スミストルのダンジョン
◆スミストルのダンジョン
ギルドでアマネさんに相談したところ、やっぱり槍術士の宝玉と弓術士の宝玉があり、レベルアップによりステータス変更の傾向が変わるひともいるようで、希望者は適正を見るために利用することができる。
職業チートのオレは基本的に職業が多いほどステータスが上がる。
そのため、ギルドで適正を見ることができるすべての宝玉に触らせてもらった。
結果として槍術士・弓術士・斧術士・槌術士の職業を得た。もちろんエミリアも試したので、エミリアも得ている。
「う~ん、どれも魔術師より強く光った感じはないから、イソさんは魔術師のままがいいと思うけど」
「そうですね。適正がないと全然光らないんですか?」
オレの質問に対し。
「ある程度レベルがあれば、その分ステータスも上がるから、どの職業でも全然適正がないということは珍しいの。でもレベルを上げてない状態で、たとえば敏捷と器用が低いと弓術士は難しいわね」
オレもエミリアもすでにある程度のレベルまで上がってるから大丈夫だった感じかな。
登録時サービスのはずの武器もくれた。収納に入れておけば邪魔になるものでもないので、ありがたくもらっておいた。
ギルドでは斧術と槌術の指導をできるひとがいないようで、槍術と弓術だけ指導してもらう。弓術はアマネさん手ずからになった。感謝しかない。
見物に来ていたラナさんという剣士の冒険者に連携で相談してみた。
「坊やの場合は片手剣だと軽すぎるのかもね。奴隷の子が盾使うなら、坊やは思い切って攻撃力重視の大剣か両手剣がいいかもよ?」
どちらもギルドのサービス武器に在庫があるということで、槍術を教えてくれたディータさんがサンプルとして持って来てくれる。
両手持ちの大剣はオレの身長ほどもあり、こちらは敏捷にマイナス補正が付く。
両手剣は幅広で、片手剣よりは長い剣。柄も両手持ちのため長くなる。
大剣も両手剣も剣の幅を利用して盾代わりとしても使用するらしい。
余り物だからと両方ともくれた。本当に初心者向けの武器は余ってるんだなぁ。
「ランクの高い武器とか、どういうものなんですか?」
ラナさんに質問してみる。
「武器にもランクがあるのは知ってるんだね。ランクGだと、補正がなにもない。切れ味と筋力だけだね。ランクFで筋力の2倍ダメージ。Eだと4倍。Dになると8倍ダメージになる。あたしが持ってるこの剣でランクD。店売りだとこの辺りが限界で、これ以上のランクになると素材持ち込みとかでオーダーメイドになるね。
素材といっても単なる鉄とかだと、店売りと大差ないから、ミスリルとかが必要で、ミスリルの合金製の剣だとランクCが期待できる。16倍となると、かなりの攻撃力だよ。
聞いた話だけど、ランクBにはアダマンタイト、ランクAの素材はオリハルコンらしい。あたしは見たこともないけど、この世の中でどこかにはある素材なんだろうさ」
ランクDでも欲しい気がするな。防具も同じかな? ランクD防具だと1/8ダメージになるんだろうか。ランクF防具、ちょっと舐めてたけどダメージを半分もカットしてたのか。そらゴブリンに殴られたくらいではダメージ0にもなるわ。
ちなみに。もらった大剣と両手剣はどちらもランクEだった。片手剣よりダメージ増えるってのはこういうことか。武器の形で、もうランクが上がるのね。
「イソさん、ダンジョン行ってみない?」
どういう話の流れだろうか。
「イソさん、ランクアップしたいかなって。ダンジョンの攻略階層って実績になるんです。スミストルだと2階層目攻略でランクFの実力が認められます。イソさんの次のランクだと5階層まで攻略すればランクDの試験が受けられますよ」
「それにダンジョンの魔物は倒されると魔石をドロップして死体が残らないので、解体の手間いらずです。イソさんのスタイルには向いているのでは?」
アマネさんのアドバイスはいつも的確だ。
10日間のオーク討伐でオレもエミリアもレベルが上がったことだし、次のステージへ行けということなのかな?
