84:コロ つるとらくま あおい
昼になったので飯をいただき、うだうだしているとくろめがうるさい。
「かー!かー!(大きな車が来た!大きな車が来た!)」
ロッキーチャ◯クのカケスを思い出すが、このカラスのほうが可愛げがある。
子供(とつか含む)が駆け出して見に行くので、りくを担いで獣たちとぞろぞろついていく。
遠くに青っぽい車体が見える。
おお!オート三輪やん!俺の好きなマツダのんに似てる!てかマツダや!あったんやなー、こちらでも。
「安倍さんはずっとこちらでいいんでしょうか」
「大丈夫です!わんわん!」
「わかりました。ところで、日本は戦争はどうなんでしょうか?」
「戦争ですか?支那とロシアには勝ちましたよ?今は蒙古と睨み合い、アメリカがちょっかいかけようとしているところですか。南方から欧州連合が迫っている感じですかねえ。その辺りはかねかつらさんのところではどうだったんですか?」
「戦争の詳細は違うかもしれませんが、支那、中国と今は呼ばれていますが、それにロシアと戦争に勝ったのは同じです。その頃、第一次世界大戦と呼ばれる、欧州内での激烈な戦争がありました。ドイツ帝国とオーストリアハンガリー帝国とオスマントルコが組んで、ロシア、イギリス、フランス、辺りと戦いました。遅れて日本とアメリカが参戦しました。日本はドイツ領南洋諸島を占領したり、中国に割譲要求をしたりしてたと思います。もう100年ほど前のことですかね。で、ドイツに革命が起こって負けました。実はロシアにも革命が起こりました。オスマン朝も崩壊しました。ヨーロッパで小国が幾つも独立しました。」
「それが100年前とすると、ロシアに勝ったのはもっと前なんですか?」
「そうです。それから、欧州列強による終戦後の世界再編のための国際連盟ができました。日本も参加したのですが、ひどい要求をされたので脱退しました。敗戦国であるドイツ及びイタリアと同盟を結びました。ドイツは帝政が崩壊した後、国家社会主義ドイツ労働者党というのが台頭しました。敗戦による賠償金が莫大になり、破綻した経済を立て直すために再度先鋭化したドイツが、ポーランドに侵攻したことで第二次世界対戦が始まりました。日本も、アメリカに宣戦布告しました。いずれも泥沼の戦いを続け、莫大な死者を出しました。日本は本土に新型の巨大爆弾を落とされ、無条件降伏し、終戦しました」
「うーん、それはすごいなあ、軍部に言うとえらいことになりそうですねえ、どうしようかなあ、勿論内緒にしますが、扱いが難しいですねえ。とりあえず特殊住民票だけでも取っておくべきですねえ、やはり」
「はあ」
そういえばそうだ、こちらに俺の戸籍はない。ましてや住民票もパスポート免許証もこちらのものは何もない。
「早い話が神様登録してしまえば、余計なことを言われにくくなるということです。不当拘束もできなくなりますし。このごろまたぞろ特高のアホ連中がうろうろしてうざいんです。わんわん」
黒柴と話しながられいえもんの屋敷の前で待っていると、トラックが止まった。
獣人ぽい気のいい兄ちゃんが二人、挨拶してくる。
五俵の米俵、それに大量に寄付してもらったお礼だとかで、大量のタオルと紐で縛った一升瓶が二本。タオルは端に青く自警団と染め抜いてある。さらに、靴下を大量に持ってきてくれた。地場産業で小規模な工場が多く、近隣で作られた微妙な不良品であるという。柄が指定と違うとか、少し短いとかで、売れなかったものですみません、といいながらどっさりと渡された。
とつかとやつかさんが運ぶと意気込んでいたので、お任せする。
そういえば、昨日の疲れもないし、筋肉痛になる前兆もない。ありがたいこってす。
「あ、ちょっと、菅原様、今時分どうされたのですか?え?私ですか?新型の式をテストしつつ有望大型新人のヘッドハンティ、あ、いえサボっているわけでは」
ドロンと音がして犬が煙とともに消える。ペラリとした白い紙がひらひらしている。狐が捕まえて渡してくれる。半紙のような白い紙で、紙相撲の力士のような。半分に折ってあるのを広げると、漢字の大の字で頭の部分が大きい。これが式ですか。すごいです。
時間が空いたので狐とりくとあおいさんを連れて散歩する。実は猫は下町から帰ってきていない。良い餌場か家か人でも見つけたなら良かった。烏は自由に飛び回っている。烏は頭がいいから、仕込むとインコのように人語の真似ができると言うが。そのうち喋れるようになると面白いだろうな。古川日出◯氏の「サウンド◯トラック」にそういうのがあったような。
刈った稲を乾燥させるために丸太で組んだ櫓みたいなのに引っ掛けて干している。そんなに広く無いとはいえ、数日でこれだけ処理するのはすごいと思う。人力で鎌で刈っているんよなあ。
あまり広くない田圃はほとんど刈入れが終わっている。落ち穂拾いではないが、雀がチュンチュン大変に喧しい。近寄ると大きな黒い波のようにズザッと飛び上がり、少し遠くに広がって下りてくる。投網みたい。
つるさんとらさんが見える。
「こんにちは。精が出ますね」
「あぁ、かねかつら様。ありがたてえこって。えいめん。いまさっき、おくまが昇天したっけ、やっとデウス様の御下へ、ありがてえこって」
へ?じゃあ、くまさんは?亡くなったの?
