38に到達し、光亀の盾を得た。
300周くらいしたけど、盾は1個しか出なかったな。相当なレアなんだろう。
あとは亀肉と亀エキスってのがドロップした。これらは要らんから買取に出そう。
亀エキスを鑑定してみる。
【亀エキス】
滋養強壮の効果。
精力剤。蓄積された疲労を回復。
失われている本来の肉体を正常に戻す効果がある。
なんのこっちゃ。
飲んでみた。瓶でドロップするからな。特別な変化はない。オレ、ほとんど働いてないからなぁ。開幕ブッパはエミリア任せだったし。
ん? もしかして。
「な、なんですか?」
「ちょっと飲んでみてくれ。鎧は脱いだ方がいいな」
ラージャは武装を解いて服だけになる。おそらくウエストは大丈夫だろ。戦闘服は元々緩めだしな。
エミリアはぱつぱつだが。
首を傾げながら亀エキスを飲み干すラージャ。
変化は劇的だった。
ラージャのほっそりボディがボン・キュッ・ボンになったのである。
「あれぇ? 元の体型に戻った? なんで?」
「そういう効果のアイテムらしいな。多分亀肉も似たようなもんなんだろ」
「おめでとうなのです! ちょっと肉付きが心配だったのです。これで安心なのです」
自分のことのように喜ぶエミリア。
亀エキス1000以上あるな。在庫しておくか。なんかに使うかもしれん。
亀エキスの瓶を眺めている横では、エミリアがラージャの鎧の調整をしていた。
なんでもできるな、エミリア。
「革鎧なので結び方だけで調整できるのです」
それが職人の匠の技だと思うんだが。
「あのね、いまさらなんだけど、ボク、君のことなんて呼べばいいのかな?」
「好きに呼んで構わない」
「イソ様なのです」
「イソ様? イソ君?」
「敬意が滲み出ていればどっちでもいいのです」
「じゃあイソ君でお願いします…」
エミリアの微妙に迫力のある表情に少し恐れているラージャなのだった。
◇◇◇
宿に戻ると、まだ酒場は営業していたので、時間が遅いこともあり、軽めの晩飯にする。とはいえオレもエミリアもいつものオススメ。ラージャも同じになっただけなのだが。
この時間ならまだ公衆浴場が開いてるな、ってことで風呂へ。
「…ここは何するところなのかな?」
「お風呂なのです!」
「おふろ?」
ラージャは入浴の習慣がない地域の出身らしい。
「入ればわかるのです!」
アルスターの公衆浴場には家族風呂(大)があり5人くらいは一緒に入浴可能だ。
エミリアとふたりの場合は家族風呂だったが3人では狭い。エイミーちゃんみたいに小柄なら別だけど。ラージャはボリュームあるからな。今日から。
「湯浴みの施設なんだね。庶民が利用できるってすごいね」
普通はお貴族さまのものか、風呂は。
何をするか理解したラージャはさっさと服を脱ぎ始めた。
オレも一緒に入るの、抵抗ないんだな。
「ん~? 水浴びで男女別とかないでしょ?」
ダークエルフの村はそういう習慣のようだ。
身体の洗い方などをエミリアが丁寧に指導している。
ぶっちゃけ身体浄化でいいんだけどね。身体を洗うのは気分だよね。
洗髪が簡単な男のオレは先に湯船へ入る。
ふと思ったけど、風呂も一番風呂はいつもオレのような。エミリアが身体や髪を洗う時間を調整していたような?
気にしても仕方ないことだな。
ラージャは下も金色か。エミリアは薄いから気にしたことなかったけど。
褐色なのは日焼けじゃないんだな。そらそうか。
湯船で巨大な塊が4つ浮いてるのは壮観だな。エイミーちゃんとは違うのだよ、エイミーちゃんとは。
ぼーっと眺めているとエミリアが隣にやってくる。オレの腕を挟む。
「ラージャもやってみるです」
「ボ、ボクも?」
「やってみるです」
エミリアの迫力に押されてラージャがオレの隣にやってくる。挟まれた。
エミリアとはまた違う感覚だな。肌質の違いか? エミリアがもっちりと吸い付いてる感じでラージャは…って比較しなくていいとこだろ、別に。
正直ラージャに求めることはなにもない。単にエミリアのために天啓が欲しかっただけだ。
「なあ、ラージャ」
「なにかな、イソ君」
「おまえ、奴隷でいいのか?」
オレの言葉にラージャは首を傾げたあと、ハッとした顔になった。
「ボクを放り出すつもりだねっ!
