一瞬を駆けろ
前にかけてもらった『ファイアエンハンス』よりも、今のサニーのINTが上昇しているし多分火系魔法威力上昇も影響しているだろうから、STRは大きく上がっている筈。
またDEXもかなり上がっていると思われる。……けど、あの靄に弱点部位とか無さそうだし、DEXは直接的に火力には関わらない。
アバターの制御性が上がるんだろうけど、平時でも殆ど変わらないように感じてるしなぁ。
…………いや、長らく身体を動かしていないから現実での本気の感覚を忘れている可能性はある。
少し注意してみよう。
兎も角、『思考加速』でもなんでもして靄を打ち破る。
それだけ考えろ。
いくらHPポーションがあるとはいえ、サニーのHPは有限だ。
特にSTRが低くてMPポーションの方が量多く持っているだろうことを考えると、うかうかしていられない。
「――――」
大きく空気を吸い込んで、呼吸を止める。
止めるのは一時。けれど、意識の先鋭化は為される。
――歩法 嚆矢
踏み込み、認識の外へと身体を放り込む。
放たれる魔法。
座標を指定する『ピラー』『ブラスト』等の地面を起点とするものでないのなら無視だ。
一直線に駆け抜ける。
「『散魔対斬』」
言の葉も赤の光も爆炎にかき消される。
炎は私達の視界も潰し、一瞬の空隙となる。『気配遮断』を起動。
MPを認識する関係上いくら視覚情報を欺いても完全には逃れられないが、僅かにでも鈍らせれば十分。
――歩法・撃法混合 風蝕
地面を踏みしめる瞬間、脳のギアを切り替える。その状態で風蝕を3歩。
然程ない彼我の距離なぞ瞬きの間に埋まる。
既に眼前。剣の間合い。
――斬法 豪雷
過去最速のエネルギー、助走距離の短さを無視できる超速。その一切を刃に乗せる。
上段からロスなく振るう。
まるで反応出来ていないロノウェを真正面から斬り裂く。
範囲は狭いが確実に斬れた。
胸元に赤の軌道を残し、炸裂。
『『想起』』
ほぼ同時極太の『フレイムピラー』がロノウェを飲み込む。
流石と言う他ない。
サニーだって私の動きろくに認識出来ていないのに、完璧に合わせてきた。
「チ…………ッ」
だが、結果は芳しくない。
ロノウェのHPは残り85%。
今の一撃で5~7%程しか減っていない。
…………いや、今僅かに追加で減った。
でもこれはサニーの魔法の影響ではない。当然私に継続的にダメージを与える手段はない。
じゃあ、なんだ?
靄を纏うデメリット?
それなら戦闘開始時から纏っている。
それにロノウェはHPの自動回復っぽいスキルがある。その効果が及んでいない?
さっきから明らかに高密度になっている靄の影響か?
ある程度までなら平気だけど、今レベルで纏うとダメージが入る?
それともずっとダメージは入っていたけど、自動回復でお釣りがくるレベルに留めていた?
