第42回 “弘の夢”
治郎は、ポケットからスマホを取り出すと119番にかけて救急車を呼んだ。
それから、弘の変身をとくと手を掴んで呼かけ続けたが、10秒ほどで弘は目を覚ました。
「治郎か・・・ラビアンローズはどうした」
「お前のフライング・キックが効いて爆発したよ」
「そうか・・・良かった」
「もうすべて片付いた。今、救急車を呼んだから、お前はおとなしく寝てろ」
「ああ。でも、あっちにある駐車場に黒いランクルが止まってて、そこにクミちゃんを寝かせてあるから助けてやってくれ」
「わかった。安心しろ」
「なんか、お前が初めてうちに来た時のことを思い出してたよ。こりゃもう、俺もダメってことだな」
「バカなこと言うな!」
そこでしばらく沈黙が流れたが、弘が再び口を開いた。
「なあ、治郎。中学を卒業する時にこんな話をしてたのを覚えてるか?」
「なんだ?」
「いつも治郎に助けてもらってばかりで申し訳ない。いつか、俺が治郎を助けられる日が来るといいなあ」
「バカか。運動音痴のお前に、そんな日が来るわけないだろ」
「いや、体力的な話じゃなくて、仕事や恋愛とかで困ったことが発生した時にさ」
「恋愛でお前が俺を助けられるのか?何言ってる。それと、子供のころからいっぱい助けてもらってるだろうが」
「・・・え?」
「俺はヒーローものの番組が大好きで、生まれる前にやってたものも全部観たいと思ってたんだけど、うちの家じゃDVDは到底買ってもらえないからあきらめてたのに、お前がたくさん観せてくれただろ。まさか、昭和のライダーをすべて観られるとは思ってなかったからな。それに、フィギュアもいっぱいもらったしな」
「なんだ、そんなことか。それは、親に買ってもらったもので別に俺が助けたわけじゃないよ」
「そんなことはないよ。お前と仲良しにならなかったら、俺が大人になって事業でも成功して金持ちにならない限り観られなかったと思うけど、俺にそんな才能があるとは思えないからほぼ絶望的だ。だから、すごく助けてもらってると思ってるよ。お前、もしかして俺だけがお前を助けてるとでも思ってたのか?」
「うん・・・まあ」
「そりゃ大きな勘違いだ。何も、いじめっ子から守ることだけが人を助けることじゃないだろ」
「それはわかってるつもりだったんだけど・・・そうか。そう思っててくれてたんだな」
「当たり前だ」
「じゃあ、いつか、お前を守れるような強い男になれるといいな」
「あー、それは一生無理だ。運動能力ってのも一つの才能だからな。お前の持って生まれた体質じゃ、どんなに鍛えても一流の格闘家とかには絶対なれないよ。だって、鍛えれば誰だった100メートルを9秒台で走れるようになるわけじゃないだろ?」
「なにも、そんなにはっきり言うことないだろ!・・・まあ、確かにそうだけどな。それでも、そんな日が来るといいなあ、ってのは思ってるよ」
「ははは、まあ期待しないで待ってるよ」
「あんなこと・・・言ってたけど、実は・・・俺自身もそんな日は来ないと思って・・・たんだよ」
弘は言った。すでに、言葉はとぎれとぎれになっていた。
「知ってた」
治郎は、涙目になりながらもニヤリとして言った。
「コイツ・・・でも、まさかこんな・・・形でお前より強い男に・・・なれる日が来る・・・ことになるとはな。そう考えると・・・人生って・・・面白いかもな」
「なに爺臭いことは言ってんだよ・・・まあ、でも、お前の言うとおりだな。俺も、まさか本物のヒーローの相棒になれるなんて思ってなかったからな」
治郎はそう言って、泣きそうな顔でにっこりと微笑んだ。
「そうだな。俺もまさか本物の・・・ヒーローになれるとは思って・・・なかったからな。正直、怖い時もあったけど・・・楽しかったよ。けど治郎、お前を・・・巻き込んですまなかったな。せめてもの・・・お詫びだ・・・俺の・・・全財産はお前にやるよ。どうせ俺・・・には親兄弟もいないし、親父もお袋も・・・一人っ子で叔父や・・・叔母もいないしな」
「バカ!何言ってんだ!俺が好きで一緒に戦ってたんだろうが!それと、財産なんて言うなよ!」
「治郎、子供の頃から・・・俺を助けてくれてありがと・・・な。お前がいたから・・・俺はここまで来られた・・・よ」
「バカ野郎!それは俺だった同じだ。俺にはお前しか友達はいないんだから。いっぱい、一緒に楽しいことしたじゃないか」
「ああ、一緒にビデオ見たり・・・フィギュアを・・・集めたり・・・して・・・楽しかった・・・な」
そう言ったきり、弘はがくりと首を右に垂れると、そのまま動かなくなった。
治郎は、天を仰いで絶望の悲鳴を上げた。
そこで、複数台のオートバイと何台かの車両のエンジン音がこちらに向かってくるのが聞こえて来た。
治郎は、弘を抱き抱えると建物の中に入って行き、正面にあった横長の椅子の上に寝かせた。
それから、駐車場へ歩いて行き、黒いランドクルーザーの後部座席のドアを開けた。
そこには、クミが横になって寝息をたてていた。
治郎は、体の前でクミを縦に抱き、頭を肩に乗せると、ランドクルーザーを出て建物の方へ歩いて行った。
歩いている途中でクミが目を覚ました。
「あ、クミちゃん起きた?大丈夫?」
その声でクミは頭を上げると、治郎の顔を見た。
「あ、治郎おにーちゃん。弘おにーちゃんは?」
「弘はね、他にケガをした人がいてその人を助けてるんだ。すぐに来るよ」
治郎は、クミの顔を見ながら言った。
「そうなんだー、わかったー。でも、治郎おにーちゃん、なんで泣いてるの?」
クミは不思議そうな顔で聞いた。
「俺はねー、花粉症がひどくて、外に出ると涙がでちゃうんだよ」
「そうなんだー。でも、花粉症って春とかじゃないのー?今、10月だよー」
「俺は特別でねー、1年中ダメなんだよー」
「そっかー」
クミはそう言うと、再び治郎の肩に頭を預けて来た。
治郎は、クミを抱いたまま建物の方へ歩いて行ったが、すでに、他のお面ライダーや支部の職員と思われる人たちが到着して、建物付近に倒れている雑兵や、改人とラビアンローズが爆発した痕跡を調べていた。
歩いている最中に救急車のサイレンが聞こえてきて、治郎が建物の前まで到達すると、救急車が採石場に入って来た。
治郎は、そのまま救急車まで歩いて行くとクミを救急隊員に預け、クミの家の住所を教えた。
それから、もう一人、建物を入ったところの長椅子の上に寝ているのがいると告げて、それも連れて行ってくれるように頼んだ。連絡先は同じで良いと添えて。
それから、自分のヘルメットを置いたところに戻るとそれを被り、H2 SXに跨った。
そこで、4号と思われるお面ライダーが治郎に気付いて治郎の方に歩いて来たが、治郎はH2 SXを急発進させると採石場から去って行った。




