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異世界転生で理想の生活を  作者: かおりん@
1章

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閑話.アマネの憂鬱

 ◆アマネの憂鬱


 私はアマネ。18歳の冒険者ギルド職員で、以前は冒険者であり弓術士だった。


 弓術士としては優秀な方で、聖魔法の治療(キュア)も使えたので後衛職としては重宝されていたと思う。


 治療(キュア)は冒険者学校にいたとき覚えたもので、素質ありとなってから習得するまで1年かかった。聖魔法の素質ないんじゃないかと思ったくらいだ。だって早いひとだと一月くらいで覚えるんだし。


 でも苦労して覚えてよかった。冒険者時代も何度も命を救われたし、仲間も助けた。


 パーティー解散してからは、ギルド職員就職のきっかけにもなった。


 ギルド受付の採用条件は「見た目がいいこと」「治療(キュア)を使えること」のふたつ。最初の条件は採用官の主観だからアテにならないけど、パーティー解散後、他のパーティーから引く手数多だったことを考えれば悪いということはないはず。


 実際、アルスターの冒険者ギルド受付になってからも私の受付に並ぶひとは多いわけで。


 ハンナは先輩になる。元盗賊で、やっぱり冒険者だった。私が来てから受付の人気が2分されたので楽になったと笑っている。受付処理の数で給料が変わるわけじゃないから、楽になるのは望ましい。ハンナの気持ちはよくわかる。


 辺境の街アルスター。


 辺境だけに魔物も多く街の外は危険も多い。その分、冒険者には稼ぎのいい街なのだ。


 その街に最近変なのが現れた。


 イソさん。15歳。焦げ茶色の瞳に焦げ茶色の髪はけっこう珍しいと思う。


 身体はまだ成長期だから、ガッシリというには程遠いけど、それなりに身長もあり、将来を期待させる少年だった。見た目? 普通。どうでもいいでしょ、そこは。ハンサムだと稼げるわけ? 見た目で食える仕事がしたければ王都へ行け。そこならそういうお店がある。


 脱線した。


 パーティー解散までは夢見る乙女だった私も、パーティー解散してギルド職員になってからは現実というものを見始めた。


 私が冒険者だった頃は、6人パーティーということもあり、それほど稼ぎはよくなかった。月に金貨1枚行くか行かないか。命懸けのわりには安いと思う。


 安全なギルド受付で年に金貨4枚はけっこう高額な方だ。


 それに冒険者は職業寿命も長くない。高齢になれば続けられないし、若いうちに貯蓄して置かないと、なにかあって冒険者を続けられなくなったら大変だ。


 だから冒険者なら年間金貨40枚くらい稼がないと将来が不安になる。年間40枚ということはギルド職員10年分。それほど贅沢な暮らしをしないなら、十分暮らしていける額。


 それなのに。


 イソさんは冒険者登録してからしばらく一日の稼ぎが銀貨1枚。


 ずっと銀貨1枚。


 ランクが低いから依頼を受けられないというのもあると思うけど、志が低すぎませんかね。


 いつも早い時間、受付に来るし、なぜか懐かれたっぽい私のところに買取持ってくるので、ちょっとした雑談とかもしたけど。


 丁寧な採取をしているのに、魔物の討伐がひとつもないとかありえないから。


 薬草というのは、いわば魔物の植物版で、魔石がないかわりにどこかに薬効成分がある。そういう素性だから、薬草の側にはたいてい魔物もいる。


 そして、丁寧な採取には時間がかかるものであり、当然魔物に襲われる。


 もしくは近くの魔物を倒してから採取する。


 そういうものだ。ギルドの常時依頼もそのことを見越して採取と討伐はランクを揃えてある。

 それなのに。


 ある日、コツを掴んだとか言って、一日銀貨5枚稼いでくるようになった。以前の5倍だから、すごい進歩なんだけど、相変わらず討伐はない。


 でも採取の仕事は丁寧。これは鑑定と査定を行うギルド職員のカンダさんにも確認したから間違いない。これだけ丁寧ならプラス査定してもいいと言われたほどなのだ。


 でもランクGの採取にプラス査定なんて前代未聞だ。マイナス査定はよくある。新人が泣きながら採取の難しさを学ぶところだ。


 もちろん雑でも数をこなせば収入にはなる。でも、そういう雑さは将来足を引っ張る。依頼失敗につながる雑さだ。


 だから新人の採取査定は厳しく行うのがこのギルドの決まりだ。


 でもイソさんはカンダさんいわく「完璧な採取」だそうだ。


 文句を付けるところがないため、ギルド職員として指導する機会もない。


 彼よりも前に、アルスターに来て冒険者になったパーティー「シューティングスター」(笑)なんて、イソさんよりひとつ年上のリーダーが強引なせいで、よくケガして帰って来るから、彼らが報告に来ると受付も忙しい。


