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78:やつか2 すまう

 こんだけ豪華メンバーでも、全く負けるヴィジョンが浮かばへん俺も大概やな。


 時間が動き出して、まずは熊と金太郎の相撲やな。

 神格というか、あまりの存在の違いに、勝負になるのかと思う。

 金太郎のモデルは坂田公時という男で、源頼光四天王の一人と言われてる。でも、これって、今で言う水戸黄門の助さん格さん漫遊記的な話やんね。江戸時代に流行ったオハナシの登場人物で、正直数合わせ感すらある。実在が怪しい、とまで言われていたはず。

 片や熊は羆でキムンカムイで大山祇(おおやまつみ)様という、結構とんでもない神様。日本全土で一体どのくらい祀られているか。

 あれ?そう考えたら、金太郎も未だに超メジャー級のキャラやな。もしかしたら、女子供含めて日本一メジャーなキャラクターやったり?対抗は桃太郎、ダークホースは浦島太郎?こどもの日の人形やし、浮世絵にも色々描かれとるし。そういえば、普通に子供でかつヒーローなんて、日本の民話には少ないか。一休も吉四六もヒーローではないしなあ。他は、もう元服はしてるイメージやし。

 こういう草の根的な、人口に膾炙している存在ってのも、やっぱり何らかのパワーを持ってるとか?

 行司軍配が返り、ドスンとものすごい衝撃が伝わる。ぶちかましすげー。

 互いに廻しを引き、胸を合わせて力比べをしている。

 金太郎が赤くなる。おお、金太郎っぽい。

 熊が一気に行こうとしたところを、さっと足をかけながら体を引く、コロンときれいに熊が転がった。

 さすが金太郎、当然やな、金太郎さんやもんな。

『あかん、やられてもた』

『ごっちゃんです』

 国技館でもないのに座布団が飛んでる、幻視?まあ、熊のほうが絶対でかいし、トトカルチョでもやっとんか?


 なんだか、二人いなくなったことに自警団の連中がようやく気付いたようで、慌てて協議している。

 ここは、俺とやつかさんが先にやっとこうか。

 やつかさんとアイコンタクトして立ち上がる。行司を見つめるとわかってくれたみたいで、俺は東から上がる。やつかさんは西やね。

 うん?やつかさんしゃがまない。

 蹲踞で待っているが、行司が何回見合ってと言ってもしゃがまない。

 顔を見ると、なんかえらい闘気が出とる。

 え、これはあれか、フルコンタクトでもやるつもりかいな。

 そもそも蹴速(けはや)野見宿禰(のみのすくね)の頃の捔力(すもう)って、蹴り合いやからなあ。土俵なんて、織田信長が整備したって話もあるし。江戸時代でも蹴り出し(ヤクザキック)が得意な力士がおったり。

 ほんじゃまあ、付き合うか。

 立ち上がって行司に声を掛ける。

「古式に則ってすまう。ええかな?」

 行司がゴクリと唾を飲みこむ音が聞こえる。すんまへんなあ。

「……見合って、見合って……」

 互いにファイティングポーズをとる。まあ、全くの見様見真似やけど。ホンマにド素人やけど。

発気(はっけ)よ~い、残った!」

 やつかさんの体がブレる。左から猛烈な何かがやってくるので、左腕を上げてブロック。痛い。いきなり上段回し蹴りかよ。そんなんようやらんわ。やつかさんが足を引くと、躰を上下に揺すって待っている。ターン制ですか?んじゃまあ。

 普通に右足で脇腹を狙ってキック。

当然のように躱される。

 修羅の門とか刃牙とか餓狼伝とかちゃんと呼んどきゃ良かったかなあ。

 まあでも、当てるにしても、近寄らなきゃいけないということは、わかる。相手が速いから、近寄りにくい。でもここは土俵やから、すり足が基本か?いや、古式っつても、例えば土俵に手がついたら負けか?それもちゃうような気がすんなあ。

 バゴンとかドスンとかいう音が自分の体から発している。棒立ちに近いので、ガンガン蹴られているようだ。正直速すぎてよく見えない。そして痛い。かなり痛い。痛すぎて声も出ない。

 でも、ダメージが入っていない。

 昔、ソフトS◯ののりで馬の尻尾みたいな鞭でバシバシされたことがあるが、軽く痛いけど、ダメージはなかった。あんな感じ?

