76:とつか1
そろそろ米俵担ぎが始まるということで、土俵に向かう。
と言っても土俵上でするわけではなく、手前の広場になんとなくそのためのスペースが有る。特にロープもなく、なんとなく、直径8mほどの空間があって、俵が山積みになっているだけだ。
「かねかつら様!こちらです!」
れいかに手を引っ張られるように進むと、一段目の桟敷席のようなところに場所が確保してあった。自警団の連中が気を利かせてくれたようやね。あおいさんとりくが席にいる。ゴザが引いてあり、五尺四尺くらいしかなくて大変狭い。伏見課長とペレ様がいるので、れいかとすてを砂かぶりに座らせ、俺と鹿と課長が後列、あおいさんとりくとペレを前列でなんとか座れる。
伏見課長と税金や法律について話す。米本位から現金ベースの納税に変更に時間がかかっているようで、百姓連と農業組合が争っていてややこしいらしい。国が米価を決めて買い上げるのは決まっているということだが。
それに法律も、六法全書はやっぱりあって、詳しく聞いていると、どうも情に流される系、結構頻繁な超法規的措置があるように思われた。野良の神様や妖怪がいたとして、それを法律で縛るのはそもそも無理があるらしい。神様の序列に近いものはあるが、絶対ではない。妖怪や物の怪系に至っては、どこまでが妖精でどこからが神精なのか区分が難しい。良し悪しの概念が生きてきた長さによって結構違う。共存共栄を図るのがとみに困難な状況であると。
米俵は二種類あって、小さい目のが30kgくらい、大きいのが60kgくらいらしい。
「尺貫法も、法律で禁止されてから結構経つのですが、なかなかメートル法が浸透しないのです。米俵については30kgと60kgに厳密に設定されました。ただし、藁俵ではなく、紙の俵ですが。こういった験担ぎとしての神事には、藁俵が使われます。」
子供と女性の部というのが先にあって、それが30kgの俵を担ぐ。
地面においてある俵を持ち上げて肩に回す、載せたままその場で一回転する、というのが一セットのようだ。
元の世界では30kgの米袋は、非力でない普通の成人男性が、何とか肩に載せて運ぶことができるくらいの重さだと思う。力持ちなら、二袋くらいはなんとかなるかな、と思う。
何人かの少年、女の人が30kg袋2袋担いで成功させた。スタンバっていたとつかさんが出てくる。法被を羽織っている。洋服のままでは、ちょっとやりにくそうだしな。
こちらに向かい手を振ってくる。みなで手を振り返す。
フンすっと気合を入れて、2袋同時に肩に載せ、ぐるぐる2周以上回る。歓声を受けて、そっと下ろす。成功!と声がかかり、勝ち抜きしたみたいだった。
2袋の成功者が、今度は60kgの大俵に挑む。
持ち上げることはできるようだが、それを肩に回すのが難しいようで、上手く載せられずにすっ転ぶ人が続出した。成功したのは1人だけ、力士みたいな体格のおばちゃん。
とつかさんも軽々と持ち上げ、成功させた。やるやん。元世界の俺では多分無理やな。
一騎打ちとなって、60kgの米俵2俵で勝負。
もうひとりのおばちゃんが先行で、しゃがんで両肩の上に抱きかかえるようにして踏ん張る。
「うん~っしょいっ!」
顔を真っ赤にして立ち上がる。
ゆっくりと1周して、ドガっと俵を落とす。
「成功!」
歓声が上がる。
「がんばれー!」「いてこませー!」
れいかとすてが応援する。すてさん……。
「いくよー!」
とつかさんがしゃがみこんで、同じ様に俵を抱え込む。と一気に立ち上がり、ゆっくりと1周した。
そろりと俵を下ろす。
「成功!」
ヤンヤの喝采である。あの細い体で、よくそれだけの力が出るもんや。
「やっぱりかねかつら殿の加護は強力ですねえ」
「ほんとねえ、私も出たくなっちゃうわ」
伏見夫婦が楽しそうに話している。
ていうか、加護?そんあのあったの?
