練度が足りぬ
私が知っている範囲で、最も力の強い存在は何か?
恐らくだが、聖光龍だ。
次点で精霊王あたりだろう。
ただ精霊王は戦いには参加できない。
ならば聖光龍も態々名持ちの悪魔1体程度相手に出張ってくるとは思えない。
光って付いてるけど、今広がっているのは『土魔法』の系譜だと思うし。
では、自由に悪魔と戦え、その中で最も強いのは?
なおかつこの戦場にいるとなると選択肢は自ずと絞られる。
ゴウゴウと唸るような音が空から聞こえる。
強引に着地した私達の目の前に、風を纏ったその人物はゆっくりと降り立った。
一旦『思考加速』は止めておく。
残り1分半、大事にしないとね。
「ラピスの嬢ちゃん、よくぞ戦ってくれたの。そちらの魔法使いのお嬢さんも」
「老師さん、貴方以外の方々はいつ頃到着しますか?」
老師――アルヴリクさん。
スヴァルドさんにばかり目が行っていたけど、ハチの巣の破壊に出向いていたエルフ最高峰の魔法使い。
「スヴァルドの小僧はそろそろ…………、おぉ、あれだ」
「あれ?」
老師さんの視線の先、雑魚デーモン共と『土魔法』の系譜のMPの境界付近にて緑の螺旋を纏った剣を構えるスヴァルドさんの姿があった。
彼が剣を振るった瞬間、暴風が吹き荒れかなり距離のある私達の髪まで暴れる。
効果は絶大。
私が放つ『雷公閃輝』の比ではない範囲を薙ぎ払い、そのままエルフの国側の兵士との挟み撃ちを1人で行うように突っ込んで行った。
なにあれ?
「嬢ちゃんにくれてやった『雷公閃輝』と同じ原理の魔法よ。小僧は特に精霊に好かれておってな、その影響で魔法の出力が殊更高いのよ」
「だからって限度がありません?」
なにあの私とサニーを足して1.5で割ったようなとんでも存在は?
なんなのバグなの? それともレベルの問題?
……………………いや、今は関係ない。
後で聞こう。
「あの地面の魔法、おじいさんがやったん?」
「そうさな。アルヴリクと申す。若き魔法使いのお嬢さん、名を聞かせてもらえるかね?」
「サニーっす。そこのラピスの幼馴染みの火、風の魔法使い」
老師さんがやったのは殆ど確定的だったけど、それで確定か。
それであれはなんだろうね? MPが展開されてから靄が見えなくなった。
靄の上からMPを広げた?
靄を魔法で消すとか出来るのか? サニーの出力で無理だったのにこんな広域でそんなこと出来る?
「あれは『大地魔法』の『アースドミネーション』と言ってな。地面を起点とする『土魔法』の系統の出力を引き上げるもの。あの悪魔の靄と同様に、|魔力を以て領域を支配する《・・・・・・・・・・・・》力。ならば、それらがぶつかった場合はより高い技量と魔力の持ち主の力が一方的に顕現する」
一拍置いて、老師さんは口元を引き上げる。
意地が悪く、好戦的な笑みだった。
まさしく威嚇用のそれ。
「練度が足らんのよ、練度が。こんな老いぼれに出力で負けるほどにな」
同様の地点にスキルやら魔法やらAとBとを発動しようとする場合、より強い使い手のものが優先されると。
……でも、『ブラスト』とか『バースト』とかは他の奴のそれに重ねて発動して相殺と言うか中和出来るよね? 長時間発動したままにするやつとで違うのかな?
