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83/85

83:יהוה

「前から不思議やってんけど」

「わんわん」

「こんこん」

 ……

「こう、魔力、魔法とか超能力とか呪いとかあるやん?で、頭のおかしいやつ、あるいは頭がくるっちまったやつが、魔法とか魔術とか呪いとか超能力で人とか家とか、村とか、殺したり壊したりせえへんのかな?」

「わんわん」

 ……

「なんで人の世が続いてるの?いや、例えば寝てる間に間違って魔法発動せえへんの?つまり、えー、普通というか、コモンセンス?常識というか、そういうのがあるのか不思議というか。そういう特殊な力の強いものが世の中握っちゃって、弱肉強食のえげつない世界にならないの?俺の知っている話では、『新世界より』っていう小説が一番納得がいったけど」

「それはしりませんが。そういう不思議な力を発揮するものは神様でしょ?神様だから、変なことは出来ないし。昔は神様同士が殺し合っていたけど、そんなことしてたら滅びちゃうからね、神様同士が抑止力になっていると思うけど?」

「……なるほど」

 朝ごはんを食べながら話している。犬とか。狐とか。

「つまり、あれ?神様って人間?」

「そうですよ。ん?そうじゃないの?」

「あれ?いや確かにそんな気がしてきたけど」

「動物の場合もあるけど、大体人型だし、人間でしょ?”יהוה”は違うけれど」

「ごめん聞こえへんかった」

「יהוה」

 頭が拒否している、聞こえているのにノイズしか感じない。TVアニメで大昔の再放送のときに、セリフがぶつ切りで放送禁止用語だけをカットされたような感じ、違和感。

「ああ、本来発声してはいけないというか禁則事項なので……」

「はあ。あぁ、あれですか。ヤハウェとかエホバとかアッラーとか呼ばれている大いなる存在のことですか」

「おお、発声できるんですね、すごいなあ」

「いやいや、すごいんですか?」

「はい」

 無言で餌を食べている。この件に関してはここまでですね、わかります。

「ちょっと話を戻しますが、魔力とか神威とかそういうものを発揮できるようになると、存在が神になるということですか?」

「日本ではそうです。他の国でもそういう所も多いです。西洋は呼び方が違います。存在基盤が違うので」

 きれいに皿をなめると座り直してこちらを真っ直ぐに見る。

「日本では、神は人間に直截的な魔法とか法術で生殺与奪できないんですよ。間接的な関与か、物理的で即物的な肉体を使用した方法した取れないんです。神同士なら、出来るんですけど」

 即死魔術ですか。

「間接的というのは?天候とか自然現象ですか?地震とか」

「そう、その通りです。直接というのは、人型や獣の姿で、まあ刀や武器を使ったり、肉体言語ですね」

「ああ、そういう」

 ちょっと考えてみる。

 神罰として大雨や日照り、地震、はある。雷もかな?少なくとも晴天下で落雷による死亡というのは無理ということか。

 悪魔とか神が取り付いて、相手を武器や毒で殺すとか、もある。狐憑きは、ちょっと違うか。

 でもギリシア・ローマ系では、神が人間を変身させたりしているような。これは、殺してるわけではないからええんか?日本でも祟でそういうのがあったような。

「じゃあ、呪いは?祟りとか?そういう魔法的な方法で物理的に影響を及ぼしていませんか?」

「それは物理ではなく精神でしょ?直接狂わせることなんか出来ませんよ。絶え間なく声を聴かせるとか、不安を呼び起こすとかはできますが、それで結局自爆自滅してるだけで、直接内臓機能を落として病気にするとか、直接心臓を止めるとか、そういう事はできないんです」

「ほえーそうなんすか」

「だって、(かるま)も重要ですからね、神は業を貯めることが出来ませんから」

「じゃあ妖怪、物の怪はどうなんですか?」

「それこそ、物理的に攻撃してくるでしょ?同じ土俵に立って、毒を吐いたり、火を飛ばしたり、そういうのはあるけど超能力で心臓を止めるとか、呼吸を出来ないようにするとか、そういうのはないでしょ?」

 そうか、魔法は物理…学…?

「そうすか」

 いやでも、四六時中声を聞かせるとか、精神攻撃かも知らんけど、直接ではないといえばそうなのかな……

 日本では、祟られると、悪いことが起こるという話が多い。親が死んだとか。誰それが事故にあったとか。子供が病気になったとか。何故か本人にはすぐに直接的な被害が発生しないことが多い。この搦手攻めは、でも親が死んだとか、死んでるやん?親戚が事故を起こしたとか、起きてるやん?