まぁ、良い。
兎に角、無茶な加速をすれば斬れる。
――背後から何か、空を切る音が聞こえる。
ロノウェから長く視線を外さないようにちらりと見るに留め――――
「ヤバ……?!」
背後、多少の距離があるデーモン共からの魔法攻撃。
狙いは当然の如く、サニー。
――歩法 嚆矢
ロノウェに背を向けて急加速。サニーの元へ急ぐ。
「サニー!!」
「『多重魔法』『ファイアブラスト』!」
一欠片の躊躇も無く、魔法を行使。
デーモン共を蹴散らすように範囲魔法の多重発動。扇状に敵影を消し飛ばす。
デーモン共の放った魔法の内最速で届いたものは『ダークアロー』。
それをサニーを抱きしめることで躱す。
――歩法・撃法混合 風蝕
地面を踏み砕き、身体を飛ばす。
せめてデーモン共の魔法、それらが集中する点から離れる。
全力で加速しても完全には間に合わない。
『ダークランス』が左足の先に掠った。
抉るように一気にHPが削られる。
残りHPは54%。
防御性能がカス過ぎる。
ザザッ、と足でブレーキを掛ける。
左で踏ん張ったから更にHP減った。HPポーションを呷り、回復。とは言え、85%までしか回復しない。でももう1本はリソース的に我慢。今はまだそこまで切羽詰まっていない。
「サニー、MPは平気?」
「ぶっちゃけそこまで余裕は無いけども、まなんとかならぁ」
サニーは大規模な魔法の連打かつ一発一発にMPを多く込めているようなので、長期戦となるとMPがいくらあっても足りないんだろう。
とは言え、広域に巻き散らしてるんだし当然だね。
「風蝕に『思考加速』に豪雷合わせて漸く突破できるレベルだよ。私のこと見えてないけど、いけそう? さっきよりも更に速度出しに行くけど」
「え゛、まだ上あんの? 流石に人としてどうよ?」
これゲームなんだけど…………。
あと私の思考速度が異常なのは知ってるでしょうに。
貴方の幼馴染みは人外一歩手前ぞ?
――歩法 迅雷
身体を倒し、重力をも推進力へ。ロノウェは流石にこれには反応している。
魔法はサニーが対応。
炸裂音に照らされて、地面に広がるMPが見えにくい。けれども見えないわけでは無い。
「『思考加速』ッ」
ギアを切り替えて、リミッターを強引に外す。
これより3分。私は限界近くまで己を使い潰せる。
――歩法・撃法混合 風蝕
『ダークブラスト』の範囲外へ身体を吹っ飛ばし、その勢いのままにロノウェの懐へ。
黒の人型から数多の手が溢れ出てくる。
『呪魔法』のデバフ。恐らく接近した私を狙ったもの。
「捉え――」
「温いよ」
さっきは真正面から斬りつけたのもあってか手の密度は正面が一番大きい。
ならば別の方向から斬るまで。
――斬法 旋払
風蝕の勢いを止めずに背後へ回る。振り向きざまに横薙ぎ。
だが、今回は豪雷程の威力は出ない。
靄も揺らぎはしてもサニーの魔法も通らない程度。
じゃあ、次はどうだ?
また、ロノウェのHPが減った。
耐久は……向こうも分かっているだろうし無理だね。私達が先に力尽きるし。
『『多重魔法』『人に終炎を、地に灼熱を。赫灼は生を葬り、世界を燃やす――』
ジャンプでなく後ろ歩き――走りとして後退。
「サニー、2カウント…………」
『――我が握るは、焔の双剣。この一閃は――』
――歩法 嚆矢
瞬間加速。『思考加速』中のそれは常人ならば離れていても認識は困難。
ロノウェも同様。
至近距離なら認識の難しさは猶更だろう。
「『散魔対斬』」
――歩法・撃法混合 風蝕
使うまでもない距離だが、やるならば最高出力で。地面と共に己のHPを砕き、至近へ身体を捻じ込む。
「オオォオッッ!!」
――斬法 箒星
側面より人体ならば肝臓がある位置を突き穿つ。
「『魔法融合』!」
瞬間、雄々しい叫びが離れていても聞こえた。
一拍の間も無しにロノウェに迫るは炎の大剣。
箒星に靄が僅かに抵抗し、弾かれたのが功を奏した。
靄を突破しそのまま停止したら死んでいた。
でも、それはエネルギーの伝達が上手くいかなかった証拠。
己が未熟に助けられた。
炎に飲まれたロノウェのHPは62%。
未だ命には遠い。
けれども、勝機は見えた。
私のリミットは残り2分32秒。
サニーのHPは平気そうだけど、次の『ファイアエンハンス』の分のMPの余裕はあろうか?
さぁ、急げよ太刀上 瑠璃。
命脈を断つには一度の鈍りも致命になるぞ。
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