「主殿は、もうちょっと自分について認識スべきですな」
「ほんにその通りどすな。我等のようなものに神気が流れるのは当たり前どすが、訳有の人間も同じどす」
「そうなのよ!マナがすごく流れてきてるのよ」
「…そ、そうなんすか」
ちょっとやばいような気がする。
決戦だが、獣人四人がかりで3つの俵が縛り付けられた物を二つ、持ってくる。180kgかよ、とんでもないな。
「これは、どうでしょうね、はっきり覚えていませんが、女子重量挙げの世界記録は一番重たくても200kg無かったかと思います。まあ、俵は頭上に掲げるわけではないですが」
「うわー、出たくなっちゃうわよ」
「ここは抑えてくれませんか、氏社奉納の祭りです、海外の神さんの飛び入りは、控えたほうがいいような」
「まあ、わかってるわよ」
ちょっとむくれているが、変な奇跡がまた起こったらとてもやばい気がする。
これはさすがにそのままでは肩に載せられないので、どんなふうに持ち上げてもいいから、地面から離れた状態で一周回ればいいということらしい。
おばさんはブンブン手を振るって気合を入れると、足を開き、腰を下ろす。
とつかさんは、腕をワキワキさせて、よっし!とか言ってる。
おばさんは三俵まとまったものを、背負わせてもらって立ち上がるようだ。四人がかりで背中に乗せて、ロープを回している。腹のあたりに一本、肩から左右の手に降りるようにもう一本、腰で支えて、手で制御する感じかな。今は俵は左右から獣人が持ち上げるようにして支えている。顔が赤い。腕がピクピクしている。
それにしても、おばさんは相撲取りみたいやからまだええかも知らんが、とつかさんはだいぶ痩せてる上に背が高い、骨折とかしなければよいが。
ていうか。とツカさんは何もしていないがどうするつもりなのか?順番にやるのかな?
何やら行司が現れる。ちゃんと行司の衣を纏い、烏帽子を被り、軍配を持っている。まあ、当然格は低くて、勿論短刀は持ってないし、素足だ。この後の奉納相撲にしたって、力士が幕内のわけではないしな、相撲協会みたいのが派遣してるとしたらそれだけで結構なことだと思う。
とつかさんとおばさんは向かい合う位置で見合っている。え、とつかさんどないすんの?
「「フン!」」
息が合う、獣人が手を離すと同時におばさんがうなりながら立ち上がる。
とつかさんはむんずと俵を縛る紐を持って、ガバっと持ち上げた。
スナッチやん!重量挙げやん!
そのまま一気に立ち上がる。
多分その場にいた全員が唖然としたんじゃないだろうか。
微妙にプルプルする腕、止めた呼吸をゆっくり整える二人。おばさんは足がプルプルしている。
不意に米俵五俵を担いだおばさんの写真を思い出す。その当時、山形のとある蔵では米俵を運ぶのは女性の仕事で、力持ちは二俵まで担げたというが、じっさいには一俵で回数を重ねて給金をもらう。で、あれは観光案内用に作られたPR写真に過ぎず、「上から積まれていって、一歩も動けなかった」「二俵は籾殻入りだった」ということだったらしい。新聞のインタビューがソースだったと思う。
考えている間にも、すり足でとつかさんはゆっくりと回転する。おばさんは動けない。
とつかさんは1.5回転する、俵を下ろせないからか。
おばさんに限界が来たのか、バランスを崩して横に倒れかかる。
とつかさんが担ぎ上げた米俵を投げ捨てる。ドゴン、と地面が揺れる。
あわてておばさんを支え、俵を持ち上げるようにして下ろしてやる。
行司が居住まいを正してとつかさんの前に立つ。
とつかさんが立ち上がってキョロキョロして、はっと気づいて蹲踞の姿勢を取る。フラフラしているが、お構いなく、行司が勝ち名乗りを上げる。
「とつ~か~」
ドット歓声がわいた。いや、力入ったわ。
「すごいー!」
「たいしたものどすな!」
「これは、是非オリンピックも視野に入れて」
「あの娘かわいいわねー、眷属にならないかしら」
……まあ、就職先には、苦労しないかな……




