ランクアップ試験-準備
◆ランクアップ試験-準備
ダンジョンから帰還したあと、ギルドに報告すると、ギルド内で騒ぎになった。
あの「エイミーちゃん」がソロで1階層ボスを倒したのだ。
エイミーちゃんを知っていた冒険者なら耳を疑うのは間違いない。
それでもギルドカードには間違いなく実績が登録されていて。
ギルドの酒場で大宴会になった。
「一週間前まで魔術師だったよね?」
「剣術の初級全部使えるの!?」
「Lv14なのにソロでボス倒したの!?」
などなど。
エイミーちゃんを中心に宴会が盛り上がっている。
「エイミーちゃんを変えたのはイソさんなのにねぇ」
ササラさんもエール片手に騒ぎを眺めていた。
オレとエミリアは晩飯前なので、素直に果実水だ。
「いえいえ。変わったのは本人の努力。オレは方向性をちょっと示しただけですよ」
ササラさんは興味深そうにオレを眺めていたが。
「イソさん、引退したら冒険者ギルドで働けばいいんじゃない? アマネさんと私で推薦しますよ?」
「縁起でもない。まだ冒険者始めたばっかりですよ。引退ってことは、大怪我するってことじゃないですか」
「そうでもないって。あ、でもランク足りないか。冒険者ギルドの職員には最低ランクCじゃないとなれないんですよね」
それにはオレも驚いた。
「ササラさん、ランクCだったんですか!」
「…失礼ですね。これでも優秀な盗賊だったんですから。リーダーがランクBで、それに持ち上げてもらったのは否定しませんけど。
リーダーが死んで、パーティーもうまくまとまらなくなって。
それでパーティー解散したんですけど、その後、どこのパーティー入っても長続きしなくて。
ほら、私って美少女じゃないですか?
私を奪い合って醜く争うのを見てると居辛くなっちゃって…」
パーティークラッシャーかよ。
「美少女で、ランクCで、鑑定持ちで。
治療使えて、美少女。
ギルドが放っておかないですよね」
美少女2回言った。
「…ビッチ」
「んん~? なんか意味はわからないけど、バカにされたような気がしましたよ?
私、これでもLv30超えですよ?」
オレの頭を握る。アイアンクローのつもりらしいが。
「えっ! 効かない!? なんで!? 全力なんだけど!」
「オレもLv30超えてますからね」
「く、悔しいっ!
あと、誤解があるようですけど、私、処女ですからねっ!」
ササラさんは放置してエイミーちゃんを見ると、みんなに囲まれて嬉しそうだ。
地雷女なのは性格なので、簡単に変わらないと思うけど。これからいい仲間に恵まれるといいな、と思う。
あ、何人かエロいことに誘って断られてる。変わったなぁ、エイミーちゃん。以前ならほいほい付いて行ったと思うんだけど。あ、今日だけか?
「あ、イソ~!」
呼ばれた。
「このひとがギルドの依頼で、あたしにいろいろ教えてくれたんだ。だから短期間でレベルも上げられたし、戦い方も覚えたの。
…エロいこともすごいよ」
何人かの女性冒険者の生唾を飲み込む音が聞こえたような。
なんだか、話の流れでオレが主催のお祝い会がギルドの酒場で催されることになって。
まあいいか。せいぜい金貨1枚で済むだろ。ダンジョンでは稼がせてもらったんだ。少しくらい還元してもバチは当たるまい。
ほとんどがエイミーちゃんに群がっていたが、何人かの冒険者は、オレの方に来た。
曰く。
「魔術のレベルが上がらないんだけど、なにかコツがあるのかな」
「剣士なのにダメージ出せなくなってるんだ。得物を変えた方がいいんだろうか?」
「リーダーの勧めで神官やってるんだけど、なかなか聖魔法が上達しないの」
などなど。
オレはお悩み相談室じゃねぇ!
「そういうお悩みの相談は銀貨2枚になります」
とか言っとけばいなくなるだろ。
と思ってた時期がありました。
本人の許可を得てステータスを見る。ステータスだけなら未使用まで見えるからな。
特殊な天啓があると言っておいた。まあ、鑑定は特殊な天啓なんだけど。
伸び悩みはいわゆるキャラクタービルドの失敗。
レベルアップで職業に合わないステータスが伸びてしまって、現在の職業とマッチしなくなってるから、伸び悩むというもの。
または職業レベルの倍率が低い場合。これも剣士から槍術士とか別の職業に転職して、職業を鍛え直した方が職業倍率補正で修正が効く可能性あり。
魔法レベルが上がらないとかいってるヤツは死ぬ気で魔法使え。それと上位魔法を使う方がレベルアップしやすいので、そのことも教えておく。
初級魔法は使いやすく燃費もいいから、そっちばかり使うみたいだけど、意識して上位魔法を使った方がいい。
聖魔法だけはオレも悩ましい。神殿の神官は日常的に聖魔法を使うから、レベルアップも早い。でも冒険者の神官は、むしろ前衛職だ。治療は使うだろうが、それ以上となるとなかなか頻繁には使わない。一度、神殿へ修行に出るといいのかもな。
長蛇の列がはける頃。意外に銀貨が山積みになった。宴会分は稼いだんじゃねぇか?
