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75:参拝 山の神 ペレ

 ちょっとした混乱はあったが、皆を叱りつけて右手の土俵を見る。

 それなりの広場に土俵がある。

 ちゃんと土を盛り上げて、綱を埋めた土俵のまわりに太い木が4本立てられ、屋根がついている。おもったよりちゃんとしてんなあ。その手前に俵が10俵ほど、山に積み上げられている。奥の方に小さいテントがあって、そこで着替えたりするんやろか。

 長い石段が山の斜面に沿って上がっており、その奥に拝殿があると思われる。

 その山の斜面には段があり、コロッセウムではないけれど、水平に段々畑のようになっていて、桟敷席がわりなのか、相撲見物ができるようになっている。考えられているなあ。

 皆でぞろぞろ石段を上がると、屋台巡りで増えまくった小銭を適当に皆に渡す。

「お祈りは、感謝を伝えましょう。手を叩いて気持ちを落ち着けましょう。お願いはしても一つだけ、幸せに過ごせるようにとお祈りしましょう」

 まあ、これ以上はまたの機会に説明するとして、とりあえずはこんなもんかな。

 礼や拍手は、形だけのものだと思っている、2礼2拍手1礼とか、合理的すぎて祈りに合わないと思う。挨拶のマナーみたいなもので、礼は失しないかもしれんけど、昔の人はそれこそ膝をついて地に伏して長々とお祈りしてたんを知ってる、うちのばーちゃんがそうやった。そのころそんなン言ってなかったと思う。そんなに縋られたら神さんも迷惑かも知らんけど、そうやって祈ってきたからこその神さんちゃうんかなあ、と思っている。まあ、内緒やけどな。神さん原理主義的やしな。

 参拝する。みな口々に独り言を普通の声で話し出してビビる、心のなかでお祈りしろと言ってなかった、失敗した、幸い最前列は俺達だけだったから、羞恥を押し殺す。


 ありがとうございました、これからも幸せに過ごさせて下さい、皆も幸せにして下さい、神様ありがとうございました、人として生きていきます、まものから開放してくださりありがとうございました、かねかつら神様ありがとうございました。

 いや、だからね、俺は神様や無いから。わかってね?

 オオヤマツミ様色々お騒がせして申し訳ありません。

『いや構わぬよ』

 うぉ、神様?

『恐縮せんでよろしい、あんたみたいのがおれば、挨拶の一つもしたくなろうもんじゃ』

『いえいえ、恐縮です。私、金桂灯潮と申します』

『私は大山祇命(おおやまつみのみこと)じゃ、なんというか本来の祭神じゃな。一時牛頭天王とかいうわけのわからんもんやったが、また戻ってきたわいな』

『それはそれは』

『おまけにあんたはんがいらんもん綺麗にしてくれはったから、この地でも多少は神気の発露ができるようになったのじゃ、すまんかったな』

『それは良かったです』

『スーはんが主神みたいになっとるから、どうも影が薄くてな、おかしいと思わんか?』

『はあ、そうです(か)ね』

『元来わしは山の神やからなあ、山に対する信仰が薄れまくっとるさかいしゃーないんかもしれんがのう』

『はあ、そうっすね』

『ここは()口神社なんやから、もっと敬意を払っても良かろうもんじゃがのう』

『そうっすね』

『こんなに地力が衰えてしもたら、加護も何もあらせんのだがのう』

『はあ』

『高天原も火が消えたみたいになっとるからのう。おまえさん、遊びに来たらええのに、ちょっと遠いのう』

『はあ』

『わしゃ日本中に祀られとるからまだましじゃが、まあ日の本は山の国やさかい、当たり前なんじゃが』

『はあ』

『(粗雑(ぞんざい)な返事になっておりますな)』

『それでも、祭りは減るし、そもそも祭祀がお座なりになっとる、人の生活から外れてきておる、人の生活が変われば祭事も遷ろう、過去を振り返るような祈祷で今の世が鎮められるものでもあるまいに、のう』