◇◇◇
ダンジョンに行くので、しばらく留守にすることを宿へ伝えに行った。留守の間も部屋を確保してもらうため、追加で一月分位を払っておく。
スミストルには金色の朝焼け亭の分館があるとのことで紹介状をくれた。親切なおかみさんだ。
次に防具屋にやってきた。
ラナさんの話を聞いて、支給された防具では心許ないと思ったからだ。
まあ、オレはいいけど、エミリア用の防具を強化したい。
「女性向けだとスパイダーシルクの服がランクE相当ですね。胸当ては複合素材の剛革の物がランクEになります。ブーツもそうです」
「剛革というのは?」
「普通の革鎧ですと、基本オーク革を鞣して叩いて重ねて強度を出してから整形します。剛革の場合、部位ごとに使用する魔物も変わってきます。胸当てだとジャイアントリザードですし、ブーツはダブルヘッドスネークの皮を使用しています」
ふむ。ダメージカット効果を考えるなら、買わない手はない。オレの軽鎧も剛革の物があるそうなので、エミリアのものは予備も含めて2セット、オレのは1セット購入する。もちろん、スパイダーシルクの服も予備含めて購入だ。
金貨3枚が消えた。命の値段と考えれば高い買い物ではない。
ただ、こういう装備は消耗品であることを考えると、稼ぎの悪い冒険者は、経験値のおいしくない弱い狩場しか行けなくて、そのうちに装備がダメになって…と悪いスパイラルへ入ることになる。
パーティー組めば役割分担をローテーションできるから、負担も減ると思うけど。いろいろと難しいところだよな。
その後、エミリアを北門の近くで待たせて、オレだけ外へ。
街道から外れて「転移」用にマーク。ダンジョンの村スミストルはアマネさんの口ぶりだと3kmくらい離れているのかな。直線だと2km前後かも。
なので、転移(短)で上空へ。見られると騒ぎになるから隠密も忘れずに。上空でさらに北へ。2回目でスミストルっぽいところが見えたので、さらに転移(短)を重ねて着地。
村の外、人気のないところでマークして転移でエミリアを迎えに行く。
ん? これならもしかしたら宿屋のキープ要らなかったのでは? そう思ったけど、空間魔法は秘密だからな。疑われないようにしよう。
スミストルの村はさすがに城壁に囲まれてはいないが、頑丈な柵で覆ってある。きちんと門もあり衛兵と思われるひとも配置されている。ギルドカードを示して入場した。
こういう村でも入るには税がかかるのだろうか?
気になったので聞いてみた。
「他の街からの訪問の場合は銅貨10枚の税を取っている。アルスター所属の場合は、この村がアルスター管轄の村なので無料だ」
そういうことか。アルスターは大きな街と聞いていたけど、領地ってことなんだな。その領内の小さな町や村はアルスター管轄なのでアルスター所属のひとには税はかからないって話だ。
冒険者以外にもこの村へ訪れるアルスターのひとは少なくないだろうから、毎度税を取られてたら来るのがイヤになるよな。銅貨10枚といっても。
衛兵からギルド出張所の場所を聞いて村を観光がてらに歩いて行く。村は広くない。
中央の遺跡っぽいのがダンジョン入口かな?
そのダンジョン入口近くにギルド出張所があった。
中に入ると意外にも受付カウンターが6つ設定されている。それだけダンジョンでの冒険者活動が盛んということなのだろうな。
「はじめまして! スミストルの冒険者ギルドへようこそ! 受付のササラです。よろしくお願いします!」
可愛い系の元気っ娘だ。ダンジョンははじめてというと、きちんと説明してくれた。
「ダンジョンというのは、魔物の一種と考えられています」
大きな魔力溜まりになにかのちからが加わるとダンジョンになるとのこと。
ダンジョンは内部で魔物を生成し、ダンジョン内部を徘徊させる。
それを討伐に来た冒険者や兵士などを取り込むことで成長する、らしい。
「ここのダンジョンは10階層あります。10階層目にダンジョンマスターとダンジョンコアがありますが、ダンジョンコアの破壊は禁止されています。
ダンジョンコアを破壊するとダンジョンが死ぬからです。
ダンジョンというのは魔物ですが、さまざまな素材を生み出す資源でもあるんです。
そのため、発生したダンジョンの多くは保護されています。
ダンジョンは周囲の魔力を吸って成長するので、放置すると階層がどんどん深く広くなります。
そのため冒険者ギルドでは適切に魔物を狩るように冒険者に依頼することでダンジョンを管理するのです。
ダンジョンコアさえ破壊しなければ、中の魔物は復活します。狩り過ぎて魔物がいなくなったとしても、数日待てば必ず復活します。これが周囲の魔力をダンジョンが吸っている証拠と言われていますね。