「イソさん、かなり的確な指導でしたね。やっぱりギルド職員向いてるんじゃないですか?」
ササラさんがからかいに来た。どうやら職員の業務時間は過ぎたようで、このひとも飲んでる。
「じゃあ、がんばってランク上げないとならないですね。明日、アルスターに戻ります」
「そうですか」
少ししんみりした顔でササラさん。
「これでこのギルドも平和になりますよ!
非常識な買取がなくなりますからね!」
「帰るの1日伸ばしてワイト2000匹狩ってから帰ろうかな」
「やめて、お願いだからやめて。
ワイトもドロップで呪いの指輪出すの。もう指輪の鑑定したくないの」
しかし、それだけ鑑定しているなら、鑑定レベルもあがりそうなものだけど。
天啓にレベルの上限って属人なんだろうか。
「ササラさんって鑑定レベルいつくなんですか?」
「Lv2ね。鑑定はLv2でカンストって言われてるから、もうこれ以上鑑定してても伸びがないから楽しくないの」
オレの鑑定がレベル高いのは限界突破のせいなのか?
確認のしようがないな。
翌日。
ちなみにエイミーちゃんは宴会で酔いつぶれたので背負って宿に帰りました。
エミリアは久しぶりにふたりきりだったので、思いっ切り甘えてきました。
エミリア、かわいいよ、エミリア。
スミストルの門の前にて。
「今日までお世話になりました。また来ると思いますけど、その時はよろしくお願いします」
見送りに来てくれたササラさんへひとこと。
「エイミーちゃんは2階層がんばれよ。無茶はいいけど、無理はするなよ」
「うん」
「じゃあ、がんばってね」
「うん」
いつも元気なエイミーちゃんっぽくないな。
「…ねぇ、イソ」
「なんだ?」
キッとエイミーちゃんはオレを見つめて。
「あたしをイソの奴隷にしてよ! あたしの『銀貨の君』になってよ!」
ほら来た。基本誰かに依存する地雷女ってのは変わってないんだよ。
ひとりでダンジョン討伐はできてたけど、背景にはオレへの依存があったからだしな。
エイミーちゃんの本当の意味での独り立ちは今日から始まるわけだ。
「要らないし」
「なんでよ!」
「エミリアにひとつでも勝てることがあるなら言ってみろ」
ぐぅの音も出ないようだ。
「メッセージ寄越せば相談には乗るから」
「…約束よ」
「ああ」
「…絶対、いい女になって、イソに『オレの奴隷になってください』って言わせてやるわ。言わせてやるんだから!」
大泣きしてしまうエイミーちゃん。
オレたちは、後のことをササラさんに任せてスミストルを出た。
レベル関連の常識がなかったから苦労したな。
しかし、カメの高速周回はお金になりそうだ。資金に困ったら、また来ることにしよう。
いったん、さらば! スミストルのダンジョンよ!!