 治療(キュア)1回分くらいはサービスの範囲だからだ。


 なお神殿で治療(キュア)を施してもらうと銅貨で50枚の寄付を迫られる。キュアポーションがひとつ銀貨1枚と考えると、神殿に行った方がいいんだけど。


 その「シューティングスター」のリーダー、レックス君は見栄を張りたいタイプのようで、同じパーティーの女の子エイミーちゃんにいいところを見せようとして無謀に走ってるみたいだ。


 無茶はいいけど無謀はダメだ、とベテランの冒険者のみなさんが忠告しても、その場でハイハイいうだけで、聞いてはいないと思う。


 あれは一度痛い目を見ないとダメなんだろうなぁ。冒険者という仕事は、その一度の痛い目が最後になることが多い仕事だから、ああしてベテランが指導してくれるんだけど。


 ただ自分たちが低レベルなことには自覚があるようで、いまのところ、常時依頼のゴブリン討伐しかしていないのが救いだろうか。


 バランスのいいパーティーなのに、神官のミナちゃんが魔力を使い果たして、自分たちで回復できない状態になったら街へ帰るスタイルは間違いなく無謀だ。


 安全マージンを取ってないわけだから。最低でも人数分の治療(キュア)を使える程度に魔力を温存して帰還するのが冒険者にとっての当たり前だ。


 その当たり前をしていない彼らは必ずどこかで破綻する。


 あれだけ注意されていて、こちらからも指導をして、それでも改まらないなら、もう完全に自己責任でいいだろう。半年過ぎたのだ。学ぶ機会はいくらでもあった。


 ◇◇◇


 ついに来た。イソさんへの指導。「討伐をやれ」。


 採取の数はすでにランクアップの数を超えている。討伐さえすればランクFへ上がれるのに、それをしない。


 理由がまるでわからない。討伐せずに採取だけして「草食系」とかいわれても気にした素振りは見せない。討伐できない冒険者として揶揄されているというのに。


 冒険者の何人か、比較的ランクの高い彼らは「討伐せずに採取する」ことの困難さに気が付いている。


 だから、その気になりさえすればできるはずなのだ討伐なんて。


 なので、今日の採取買取に来た彼へ告げた。


「イソさん、狩りをしませんか?」


「狩りをしないとまずいですか?」


 少し困ったようなイソさん。


「まずいということもないのですが、採取だけだと冒険者ランクを上げられないんです。冒険者の主な仕事に護衛があるんですが、狩りの腕前がないとできない仕事です。

 冒険者に好まれる割のいいお仕事なんですが、ランクEからじゃないと受けられません。

 イソさんの場合、ランクGですから受注できないんですよ」


 少し強く押してもいいのかもしれない。


「ランクがひとつあがると、常時依頼のFランク以上指定が受けられるようになります。こちらは薬草の買取額が上がり、ひとつ銅貨10枚になるんです。

 その、ギルドとしてもイソさんの採取の腕前は評価していて、もっと高ランクの採取に挑んで欲しいって思惑もありまして。

 それに私もイソさんにはランク上がって欲しいなって」


 にっこりと笑顔。「笑顔はタダだからねぇ」とハンナに教わった。受付の笑顔に救われる冒険者も多いと聞く。掬われる冒険者も多いが。


「じゃあ、ランク上がったらデートしてくれますか?」


 そう来たか~。討伐を受けさせるのはギルドの指示だ。ここで引いたら上司からお叱りを受けてしまう。何も身体を売れといってるわけじゃない。デートの1回くらい、いいだろう。


