↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生で理想の生活を  作者: かおりん@
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/56

スミストル・5階層

 ◆スミストル・5階層


 昼前なのに風呂に入っている。


 公衆浴場に来たら今日は大浴場の営業日じゃないと言われた。


 帰ろうとしたら家族風呂なら、貸し切り銅貨10枚と言われたので迷わず家族風呂を借りた。狭いは狭いけど、エミリアと並んで入れるくらいの浴槽の広さはあったし、なによりエミリアの裸を誰にも見られることがないのは大きい。


 お風呂でアレコレのために結界。


 サッパリしたあとは身体浄化(クリーン)をあちこちに。


 こうなるとやっぱり石鹸というかボディソープというかヌルヌルした液とか欲しくなるな。濡れても大丈夫なマットとか。


 番台で世間話。


「最近、スミストルで魔石の値段が下がってて。ゴブリンとかのクズ魔石なら、バケツひとつで銅貨1枚なのよ。

 だから風呂にお湯を貯める魔道具とか、そういうのが安く使えるんだわ。

 ほら家族風呂な。あれの湯船にお湯を張るのにクズ魔石ひとつで十分だから、銅貨10枚ももらえるなら、かなり儲かるのさ。

 ちょっと前まではクズ魔石でも手のひら一杯くらいで銅貨1枚だったからね。

 大浴場も毎日営業してもいいくらいだけど、魔石が上がってから営業できないと困るからね。

 いまなら、家族風呂は毎日来てもらってもいいよ!」


 と教えてくれた。


 クズ魔石か。たしかオークの魔石もクズ扱いだったよな。


 誰が暴落させたんだろうなー(棒)。


「そういえば、石鹸とか、ボディローションとか、そういうの売ってるとこ知らない?」


 風呂関係は風呂屋に聞けばいいだろ。


「なんだい、あんた、石鹸も持ち込まず風呂へ入ってたのかい。

 どこの出から知らないけど、お湯へ入る前に身体を洗うのは常識だよ」


「いや身体浄化(クリーン)使ってるから大丈夫。

 んで、どこで売ってるって?」


「雑貨屋行ってみな。固形石鹸から液体石鹸、美容ローションまでいろいろ揃えてるはずだよ」


 その情報が欲しかった!


 一度ギルドで納品してから雑貨屋行こうか。


「今回は普通ですね。スパイダーシルクが20個ですか。これだけで金貨1枚ですから十分な稼ぎですけど。魔石も2桁後半。

 いつもこうなら即査定できるのに」


 ぶつぶつ言いながらササラさんは奥に引っ込んでいく。


「ボスドロップはひとつだけでしたね。珍しい。本格的に攻略に入ったということですか。もしかして、午後から5階層ですか?」


「いや、午後はちょっと買い物しようと思ってる。ここんとこ詰めてたから休憩」


「毎日が休憩みたいなものでは? イソさんの場合」


「ワイトの魔石2000個持って来ましょうか?」


「ごめんなさい。午後から休憩、いいと思います」


 ササラさんは真剣だった。真剣に休んで欲しそうだった。


「じゃあ、エミリア。買い物に行こう!」


「はいです!」


 酒場のテーブルで待っていたエミリアが元気よく立ち上がった。


 ◇◇◇


 雑貨屋では公衆浴場の番台さんが教えてくれた通りに、各種石鹸や洗剤が置かれていた。入浴の習慣のない地域のひとには観光名物にもなっているらしく、携帯サイズのものも各種取り揃えているようだった。


 固形石鹸も液体石鹸もサンプルが展示してあり、香りも確認できる。親切な店舗である。たぶん、ここアマネさんに案内してもらった雑貨屋の支店だと思う。看板に見覚えあるから。


 とはいえ、香料もそれほど種類があるわけでもない。


 エミリアを呼んで、自分の身体に付けるなら、どの香りがいいか選ばせる。


「香水です?」


「いや石鹸だ」


「せっけん?」


「あとで使い方は教えてあげる」


 なら選ぶです~♪とひくひくと鼻を動かして選び始めた。


「ああ、これそのままボディスポンジって名称なんだ」


 公衆浴場の洗い場に置いてあったアレである。ヘチマっぽいあれ。たぶん魔物素材なんだろうな。


 石鹸も魔物素材だろうか?