無一文なんだけど! 無・一・文・な・ん・だ・け・どっ!」
そうはさせないぞ、としがみつくラージャ。
「換金してないけど、今日かなり稼いだよね?」
「あ、冒険者の稼ぎか」
「金貨1枚くらいはやってもいいけどさ」
ちょっと考えるラージャ。
「ちなみにボクの値段っていくらだったの?」
「先に教えておくとエミリアは金貨50枚だった」
「エミリア高いねっ!?」
「ラージャは銀貨1枚だ」
「ボク、安すぎないっ!?」
「ラージャは訳あり物件だったからなぁ」
「そこんとこくわしく!」
どうしたものかをエミリアを見る。
「なにを考えて買ったのかは、教えてあげる方がいいと思うのです」
「ラージャはオーガに食われて片手片足片目を失っていたんだ」
「覚えてないんだけど!?」
「感覚を強制的に封鎖されてたようなもんだからな。普通の状態なら発狂しててもおかしくないだろ」
生きたまま手足を食われるところを想像したのか、ラージャはぶるっと身体を震わせる。たわわなソレもぶるっと震える。ぶるんぶるん。
「いま、ボクの手足も眼もあるよね。夢? もしかして、これは死ぬ間際の幸せな夢?」
頬をつねっている。そっとつねっているので痛みなど感じないんじゃないかね。
「それだとわからないです。こうするのです」
エミリアがラージャの鼻をつまんだ。
「いふぁいよ、いふぁい!」
「夢じゃないのです」
「じゃあイソ君のウソ?」
「そんなことを言うのはこの口ですっ!? このっ、口ですっ!?」
エミリアがラージャの唇を左右に引っ張る。オレ越しにラージャへ掴みかかるからエミリアのおっぱいがオレの顔を責める。突起が口元にぐりぐりと押し付けられる。
軽く噛んだ。
「ひゃうっ!」
「やめろエミリア。悪気があるわけじゃないだろう」
「ラージャはイソ様への尊敬が足りないです」
その通りなのだろうが、ラージャにしてみれば、単なる奴隷契約があるだけで、尊敬するような何かを見たわけではない。
「まあ、見た方が早いか。ラージャ腕を出せ」
「うん?」
疑問を浮かべて右腕を差し出すラージャ。オレは収納から剣を取り出すと右腕を両断した。飛び散る血飛沫。切り離された右腕。スプラッタな浴槽。
「ぎゃーっ! 腕が! ボクの腕がぁ!」
「修復」
魔法でラージャの右腕が接続される。部品がある場合は再利用されるのね。
「身体浄化」
エミリアがスプラッタな惨状を元に戻した。
「こういうわけだ」
「口で言ってよ! 実演要らなかったよ!」
涙目のラージャ。実演後だから言える話である。
「ちなみに神殿でこれを受けると、1箇所金貨10枚。ラージャの場合は金貨30枚だな」
「一生付いていきます」
一気に尊敬された。
「つまり本来なら死んでいたボクをイソ君が引き取って治してくれたということなんだね?」
「そうだな」
「なんで?」
瞳をキラキラさせてラージャ。ロマンチックなことでも言って欲しいのだろうか。
「手足を失ってろくに行動できないダークエルフを無理矢理犯して性奴隷に…」
「ぎゃーっ! イソ君変態だった!」
エミリアが飛びかかろうとするのを押さえて。
「それは冗談なんだけど。ちゃんと治してるでしょ。ラージャの天啓が欲しかったんだよ」
「天啓? 珍しいものなの?」
「老化禁止って天啓があるんだよ、ラージャには。オレはそれをパーティの仲間に複製することができる。特別な天啓を持ってるんだ。
エミリアに老化禁止を与えたくてね。それでラージャを買った」
それを聞いたエミリアは感動で瞳を潤ませている。「ああ…イソ様…」とか呟いているが、今夜のご奉仕に期待だな。
「イソ君、すごいことできるね。そんな天啓聞いたことないよ」
あっても秘密にするだろうな。
「そうかぁ。実はボク、16歳で成長止まってね。みんな20歳くらいまで成長するから不思議だったんだけど、いつの間にか天啓を閃いていたからだったんだね」
「無効にもできる」
「お願いするよ!」
即答だった。
「どうして?」
「だって、もう少し身長もおっぱいも大きくなるかも知れないんだよ。限界に挑戦したいよ」
オレは黙ってラージャの「老化禁止」を未使用に移した。成長は阻害しないってことだったんだが、この辺、微妙なんだよな。加齢による肉体の成長と能力の成長。オレも肉体の成長が止まっても困るから未使用にしたわけだし。
「無効にしたぞ」
「4年後が楽しみだね!」
なんかうやむやになった気がするが、ラージャが楽しそうだからいいのかな、と思った。
◇◇◇
宿に戻って部屋に入るど、風呂で騒ぎすぎた疲れが出たのか、ラージャはベッドで横になるなり寝落ちしてしまった。
エミリアはその様子を見てくすりと笑う。
