黒き靄を打ち破れ
見つけた。
確実とは言えない。
けれども、明らかに濃い。
纏う靄が、ボスオーガの比ではない程に。
そして、それは勿論のことそこらのデーモンよりも。
と言うよりも、デーモンがそれぞれ纏っている靄が薄すぎる。
大元では無いにしろ、相応に強いのは確か。
ならば、殺すしかない。
そんな情報関係なく、敵側にいる以上の理由も無しに斬りかかるけども。それはそれだ。
――歩法・撃法混合 風蝕
サニーとは若干距離があったので、一切の遠慮なしに地面を粉砕しつつ加速。
あっという間にサニーの『フレイムカノン』で出来た道を踏破していく。
濃い靄の人型との接触まで残り2秒。
「『練魔纏斬』」
蒼炎が収束し蒼い光となるや否や、靄が地面に広がった。
魔法に似てMPもそこに含まれている。…………と言うか、靄が魔法のようにMPに由来するものなのかな?
兎も角、しくじった。
『散魔対斬』なら対処できたかもしれない。
だが、『練魔纏斬』『散魔対斬』は切り替えが出来ない。一度何かに攻撃して、発動しなおさないといけない。けど、それをしていたら時間が足りない。
しょうがないね。
自業自得とは言え、やりたくはない。
「――『断続起動』」
一瞬だけ、思考のギアを切り替える。
――歩法・撃法混合 風蝕
数歩連続で地面を踏み砕く。一歩ごとにHPがガリガリ減っていくが、今は無視だ。
今はただ前へ。
後ろに退いた方が生存確率は高そうに思えるが、靄がどこまで広がったのかを私は確認できていない。
それにバックジャンプでは流石に厳しいだろう。また、敵に背中を見せたらどうなるか分かったものではない。
ならば最速で斬って、スキルを切り替える。
――斬法 裂止
最速も最速、一般人の認識を簡単に振り切れる速度にて靄の人型を斬りつける。……が、感触はボスオーガの時のそれ。
靄を突破しないと中身にダメージは入らないか。
「『散魔対斬』」
スキルを起動したとまったく同時、靄からいくつもの手が這い出てくる。
だが、裂止で減速したとは言え、まだまだ私にはエネルギーが残っている。
手ではそう簡単に追い付けない。
…………でも、靄の範囲がかなり広い。
僅かに掠った。
それに続いて右足首を掴まれた。発生地点からどんどん離れているのに一向に離れる気配はない。
HPバーに見慣れぬアイコンが表示されると同時にアバターが重くなる。
すぐに刀で手を切り裂く。
「『風皚・籠転』」
籠手より空気を吹かせて、少しばかり軌道修正。
なんとか靄の範囲外へ。
だが、端の靄から出てきた手は健在。
重い身体でも軌道を読んで、なんとか斬り捨てる。
今の靄の範囲は半径30mの円形。
異様。
ジャブ感覚で放つ技の規模ではないだろう。
それに『識別』で情報を得られなかったのも痛い。
どうにかして接近したいが…………
ドォン、と巨大な火槍が靄に叩き込まれる。
『ラピス、とりま回復しときな。『想起』』
次は『フレイムブレイズ』9重発動。
炎剣が間断なく靄を襲う。だが、靄は揺らぎはすれど霧散には至らない。
「さっきのは地面に広がった半径20mの靄から手が出てきて、触られたらデバフがかかる。分かっている範囲だとSTRとVITに3分10%ダウン。対魔法スキルで迎撃可能。魔法効いて無さそうだし、靄は私の方でなんとか出来ないか試してみる」
『りょ。デバフは平気なん?』
「AGIが潰されなきゃ大差ないよ」
多少の強がり。
流石にSTRが減っていると靄を突破する難易度も上がるだろう。
サニーにはどうせばれてるけど、関係ない。
敵は斬る。
それだけは変わらない。
――歩法 迅雷
身体を倒して、飛び出す。20mもあれば十分に加速可能。私のAGIならば相手側も完全な対処は出来ていなかった。これは非常に大きい。
またもや靄が広がる。
ただ、今度は私を捉えるためか、範囲が絞られている。
120度の扇型。横に逃げるにも微妙に距離がある。
多分範囲を絞って威力をあげるとかそういうことなんだろうけど。
「『散魔対斬』」
対処法が分かっているのだ。
どうとでもなる。
――歩法・撃法混合 風蝕
距離にして残り半分。手が這い出てきた瞬間に地面を踏み切る。
射出角度は15度。手の到達を抑えつつ、あまり上下移動の分のロスは出さないように。
サニーが放った『ファイアアロー』の連射は意味を成さず。
まるで痛痒を覚えていなようで、靄が揺蕩うのみ。
『空間機動』の力で空中を踏みしめて、今度は-30度。
靄の敵目掛けて、跳ぶ。
手の影響は未だなし。
漸く『識別』の範囲に入れた。
『ロノウェ Lv.155
属性:物理・打撃 魔法・闇
耐性:物理・斬撃 魔法・闇
スキル:『靄の悪魔』『闇黒魔法』『血染め』『呪魔法』』
…………はっ、強いな。
やりがいを感じる。
靄の細かな情報は分からないし、『血染め』も一切情報が無いが、恐らく純後衛型の悪魔。
靄から出てきた手は『呪魔法』だろう。前にアンデッドで似たようなものを見た。
メイン火力は『闇黒魔法』……と思われる。
まぁ、取り敢えず――斬る。
「シッ」
空中では然したる威力は出ないが、横薙ぎの遠心力でカバー。
だが、刃は途中で止まった。
体表を覆う靄の少し手前、足元に広がった靄から柱状に伸びた靄。
それが刃を拒んだ。
硬いものを斬りつけた感覚、とは違う。
粘性を感じた。非常に気持ち悪い。
着地し、即時バックジャンプ。
バク転を挟みつつ、停止。構えは八相で固定。
「サニー、多分私のスキルなら靄を斬れる。私を巻き込む心配せずに火力優先して」
『分かった。手の迎撃はこっちが』
「よろしく」
防ぐってことは、そうする必要があるってことだ。
サニーの魔法にはそうしなかったのに、単純な威力ならかなり下の私の攻撃は防ぐ。
それはもう威力じゃなくて、攻撃の性質のせいでしょう?
この戦いは『散魔対斬』をどこまで活用できるかにかかっている。
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