 店員さんに聞いてみたところ、ダンジョンの各種スライムのドロップ品とのこと。


 香りだけ、あとで付けて販売するらしい。そのため固形石鹸の方は、ほぼ無香料。たまに香り付きがあるのは、そういう種類のドロップがあるからだとか。


 美容ローションも同様にスライムからのドロップ品とのこと。


 使えば使うほど肌が滑らかになるそうで、どっかのCMみたいな話を聞かされた。


 この世界は魔法の世界だからな。そういう品が魔物からドロップされたとしても不思議はない。むしろひとが作ったという方が胡散臭い。


 そもそも魔物が指輪をドロップし、その指輪はどの指に嵌めても自動サイズ調整を行う。蜘蛛を倒すと、そのドロップとして大きな糸巻きに巻き付けられた糸を落とす。


 いっそ風呂桶もドロップしろよ、と思ったが、普通の冒険者は持ち帰れないね。


 家族風呂の方にはスポンジが常備されていなかったので、スポンジを数個。


 エミリアの選んだ香りの液体石鹸を1ダース。オススメされた美容ローションを1ダース。同じ品の携帯サイズも購入。その他、たぶん使うだろう髪留め用のゴム紐とか。細々したものをまとめて。


 全部で銀貨1枚くらい。ギルドカードで決済。ホント便利だね。


 店内を見回してもなかったので聞いてみた。


「なんかこう、言ってわかるかどうか謎なんだけど、マットない?」


「まっと?」


「弾力のある敷物っていったらいいかな。たとえばテントの中に敷くような」


「ああ、野営用の敷物ですか。ウチでも取り扱ってますが、ギルドの売店の方がサイズは豊富だと思いますよ」


 灯台下暗し。野営用品と考えれば冒険者ギルドの方がふさわしいか。


 店員さんにお礼を言ってギルドへ逆戻り。


 さっそくギルドの売店で野営用品を吟味する。


 家族風呂の洗い場があまり広くないからな。1.5人分くらいの大きさのがあるとベストか。


「あれ? イソさん、野営するんですか?」


「完璧なお風呂ライフのための準備中なんだ。邪魔しないでくれ」


 ササラさんが様子を見に来るがオレはマットの吟味を止めない。


「お風呂? イソさん、お風呂入る地方のひとなんですか。実は私もなんです。今度一緒にはいります?」


 その言葉にちらりとササラさんを見る。あざとくシナを作ってみせる。


「ウチにはエミリアがいるので間に合ってます」


「ひっど! そりゃ、お風呂でそういう視線向けるのは失礼ですけど! 美少女が一緒にお風呂入ろうって言ってるのをバッサリ行きます!? 社交辞令とかそういうのを…」


「自分で美少女とか言っちゃうひとって」


「じゃあイソさんは私が可愛くないっていうんですか!」


「可愛いですけど、周囲に誤解されるとお互い困りません? ササラさん、モテるんですから、その辺注意してくださいよ」


 そういうと、ササラさんは真っ赤になって黙ったまま、その場を立ち去った。


 なんなんだ。邪魔だけして無言で去って行くとは。


 お、これだ!「最新式スライムコーティング完全防水・テント用敷物・余裕のサイズ1.5人分」。もうそのままこれ。ホントは空気入れて膨らませるヤツがいいけど、さすがにないだろ。(ちなみに後日スライムのドロップ品で見つけた)


 準備は整ったが昼食の時間だ。このままギルドの酒場で食事にしよう。


 食後にまた大衆酒場へやって来たオレたち。


「また家族風呂使わせてもらうよ」


「はいよ。あんたは綺麗に使うから、こっちも助かるわ」


 身体浄化(クリーン)、偉大だな。


 家族風呂にもシャワーと給湯口は付いている。


 早速収納からスライムマットを取り出してお湯をかけてみる。


 うん、大丈夫。水弾きは完璧。敷いて横になる。おおう、このスライム感。厚みも適度でクッションも半端ねぇ。これはひとをダメにするマットだ。


 同じ使用のクッションないか、今度探してみよう。


 なお、オレがいろいろ試している間はエミリアには湯船で待ってもらっている。冷えると良くないからね。


「よし、準備完了だ!」


「なにするです?」


「泡の国ごっこだ!」


 エミリアはキョトンとした顔をしていた。


 ◇◇◇


 泡の国ごっこを終えたオレたちはエイミーちゃんと合流するため、ギルドの酒場で果実水を飲んでいた。


 エミリアは大変満足そうな笑顔をしており、その肌も艷やかだ。美容ローションすげぇ。ちなみにオレもツヤツヤである。


 オレは明日の5階層の資料を眺めている。


 5階層の魔物はリザードマン、マンイーター、ポイズントード。ボスがでっかいカメなのね。マップは湿地か。罠ありとのことなので、底なし沼とかかな。致死性の高い罠はイヤだなあ。