『ソウデスネ』

『まあ、久しぶりにこの世をよく見ることができるのは金桂殿のおかげじゃ、相撲もありがたく見物させてもらおうかの』

『はい、よろしくお願いします。ありがとうございます』

『それから、異国の火山の神さんがいるようだが、あまり昂ぶらせて噴火とかさせんように。』

『女神ペレですね、分かります』

『じゃ、またの』

『はい、失礼いたしました』


「長くお祈りしておられましたね!」

「何をおいのりしておられたんですか?」

「あー、ちょっと神様とオハナシを」

「すごい!お話できるんですか!私もデウス様とお話したいです!」

「いや、デウス様はどうやろ。お忙しいンとちゃうかな」

「お忙しい!神様と!お話できるかねかつら様はすごいですね!」

 鹿うるさい。


 下りていくと、手水付近に知った顔を見つける。

 伏見課長と、あれだ、ボデコンだ、バブルだ、扇子は持ってないようだが。

 褐色の肌に金褐色のメッシュが入ったように輝く黒髪が、彼女周辺だけに起こる風に遊ばれてサラフワしている。あ、精霊かなんかがくっついてるであれ。

「あ、かねかつら殿。こんにちは」

「はい、伏見課長、こんにちは」

「もし探されていたらすみません、今ついたばかりです」

「いえいえ、ちょっとゴタゴタしてまして、今参拝したばかりです」

「それはよかった、もう食事はされましたか?」

「はい!屋台で!」

「美味しかったです!」

「あなたは、はじめてでしたか?」

「はい、わたしはとつかと申します」

「私は父のやつかです」

 ずずいと出てくるのは、なんかあれですか、娘に色目を使うな的な、オヤジの主張ですか?

「はじめまして、私は今は文部省の小役人をしております伏見です、どうぞお見知り置き下さい」

「やつかさん、とつかさん、この方偉い人やからね、変な人ではないからね」

「それは失礼しました」

「かねかつら殿、こちらが私の妻のペレです」

 小顔にくりっとした眼、しっかりした眉、柔らかい笑顔を浮かべている。ペレっすか。火の女神様っすよね、色々逸話を知っていますが、お手柔らかにお願いしたいっす。

「はじめまして。かねかつらと申します。伏見課長には一方ならぬお世話になっております」

Aloha(こんにちは)、はじめまして。ペレといいますの、こちらこそ、きっと主人のワガママに振り回されてご迷惑をおかけしていると思いますの。どうか許してくださいね」

 あれー?なんかイメージと違って、すごいできる嫁さんなんやけど。

 ペレさんといえば、美しくて情熱的で移り気でワガマ

「あらあらかねかつら様、褒めていただきありがとうございますぅ、あんまり女性の過去は詮索しないものですわよ。ウフ?」

 こぇー、やっぱエスパーやん、ていうかすごい神様に違いないやん、いえいえ詮索など、本当にお美しくて、素敵な奥様ですね。

「いえいえ、お美しい奥様で伏見課長が羨ましい限りです」

「まあ!ありがとうございますー」

 伏見課長の眼がチベットスナギツネみたいになっているが、無視だ。

「いえ、実はこの付近で大変な神気が見られたということで、調査がてら赴いたところもあるのです」

「ああ、それはですね、スーさん、いや素戔男(すさのお)様が顕現されまして」

「「ええーっ!」」

 話せば長くなるし、そろそろいい時間だったのでとりあえずとつかさんとやつかさんは受付みたいな運動会でよく見るパイプテントに行かせる。おいとさんもついていく。受付に見た顔の獣人がいたので問題ないだろう。

 鹿と獣を除くメンバーにはお金を渡す。もうちょっと屋台を見て回りたいそうだ。

 少し下りたところに、内側に簡素なパイプ椅子とテーブルがあって、酒と鉄板焼系統を出す屋台があったのでそこに腰を落ち着けて、朝の一連を話す。

「でまあ、相撲をすることになりまして」

「……いきなり虹が出ましたからね。そんなことがあったんですか……」

「……私ぃ、さっきから気になってるんですけど。そのサングラス、似合ってませんよ」

 うっ、なんか胸にグサッと来る、えらいはっきりと言われた。まあ、そうでないかなとは思っていたんですよ、どう見てもタム◯ン以下ですよ……

「いや、伏見課長はご存知なんですが、眼がちょっと普通でないから、怖がらせてはいかんかなと思って」

 サングラスを外す。あら?伏見課長が驚いている、ペレさんは不審そうな顔をしている。

「?かなり細いけれど、変というほどでもないような気がしますわ」

「かねかつら殿、記憶が間違っていなければ、確か白眼が黒くて、黒目が赤かったですよね?」

「はい……?」

「?そうだったの?」

「まあそのくらいなら別にそこまで目立たないと思っていたのですが。いえ、今は普通です」

「え?そうなの?」

「ふつうよねぇ」

「本当に普通になっておりますな」

 まじか。なんでやろ。……考えられるとすれば、あれか、スーさんの指パッチン?