「おぉ、なんかして、おらとってもあったかいだよ」
とらさんが薄っすらと光っている。オーラ?いや、だんだん体が薄れているような。
すっ、とその透明な体が浮かび上がる。
肉体はそのままなので、あれが、魂ですか。とても穏やかな顔で、目をつぶったまま、急速に空へと昇っていく。どんどん遠ざかり、見えなくなった頃、残された肉体が急速に崩れていく。少し冷たくなってきた秋の風がその時だけ強く吹き荒び、崩れて砂のようになった残滓を運んでいく。服だけが残っていた。
おつるさんは跪き、胸で手を合わせて一心に祈っている。
「百年の孤独」を少し思い出す。あれとは違うけど。おくまさんやおとらさんは天国に入れただろうか?地獄に行くことはないと思うけど、辺獄や煉獄で足踏みしないだろうか。思わず膝を付き、祈ってしまう。
「ありがたいこって。ありがたいこって。われも、すぐ、おいつくっけ」
おつるさんは、まだ祈り続けている。一礼して、歩きだす。
「あおいさんはどうしたい?」
「私は生まれ変わりたいです」
「生まれ変わり?」
「はい。御仏にすがり、輪廻の輪に入りとうございます」
「長く生きすぎたからですか?」
「はい。よくわかりませんが、多分私は人間でした。今はなにか違うものです。気を抜くと、变化してしまいます。蛇だったり河女だったり。ただ、人の幸せを、感じとうございます」
「それは、それなりに長く生きてこられたとしたら、感じる機会はあったんじゃないの?」
「そうですね。多分私は比丘尼である母の呪いを受け続け、人としての根本的な部分で間違っていたのではないかと思います」
「そうかな?人ってのは、色々ですよ。自由に考え、感じることが出来ますよ」
「……多分、それが出来ないのです」
あおいさんは寂しげに微笑んだ。
「それに、多分私は業を溜めすぎました。このまま黄泉路へ旅立つのは、少し辛うございます」
「そうどすな。私からもお頼みします。あおいに情けをかけてやってもらえませぬか」
あー。情けですか。俺は情けない方やから、とか言ってる場合ではないのか?
『主殿のご自由になさればよろしいのでは』
「この、人外の力を得たものが過去に犯した罪を贖う、そういう方法はないんかな」
「御仏にお縋りするしかありませんな。そもそも、神は穢れを嫌うから、死を清めることはしても魂まで救済はしませんからな。輪廻の道に入りたいのなら、念仏を唱えればよろしおすな。そうでなければ、黄泉の国から逃れることは出来ませんはな。まあ、黄泉の国も悪くはのうおすが、生者の記憶から完全に消え去れば、存在せなくなり、そこから開放されるのどすが……どちらがいいかは本人が決めるしかのうおまへんな」
……なるほど。仏教って、魂の救済、リサイクルであると。エネルギーを消滅させず、新たな形に変化させることによってエントロピーを減少させているということですか?
だから、神と仏で、補い合っていたのかな、現世において。
その点、יהוה、ヤハウェの場合、方法論が全く違うようだけど。どっちがいいかなんて、わかるはずもないけど。魂の安寧もいいとは思うけれど。
夕飯には般若湯が付いた。大人だけだが。
あおいさんは忘れようもないほど美しかった。
翌日には手の中に僅かな髪の毛だけが残っていた。
多分明日はお休みします。
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