第41回 “弘と治郎”
「弘!おまえ、2年生のくせにブレザーなんか着て生意気なんだよ!」
「そうだ、そうだ」
小学校2年生の弘は、近所に住む4年生の権藤太とその取り巻きの二人に、学校からの帰り道でからまれていた。
「家が金持ちだからって気取ってんじゃないよ!俺たちが貧乏だからってバカにしてんだろ!」
「僕、気取ってなんかいないよ」
弘は、蚊の鳴くような声で答えた。
「気取ってるじゃないか!俺たちとは一緒に遊ばないし!」
「それは、僕は走るのが遅いし力もないから。鬼ごっことかうんていとか他の子とやったら、邪魔だからあっちに行けって言われたからだし・・・」
「うるさい!ごちゃごちゃ言うな!」
そう怒鳴って、太は弘の胸ぐらをつかんだ。
「おい!やめろよ!」
後ろから声がしたので太が振り返ると、そこには弘と同じくらいの背丈の男の子が立っていた。
「治郎くん・・・」
弘がその子を見て言った。
「なんだお前!」
「やめろって言ってるんだ!4年生のくせに3人で2年生を囲んで恥ずかしくないのか!」
「こいつが生意気だからだろ!いいかっこしてんじゃねーよ!」
そう言って太は、弘を地面に投げ落とすと治郎に殴りかかった。
治郎は一歩下がってそのパンチを避けると右の膝蹴りを太の腹にお見舞いした。
「う、うーん」
太はうなって、お腹を押さえて膝を落とすと、頭を地面に付けてうずくまった。
「こいつ!」
残りの二人が殴りかかってきたが、一人ずつ体を左と右に移動して避け、それぞれパンチでみぞおちの辺りを殴った。
「う、うーん」
二人とも、太と同じ格好でうずくまった。
「痛いー」
そう言いながら、太は涙をこぼしていた。
「弘くん、大丈夫?」
治郎が、しりもちをついている弘に寄って来て言った。
「ありがとう。治郎くんて強いんだね」
弘は、にっこりして言った。
「幼稚園の時から空手やってるからね。それに、こういう弱い者いじめするヤツは大っ嫌いなんだよ」
「そうなんだー。スゴイなー」
弘は、目をキラキラさせて治郎を見ながら言った。
「くそっ!覚えてろよ!」
太と取り巻きの二人は、お腹を押さえたままよろよろと立ち上がると、捨て台詞を吐いておぼつかない足取りで去って行った。
「ふん!あんなヤツら、威張ってるだけで全然大したことないから、何度やっても負けないよ」
「そうなの?僕には全然無理だよ」
「そうかな。まあでも、いいんじゃない?誰だって、得意なこととそうじゃないことってあるよね。俺なんか、歌とか絵を描くのとか全然だめだし。弘くんは、絵がうまいじゃないか。学年の写生大会で金賞もらってたし」
「あー、あれはたまたまだよ」
「そんなことないよ。俺には、あんなに上手には絶対描けないよ」
そう言って、治郎はにっこりとほほ笑んだ。
そのとき、弘は、治郎の腰からフィギュアが一つぶら下がってるのに気づいた。
「あれ?それって・・・龍騎?」
「そう。お父さんが買ってくれたんだ!カッコいいよね」
「治郎くん、ライダー好きなの?」
「大好きだよ!他にも、ゾルダとシザースも持ってるよ」
「そうなんだー。僕も大好きでうちにもあるよ」
「そうなの?何持ってるの?」
「うーん、色々。うちに見に来る?」
「えー、いいのー?行く行くー」
治郎は、すごく嬉しそうに答えた。
そうして、弘は治郎を連れて家に帰った。
「え、弘くんちここ?すごく大きいー!」
治郎は、弘の家の門に着くと驚いた顔で言った。
「そうなのかな。とにかく入って・・・ただいまー」
「おかえり。あら?お友達?」
奥から弘の母親が出て来て言った。落ち着いた雰囲気の美人で、化粧もしっかりしていた。
「うん。同じクラスの小林治郎くん」
「治郎くんね。弘と仲良くしてあげてね」
「あ、はい」
治郎は、少してれながら元気よく答えた。
「あれ、弘くんのお母さん?」
廊下を弘の部屋に向かって歩きながら、治郎が弘に聞いた。
「そうだよ」
「すごくきれいで上品で、うちのお母さんとは全然違う」
「そうなの?いつもああだから、僕にはよくわかんないよ」
「いいなあー」
「ええー?お母さんはお母さんでしょ」
「そうだけど・・・」
「さあ、入って」
弘は、自室のドアを開けて治郎を招き入れた。
「すごーい!広ーい!お姉ちゃんと二人で使ってる俺の部屋の3倍はあるよ」
「そうなの?」