 魔物の詳細は。


 リザードマンはトカゲ系亜人。友好的な本物のリザードマンと間違えないように注意?


 どうやって区別すれば…あ、ダンジョンの魔物は目が赤い。なるほど。


 マンイーターはスライム、と。ドロップが液体石鹸? こいつのドロップだったか。


 ポイズントードは毒ガエルね。毒液を飛ばしてくるから注意。麻痺毒じゃなくてダメージ毒か。


 ボスのジャイアント・トータスは、それなりに面倒そうだな。


 開幕威嚇、足踏みによる地震、噛み付きが主な攻撃か。


 耐性は物理。無効ってほどではないのな。ん? 魔法無効? 物理耐性高いのに魔法無効で、地震攻撃とか。


 ランクDってなってるけど、ソロじゃ無理じゃね? まあレベル次第か。


 そのように計画を練っていると、満面の笑顔でエイミーちゃんが帰ってきた。


「ねぇ聞いて! 今日、ようやくゴブリン50匹達成したの!」


 おーがんばったねえ。数日前まで「あたしをパーティーに入れてっ!」って叫んでいた子とは別人のようだ。


 ステータスを覗いてみよう。実は鑑定レベルアップの結果、強制鑑定ができるようになったのだ。無断で他人のステータスを覗き放題なのだ。他人の天啓(スキル)を暴くと死ぬというのはなんのことだったのか。


 とはいえ、天啓(スキル)は見ようとしなければ見えない。


 ステータスだけだ。


 さてエイミーちゃんは。


名前:エイミー

年齢:14

Lv:14

   基本   職業補正

体力:149(149)418(418)

魔力:139(139)139(139)

筋力:144(144)418(418)

知恵:130(130)130(130)

敏捷:148(148)444(444)

器用:120(120)120(120)

幸運:132(132)132(132)


 基礎ステータスがレベルなりに期待値になってるんじゃないでしょうか。


 現時点でも職業補正の掛かってる体力・筋力・敏捷はLv40相当だ。


 ぶっちゃけ、ゴブリン・リーダーと取り巻きくらいなら、余裕で行ける。


 これなら、もしかしたら明日一杯で予定レベルになるのかな?