「やっぱり話してよかったのです。どんな理由であれ、自分が必要とされているとわかれば安心できるのです」
「そういうもんか?」
「そうなのです」
奴隷視点だからな。オレにはわからないこともあるだろう。エミリアはロリソンから要らないと言われいたようなものだし、特別な思いもあるのだろう。
「全部脱ぐです?」
ベッドでオレにしなだれかかってエミリア。
「疲れてたんじゃないのか?」
「ラージャが緊張してたからガマンしてたです。今日、ラージャは安心して眠ってるです」
「じゃあ、全部で」
ダブルベッドの周囲だけ結界を張った。
何度目かのエミリアのダウン。
復活したエミリアは、ちょっといつもと違う動きを見せる。他からの視線を意識している動きだ。わざと音を立てるし、そちらに視線も向ける。
やがてラージャがこちらへにじり寄ってきた。
「み、見ててもいい?」
「いいのです」
蠱惑的な微笑みでエミリア。ラージャに見せつけるようにご奉仕を続ける。
もじもじするラージャ。
「あのっ! ボクの村ではですね。一夫一婦制で、結婚するまではそういうことは禁止されてて、ボクも経験ないんだけど、奴隷になったからしかたないっていうか」
「オレは強制してない」
オレがそういうと絶望的な顔をするラージャ。
「混ざりたいです?」
ゆっくりとラージャの顎を撫でるエミリア。ごくりとツバを飲み込んで、うなずくラージャ。
「イソ様は優しくて上手ですから、安心するといいです。わたしも手伝うです」
「よ、よろしくお願いします」
じゃあ、できるだけ優しくしましょうかね。
◇◇◇
翌朝。朝飯を食ってる最中。
「ラージャの村へ行ってみないか?」
「えっ?」
驚くラージャ。
「なにも残ってないよ?」
「オレの気分の問題なんだけどさ」
もう村の体をなしてないのかも知れなんだけどね、せめてラージャの両親の墓くらいはあってもいいんじゃないかって思うわけ。
文字通り村から逃げ出してきたんだし、村のその後が気になるようだとこれからの生活にトゲが残るんじゃないかってさ。
だからラージャがこれからの人生を悔いなく生きるためにケジメは必要なんじゃないかって考えたわけさ。
ということを伝えた。
「う~ん、生き残りはいないと思うんだよね。襲ってきたのは土竜だしさ。小さな村だったし、竜の息数発で全滅。文字取り何もなくなったよ。
ボクはたまたま食料の狩りに出てたから助かったけど、戦いを挑んだひとは全員返り討ちだったしね…」
暗い表情のラージャ。嫌なことを思い出させてしまったかもしれない。
「それでボクより強いひとが太刀打ちできないから、全力で逃げ出したんだ。追って来る気配はなかったよ」
「逃げて正解なのです。勝てない戦いに挑むのはダメなのです」
オレがエイミーちゃんに言ってたことだな。エミリアも覚えてたか。
「実はオーガが街道に出たことも気になってるんだよな。ハンタンの商会で冒険者と少し話をしたんだけど、街道にオーガなんてランクの高い魔物が出たことは近年なかったそうなんだ。だから街道の護衛はランクD冒険者の仕事になってる。
それが頻繁にランクC魔物が街道に現れるようだと、護衛の依頼のランク見直しも視野に入れる必要があるってことだった。
アマネさんにもその話をしたんだけど、暴走の前兆じゃないといいけどって言ってたな」
「「暴走?」」
「オレも詳しくは知らないけど、アマネさんから聞いた限りでは、ダンジョンが育ちすぎて、あるいは管理されてないダンジョンから魔物が溢れ出す現象ってことだったな。
そのダンジョンの浅い階層からだけじゃなくて、すべての階層から溢れ出すってことだから、ダンジョンの強さによっては、かなりのランクの魔物も溢れてくるらしい」
「大丈夫なのです?」
「それを判断するのも、調査を依頼するのもギルドの仕事だろ。ロージアン近郊の話だろうし、オレたちはランクDだし、関係ないだろ。
ただラージャの村を襲った魔物が暴走で現れた魔物だとするなら、無関係とも言えない。
なんかこう、魔物というかダンジョンに復讐してやりたくならないか?」
ちょっとだけ悪い気持ちが顔に出てたかも知れない。
エミリアとラージャが怯えた顔になってる。
「一番はラージャの両親のお墓を作っておきたいって話なのは本当だよ。それにすぐに動けるわけじゃないからな。ラージャには今日から毒だし」
「ええ、毒なのです」
「毒!?」
エミリアは何をするかわかってるから気にしてない。ラージャはものすごく怯えた顔をしていた。
でもさ、必要なことなんだよな、毒。別に苦しくないから大丈夫だよ~。
オレはラージャに向けてニヤリと笑ったのだった。