◇◇◇
「とまあ、いろいろありましてね」
アルスターのギルド受付である。営業スマイルのアマネさんを前に。
「結局エイミーさんの面倒みたんですね」
「ササラさんから押し付けられたんですけどね」
「それで…カードの実績は確認しました。なんかレイス2000体討伐とか、ウソですよね?」
細けえことはいいんだよ。
「エミリアもランクEですし、一緒にランクアップ試験を受けたいんですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。奴隷の場合、基本は主人と一緒になります。奴隷だけ、先にランク上げる場合もありますが、その場合、ギルドの試験官と主人が同行することになります。
今回は一緒に試験とのことですので問題ありません」
「それで試験の内容と実施日は?」
「試験の詳しい内容は話せません。試験を受けるひとで、擬似的なパーティー、行動を共にするひとという意味ですが、を組んでもらって、依頼を達成するのが試験になります。
そのため、適当な依頼が入らないと試験も実施できないのですが、イソさんは運がいいんですね。ちょうど昨日依頼が入りました。数日内には実施されると思います」
幸先のいいことで。
「準備が必要なものとかは?」
「本来、それも依頼を聞いてから考えるんですけどね。イソさんには冒険者の常識がないことも多いので、これだけは教えておきます。
野営は必須です」
野営か。そういう準備はしてないな。マットだけあるけど。
野営。野営か~。準備は必要だな。
「ありがとうございました」
野営と聞いて、思い付いたことがある。
野営というからには屋外で寝る必要があるし、周囲の警戒も必要だろう。
周囲の警戒は鑑定でどうにでもなるとして。
エミリアのテントならあるが、快適空間とは言い難い。これを解消しよう。
そのためには協力者が必要だ。
ギルドでもいいけどさ。モノの手配もある。ロリソンを頼ることにしよう。
「して、本日はなんのご用向でしょうか?」
「オレの秘密を知っているロリソンさんに協力して欲しいことがありまして」
「内容と報酬によりますな」
「商人のロリソンさんを見込んで手配して欲しい品々があります。もちろん代金は支払います。それらの品々をロリソンさんの倉庫の片隅、ひと目のないところに保管して置いて欲しいのです」
「ああ、大きな商品なのですね? アイテムボックスを見られたくないと」
「話が早い。報酬ですが、ロリソンさんは『泡の国』をご存知ですか?」
「いや、初耳だが…」
オレはニヤリと笑った。
「ロリソンさんのお気に入りの奴隷を、そうですね。ふたり、ご用意ください。ちなみに、お屋敷にお風呂はありますか?」
「風呂? そりゃあ、立派なのを作ってある。広さも十分だ。なにしろ私の可愛い奴隷たちに囲まれて入る風呂は1日の疲れを癒やすのに必須だからね」
ロリソンが風呂好きでよかった。
「では、お屋敷のお風呂と、お気に入りの奴隷をふたり、貸していただきましょう。ああ、おふたりには水着着用をお願いします。
ロリソンさんに、新しい癒やしをご提供しますよ」
「まさか、私の奴隷に君が触れるつもりじゃないだろうね」
「指導の必要はありますが、エミリアが指導できますので」
オレの返事にロリソンは心底ホッとしたようだった。
エミリアの水着は先に買ってある。事故が起きないようにワンピースタイプのもの。なんでスクール水着(旧)のデザインの水着があるんだろうな。機能的なのかも知れないが。
奴隷たちの水着がないとの話だったので、エミリアと同じ水着を手配するように助言しておいた。
エミリアには各種液体石鹸、美容ローション、スライムマットを持たせてある。エミリアのアイテムボックスに関しては後からロリソンに口止めをお願いすれば問題ないだろう。
その間、オレは雑貨屋で減った消耗品(主に石鹸とローション)を購入。
以前暴走気味のアマネさんに連れて来られた家具屋などで商品を物色、アタリを付けておく。
スライムベッド、キングサイズ。銀貨50枚。いいお値段だが、値段分の価値はあると見た。
あとは魔石キッチンか。
魔石入れに魔石を入れておくと、コンロと水道が使えるようになる。システムキッチンもあるようだが、コンパクトなものでいいだろう。こちらも銀貨50枚。
あとはソファ×2とテーブル。4人用のダイニングテーブルと椅子。こちらはありふれた品でいいと思うが、エミリアの意見も欲しいな。
ギルドカードにエミリアから着信。
『指導終わったです。もう着替えたです。これからロリソンさんがお試しするです。イソ様はどこにいるですか?』
家具屋にいると伝えておく。
いまのエミリアなら気配察知でオレの居場所くらいはすぐにわかるだろう。
商店街にいることさえ伝えれば、最短ルートでやってくるはずだ。
エミリアに意見を聞きながら、商品を予約していった。
「お部屋借りるですか?」
「借りるというか、作る」
実験済みなのだが、エミリアのテントの中の空間を「空間操作」で広げてある。
だいたい20畳くらいの広さ。
そこにベッド、簡易キッチン、その他家具を配置し、野営時の快適空間にしようと考えたわけだ。ああ、敷物もいるか。
何度か実験を繰り返してわかったことだが。この空間操作、実際にテントの中をどうこうしているわけではなく、テントを入口として、どこかに指定された大きさの空間が作成されている感じだった。そのため、テントを分解して、組み立て直しても同じ空間に接続される。
もしかしたら、地面とか壁に扉を書くだけで接続できるかもしれない。今度試そう。
さすがに今回は他人がいるので、テントを張って偽装の必要があるけど。
そういうわけで、他に必要な生活用品がないかエミリアと商店街を見て回る。
食器や炊事用品、台所用品などなど。収納も必要か。単なる空間だしな。
トイレと風呂…。
可能かもしれないが、これらは実験してから。
そうやって商店街をぶらぶらしているとロリソンところの奴隷メイドが駆け寄ってきた。
「ロリソン様がお呼びでございます。至急、当商会までお越しくださいとのことでした」
食い付いたか。
「いやぁ! イソ様! 素晴らしい! 素晴らしい技術です!!