「い、いいですよ。でもランクアップのためには、ゴブリン50匹以上の討伐が必要です。

 10日以内にランクアップできたらデートします」


 ちょっとうわずってしまった。


 そしてその場で始まる賭け。


 イソさんを見るが、自信があるのかないのかわからない。


 賭けに負けても彼は失うものがない。


 ちょっとムカッと来た。


 この機会に儲けさせてもらうことにした。


 ◇◇◇


 賭けには勝った。金貨2枚。思った以上の大勝だった。さすがに初日に賭けたのは私だけ。他にも勝ちに賭けてた冒険者やギルド職員はいたけど、みんな二日目以降。


 デートそのものは街の案内って感じでスムーズに行ったと思う。


 午後から暴走したような気もするけど。


 だってね? 空間魔法持ちだよ? 過去一人だけいたことがあるって授業で習ったような魔法を持ってるひとだよ?


 空間魔法の知られている特徴は収納。アイテムボックスと同じか上位の能力。


 次に転移。こちらの詳細は知られていない。


 そしてアイテムボックス作成。


 どんな金のなる木なのよ!?


 乱造したら市場も乱れるし、狙われるし、いいことひとつもないけど、市場を見ながらギルドのオークションに出せば…。


 一生食いっぱぐれはないわ。


 そこにアイテムボックスのプレゼントでプロポーズ。


 そういう気配あった?


 そもそもデートの誘いがそういうことだったの?


 はっ! もしかしたら、早めに依頼を切り上げて私の受付で処理をするのが意思表示だったのかも!


 私もそういうこと、鈍いからなぁ。


 ああ、いまさらだけど即OKするべきだったのかしら。


 でも、私、男の人が恐いの。


 パーティー解散したときに、男女混合なら大丈夫かと思ってパーティーに参加したんだけど、その日のうちにパーティーリーダーから襲われて。


 とっさに股間を蹴り上げて逃げ出して。パーティーの女性に相談したら、即パーティー脱退を許可してくれて、ギルドで手続きして。


 何度かそういうことがあってから、男性恐怖症気味になってしまった。


 たとえば狭い部屋に男性とふたりきりだと落ち着かない。


 ギルドの個室でも不安は消えない。


 そういう私自身の問題もあるから保留にさせてもらったんだけど。


 実際イソさんに話した通り、このせいで男性関係は失敗ばかりだ。


 このひとなら、と思っても、いざ行為に及ぼうとすると身体が拒否してしまう。


 もちろん寸止めを男性側も許せるはずもなく、そのたび破局ということになる。


 たぶんアルスターでは「鉄壁のアマネ」として有名なはずだ。


 それもあってデート権の賭けが盛り上がったのだが。


 今日も、イソさんが無理に宿に誘うようだったらアイテムボックスは返していただろう。彼もまた待ってくれるようだ。ならば彼の優しさにもうしばらく甘えてもいいだろう。


 それにしてもアイテムボックス。


 アイテムボックスの便利さは、たとば衣装ボックスなどの収納物はそれでひとつとカウントされることだ。衣装ボックスの中の衣類が下着や上着と分類されて入るわけではない。


 ちょっと試してみたところ、机を収納すれば、机の上に置いたものも一緒に収納された。もちろん机の上の物を先に収納すれば、別枠で机が入る。アイテムボックスの使い方は工夫の仕方なんだな、と思った。


 これなら、私の部屋のものをすべて収めても50枠のアイテムボックスなら、まだ余る。

 ふと思いついた。


 これがあれば部屋の模様替えが簡単なのでは?


 これまで衣装ボックスやベッドに机。重量物を動かすのが億劫で放置していたが、部屋のものを一度アイテムボックスに収納して、置きたい場所に置けば。


 わずか30分で部屋の模様替えが終わった。一番時間のかかったのがどう模様替えするか考える時間だったのは皮肉だ。


 アイテムボックスがあれば敷きっぱなしのカーペットも変えられるし、もしかしたらイソさんを招くこともあるかも知れない。もう少し可愛らしい部屋になるように見直してみよう。


 ◇◇◇


 金持ちじゃん!


 イソさんにゴブリン集落討伐依頼達成で金貨が支払われた。


 金貨となると、周囲の冒険者も目の色を変える。しかもまだ低ランクで低レベルのイソさんが直に持ち歩くのは危険だと思ってギルドバンクの口座開設を勧めた。


 実際には空間魔法の持ち主であり、お金を盗られる心配はないのだけれど。周囲の冒険者は、そんなことは知らないし、教えるべきでもない。


 だから、襲っても現金は持ってないですよ、と周囲に知らせるためギルドバンクを勧めたのに。

 現金で金貨50枚以上持ってるとは思わなかった。


 金持ちじゃん!