それとダンジョンの魔物の場合、倒した瞬間に魔石と、あれば素材をドロップします。普通は魔石も素材も死体を解体しないと得られないものですが、なぜかダンジョンの場合には素材として使える形でドロップするんです。
ちなみに、ダンジョン内で死亡した冒険者はダンジョンに取り込まれます。
その装備品などがたまに宝箱としてダンジョン内に配置されることがありますので、その場合は見つけた方のものになります。
あ、宝箱からギルドカードを発見した場合は、ギルドに届けていただけると助かります。ご遺族の方に連絡できますので」
何度も説明しているのだろう。すらすらと流暢に説明してくれるササラさん。
「階層踏破には、階層ごとの階層主を倒す必要があります。
ボス部屋と呼ばれていますが、ボス部屋に入ると、扉がロックされて、他のひとが入れなくなります。
中は魔法陣がひとつあり、魔法陣へ乗るとダンジョン入口に転送されます。
そのときにボスを倒していればギルドカードに討伐実績が記録されます。
ダンジョン入口には魔法陣があり、そこからダンジョンに入るのですが、ボスを討伐すれば次の階層へ挑戦できるようになります。
だいたい以上かと思いますが、質問などありますか?」
小首を傾げるササラさん。あざとい系か。
「階層主、ボスはかなり強いんですか?」
「これが不思議なもので、その階層を楽に踏破できる実力があれば、苦戦はしても負けないように調整されているらしいです。
たとえば1階層目はランクGですが、階層主はゴブリン・リーダーとゴブリン数匹となっています。取り巻きの数は運ですね。3匹以下というのは聞いたことがありませんが」
「階層の広さや地図はないんですか?」
「5階層まではギルドで地図を売っていますが、ダンジョンは日々成長しますので、正確とはいえません。それでも目安にはなるので購入される方が多いです。1階層銀貨1枚です。
6階層から先を販売していないのは、マッピングもろくにできないひとが生き残れるほど楽な階層ではないからです。6階層からは冒険者としての能力も試されることになりますね。
逆に言えば、5階層まではちから押しで行けるということでもあります」
他に聞くことはないか、頭をひねる。
「階層の魔物に関しても有料情報ですか?」
「口頭だと無料です。紙の資料は有料となります。1~5階層、6~10階層で別れていて、それぞれ銅貨10枚です。
ただ、こちらの情報も正確ではありません。イレギュラーで出現する魔物もいますし、ダンジョンの成長の結果現れなくなった魔物もいます。
ギルドで押さえている最新情報をお渡しできますが、その点はご容赦ください」
そういうことなら紙でもらうか。
「1~5階層の資料をお願いします」
「ありがとうございます。準備しますので、終わるまで、あちらでお待ちください」
ギルド併設の酒場を示された。軽くなんかつまむか。
◇◇◇
「お願いです! パーティーに入れてください!」
どっかで聞いたことのある声が聞こえた。いやオレに向かってじゃないよ。
酒場で休憩してる3人組だな。男性ふたりに女性ひとり。見た感じは全員剣士。
魔術師いないから入れると思ったのかな。
「もう2日食べてないんです! なんでもしますからお願いします!」
断られたようでエイミーちゃんは別のパーティーに向かって行った。
「おまたせしました。…ってエイミーさんですか?」
「2日食べてないって?」
「詳しい事情までは知りませんが、前のパーティーリーダーに騙されたみたいですね。
ギルドカードの残高がほとんどなかったとか」
「騙された?」
「騙されたとも違うのかも知れませんけど。
以前のパーティーリーダーは亡くなってるみたいなんですが、ギルドバンクの遺言が神殿に寄付だったようで。
パーティーの財布の管理もリーダーが行っていたようなので、エイミーさんにはほとんどお金が残らなかったみたいなんです」
遺言か。神殿への寄付が流行り(笑)とかアマネさんも言ってたな。あれ本気にしたやついるんだ。それぞれパーティーの誰かを受取人に指定しておけば、全滅以外ならパーティーメンバーにお金は残せただろうに。
「女の子なんだし、手っ取り早く娼婦とかないの?」
「この村にも冒険者向けに娼館ありますし。たぶんエイミーさんより綺麗なひとが銀貨1枚でお相手してくれます。半値としても、自分の宿に連れ込むわけにはいかないでしょうし、屋外というのもどうかと思いますし。難しいんじゃないですか?
というか、それができるなら、とっくにそうしてるんじゃないですかね」
ササラさんもエイミーちゃんを見る目は冷ややかだ。アルスターの冒険者ギルドから話は聞いているのだろう。
「あれ? イソさん、エイミーさん気になっちゃう系ですか? こんな綺麗な奴隷連れてるのに、なにあの子可哀そうみたいな?」
ササラさんって意地悪だよね。あざとい系じゃなかったっけ?