「そう・・・・あ!龍騎!」
治郎は、正面にある大きい本棚に龍騎のシリーズのフィギュアが並べてあるのを見て駆け寄った。
「1、2、3・・・すごーい!13体全部あるー!しかも、クウガとアギトのも全部そろってるー!」
「僕のお父さんもライダーが大好きで、よくお仕事の帰りにガシャポンで買って来て僕にくれるんだよ。それで、ダブったのはお父さんが自分の部屋に飾ってるんだ」
「えー、すごいねー。いいお父さんだなー」
「あ、そうだ。3つ以上ダブったのが箱に入れてあるから、治郎くんにあげるよ」
そう言って、弘は机の一番下の引出を開けて、30センチ四方ぐらいの箱を取り出し、蓋を取って中を見せた。その中には、さらに30体ほどのフィギュアが入っていた。
「すごーい!こんなにあるんだー!・・・あ、オーディンとナイトがある!ホントにもらっていいの?この二つ、すごく欲しかったんだ!」
治郎は本当に嬉しそうに、オーディンとナイトのフィギュアを手に取って言った。
「いいよ。この箱の中にずっと入ったままより、治郎くんのおうちに飾ってもらった方が全然いいからね。全部持って行っていいよ」
「いやー、それは悪いよ。じゃあ、あと、王蛇とガイもらっていい?」
「それだけでいいの?もっと持って行っていいのに」
「ううん。4つだけでもすごく嬉しいよ!ありがとう!」
治郎があまりにも嬉しそうなので、弘も嬉しい気持ちなった。
「治郎くん、あと、ライダーのDVDも色々あるよ。観る?」
「ホント!観たい観たい!」
「じゃあ、大きなテレビのある部屋に置いてあるから行こう」
廊下を歩きながら治郎は弘に聞いた。
「どのDVDがあるの?」
「うーん、龍騎のはまだ出てないからないけど、他のはたぶん全部。お父さんが好きだから」
「え?全部って、クウガとアギトも全話あるってこと?」
「ううん、最初の1号のから全部」
「えー!?・・・じゃあ、Xライダーとかアマゾンとかも?」
「うん。あるよ」
「すごーい!弘くんは、それ全部観たの?」
「ううん。1号から順番に観てるけど、すごくたくさんあるから、まだ、全部は観てないよ。今、アマゾンの途中で、ストロンガーからは全然観てないよ」
弘が、大きなテレビのある部屋と呼んだ部屋は、応接セットのある20畳ほどの洋間だった。
「うわっ、広ーい。それと、テレビ大っきいー!」
治郎は自分の家とはあまりにも違う環境に驚いていた。
「うん、うちの中にあるテレビでも、ここにあるのが一番大きいんだよ」
「え?他にもテレビがあるの?」
「うん。お父さんの部屋と台所の隣のご飯を食べる部屋に」
「すごーい!うちには、この3分の1ぐらいのが一つあるだけだよ」
治郎はキラキラした目で部屋の中を見回した。
テレビは大きな台の上に載っていたが、その台の中にDVDがたくさん収められていて、そのほとんどがヒーローものであるのに治郎は気づいた。
「ホントにライダーのDVDがたくさんある!すごーい!」
「うん、僕もよく観るんだ。どれも面白いけど、1号なんかの最初のほうのは結構怖いのが多いね」
「そうなんだー」
「じゃあ治郎くん、どれが観たい?」
「どれも観たいけど、弘くんが観てないののほうが一緒に観られていいよね。じゃあ、ストロンガー」
「別に観たのでもいいよ。何回でも観たいからね」
「うん。でも、今日はストロンガーを観ようよ」
「わかった」
弘は、DVDレコーダーとテレビのスイッチを入れ、ストロンガーの第1巻をDVDレコーダーにセットした。
それから、横長のガラスのテーブルを挟んでテレビと反対側にあるソファに二人して腰を下ろした。
「うわっ!すごいふかふかだー」
治郎は驚いて、一度腰を浮かせた。
「この椅子、ゆったり座れるから僕も気に入ってるんだ」
弘は言った。
その日治郎は、夕飯の時間になるまで弘と二人でずっとストロンガーのDVDを観て過ごした。
弘の母親は、治郎に夕飯を食べて行くように言ったが、家で用意されているものを食べないとお母さんに怒られるからと固辞して家に帰った。
弘の家を出る際に、弘が治郎に向かって言った。
「今日は、二人でライダーのDVDが観られて楽しかったよ。また、絶対来てね!」
「うん!」
治郎は元気よくそう答えると、弘からもらったライダーのフィギュアを嬉しそうに見つめながら自宅へ帰って行った。