 ほんじゃ、無視すればええか。ええんか?ビジュアル的にどうなんやろう。

 戦いの素人が一番ダメージを与えられるのは、当て身しか無い。「慎治」に学んだ言葉である。

「ほっ!」

 脇を締めて思い切り一歩を踏み出す。

 すごく間抜けな声が出るが仕方ない。元気も言ってた。ちゃうか。

 空気が重くなったんで、またなんか発動してる。

 やつかさんの足を見て、逃げる方向を感じて脚の置き場を調整する。

 そこに移動中のやつかさんの足が入ってきて、思い切り踏んでしまった。

「ぐぉあぐぁっ!」

 うわ痛そうやけどすまんな、ついでやからこのまま蹴るわ。

 多分時間の流れを変えてるから、すまんな。

 膝を引き上げると、勝手に鳩尾にめり込む、ゴキとかボキという音が聞こ、あー、聞こえない。感じない。

 脚を踏みながら膝蹴りとか、よう考えたら鬼畜やな。

 倒れんように手を伸ばし肩を掴む。

 時間が戻ってくる。やつかさんの眼がグルンとまわって、白眼になる。

 やば、止まらん。足を入れ替えようとしたがもつれる。そのまま押し倒してしまう。頭打ったらやばい、肩の手をずらして髪の毛を掴む、膝が外されへん、ダンっとかパンっみたいな音がして完全に倒れ込む。

 少し遅れて毒霧のようにやつかさんの口から血が吐き出される。

 慌ててやつかさんの体から下りる。

『ユキエモン、助けて!!』

『しょうがないですなあ』

 やつかさんの体がキラキラして、ハッと目を開ける。

 よかった、大丈夫やんな。やんな?

 手を伸ばすと、少しの躊躇いの後にがっしりと掴んできたので引き起こす。あ、憑き物も落ちたね、よかったよ。

『はあ、ありがとうございました。とりあえず蹴速(あれ)も落ち着くでしょう』

『いえいえ、やつかさんを連れてきたのは自分ですから。こちらこそ、ご足労いただいてすみませんでした』

『いやあ、荒事はすごく久しぶりだったから、燃えたよ、デスクワーク的なことばっかりしてたんだけど、根はこっちだからねえ。や、じゃあ御暇するよ』

『お構いなしですんません』

『さらばです』

『さらばです』

 定位置で蹲踞すると、行司が勝ち名乗りをあげた。良かった、切り抜けた。

 気がつくと大歓声と拍手が沸き起こっている。ええんか、これって今の相撲ちゃうけど。

 桟敷から、あっぱれ、とかもっと脇を締めて、とか、野次か声援かわからないのが混じっている。

 身内ということにしておくはすごいとかかっこいいとかやっぱり強いと手を叩いて褒めてくれる。

 ペレなんて、なんか叫んでいるが髪の毛がビュービュー動いて、伏見課長や狐に当たっている、迷惑やなあ。

『やったー、いったわー、私も混ぜてー!』

『駄目です』

『ぜひ召し抱えたい、弥助といい勝負するだろう』

『無理です』

『ねえねえ、この狐娘は君の式なの?』

『?』

 誰?

『ああ!安倍様なんでこちらに!?』

『いや、こんなバカみたいな祭り気付かないほうがおかしいし、気付いたらとりあえず式くらい送るやろ?』

『来られるなら教えてくだされば』

『いま来たとこだよ、でさあ、これどうやって作ったの?教えてほしいなあ。ほしいなあ』

『あげません』

 薄ぼんやりした犬か狐か、動物っぽいものが、桟敷に座っている。

『ひぇ!』

 りくがビビっている。

『どなたさんですか?』

『……安倍晴明(はるあきら)さん、の正確には私の上司です』

 課長も結構ビビっている。課長とりくは気が合うなあ。

『神格の程度が似ているんではないでしょうかな』

 苦労人なんかなあ。


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