「気の毒とは思いますけどね。女の子として気になるか、って聞かれれば気にならないですよ。エミリアいますし」
エミリアが横で照れている。
「ただ、あの子をゴブリン集落から助けたのもオレなんですよ。こんなことになるなら、助けない方がよかったんですかね」
ササラさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに続けた。
「そりゃあ助けた方がいいに決まってますよ。助かった命の使い方は本人次第ですけど。パーティーの後を追って死ぬって選択もあったわけですし、いまのように生き汚くても生きて行こうと決めたなら、それも選択です。
むしろ彼女の選択に口を挟む方が無責任ですよ」
それもそうか。ササラさんに銀貨を1枚渡す。
「匿名で彼女に。宿は無理でも切り詰めれば一月くらいは食べられるでしょう」
「スケコマシですね、イソさん」
「いいですか? 銀貨の出処がバレたらササラさんを殺しますからね? 絶対に殺します。どこへ逃げても殺しますよ?」
正真正銘の殺気にアテられてササラさんが何度もうなずいた。
あんなのに粘着されたらたまらんわ。
オレは今度こそササラさんが準備してくれた資料に目を通す。
1階層目の魔物はゴブリン、コボルド、キャタピラー。
ゴブリンはおなじみの緑の小人だな。外と違って集落を作らない、女を苗床にしない、か。生態が違う。同じ名前の別の魔物だな。
コボルドってのは小柄な犬寄りの獣人か。普通の獣人って外見はほとんどヒューマンと変わらないからな。ケモミミと尻尾が特徴なくらいで。
コボルドは普通に犬の顔だと。注意点は嗅覚が鋭いからテリトリーが広いことか。
なるほど。これは厳しい。
キャタピラーってのは…巨大芋虫? 外殻に弾力があるので、殴打に強い、と。これも注意点だろうけど、オレもエミリアも打撃武器じゃないから考慮しなくていいだろう。
で階層主がさっき聞いた通りにゴブリン・リーダーと取り巻きか。
これなら今日中に1階層は行けるだろう。
さて出発だ!
◇◇◇
「ほわぁ~。草原に転送されたです?」
エミリアが驚いている通りにオレたちは草原に立っていた。
背後には遺跡のような建物。その中に魔法陣がある。
おそらく、その魔法陣に乗ればダンジョン入口に転移するのだろう。
一応マークしておく。
鑑定して魔物を探すと一定範囲に一定数いるようだ。冒険者も範囲に加える。
ランクの低い階層のためか、冒険者の数は少ない。
「とっとと階層主を倒してもいいんだけど、未見のコボルドとキャタピラーは戦っておこう。エミリアどっちがいい?」
前衛と後衛のことだ。
「剣でズバンってやりたいです」
前衛か。最近ずっと後衛だったからな。
「初回は威圧してみよう。威圧を解けないような相手なら、次からは威圧なしで」
「わかりましたです」
というわけで、冒険者が近くにいないコボルドの群れを探す。
5匹。少し多い。とはいえ、レベルもランクも安全圏。行こう。転移(短)で移動。
最近はエミリアもすっかりこれに慣れてしまった。最初は目の前の光景が瞬時に切り替わるのに戸惑いがあったけど。
いまではすっかり慣れて、転移が終わった瞬間、視界に魔物を見つけると全力ダッシュしてる。
「威圧!」
エミリアの威圧が発動すると、コボルド5匹が全部止まった。
すかさずエミリアは剣術を発動。数秒で全部取られた。
たぶん、威圧って本来このランク向けじゃないんだろうな。それともエミリアのステータスが影響してるのか。軒並み4桁だからな。ステータス2桁前半でランクGとかの魔物じゃ耐えられないのも仕方ないのかもね。
近くに別の群れを発見。ん? キャタピラーとの混成だ。
「エミリア、次も威圧を使ってくれ。キャタピラーと混成だ」
「わかりましたです!」
転移するまでもないので、方向を指示して走った。すぐに見つかる。
「威圧!」
こちらを敵と認識したキャタピラーが飛び上がるが、威圧により、その場に落ちる。
なんか特殊攻撃があったのだろうか。資料にはなかったが。
しかし、別種で群れることがあるのか。
コボルドが特殊なのか。キャタピラーが特殊なのか。
動きから察するにコボルドがキャタピラーを使役してた感じに見える。
今度こそ出遅れないように両手剣を構えてオレもダッシュ。
その後、何度かコボルドとキャタピラーを討伐して、実戦経験を積む。
キャタピラーはともかく、コボルドはゴブリンより少し素早い程度で、テリトリーが少し広いことに注意すれば問題がなかった。
キャタピラーは正直わからん。
飛び上がって体当たりが攻撃手段っぽいけど、オレでもエミリアでも剣の一撃で倒せてしまう。そのため、こちらに向かって飛んで来ると、倒してくださいお願いしますに見える。ボーナスキャラってこともないんだろうけど。複数飛んで来ると面倒だけど、薙ぎ払いで倒せちゃうんだよな。今後同じような動きをする魔物で体力が高く、体当たりの威力が高い場合には囲まれると危ないかも知れない。
攻撃パターンとしてこういうのもある、と覚えておくだけでいいだろう。
その後、階層主を探して、転移(短)で向かうと、いつもの狩りなので危なげなく倒して、ダンジョン1階層を後にするのだった。