あのマットの感触。彼女たちの肌がヌルヌルと滑る感覚。
特別に背中を洗われる感触がたまりませんな!」
妙につやつやしたロリソン。やっぱり美容ローションすげぇな。
ロリには合わないような気もするけどね。エイミーちゃん微妙だったし。
そこは個人の嗜好だ。追求はするまい。
「最初は慣れないと難しいでしょう。今日のふたりを専属として、技を磨き、完全に身に付いたら他の奴隷にも教えて行くといいと思います。
それで、倉庫の方は手配いただけますか?」
「もちろんですとも! むしろ技術料をお支払いしないでもいいのですかな? あれほどのアイディア、娼館などに売ればかなりのものになると思いますが」
「金に困ったら考えますよ。ロリソンさんも広めないようにお願いします」
「ふむ? 房中術の類ですかな?」
「そんなところです。それで、こちらが欲しい商品のリストなんですが、手配できますかね」
小物はすでに購入済みだが、ベッドなどの大物はロリソン経由にするつもりだった。
変な買い物してアマネさん辺りに嗅ぎ付けられると面倒そうだったからだ。
「ほう。あちらの家具屋からですか。商品も…お目が高い。すべて付き合いのある卸しですな。リストのものは手配しましょう。明日には倉庫に運び入れるように言っておきます」
早いな。商会同士の繋がりが緊密ってことなのか? この世界の物流がどうなってるのかしらんけど。
「精算はその時でいいですか?」
「今回は私に出させてください。あの素晴らしい泡の国ごっこのお礼です。もちろん、空きがある場合に、倉庫の一角をお貸しするのは構いません。必要な場合、いつでも声をかけてください。商会のものにも周知しておきますので、私に直接声をかけていただかなくても大丈夫にしておきます」
至れり尽せりだな。軽く金貨1枚は超えてるけど。
エミリアに説明の必要もあるので、さっそく倉庫の隅でテントを組み立てる。ひと目のない場所だから、視線を感じることもない。
「そんなに経ってないのに懐かしいです」
まあ、そうだな。
テントに潜り込む。
「すごいです!」
狭くて窮屈なテントの中が、真っ白な広い空間になっているんだから、驚くのも当たり前だろう。
「さっき見た家具は、ここに置こうとおもってさ」
すごいすごいとはしゃいでいるエミリアを脇に、間取りの変更ができないものか試してみる。
できるわ。1DKから1LDKに変更。
リビングが20畳くらい前と同じ。リビング・ダイニングなので、キッチンとの前に間仕切りを付ける。
トイレとバスルーム。バスルームは広めにね?
奥にベッドルーム。
どれも壁に扉を付けただけで新しい空間が接続された。
普通の建物では実現できない構造。むしろダンジョンに近いな、これ。
追加でトイレと風呂桶買いに行こう。シャワー関係の水回りの魔道具もな。
魔石がけっこう必要になるな。あとでダンジョン周回するか。レイス100周くらいでいいだろ。
◇◇◇
翌日。テントを出したままにしておいたので、その周囲に注文の品が揃っていた。午前中に追加で発注していた便器と風呂桶まであったのには少し驚いた。
ベッドなどの大物も、アイテムボックスがあればエミリアひとりで配置できる。ある意味エミリアの城なので、お好みに任せる。
その間、オレはトイレと風呂を準備する。
トイレも魔石を入れておくと水が出る水洗タイプだ。ご丁寧に洗浄便座までありやがる。宿にはなかったから、高級品なんだろうな。ヤベェ、宿より快適空間ができ上がりつつある。
トイレは置くだけ、風呂は風呂桶を置いて、適度な深さまで沈み込ませる。
テスト用に購入してきた魔石で水を流してみたが、どちらも謎空間に排水されていた。どこに排水されるんだろう?
なおロリソンによると、通常の排水は屋敷を建てるときに下水道の工事をして、共通の排水溝へ流れ込むようにしないとならないとのこと。
要所に魔石使用の浄化槽が設置されており、川へ流す際には綺麗になって排水されるらしい。浄化槽の魔石交換は領主の部下の仕事だそうな。
大物は設置したので、追加の買い物をして、魔石回収のため、レイス周回をした。100周。
そういえば、ロリソンの奴隷に指導したためか、エミリアの泡姫レベルが上がっていたのだった。