「そうですな、多分その指パッチンが原因でしょうな」

「ねえねえ、プリティーなその子とこの子もしょうかいしてくださいな」

「あはい。こちらが狐のゆき、こちらが鹿のせじろ。烏はくろめ、ねこはやにあです」

「まあ!動物園みたいね!」

「よろしくお願いします」

「よろしく!おねがいします!」

「かーっ(よろしく!)」

「にゃー(よろしくにゃ)」

「ねえねえあなた、今度動物園に行きましょう!天王寺動物園はどう!?デートスポットとしても有名みたいよ」

「うん、いいねえ、今度一緒に行こうか」

 けっ爆発しろや。

「あらあら妬いてらっしゃるの、可愛い方ねえ」

「ちゃうから!ちょっとちゃうから!」

 俺のまわりの女性はみんなエスパーや!お助け!

「「「うふふ」」」

 狐まで!




以下読み飛ばし無問題。


ググればすぐ色々出てきます。「ハワイの神話と伝説」というサイトが面白いです。




*ハワイイの神話、ペレとカマプアアについて。

◯ハワイっていう呼び方がすでにおかしくて、ハワイイというべき。

◯ポリネシアの神話は、島によって色々違う。そもそも言葉からして違うから、同じになりようがない。

 日本でも、東北弁の人と薩摩弁の人で話が通じるわけがないのと同じ。

◯それでも基本構造は似ている。ハワイイ王家の秘伝として天地創造神話があって、海から生命が生まれた生命の進化論的な凄さがある。そういう意味ではポリネシアの神話体系からすればちょっと特殊?

◯タヒチやトンガあたりのほうが文明化が早かったのかもしれない。タンガロアというのがこの辺りの創世神。そのへんから派生したっぽい。正直神話の小片と掌編のオハナシばかりで体系だったものがよくわからず、私自身全く理解できていないと思われる。

◯以下の辺りは、日本神話との類似を見て取れそう。

 男神のワケア、女神のパパからハワイイの島々が生まれている。まあ、それぞれが浮気して、それぞれ子供=島ができて、よりを戻してまた島ができる。とても自由です。

*パパは勇敢な女戦士でワケアの命を助けている。ちなみにタヒチ出身で、里帰りしたりする。

◯4大神というのがおわして、まあ詳細は省くけどギリシア神話以上に人間臭い神様たちで、日本でも海幸山幸のような人間臭い神様がおわすけどそんな感じ。ちなみに、神様全部で1000柱位上おわすのではないかと。

◯今まで紹介した神々以上に人気があって、理不尽な暴君とも言えるのがペレという女神。美人で、絶対君主のように暴虐。いい男を見つけたら誘いをかける。気に入らなかったら誰でも死刑にする。妹に無茶振りしていい男を連れて来させるが、期限を過ぎたから死刑にするとか。ちなみにその妹はヒイアカというフラの神様。ただ、ペレも姉には負ける。姉の策略で死にかけて復活してまた今度は徹底的に殺されちゃうんだけど、結局ハワイイ島の守り神として存在している、火の神、火山の女神。好き嫌いが激しい。この女神が好きなものを、ハワイイの女性は嫉妬が恐ろしくて食べられなかった。オヘロというクランベリー、バナナ。豚の肉。そういうのをカプ(=タブー)といった。

◯豚の肉を食べてはいけない理由が、カマプアアという豚の半神のせい。ペレが一時期結婚してたから、嫉妬されないように、という理由。

◯ハンサムな豚神という表現も微妙な感じはするが、かっこいい猪のようなイメージではないか?ということで、伏見課長がようやく出てきました。彼は半神です。かっこよくてもてます、ペレの夫になったくらいです。でもペレに攻められたときに、一度魚の姿で逃げ出しています。それはハワイイ州魚のタスキモンガラ=ハワイイ語でフムフムヌクヌクアプアア、黄色っぽくて鮮やかな色合のカワハギです。溶岩で煮えたぎった川を、この姿で逃げるのだから根性入っています。


きりがないので、今回はここまで、もっと早く書いたほうが良かったかもしれない、すみません。


お読みいただきありがとうございます。

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