「まあ、そういうのは全て偶然です。祟り神は、全部終わってから、恐れ怖れ畏れて、共同の無意識により精製される幻想が形作るものです。うちの統括もそれで、黄泉から帰ってきちゃいましたから」

「……だれ?」

「菅公です」

 菅原道真様ですか、腑に落ちます。

「妖怪や物の怪は穢を集めて出来るものです。自ら集めるのか、自然に集まったのか、人為的に集められたのか、出自は色々ありますが。だから、そんなに強くない。絶対的な重さ、が足りない。信仰や帰依はある意味、人の思い掛ける人数分で、無限とは言いませんが莫大な力を持ちますが、あやかしは、極論人一人、もしくは獣の情念、そういうものですからとても弱い。少数の人間でも充分に対抗できるものです」

 そうか、天変地異レベルの奇跡を起こすような妖怪は、中国にはいるけれども、それは聖獣とかそういうので、既に神性を獲得している。でも卑近な妖怪は、ちょっと力の強い人間、その当時のヒーローたちに討伐される。いわゆる鬼や妖怪退治なんて、有名武将は皆やっていると言っても過言ではないくらいに陳腐化されている。

「それに、そもそも妖怪や物の怪も命がけでしょう、人間を殺そうと思えば、自分も殺されるリスクを背負ってますから、まったく絶対的なものではないです」

「はあ、退治される話はままありますね」

「ちょっと話を戻しますと、道理をすっ飛ばして、危険なことは普通は神でも出来ません。勿論人間にも出来ません。銃や爆弾のほうが余程恐ろしい。例えば人間は人間を殺すことが可能な膂力を保っている、しかし例えば宿で眠っているときに無差別に殺し回ったりしない。そういう穢に身を浸せるほどの力があれば、妖怪になる」

 これはちょっと、衝撃的な話やけど。

 この世界では人間は多かれ少なかれ物理法則の根本的な部分を操作することが出来る能力を持っているという話。確かに最先端物理学とか、魔法以上に魔法っぽいというか。理解できない頭しかなくて申し訳ないが。

 例えば、れいかは火を熾せてすては分解かテレポートかわからんけど、存在を無くすことが出来る。

 でも、それは人間に対しては出来ないということ?

「そうですな。そのようですな」

「もしかして魔法でそんな事ができる時点で二人は神性獲得もしくは精霊的な存在になっているということ?」

「そうですよ。気付いていませんでしたか」

 うーん。

「もともと村長とこの土地の影響で、物の怪に近いものに変貌していたはずです。そこから金桂殿がいらないものを抜いて、いるもの以上の神性を付与しちゃったからですよ」

「はい。なるほど」

「でもまあ、このくらいなら、クラスのアイドルとか学年のヒーローレベルでもできますから。血筋にもよりますが。普通の学校に行って問題ないです」

「そういえば、とつかさんは土蜘蛛だったわけですが」

「ああ。あれね。あの箱どうにかしたのもあなた達ですよね?」

「はい」

「あれね、前々からなんとかしたかったんです。我々にとってもあまりにも穢が過ぎて、近寄れなかったんですよ。隠密(くさ)放っても、大体すぐ当てられちゃって」

「それって、死んでしまうとか」

「そうですよ」

 ……もしかして、あれ?あの、最初の、タグの人?

(あれ)ですね。それこそ、野見宿禰ではないですが、殉死生贄が当然の時代でしたから。いやもうひどいことしまくりだったわけです。ちょっと詳細を思い出しただけで吐き気が。自分が子供の頃の京都なんか目じゃなかったですからねえ。麻を焼いて、煙で燻しながら……うっ、ちょっと失礼」

 庫裏の外で黒柴仔犬がクァハッ、クァハッと吐き戻しているが、仔犬や猫にはよくあるので全く気にならない。

「あ、お水ありがとうございます。わんわん。で、まあ処分していただけて本当に感謝しておるわけです。超絶なる負の遺産でしたから」

「それはそうでしょうね、お役に立てて嬉しいです。ところで」

 振り返って聞いてみる。

「とつかさんは何歳ですか?」

「よくわかりませんが、13才位だと思います!」

 ぶほっ、コーヒー吹いちまったじゃねえか!(比喩表現)

「えぇ、そんなに若かったの」

「なら、彼女も学校に通っていただきたいですねえ。そういえば、女子スポーツに力を入れてきている全寮制の私学が神戸にありますから、推薦しておきましょうか?」

「学校がよくわかりません」

「はい」

 この後無茶苦茶セツメイした。


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