より速く、より重く
『エンハンス』系は非常に面倒くさいことに、INTだけでなく強化するステータスに依存して倍率が決まります。
サニーのINTの『ファイアエンハンス』でも3割少々に収まっているのはラピスのSTRがそこまで高くないからです。
『サンダーエンハンス』は逆にラピスのAGIにINTが追い付いておらず倍率がクソ雑魚ナメクジになりました。
ぶっちゃけ一番出番のない魔法です。
物理、魔法どっちも同程度に鍛えている人でも別のバフはあるので…………。
物理攻撃に魔法属性を乗せられる位しか他のバフに勝っている点は無いのに、武器に魔法属性を乗せる方法は他にもあるしで、良いところなしです。
あとサニーが『ウィンドエンハンス』も使わなかった理由は単純で『ファイアエンハンス』で500以上のMPを使う予定があり、確実に長期戦になるので温存目的です。
『ファイアエンハンス』だけで十分ならそれでいいですし、足りないなら後から足すことは可能なので。
『エンハンス』系魔法は消費MP20で効果時間は1分。
だが、MPを更に消費することで最大3分。
延長中は1秒ごとに消費MPは2点。
おそらく1分程度ではロノウェはどうしようもないから、最大まで使うことになる。
そうなると消費MPは260。更に『高度魔力制御』を用いて消費MPを増やして効果を引き上げるのでMPポーションも飲んでいるとはいえ、中々に重い。
特に『散魔対斬』に限界までMPを注ぐ必要があるし、それを相応の回数行う事になる。
あんまり無駄遣いはしていられないが……しょうがないね。
サニーは……まぁこいつのMPはこうして大きく移動する必要が無くなったら気にするだけ無駄だ。
自分の分だけ気にしておこう。
構えは八相。
息を大きく吸い込んで、止める。
こちらに視線を向けて、靄を一気に広げる。
今度は先程よりも広く展開。また、サニー側は靄が厚く壁のようにして妨害はしっかりとされている。
勿論そこかしこから手が出てきているが、前よりも多少は密度はマシだ。
リソースの使い方の問題か。
――歩法 迅雷
恐らくサニーの魔法を防ぎつつ、私にデバフを積み重ねて殺すつもりなんだろうけど…………密度が低いのなら上がったAGIにものを言わせた走力でどうとでもなるだろう。
「――――ッ!!」
目を見開き、脳のギアを切り替える。
『断続起動』、瞬間的な脳のリミッター解除にて這い出てくる手を雑かつ強引にでも認識。
迅雷では方向転換は難しいが、人の手程度を躱すのなら出来る。
長期戦になるだろうし、『断続起動』はあんまり使いたくないが、今はロノウェの意識を釘付けにするのが大事だ。
サニーの用意が終わる前に一撃入れる。
でも、焦りすぎるな。デバフが蓄積するタイプかは分からないが、今回偶々STRとVITが下がっただけでAGIを下げる効果もあったらかなり厳しくなる。
先のデバフもあと1分40秒で切れる。そうしたら攻撃力も元に戻る。
まずは攻撃を食らわないことが重要だ。
履き違えるな。
「消し飛べよ雑兵が」
広がるMP。
ロノウェ自身はギリギリ範囲外の『ダークブラスト』。
範囲はサニーほどでは無いにしろ広大。半径10mはあるか。
でも、ロノウェの手前ギリギリまでしか範囲無いの、馬鹿でしょう?
――歩法・撃法混合 風蝕
跳ね上がったSTRとAGIに任せて地面を踏み砕き、加速する。
爆発的に衝撃が広がるが、靄が吹っ飛ぶ気配はない。
やっぱり靄っぽく見えるだけでまったく別の存在とみるべきだな。
「『散魔対斬』!」
風蝕により、即時ロノウェの眼前へ。
横薙ぎにて顔面を斬り裂く。
うん……そのつもりではいた。
ロノウェは咄嗟に身に纏う靄を増やした。
結果薄皮さえ削げなかった。
でも、収穫はあった。
ロノウェの背後に着地し、すぐに右回りに走る。
私の動く先に視線を向けるでしょう? もうロノウェからみて斜め左後ろにサニーには視線を向けることなく。
ならば、サニーへの注意を極限まで減らす。
またサニーの『ファイアエンハンス』と『サンダーエンハンス』の併用の効果はかなり大きい。
先よりも靄を多少はマシな範囲で削れた。
でもまだだ。
どこで隙を見つけて連撃だとどうなるかを確認したい。
瞬間的に靄が補充できるのなら無理な話だが、塵も積もれば戦法が通用するのならクロスレンジを維持するのも考える。
さぁ、どうしようかな。
ロノウェが腕を薙ぎる。
瞬間、展開・収斂されるMP。
恐らく『ダークアロー』が8。
――歩法 嚆矢
右回りから一転、瞬間的な加速でロノウェに正面から突っ込む。
たしかにロノウェ、というか名持ちの悪魔レベルのINTで放たれる『ダークアロー』は速い。
それがそう遠くない距離で8発。
結構強力な一手だろう。
ただ、AGIが平時より上がっている私を捉えるには遅すぎる。
8つ程度がまっすぐ飛来するなら、『思考加速』すらもいらない。
雑に認識して振り切れる。
「『散魔対斬』――サニー!」
至近距離、また魔法は使わせた。
ならば防御手段は靄しかない。
しかも反撃の心配はない。
『散魔対斬』に限界までMPを注ぐ。
火炎が普段以上に膨れ上がって、閃電と共に刃に収束される。
そして、僅かにで良い。
揺らげば、届くかどうか。賭けと行こう。
――斬法 豪雷
跳ね上がったAGI、それによる嚆矢での急加速。そのエネルギーの一切を刃に込める。
無音に始まる斬撃。
それは当然の如く、靄に拒まれる。
だが、先程までの全てよりもよっぽど大きな傷が出来る。
たかが数mmの深さ。
範囲は広く40cm程。
失われた靄。
それを補うようにロノウェが纏う靄が傷に集まる。
「『想起』!」
一拍の間も無く、圧倒的な速度の火槍がロノウェの背に突き刺さった。
爆炎、暴風が吹き荒ぶ。
ロノウェの真横に見えるHPバー。
それが僅かながら減った。
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