 私の年収10年分以上の預金あるんじゃん!


 その上、ランクが上がってからの討伐が異常。


 一日に上位種だけ50匹以上とかどうすればできるの?


 上位種は普通群れを率いているし、上位種の索敵範囲も広い。


 上位種の索敵範囲外から魔法で狙撃?


 でも1撃で倒さないと群れをけしかけられるのは間違いないし、そうなったら戦闘時間も長くなる。


 上位種のいる群れは3匹~5匹の群れになるから、どうしても戦闘時間は伸びる。それに上位種のいる群ればかりではないし、上位種を狙うにしても会敵まで時間がかかるはずだ。


 それなのに。上位種の魔石ばかりを毎日毎日50個以上。月に20日働くとして金貨で5枚。


 ランクE冒険者の稼ぎじゃない。ランクC冒険者だった頃の私と同じくらい。


 その上、ソロ。信じられない。


 さらに。


 ゴブリン集落討伐依頼。


 アレも普通のランクEには達成できない。ゴブリン・キングのランクも問題だし、Lv10程度の冒険者が太刀打ちできるステータスではない。


 それなのに、どうやら魔法一発で集落ごと消し去った?


 いや、それっぽい光の柱は見た。


 ギルドの窓から見えたのだ。


 一緒にそれを見ていたカンダさんの見解では、火魔法中級の火炎球(フレイムボール)が暴走したように見えた、とのことだ。


 通常ボール系魔法はひとの頭ほどの大きさで発射される。


 それが着弾すると破裂して爆発ダメージを出すらしい。


 ところが、魔法の発生場所などを間違って、たとえば地面スレスレとか地中とかにすると、発生直後に爆発。魔法の球の範囲で柱が立つように発生するとのこと。


 狙って使えれば、腹部が弱点の魔物などには効果的な魔法の使い方だそうだ。


 さらには「100倍くらいの威力を込めれば、あの規模になるかも知れない」とのこと。


 火魔法中級の消費魔力は2。100倍だと200。魔力量200というと、魔術師でもLv30くらいないと厳しいだろう。その上、威力調整のための超過魔力供給は通常10倍までが限界とのこと。


 つまり普通では考えられないなにかがあのとき起きたということだ。


 この点に関してはうかつには突っ込めないところなので、イソさんが自分で話してくれる気になるのを待つしかない。


 で、やっぱり「シューティングスター」が全滅した。正確にはエイミーちゃんが生き残ったので全滅ではないが、もうパーティーとしては機能しないだろう。


 お気の毒というべきか。自業自得ですというべきか。


 結果を聞いた冒険者のみなさんは当たり前だという態度だった。悲しんでいる様子のひとつもない。冒険者が死に慣れているということもあるが、忠告も聞かずに無謀ばかりしていたパーティーに同情するだけムダだとわかっているからだ。


 最悪生き残ったエイミーちゃんに寄生されかねない。だから誰も同情しない。


 エイミーちゃんはどうでもいいです。私に迷惑がかからなければ。


 それよりもですよ?


 奴隷買ってるんじゃない!


 どういうことですか?


 清い交際を求めたからですか?


 あのひと知ってます。


 娼婦通りで有名なロリソンさんの奴隷。


 外見が先祖返りとかでエルフっぽいひと。銀髪に翠眼はエルフの特徴ですからね。


 どうせなら体型も先祖返りしたらどうですか?


 そうすればロリソンさんに、あそこまで忌避されることもなかったでしょうに。


 ロリソンさんは、私でギリギリセーフ。ハンナでもうアウトですからね。


 以前「貧乳はステータス。巨乳なんて汚れた脂肪の塊」って言ってたの聞いたことありますよ。


 いえ、私は貧乳じゃありません。ちゃんとあります。普通です。


 ロリソンさん基準でもギリギリセーフですから、貧乳じゃないんです。


 それにしてもこっちの事情も聞かないで、いきなり奴隷ですか?


 いいですよ、別に。嫉妬なんてしませんよ。


 これだけの優良物件ですから。次がどうなるかなんて見通せませんし。


 はぁ…このアイテムボックス、どうしよう?


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