 その場合は1日逗留を伸ばしてボス戦に付き合ってあげよう。


 その日の夕食の席で、大変満足そうにニコニコしているエミリアにエイミーちゃんが食いついてしまった。


「泡の国ごっこ!? なにそれおもしろそう!」


 エイミーちゃんはそうくるよね。


「エミリアならすぐに覚えられると思ったから教えたけど、エイミーちゃんはなぁ」


 正直面倒くさい。


 エイミーちゃんに泡の国ごっこされても、喜ぶのはロリソンくらいではないだろうか。


 お、アルスターに帰ったら、ロリソンに教えてやるか。泡の国ごっこ。エミリアが知らなかったんだから、メジャーではないんだろう。


「わたしが教えるのです」


「マジか」


 エミリアが責任を取ってしまうようだ。


 そのまま3度目の家族風呂。


 結局、閉店近くまで長居することになり。


 宿に戻ってから。


「やっぱりエミリアすごい。あんなヌルヌルツルツルの上でよく動けるよね」


「コツがあるです」


 などと他愛もない話で結界の中が盛り上がり夜は更ける。


 翌日。


「職業増えてるです…」


 エイミーちゃんに指導したのが悪かったのか。


 エミリアには「泡姫Lv1」という職業が追加されているのだった。


 ◇◇◇


 ダンジョン5階層。


 広がるのは広大な湿地帯。ところどころに茂みがあり、油断すると浅瀬を踏み外して沼へ沈み込むことになるだろう。


 泡姫になったから湿地に強くなるわけでもないので、周囲を見回して、エミリアの手を握る。


 目的は攻略である。必要な経験値は稼ぎ終わったのだ。


 持ち得る天啓(スキル)をすべて使って効率的に攻略する。


 通常は湿地の浅瀬が迷路の役割を果たし、腰くらいの深さの深いところに魔物が待ち伏せしているはずだ。


 そういう魔物の構成だ。沼に引き込まれれば死ぬ。


 だったら湿地を通らなければいいのである。


 ダンジョンで転移(短)は使用可能なことを確認済みだ。


 鑑定・自動地図で行き先はわかっている。


 当然最短距離を行く。湿地に足は付けない。


 数回の転移(短)でボス部屋の前に到達。


 ボスはとにかく硬いだけだ。


 なら、それを上回るちからで叩き壊せばいい。


 ボスがポップ。でかいカメだ。


 ボスが威嚇のために口を開いたところで、エミリアが魔力1000の矢を炸裂で打ち込む。


 カメの頭が破裂したところまでは見えた。


 その後、猛烈な爆風。


 爆風が去ったあとには、魔石とカメの甲羅のような丸い盾が残されていた。


 威嚇が効いたら別の手を取る予定だったが、いまのエミリアの敵ではなかったな。


 魔石と盾を回収し、ダンジョンをあとにする。


「光亀の盾?」


「いままで出たことないレアドロップですね。性能すごいですよ。ランクBです。たぶん、素材がアダマンタイトですね」


 ギルドの窓口でササラさん。ジャイアント・トータスの魔石は銀貨50枚。普通にランクCの評価額らしい。今回は攻略優先で、周回考えてなかったから魔力1000の矢を使ったけど、もう少し威力落としても行ける? 魔力100くらいの矢で倒せるなら、周回効率いいけどな。


「聞いてます? イソさん。この盾、売るんですか?」


「いやエミリアが使う」


「ランクBとなると、買取査定にギルド本部まで連絡必要ですからね。買取にならなくて助かりました。でも、いままでこんなドロップありませんでしたけど、心当たりとかありますか?」


 ササラさんお得意のあざとい系首傾げだ。


 これを無自覚じゃなく狙ってやってるのが実にあざとい。


「階層資料にボスの攻撃パターンが載ってるじゃないですか」


「はい。記載しています。間違いがありましたか? 変化とか」


「そうではありません。根拠のない推論ですが、レアドロップし(・)や(・)す(・)い(・)タイミングがあると思います」


「タイミングですか」


「前回のワイトもなんだか口上みたいなのを呟いてる間に叩きましたし、今回のカメも威嚇される前に倒しました。

 そういう魔物側の事情を無視したタイミングで…」


「普通のひとにそんなことできないわよ!

 ワイトだって、長時間戦闘になるのは普通で、長いと4時間とかかかるんです!

 ドレインタッチを使ってくるんですよ? 苦労して削っても、それ一発で回復されるんです!

 っていうかワイトでレアドロップ出してたんですか! ホントだ、エミリアさんが嵌めてる!!

 ジャイアント・トータスだって、威嚇前に攻撃できたとしても、魔法無効ですから、弓術士くらいしか攻撃できません!