まぁ、兎に角靄についてはもう大丈夫と。
「流石に当人が直接纏っているものまでは無理だが、地面の支配は手放さん。だから、頼んでも良いか?」
十分以上。
スヴァルドさんが雑魚を蹴散らしてくれるなら、私達はロノウェ本体を叩くことだけにリソースを回せばいい。
「ええ。――サニー、HPとMPは?」
「なんとかする。……けど、全力戦闘は2分も保たんよ?」
「それはこっちもだよ」
サニーを横抱きにして、身体を倒す。
――歩法 迅雷
私よりもあ……2人分の体重、そこにかかる重力を推進力に変えて『思考加速』が無くてもかなりの速度でロノウェの元へ。
「サニー、下ろすよ」
「おうさ、『フレイムバーナー』!」
緩くサニーを放ると同時に彼女から炎が噴出する。
加速は酷く緩いが、それでもダメージを抑えある程度の距離までは移動するのだろう。
ならば私は直進すればいい。
視線の先、ロノウェは周囲に靄を広げることを諦め突っ込んでくる私の迎撃用に魔法を展開。
「――『思考加速』ッ」
本日2度目、残り半分の時間……いや、一度止めて再度やるとなるともう少し短いか。
兎も角脳のギアを切り替え、視界に映る魔法の軌道を予測する。
『ダークネスブレイズ』が18振り。
単純な速度で振り切れるだけ振り切って、残りはより強引に解決しよう。
――歩法・撃法混合 風蝕
『思考加速』に更に地面を破砕する踏み込みのエネルギーを追加。現実では成しえない圧倒的な加速を以て、接近と回避を並行させる。
回避、と言っても速度に任せて突っ込むのみ。
僅かに首を逸らしたが、最後の1振りが頬を掠める。
風蝕と合わせてHP1割の損失。
安いものだ。
ロノウェの残りHP47%を削る経費として安すぎる位だ。もう数発分はくらっても問題ない。
「『散魔対斬』」
「――失せろッ!」
『呪魔法』の手がロノウェの身体を覆う全身の靄から溢れ、当人も右脚での中段蹴り。
いや、全身ではないか。一部隙間がある。
兎も角、これに捕まる訳にはいかない。
――歩法 虚空
攻撃の直前に瞬間的な加減速。相手の攻撃を透かしつつ、間合いはそのままに保つ。
速度は死ぬが――問題ない。
もう一度加速すればいい。
――歩法 嚆矢
最高速度には程遠い。けれども即時加速するのならこの歩法に限る。至近距離でも少しでも運動エネルギーが必要な時にこれほど心強いものも無い。
「シャアァアッ!!」
――斬法 鎧通
上体の捻りを以て放つ至近の突き。それをロノウェの顔面、目元へ放つ。
靄が散る。
流石に目を傷つけることは出来ない。
すぐに横に逃げる。
靄に覆われていても私達の位置を正確に認識しているロノウェだが、『呪魔法』は目の付近からは使っていない。
靄は平気でも魔法は視界を塞ぐのだろうか?
今は好都合。でも、多分次からは警戒される。効かなくても怖いもん。
『『想起』!』
速度と威力とのバランスが良い『フレイムブレイズ』を束ねた大剣がロノウェの眉間を正確に貫いた。
大規模な爆発が巻き起こる。
そこに助走をつけて突っ込んで行く。
憶測だがロノウェは魔法でなら視界を潰せる。
また今までのあらゆる戦いの経験よりMPも見えにくいと考えていい筈だ。
ならばここで私が動かないでどうする?
「サニー、行けるね?!」
『『ファイアエンハンス』『多重魔法』『生に撃砕を、地に颶風を。破砕の衝撃、意志を打つ砕く。我が放つは、焔の大筒――――』
私にバフを渡し、直後に早口での詠唱を開始。
これ以上ない返事だ。
私も役割をきっちり果たさないとね。
でも、それさえできれば勝てる。
「『散魔対斬』!」
爆炎からロノウェ――黒の影が見える。
残りHPは22%。
頭への魔法の直撃は流石にダメージが多いね。
「『ダークネスバースト』」
――歩法・撃法混合 風蝕
ロノウェの小さな声をなんとか捉え、反射的に踏み込む。私が出来る範囲攻撃への対処は2つ。斬るか速度に任せて逃げるか。この戦いでは『散魔対斬』は攻撃用だ。ならば振り切ってそのまま斬るのみ。
――斬法 裂止
刃を固定、魔法の範囲外に出ることと平行して、斬り裂いて――
ロノウェの靄、その形状が変わる。
身体にぴったりと纏ったそれから、枝葉のように伸びる。
当然、私の刃はロノウェ自身には届かず、それどころか体表を露出させることさえできなかった。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
ラピスさんは口ではなんと言おうと幼馴染みのことが大好きなのもあって彼女の魔法が最強だと無意識下で思っている節があります。
どうしようもない面も見てはいるものの、ゲームの師匠でもあるサニーさんに全幅の信頼を寄せていたりも。
多分世界で1、2を争うレベルで好き。
総じて面倒な小娘。