 弓術士にそんな強力な攻撃…もしかしてできるんですか?」


 戸惑うササラさんに、オレは笑って誤魔化した。


「仮定の話です。魔物がびっくりするようなタイミングで倒すとレアドロップしやすいんじゃないかなって話ですよ」


 ギルドカードを確認し、達成項目にスミストルのダンジョン5階層となっていることを確認する。


 これでランクアップの資格を得た。


 エイミーちゃんの様子を見たら、アルスターに戻ろう。


 ◇◇◇


 お昼前にエイミーちゃんが戻ってきた。特別やられた様子はないから、おそらくオレたちが午前中に決着を付けると予測して戻って来たのだろう。


「やっぱり討伐完了したのね」


「そうだな」


「ねぇ、イソ。お願いがあるんだけど」


「1階層目のボス挑戦だろ? 大丈夫、約束通り付き合ってやるから」


 驚いたような、納得したような顔のエイミーちゃん。


「じゃあ、ご飯食べたら付き合ってね!」


 ギルドの酒場でオレたちはガッチリ、エイミーちゃんは、この後、激しく動くので、軽めの昼食を取る。


 1階層目のボス部屋は、比較的混雑するボス部屋だ。未踏破の冒険者が必ず通らなければならないボス部屋だからだ。


 そのため少し時間をずらした。


 ボス部屋までの道中、エイミーちゃんの戦いを眺めていたが、実に安定している。


 ゴブリン5匹の群れにも恐れることなく突っ込み、奢ることなく対応している。戦いの場の中で1対1の形を作り上げ、流れを読んでいる。


 これなら気配察知と合わせれば1日ゴブリン50匹も難しい話ではない。むしろ戦っている時間より、草むらに落ちた魔石を回収する方に時間がかかっているだろう。


 シューティングスターのパーティーがこれをできていればゴブリン集落から逃げ出すことは難しくなかっただろうに。それも過去の話だ。


 エイミーちゃんは、転職したことをきっかけに過去を振り切ったのだろう。いまの動きがそれを証明している。


 そして1階層のボスを倒すことで完全に決別するのだ。その覚悟を見届けて欲しいに違いない。


 って感じに、いい話っぽくしておかないと、絶対エイミーちゃんは駄々をこねる。間違いなくこねる。いまのうちに論理武装しておこう。


 ボス部屋に到着した。


 エイミーちゃんは深呼吸して、オレたちを振り返る。


「いきます!」


 ボス部屋の扉が開く。エイミーちゃんが飛び込む。


 少し遅れてオレたちも飛び込む。


 …実はちょっとだけ扉が閉まるまで待ってようかと思ってた。


 ここで鬼畜っぽい感じに行けば、あっさり嫌われるかな、と。


 でも、万が一それでエイミーちゃんが死んだら、後悔しそうだったので、一拍遅れで飛び込むことになった。その一拍がオレの決心の時間だな。今後も付き合うことになりそうだっていう、ね。


 ゴブリン・リーダーがポップする。ゴブリン・リーダーの雄叫びに取り巻きがポップする。


 取り巻きは5匹。最大数だ。


 エイミーちゃんのいまの実力ではゴブリン・リーダーを一撃では倒せない。


 自分でもわかっているのだろう。


 丁寧に戦場を支配して取り巻きの数を減らして行く。


 ゴブリン・リーダーに統率された集団は、ダンジョン1階層の群れとは違う。


 1階層のゴブリンの群れは、単純に数の多いゴブリンだ。


 リーダーに率いられることにより、統制と連携を取る。


 こうなると、単なる群れが部隊になる。


 ゴブリン・リーダーの恐ろしいのはその点なのだ。


 それでも。


 エイミーちゃんは恐れない。


 エイミーちゃんは諦めない。


 エイミーちゃんは戦場を支配する。


 1匹、また1匹とゴブリンは数を減らして行く。


 森と違って、ここはダンジョンだ。


 配下をすべて失ったゴブリン・リーダーに新たな配下が追加されることはない。


 エイミーちゃんの剣術・斬撃。


 ゴブリン・リーダーは倒れない。急所を捉えても、与えるダメージが足りない。


 エイミーちゃんはさらに踏み込んで剣術・斬撃。


 まだ足りない。


 最後の剣術・突き。


 ゴブリン・リーダーの喉元を突き破り、剣が貫通した。


 ゴブリン・リーダーは魔石を残して消え去った。


 結果だけ見るなら、エイミーちゃんの圧勝だった。


 しかし本当はギリギリの戦いだったのだろう。


 エイミーちゃんは膝を付いたまま立ち上がれない。よく見れば剣を持つ手も震えている。


 見た目ほど楽な戦いじゃなかった証拠だ。


(お疲れさん)


 内心でねぎらっておく。言葉に出したら何様じゃんってね。


 まだ立ち上がれないエイミーちゃんのために、オレとエミリアはゴブリンの魔石を集める。


 そして握りしめて剣を離せない手を解いて、その手に魔石を乗せた。


「見届けたよ。おめでとう」


 その言葉にエイミーちゃんはとうとう大声で泣き出してしまった。


 感動なのか。


 達成感なのか。


 遅れてやってきた恐怖なのか。


 泣けるなら、泣いておけばいいと思う。


 だって、まだ生きていることの証なのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。